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結婚したのに6年間無視され続けた私、本当の理由 〜原作にいない貴族令嬢は世界を変える〜  作者: 唯崎りいち
第三章 静かなる聖地、それは光

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聖都ヴァティウス潜入

 聖都ヴァティウスは湖上に築かれている


 大きな湖の中に、たくさんの尖塔を持つ大聖堂が高くそびえ立つ。


 湖上の島を利用して建てられた大聖堂の周りには、島をはみ出して建物が集まって来ていた。


 木造の建物は商人や巡礼者が集まり門前町になっている。


 島までは大きな橋がかかっている。


 大聖堂以外にも、湖には島が点在して、教会の大事な施設が築かれている。


 そこへは船でしか移動が出来ず、船着場が湖のあちこちにあった。


 大聖堂の裏側や脇にも船で行くことが出来るようになっていた。


 湖の島で特に重要なのが、湖の中心にある【聖地】だった。


 岩で覆われた小さな島の中心で、湖の底から噴き出したガスに火が灯っている。


 波や、強い風に消えない炎と岩の大地。


 四大精霊の交わるところとして、強い信仰の対象になっている。


◆◇◆


 聖都ヴァティウスには日が沈んだ直後についた。


 大聖堂の巨大な白い石造りの建物が、松明のオレンジの光に照らされている。


 門前町に伸びる大きな橋の前には検問する兵士が数名詰めていた。


 橋の上には最後の検問を終えた荷馬車が、橋の真ん中あたりまで進んでいた。


「アイゼル……間に合わなかったじゃない……」


「大丈夫だ、トーマス司祭直々の紹介状だから、普通の通行手形より融通がきく」


 アイゼルはそう言うけど、自分は兵士たちから離れて、紹介状はギリアムに渡している。


 兵士たちは教会側の私兵と、帝国側から派遣された兵士に分かれている。


 帝国と教会の微妙な対立は、門番の兵士までは伝わってないようで、和気あいあいとしているように見えた。


 ただ、ギリアムが見せた紹介状への反応が微妙に違っている。


「トーマス司祭か……数日前に通った方か? 司祭様の紹介状なら、なんの問題もないな」


 教会側の兵士は疑うこともせずに通そうとする。


「いくら紹介状があるとはいえ、検査しないわけにはいかない、荷物が少な過ぎないか……」


 帝国側の兵士は疑り深かった。


「トーマス司祭の用で急ぐ必要があったんです」


 ギリアムが言うと、あの三人組の事かと兵士同士で勝手に話が進む。


 私たち四人は通行を許可された。


 このまま馬に乗って橋を渡ることも出来たけど、馬は検問所の少し先の宿屋で預けて来た。


 馬を預けたり、門を通れなかった者たちが止まる場所として、宿は賑わっていた。


 湖上の大聖堂を眺めるには、この宿が最高の場所だと私は思った。


「大丈夫か? クレアちゃん」


 アイゼルが私の横で心配そうに聞いてくる。


 いつもならもっとくっついてくるのに、かなり距離がある。


 さすがに聖都ヴァティウスでは、ちょっとの油断も出来ない。


 村で少し休んだとは言え、朝から荷馬車や馬に乗っていて身体はキツかった。


 普段も辺境の城砦の庭園を散歩するくらいしかしてないし、体力がない。


 転生前のずっと入院していた私と比べたら、歩いてるだけでもすごい進歩だけど……。


 騎士のアイゼルやギリアムに比べたら全然、体力はないし、侍女のミアと比べても全く何も出来ないくらい体力がない……。


 私、一緒に来て良かったのかな……。


 と言っても、そもそもがアイゼルと離れていても私が狙われから、敵を捜すためにここにいるわけだし……。


 こればかりは仕方がない……。


 私には私にしか出来ないコトがあるんだから、そっちに集中しよう……。


◆◇◆


 橋を渡り終わると門があって検問所があった。


 橋の前の検問所と違って、紹介状すら確認しないずさんさだった。


 こうして、私たちは聖都ヴァティウスに潜入した。


 ——夜の聖都の門前町は他の街よりずっと静かで落ち着いていた。


 どこの街の酒場からも聞こえる吟遊詩人の歌声は聴こえず、人の話し声が静かに聞こえるだけだった。


 街に入るとすぐに、先に聖都ヴァティウスに潜入していたコリンとダリルが近づいて来た。


「アイゼルさ——ルーク、宿をとってあるのでそちらに行きましょう」


「コリンはクレアちゃんたちを案内してくれ、僕はダリルと大聖堂の中に行く」


 私は驚いた。


『夜のうちに聖都ヴァティウスについたほうが警備は手薄になりそうだな……』


 アイゼルはそう言っていたけど、大聖堂まで夜のうちに捜索するつもりだったの?


 馬を預けた橋の前も宿屋から、アイゼルは黒髪になるカツラと口を覆うマスクをつけている。


 大聖堂を守る帝国側の兵士や騎士たちの中のは、皇帝やその弟を見たことがある者がいるかもしれない……だから、アイゼルが皇帝の弟だとバレないように警戒している。


 アイゼルの顔を見たら皇帝に似ている、皇弟を知っていれば同じ顔だと思うはずだ。


 門番より高位の騎士の方が、皇帝たちにあった事がある可能性は高く、彼らは大聖堂に詰めているだろう。


 最初からそのつもりならちゃんと準備をしているはずだ……。


「……アイゼル……」


 私は不安な顔でアイゼルを見た。


「朝には宿に戻るから、心配しなくていい」


 心配しなくていいとは思えないけど……。


 話せないまま、アイゼルは行ってしまう。


 いつもなら、抱き合ってキスして分かれる気がするけど……。


 間違いなく、そうしたに違いないのに……。


 今は、ちょっと離れるだけのことがものすごく寂しい……。


「クレア様……。美味しお店を見つけてあるので、まずはそこに行きましょう!」


 コリンが私を元気づけるように言ってくれる。


 聖都ヴァティウスの美味しいお店ね……。


 湖上の都市だから湖のお魚とか?


 牛や鶏は育てられないけど、近くのフェルム村は農産業が盛んだし……。


 とにかくアイゼルの事より食事よ!


 どうする事もできない寂しさをやり過ごして、アイゼルと明日の朝に再会した時にしっかり話を聞ける状況にしておかなくちゃ!


 コリンの見つけてくれたお店に派湖で取れる鱒がメインお店だった。


 お魚料理だけど、辺境の内海の魚を食べ慣れてるコリンがおすすめなだけあって、生臭さもなくて美味しかった。


「聖地のある湖なだけあって、此処はかなり管理されているから、水が浄らかなんです。魚も綺麗でバターやハーブの香りがそのまま染みてとっても美味しいんですよ!」


 コリンの言う通りに、バターとハーブの香りと魚の食感が合っていてとても美味しい。


「これでもアイゼル様は苦手だと思いますけどね……」


 コリンが残念そうに言う


「アイゼル様は魚の食感がお嫌いだからな」


 ギリアムが言う。


「アイゼル様がいらしたら、お肉料理のお店にお連れしましたよ。悪くはないですが、この鱒ほど、ここで食べて良かったって気分にはなりませんよ!」


「じゃあ、アイゼルがいなくてよかったわね」


 ギリアムとコリンが大袈裟に私の寂しさを紛らわせてくれるから、つい言ってしまう。


 アイゼルに聞かれたら、拗ねられたかもしれない。


◆◇◆


 聖都ヴァティウスの大聖堂の前。


 僕、アイゼルは立ち止まる。


 三度目の検問所だが、ここが一番手強い場所だ。


 今夜、目的を達成するために、クレアが安全に楽しく過ごしてくれていればいいが……。


 ダリルと僕は、大聖堂の門へと向かう——。


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