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結婚したのに6年間無視され続けた私、本当の理由 〜原作にいない貴族令嬢は世界を変える〜  作者: 唯崎りいち
第三章 静かなる聖地、それは光

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湖上に響く声

 私、クレアは湖上のボートにいた。


 3人乗りのボートを、騎士のレオンハルトが漕いでいる。


 まだ湖の中心には遠いけど、桟橋からはかなり離れる事が出来た。


 そろそろアリシアの話を聞いてもいいと思う。


「アリシア様のことですが……」


 レオンハルトの方から切り出された。


 私はピリッと自分の身体が緊張するのが分かった……。


 アイゼルはレオンハルトがマーシャルとルークを辺境に送り込んだ人物かもしれないと言っていた。


 原作の通りなら、マーシャルは自身の子どもと辺境の来るはずだったのに、原作にいない私、その妹の子が代わりに来ることになった。

 この違いを生み出したのは目の前のレオンハルトなのかもしれない。


 そんな疑惑もあるけれど……子供を産んだ妹と言う存在が、私には分からなかった。


 6歳年下のあの小さかった妹が、私より先に母親になって、子供と引き離されて、何を思っているのか。


 今まではあまり考えていなかった事だけど、アリシアの情報が聞けるこの土壇場で怖くなった。


 私がこの世界に転生した事を思い出したのは最近で、アリシアと離れて暮らすようになって六年経った後だ。


 ここでも、今、私が思っているアリシアが、本当のアリシアなのか不安になる。

 私が存在する事でズレてしまった世界だから、家族の存在そのものがズレてしまっていないだろうか……。


「アリシア様から、クレア様の事を“信じている”と伝えて欲しいと頼まれました」


「え?」


 “信じている”


 それってどういう事?


「伝言ってそれだけ……?」


 私はちょっとがっかりしてしまう。


 “信じている”なんて誰もが、誰にでも言いそうな言葉だ。


「それだけです」


 レオンハルトがはっきりと言う。


 でも、伝言はそれだけだとしても、レオンハルトはアリシアに会った事があるんだ。


「どこでアリシアから聞いて、アリシアはどうしていたの? それはいつの事? それから……」


「落ち着いて下さい。俺の知っているアリシア様の事なら話しますよ」


 レオンハルトが私の考えを察して、話してくれる。


「俺がアリシア様を見かけるようになったのは一、二年前くらいですかね。宮殿の近くでよく見かける令嬢がいると思っていたんです。ただ、それだけでした。俺は中央門番隊の副隊長だったから、宮殿に出入りする者には気を配っていたけど、アリシア様が宮殿に出入りする様子に気づく事はなく、ある日皇帝に呼ばれて行くと、皇帝の子を宿したアリシア様がいたんです。皇帝はアリシア様を愛しそうに見つめて、とても大事にされている様子でした。かなり、慎重に愛を育んでおられたのでしょう」


 やっぱり、私の知っているアリシアと子供を宿したアリシアは結びつかない。


「俺はこの時に皇帝の子を辺境伯の次男のアイゼル様に預ける必要があると聞かされました。でも、まずは、アリシア様の出産までの安全性の確保の為に動くことになり、アリシア様から友人のマーシャルにも手伝って欲しいと聞いたので、皇弟のアレイウス様の元にいたマーシャルを連れて行きました。同時にマーシャルが辺境まで赤ん坊を連れていくと言う話もあったので、ルークを含む門番たちにも声をかけて準備していました。そして結構の時にアリシア様の元へ行き、作戦の開始を見届けると、アリシア様にあなたへの伝言を頼まれたんです」


 レオンハルトの話はアリシアの事というより、赤ちゃんを辺境に送る為の作戦の話で、アリシアとはあまり親しくはなかったのだろう。


「……マーシャルに辺境に自分の子を届けて欲しいと言ったのはアリシアだったの?」


 そう言えばマーシャルも出産まで手伝ったと言っていたような気がする……。


「そこまでは俺もわからない。俺が聞いたのは、出産までマーシャルにそばにいて欲しいと言ったのがアリシア様だという事だけだ。マーシャルに辺境まで届けさせることには俺も疑問があったんだが……重要な事なのか?」


 レオンハルトは鋭い。


 原作通りにこの物語を動かすためのは、マーシャルが辺境の城砦まで赤ん坊を届けにいく事がとても大事だ。


 マーシャルはこの物語のヒロインで城砦の主人のアイゼルがヒーローなんだから。


 二人が赤ちゃんを介して出会う事でこの物語が始まる。


 例え、アイゼルの元に原作にいない妻がいたとしても、同じ状況を作り出すことが大事なのだ……と思う。


 この辺は実は私にもよく分からない。


 物語はズレていても、再現すべきものなのだろうか?


 ただ、少なくとも物語は再現された。


 アリシアが再現した?


 マーシャルを辺境の城砦に送る決断をしたのは誰?


 アリシアでもおかしくはない……。


 だって、マーシャルが産むはずだった皇族の血を引く赤ちゃんを産んだのはアリシアなんだし……。


 “信じている”


 アリシアからの伝言を思い出して、ゾクッとする。


 アリシアは原作からズレたこの世界を知っていて、私を信じてこの世界の未来を託している……。


 まさか……そんな事が……。


◆◇◆


 クレアちゃんが乗って、レオンハルトの漕いでいるボートが湖のほぼ中心に来た。


 僕、アイゼルは、ギリアムとミアが乗っているボートを見る。


 どちらも少し離れたクレアのボートを見ていた。


 そして、不意にミアが立ち上がった。


 何か大声でギリアムに訴えかけているように見える。


 喧嘩している演技か?


 クレアとレオンハルトのボートから人目を避ける為にやっているんだろう。


 ミアとギリアムが注目を集めているうちに、僕が転移魔法でクレアたちのボートに移る。


 今まで集中して湖の中心部の座標は把握できている。


 この範囲に来た二人のボートの形も計算に入れたら正確に転移できる。


 あとは、クレアちゃんとレオンハルトの間に立つだけだ。


 恋人同士のフリなんてもう一秒もさせられない。


 魔力の痕跡を隠す魔法をかけて、集中して転移魔法を使う。


 一瞬で僕の身体何消えて、ボートの上に現れる。


 ボートが僕の質量が加わった事で、一瞬大きく揺れる。


「きゃ!」


 クレアの驚く声が聞こえた。


「ギリアム! あなたは馬車の御者もまともに出来なければ、ボートを漕ぐのも下手なのね! 私がやるから貸して!」


 ミアの声が聞こえる。


 ミアがボートを漕げるのか気になる。

 かなり注目を集めて、こっちのボートの一瞬の傾きに気づくものはいなかっただろう。


「な……なんで、ボートが揺れたの……?」


 クレアちゃんが不思議がっている。


 僕は魔力を隠すのと同時に、自分の姿も隠していた。


 一瞬の転移を隠しても、その後にボートに人が増えていたらやっぱり気づかれる。


 レオンハルトは姿が見えなくても、僕がボートに乗り込んだ事には気づいている。クレアちゃんは気づいていないから、そっと教えなければいけない。


「クレアちゃん」


 僕が小さな声をで囁くと、クレアちゃんは、怯えきった瞳を見せる。


「はぁ……」


 ため息のように息が漏れて、クレアちゃんはボートに倒れ込んだ。


 そんなに驚かせる事だったのか!?


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