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結婚したのに6年間無視され続けた私、本当の理由 〜原作にいない貴族令嬢は世界を変える〜  作者: 唯崎りいち
第三章 静かなる聖地、それは光

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穏やかな道の先の色のない村

 聖都ヴァティウスへ向かう道をそれると、人通りは格段に少なくなる。


 辺境伯家の別荘がある、鉱山都市ミストルニアに続く道でもあるが、険しい山道が続くために巡礼の道としては人気がない。


 私、ギリアムは宿場町を出てから荷馬車の手綱をミアに任せているが、六年振りだと言うのに危なっかしいところもなくここまで来た。


 聖都ヴァティウスでの用が済んだら鉱山都市ミストルニアへ農村から、巡礼者も避ける険しい山道を通って行く予定だ。


 ミアに任せた方が安全かもしれないな。


 そんな風に考えているうちに農村が見えてきた……。


 異様な雰囲気だ。


 ついこの間も、辺境の城砦で同じ光景を見た……。


 色がなくなった村の光景を——。


◆◇◆


 私は息を呑んだ。


 辺境では何度も見ているが、それでも慣れない現象だ。


 それが別の領地にもあった。


 辺境だけの現象だと思っていたわけではないが……他の場所でも起きているとは考えないようにしていたことだった。


 ただでさえ対処法のない現象が帝国中——いや、世界中で起きているなら、対処法など何処にもないのかもしれない。


 それが世界の正しい在り方で、私が気づく側に回ってしまっただけなのだ……。


 現にミアにはこの現象がどう見えているのか?


 手綱を持つ手は変わらない。


 目的地を見て走らせているミアが農村の様子に気づいていない訳がない。


 つまり、ミアは気づかない側の人間なんだろう。


 気づかない側の人々は、色褪せた村やその村にいる正気のない人々にも気づかない。


 いつも通り普通に接している。


 その姿が、気づいた側からは不気味に映るだけだ……。


「ミア……、少し馬車を停めてくれ……」


「どうかしましたか? ギリアム」


「アイゼル様と確認したい事があるだけだ……」


 アイゼル様は白い影によって村や人が、色褪せてしまう現象は知っている。


 最初に発見したのがアイゼル様だったのだ……。


 しかし、クレア様は……。


 たぶん、見えない側なのではないか?


 クレア様をあの村にお連れして、正気のない村人と話をする場面を目撃したら……。


 私は……。


 荷馬車が止まり、ミアに休むように言って御者席から降りた。


 荷馬車が止まったことを不思議に思ってか、荷台の箱から出てきたアイゼル様が村の様子に愕然としていた。


「ここも……か……」


 “ここも”とは辺境の村と同じく“ここも”白い影に脅かされていると言う意味だろう……。


「クレア……」


 そのままアイゼル様が荷台の箱にいるクレア様に声をかける。


「……ここからは歩いて行こう」


「……!? アイゼル様!?」


 クレア様が、アイゼル様に抱き抱えられるようにして荷台から降りた。


「歩くのはいいけど……こんなに近いのに、どうして?」


 クレア様が村の様子を見て答える。


 村から変わった様子を感じてはいない。


「アイゼル様……!」


 私はもう一度言うが、アイゼル様はクレア様を連れて村に歩いて行く。


 私を振り返って、黙っていろと視線を送る。


 私は、ミアに待つように言うと黙って後をついて行くしかない。


◆◇◆


「綺麗な村ね」


 クレアが、僕、アイゼルに話しかける。


 道の先に小さな建物の密集した地区があり、少し離れて農場や畑などに隣接した家が数十軒ほど見えた。


 家の横には背の高い木が数本生えていて、花が咲いている様子も見えた。


 けれど、そこには色はなく。


 影だけが物の形を伝えている。


 異様な光景に見えた。


 美しいとは言えない。


 白い影に色を奪われる前なら美しい村だったのかもしれない。


 クレアには、色を奪われる前の風景が見えている……。


「鶏がいるみたいだから、新鮮な卵が食べられるわね。鉱山都市の別荘には新鮮なままは持っていけないけど」


 影の中の鶏を僕は見つけられない。


 色がなければ小さな生き物の場所など見分けがつかない。


 かろうじて、人間が動いているのは見えるが、規則的な動きが人間のものではなかった。


 正気のない……顔のない、人形の群れのようだった。


 昨日のランタンの店は小規模な場所だった。


 クレアが足を踏み入れたとたん光が溢れて色を取り戻した。


 店の中はずっと営業を続けていたように商品が並べられて、店主もクレアと会話できるほどにしっかりした状態だった。


 クレアはこの白い影が色を奪う現象に対抗できる光だ——。


 まさか、翌日にもう一度確認できる機会が来るとは……。


 この規模の村でも、昨日のランタンの店のように一瞬で色を取り戻せるの……。


 村の入り口に線を引いたように、色の境界が見える。


 クレアが近づいて……。


「この村の入り口のアーチ……古いけど可愛い……」


 クレアの足先が光ると、光が村全体を覆った。


 先に広がる家々の密集した村の大通りを通って、先の農場や畑にまで光が広がって行く。


 光に包まれた後の建物や風景は色を取り戻してレンガと緑の木々が美しい彩りを作っている。


 大通りを規則的に漂っていただけの人の形をした人形は、正気を得て人間になった。


 スキップする子供たちと、明るい笑顔で見守る母親。


 生き生きとした生活がそこにはあった。


 アーチをくぐったクレアは、振り返ってアーチを見上げていた。


「色褪せてるけど、鶏と牛の絵が書いてあるのかな」


 色を取り戻したアーチに掲げられた看板には絵が描かれている。


 なんの絵かは判別できないほどに色褪せているが、クレアの言う通り鶏と牛なのだろう。


 昨日は圧倒されたクレアの力だが、今日は村一つを変えてしまったと言うのに、それほどの畏怖を感じない。


「アイゼル?」


 不思議そうに僕を見つめるクレア。


「……僕に光を与えてくれたのは君だったんだ……」


 すっかり忘れていた。


 これは、なんの不思議もない。


 最初から君が持っていた力なんだ。


◆◇◆


 私、ギリアムの目の前で、クレア様から光が溢れて、白い影に襲われて色を失った村に色が戻って来た。


 ただ、呆然とクレア様と村の変化を見つめる。


 アイゼル様が微笑んでクレア様を見つめている……。


 アイゼル様はクレア様の力を知っていた……?


 もしかしたら、昨日の夜にアイゼル様の様子がおかしかったのはこのせいなのか?


 クレア様は何も気づいていない様子だ。


「アイゼル様……クレア様……」


 気がつくとダリルがいた。


「聖都ヴァティウスの様子をアイゼル様に報告するために今着いて、色褪せた現象を確認して、どうしようかと考えていたのですが……」


「村の様子を確認して、話せる場所を確保しよう。私はミアを呼んでくる」


 私がミアの所へ踵を返すと、ダリルは素早く村の中に入って行った。


「どうしてここで待ってなきゃいけなかったんですか?」


 ミアが文句を言う。


 やはり今の現象は見えていなかったのか。


「もういいから、村まで行って荷馬車を預けよう」


 ミアは荷馬車を走らせる。


 村のアーチからはアイゼル様とクレア様も移動して、大通りにいるのが見えた。


「ね? クレア様は特別な人でしょう?」


 アーチをくぐる時にミアがいう。


 ……!


「見えていたのか……」


「クレア様は特別な人……。私を白い影から救ってくれたんですから——」


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