妹の名で、私は連れ出される
私、クレアとアイゼルたちで朝食を食べているところに乱入してきた人物——。
アイゼルが、“会わなければいけない”と言った帝都の騎士。
“既に会っていた帝都の騎士”
誰なの……!?
「レオンハルト……様、何かあれば宿を尋ねろと言ったが……」
アイゼルにとっても、この訪問は予想外のことだったらしい。
帝都の騎士と言うだけあって威圧感がある。
アイゼルやギリアムたちだって一応は騎士なのだけど、本格的に鎧を着込んで活動してることは少ない。
常に鎧を着込んでいるらしい、この帝都の騎士に比べたらとても細くみえる。
一番体格のいいダリルも一回り小さく見える。
私はなんとなく怖くなってアイゼルの腕に手を回して強く握る。
反対の手でアイゼルが私に触れる。
「今日は、アイゼ……ルークに用があるんじゃないんだ」
騎士がアイゼルから私に視線を移す。
(え!? わ、私に用があるの……)
「クレア……マーシャルに何の用だ」
アイゼルが私を庇うように言う。
帝都の騎士はアイゼルが今、ルークと名乗っていることを知っている!?
いや、逆で、ルークのフリをしてるのが、アイゼルだと知っている!?
アイゼルが、この騎士に会ったと言うから、その時に話したのかもしてないけど……。
ちゃんとお芝居に合わせてくれるってことは、私たちの味方なのかしら……。
「アイゼル様が、俺の部屋を訪ねてくるには怪しまれない理由がいります。ここは俺に合わせてください」
囁き声で騎士がアイゼルに言った。
「アリシア様のことでお伝えしたい事があります」
そして私にだけ聞こえる小さな声で囁いた。
(アリシア……妹と知り合いなの……!?)
騎士は小さな声で囁いた後に、今度は大きな声で芝居がかった調子で言った。
「あなたに一目惚れしてしまいました。どうか、今日一日は私に付き合っていただけないでしょうか?」
膝をついて私に向かって騎士が言う。
「ダメだ」
アイゼルがすかさず反対する。
「はい、よろこんで」
けど、私はすかさず騎士の手を取った。
妹のアリシアの名前を出されたら断れない。
手がかりなんて一切なくて、ずっと考えることすら出来なかった。
アイゼルと帝国と教会の問題を解決すれば会えるんじゃないかって、漠然と期待していただけだった。
それがこの騎士によって何かがわかるかもしれない!
「では、外でお待ちしています」
そう言って騎士はでって行ってしまう。
みんなが嵐のような出来事に呆気に取られた。
「行ったらダメだよ、クレアちゃん」
アイゼルが私に向かって言うけど、
「アイゼルの“会わなければいけない”人だったんでしょう? 私にとっても“会わなければいけない”人になったのよ。話を聞かなきゃ……」
私の意思は固い。
アイゼルが自分の正体を明かす程の人だもの、信用できない人じゃないはず。
「アイゼル様が呼び込んだ事態ですよ」
ギリアムが冷たく言い放つ。
「……」
アイゼルが何も言えなくなってる。
「アイゼル様は目立つから、ダリルとコリンがクレア様の後を護衛して、ミアは騎士と一緒のクレア様のそばを離れないようにしてください。アイゼル様は私と紙や必要な品の買い出しに行きます」
ギリアムが指示を出すと、アイゼル以外は納得した。
「アイゼル、あの騎士は誰なの? レオンハルトって呼んでいたけど……」
私は真っ先に知りたかったことを聞く。
「……帝都の中央門番隊の副隊長で、ルークの事も知っている。ルークとマーシャルが皇帝の命令で辺境に向かった事も知っている人物だ。ルークやマーシャルうぃ辺境に送る人物に選定したのも彼かもしれない……」
「え!?」
私は驚いた……。
原作と全く違う事になってしまった、辺境にマーシャルが来た理由。
ルークと言う私が生み出した原作にいないキャラクター……。
あの騎士、レオンハルトが主導していたかもしれないって……。
偶然なの……?
物語が原作通りに動くためには、偶然の行動の積み重ねが必要なんだと思う。
本来だったら辺境の城砦に来るのはマーシャルとマーシャル自身の赤ちゃんだったのに、アリシアの赤ちゃんにすり替わった。
赤ちゃんがすり替わったのに、マーシャルは辺境の城砦に来ることになった。
マーシャルがアリシアの友人だったからだけど……友人だから、マーシャルに任せようって決断した人物がいるんだ……。
人々が原作のコマではなく自分の意思を持って行動してる世界なら当たり前のことだ。
自体を原作通りに動かそうとしてる人がいることは深く考えてなかったけど、当然、いるものだとして今の原作と違ってしまった世界を見ていた。
ここまで、原作にいない私と言う存在が変えた世界の中でおかしなことは起こっていない。
レオンハルトが私にアリシアのことを伝えたいと言うのも、私がアリシアの姉として辺境の城砦のアイゼルの妻に治っているんだし、おかしな事じゃない。
……それ以上の何かがあると思うのは、考えすぎなのかもしれないけど……。
◆◇◆
朝食を終えて食堂の外に出る。
レオンハルトが待っていた。
「おお、美しい女神」
と、誰のことを言っているのかと思ったら、私のことだった。
「今日は一日私と過ごしてください。聖地ヴァティウスをあなたの為に案内させてください。ボートの手配もしてありますから、昼食の後に聖地へご案内いたします。さあ私の腕を取っていきましょう」
ちょっと芝居がかり過ぎている気がするけど……。
周囲に聞かせるような話し方で、アイゼルにも午後の予定は伝わった。
湖の真ん中にある聖地に何かあるの?
さっきまでは、アイゼルの前でレオンハルトと一緒に出掛けるのはやっぱり抵抗があったけど、あまりに嘘っぽいお芝居で周りに嘘だとバレないかとヒヤヒヤして思わずレオンハルトの腕を掴んでいていた。
この人はこれを狙ってわざとらしいお芝居をしてるのか、普段通りがこれなのか?
会ったばかりでわからないけど、なんとなく普段から恋愛ではこんな感じな気もする。
黙って 私の後ろをついてくるミアにどう思うか聞いてみたい。
「マーシャルと呼べばいいんですか?」
小声でレオンハルトが聞いてくる。
彼にとってマーシャルは自分が辺境の城砦に送り出した人物のはずで、その城砦の主アイゼルの妻の私がマーシャルを名乗っている事はどんな風に理解しているんだろう?
「マーシャルと呼んでください、レオンハルト様」
とにかく、この複雑な状況に合わせてくれるだけで、味方だと思う。
「では、マーシャルをお預かりします」
アイゼルたちに向かってレオンハルトが言って、私とミア、レオンハルトはその場を後にする。
アイゼルが睨んでいたのは見えたけど、レオンハルトはボートで聖地に行くと行ったのだから、後で会えるだろう。
そこに何があるのかは、まだわからないけれど……。




