表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
結婚したのに6年間無視され続けた私、本当の理由 〜原作にいない貴族令嬢は世界を変える〜  作者: 唯崎りいち
第三章 静かなる聖地、それは光

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

85/88

ルークを知る者

 聖都ヴァティウスの大聖堂の前に僕、アイゼルはいた。


 ダリルと階段を登って進む。


 前には夜の大聖堂が祈りの場所を光で照らし、後ろには暮らしの光があった。


「ルーク」


 ダリルに呼ばれた。


「指示通り、ルークという俺たちの仲間がトーマス司祭に会うために夜の大聖堂に来ることは、大聖堂の門番にはそれとなく伝えてあります」


「ルークと聞いて何か反応はあったか?」


「いえ……」


「そうだろうな……」


 帝国から派遣されている兵士ならルークを知っているものがいてもおかしくはない。


 だが、例えルークと言う名の帝都の門番を知っていても、名前が同じだけの別人だと思うだろうし、ふつうは反応なんてしないだろう。


 だが、ルークが帝都から消えた理由を知っているものは、違う。


 違うと思っても、ルーク本人かどうか、必ず確認するだろう。


 皇帝がルークとマーシャルに、二十年近く前に死んだ事になっている自分の弟に、自分の子供を届けるように命令した。


 敵の目を恐れてか、信用できる味方がいなかったのか、ルークとマーシャルに帝国側からの監視はなかった……。


 その秘密を皇帝から知らされている人物だ。


 ……この教会ににもし派遣されていたら、味方の可能性は高い。


 ただ、ルークをただ知っているだけの人物が派遣されている場合もある……。


 その場合はどうなるかはわからない。


 教会に懐柔されるようなものを帝国側の兵士として送りはしないだろうが、信用できるものだけを派遣し続けるのも難しいだろう。

 

 僕は階段に吹き付ける風に飛されそうなフードを押さえる。


 フードの下にはルークと同じ黒髪のカツラをかぶって、マスクもしている。


 二十四歳の僕と十八歳のルーク。


 歳は六歳も違うが、かなり背格好も顔も似ているらしい。


 辺境の都市ではフードを被っていたらルークに間違えられた事もあった。


「ルークと並んでいるとアイゼル様の方が肩に厚みがあって歩き方も安定して鍛えられているのはわかりますが、ルークも鍛えているようでしたがまだ子供っぽさは抜けきっていませんね」


「同じ背格好と顔でも、違いはわかるか?」


「知り合いなら年齢差ですぐにわかります。身体より表情が違いますから」


 ルークの屈託のない表情が浮かぶ。


 皇帝から密命を帯びて重圧はあったと思うが、まだ苦労を知らない顔をしていた。


 それが一時的に牢に入れられた時には、苦悩を深めた顔をするようになっていた。


 今のルーク本人に知り合いが会っても、別人のように感じるかもしれないが……。


「クレア様とご一緒の時は、アイゼル様も十八歳に見える時がありますね」


「……」


 ダリルの指摘は正しい。


 クレアちゃんといる時……時間を取り戻そうとしている自分を何処かで感じている。


 結婚してから六年間も無視していた時間。


 それだけじゃなく、帝都から辺境に連れて行かれてからの時間。


 本当の自分を出せなかった時間を、取り戻したいと思っている。


 多分クレアも同じなんだろう……。


「クレアちゃんと一緒にいると思って大聖堂には入った方がいいな……」


「それなら、ルークもいつもマーシャルのことを考えているようだから完全になりきれますよ」


 半分冗談だったが、いい作戦のようだ。


 振り返って階段の下の明かりを見る。


 どこかでクレアが夕食を食べている。


 楽しんでいるはずのクレアを思って、僕は階段を登った。


◆◇◆


 大聖堂の門に着く。


 トーマス司祭の紹介状を門番に渡す。


「これが例の……」


 ダリルはコリンと共にトーマス司祭と先に聖都ヴァティウスに着いて、この門をトーマス司祭とくぐっている。


「聞いていた人数と違うな」


 クレアちゃん、ギリアム、ミア。


 当初の予定ではその三人と、僕の四人が昼間の大聖堂の入る予定だった。


 急に僕一人になって、夜の訪問なら怪しくも見えるだろう。


 昼間なら巡礼者に紛れ大聖堂の祭壇に続く身廊までなら紹介状は要らなかった。


 その奥まで調べたいと思っていたから、怪しまれないようにトーマス司祭のいる時に、後から大聖堂の来るものの数を申告したのだが……。


 かえって怪しまれる事になった。


 僕はあえて黙っていた。


 身体の力を抜いて安定しない立ち方をする。


 クレアちゃんの事を考えていれば自然に緊張感が消える。


 ……ルークに近づくというより、十八歳に見られる方が門番に警戒されずにすむだろう。


 ここでは教会側の兵士の力が強く、帝国側の兵士の陰は薄い。


 ルークを知ってるものはいないようだちった。


「トーマス司祭と話したいことがあって先にこのルークだけ連れてきた。ほかの三人は今は下の宿に泊まっている。俺とルークもトーマス司祭への用がすめば宿に戻る」


 ダリルが説明する。


「そうなのか? 司祭と大事な用件を話すには子供っぽい気がするが……」


 十八歳は子供っぽいだろうか?


 もう少し子供に見えているのか……。


 フードとマスクが身体の線を消して、より子供っぽく見せていないだろうか……。


「なぜ、マスクをしているんだ……?」


「荷運びを主にやってもらっているから、埃除けが必要なんだ。珍しくもないだろう」


「そうだな……」


 違和感のある言い方だ。


 納得できないのならもっと他にも聞きようがあるはずだが……。


 質問するのが目的で、質問を無理に探しているような言い方だった。


 教会側で誰も中に入れたくないのか、僕たちを狙って入れたくないのか?


 トーマス司祭と会わせたくないのか?


 内部が混乱しているはずだと踏んで、夜のうちに僕だけが大聖堂に来たんだ。


 門番の機能していない様子が、内部の混乱を表しているようだ。


「とにかく、門には紹介状を持った仲間が後から来ると伝えてあるし、トーマス司祭にもすぐに連れて行くと言ってあるんだ。これ以上調べられることはない」


 ダリルが強引に話を打ち切ろうとする。


 門番たちは慌てる様子を見せるが、ダリルを止める決定打も思い浮かばないようだった。


 僕はそのままダリルの後を着いて門をくぐった。


 門を過ぎたら別世界で、夜に巡礼者は来ないから、静寂に包まれた身廊の先に祭壇が明るく輝いていた。


「先ずは、トーマス司祭のところに行った方がいいでしょう」


「そうだな……教会内部の事情を知っておく必要がある」


 僕とダリルがトーマス司祭の部屋に行こうと移動し始めた時、声をかけられた。


「ルーク……」


 振り返ると騎士がいた。


 帝国側から派遣されている騎士……。


 ルークを知っている。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ