ルークと呼ばれた夜
「ルーク……」
帝国側から派遣されている、ルークを知っている騎士。
僕を見て声をかけてきた……?
僕はフードを被ってマスクをしてる。
この状況で僕を見ただけで、ルークと気づくだろうか?
背格好は似ていても、実際には六歳の歳の差がある。
僕がその歳の差を埋めようと歩き方を変えていても、今の姿だけではルークとは言えないだろう。
「君はトーマス司祭と来ていた、ダリルだったかな」
騎士がダリルに話しかける。
ダリルは僕が、聖都ヴァティウスに着く前に、トーマス司祭やコリンと一緒に先に着いていた。
それで、門番にそれとなくルークと言う仲間が後から来ると伝えてもらっていた。
ルークを知っていて、ルークが皇帝の密命を帯びている人物だと知っていれば、ルークと言う名前の人物が来るとなれば気になって確かめるだろうと思ったが……。
声をかけてきたと言うことは、ルーク本人の姿を知っていて、僕の姿と一致していると言う事だ……!
「……何故、俺の名前を? トーマス司祭と来た事で目立ってしまったんだろうけど、たまたまあの三人組がいた現場に居合わせただけなんです……」
ダリルは騎士が最初に「ルーク」と呼んだ事は無視して話す。
ワザと凡庸な様子を装っている事は騎士にも伝わっただろう。
「あんな三人組は君たちの世界では珍しくもない小物だろうが、大聖堂では扱いが違うからな……。俺は帝国から派遣されたばかりでまだここの風習にはなれていないんだ。迷惑だとは思うが、話を聞かせてくれないか?」
ダリルが僕を一瞬見た。
騎士の目は見逃さなかった。
これで僕とダリルの主従関係が伝わってしまった。
背中を、冷たい汗が伝う。
僕がルークなら、ダリルを従えているのはおかしいだろう。
ルークは皇帝が皇帝の密命を帯びていたとはいえ、たった一人で行動しなければいけなかった、ただの十八歳の門番だったんだ。
今は平民に擬態していても、ダリルのような大人の男を従えることはできない。
視線を騎士に戻したダリルの背中から、「しまった」という後悔を感じた。
ふっと騎士が柔和な笑顔を見せる。
「俺は帝国では中央門番隊の副隊長だった。名前はレオンハルトだ」
中央門番隊……ルークが帝都で所属していた所だ。
ルークが門番をしていた皇弟アレイウスの宮殿の警備の責任者に近い立場だ……。
アレイウスの本当の名前はオルフェウス。
今はアイゼルと名乗って辺境にいる僕、アイゼルの双子の弟で僕の身代わりをさせられているオルフェウスだ。
オルフェウスは病弱で痩せ細っていて、僕とはあまり似ていないと言ったのはマーシャルだったか。
僕自身が弟と二十年近くも離れているんだ……今のオルフェウスと僕が似ているかどうかはわからない。
ただ、ルークと僕は似ていると言われ、間違えられたこともある。
今も、この騎士——レオンハルトに間違えられた。
帝都でオルフェウス——アレイウスに近い位置にいた、中央門番隊の副隊長ならルークとアレイウスが似ていることには気づいたんじゃないか?
そして、ルークが皇帝の密命を帯びて向かう先——辺境の城砦に、本物のアレイウスである僕がいることも知っている。
十八歳のただの門番であるルークが何故、皇帝の密命を帯びることになったのか……これで腑に落ちる。
皇弟の双子に似ていたからだ——!
ダリルに門番にルークの存在を匂わせるように言った時……
ルークが皇帝の密命を帯びているのを知っている人物が、ルークと言う名前に気になってやってくるかと思ったが、違った。
彼——レオンハルトこそが、密命の全体像を描いた人物ではないのか……!
……。
レオンハルトの柔和な笑顔は崩れることなく、ダリルに向けられている。
実際には僕に向けて、自分が敵ではないことを伝えている。
僕が、ルークではなく、辺境に逃がされた本当の皇弟のアレイウスだと知っている……。
そして——、あのことについて、知っている人物だ——。
僕自身が予想していた、いるかもしれないと思った帝都からの味方。
あのことがあるから、ほぼ、確信していた……。
——兄上。
レオンハルトは、自分が敵ではないと僕に伝えている。
すぐにでも彼に話を聞きに行きたいと思った。
けれど。まずは優先させることがある。
「ダリル……」
僕が呼ぶとダリルは振り返る。
目で合図する。
「今日は、これからトーマス司祭を尋ねるので、明日なら、お話出来ます。市場の宿に泊まっているので、何かあればお訪ね下さい」
レオンハルトはダリルの言葉に静かに頷く。
「楽しみにしているよ」
騎士はそう言ってどこかへ消えていった。
「アイゼル様……」
言おうとしてダリルは言葉を切った、誰かに聞かれたら不味い。
「トーマス司祭のところに行きましょう」
僕はルークになりきってダリルに話しかけた。
◆◇◆
トーマス司祭の部屋に行くと、司祭が優しく迎え入れてくれたのだが……。
「三人組のことはよくわからないんです。なんだか大事になってしまって……。ただ、実際に問題があるフェルゼン卿についての処分はまだ何も決まってないと思います。要塞都市フェルゼンで商売をしているあなたたちは気になりますよね……」
善良な事を言う。
本当に詳しい事は知らないようだ。
フェルゼンで商売をしている設定だから、話しを合わせてやる過ごした。
有益な情報は取れなかったが、聖都ヴァティウスでも一般の司祭の意識というのはこう言うものなのかもしれない。
僕は、自分が教会から命を狙われているから、聖都ヴァティウスのイメージを悪く見すぎているのだろう。
もしくは、本当に善良な人が多いだけに、本質の部分を見誤ってしまうのかもしれない。
僕とダリルは司祭の部屋を後にした後は宿に帰るだけだった。
けれど、僕の本当の目的はこれからだ。
教会にある、司祭や司教たちの魔力の形をまとめた記録があるはずだ。
その記録から、ルークを使ってクレアを襲った犯人を突き止める。
それが、辺境の城砦から出てきた目的だった。
大聖堂のトーマス司祭の部屋は、僕たちが入ってきた門からは遠く奥まったところにあった。
何人もの司祭がここで生活しているようだった。
僕がこれから目指すのはそのさらに奥にある、大聖堂の関係者の皆さんしか入れない場所だ。
関係者しか見れない史料が置いてある部屋があるはずだ。
今日は資料、そのものに辿り着けなくても、場所だけでも突き止めたい。
司祭たちの部屋から真っ直ぐに続く石の廊下先には、灯が揺らめいている。




