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結婚したのに6年間無視され続けた私、本当の理由 〜原作にいない貴族令嬢は世界を変える〜  作者: 唯崎りいち
第三章 静かなる聖地、それは光

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色を取り戻す光

 たぶん、偶然だと思う。


 アリスなんて名前はありふれている。


 たぶん、小説とか漫画とか、ありふれた名前だ。


 今世の私のお母さんが亡くなって、お父様がお母様と再婚した。


 前世の私と名前が同じなのは偶然だ、と思う。


 この世界は私が前世で読んでいた小説の中。


 アイゼルはヒーローで、ギリアムも従者として登場してる。


 でも、私は原作にいない貴族令嬢。


 私の侍女のミアも、原作にはいない。


 お母様やお父様、妹のアリシアも、本当のお母さんも、原作にはいない。


 仮面舞踏会のあった城塞都市フェルゼンは名前だけ原作に出てくる都市だから、あの街の人はみんな原作にいないんだ。


 ……ルシアンは原作に出てくる黒幕だけど、この世界で原作にはいない人とも関わりを持ってた。


 この世界では本の裏側であった本当の世界が動いてる……ちゃんと人が生きている。


 だから、お母様の名前が、前世の私と同じになる偶然も起こる。


 前世で誕生日が偶然一緒だった看護師さんがいた。


 生きてる本物の世界でなら、こういう偶然が起こって当たり前なの……。


 胸がざわつくのは、お母様が私のことを気にしていてくれたって知ってしまったから。


 また一つ繋がりを感じて、嬉しくなってる。


 ……でもエドが言ったのは、


 『あの人が心配する……』


 ってことだけ。


 嬉しすぎると不安のなる。


 あの人がお母様じゃない可能性。


 心配してるのが、私自身のことじゃない可能性。


 ただ、名前が偶然一緒だっただけなのに、お母様のことなら、ここまで悩めるのね……。


◆◇◆


 部屋が静かにノックされた。


 アイゼルがいた。


「ギリアムは僕がいると休めないみたいで、ミアもきっとそうだろう?」


 私に人形に名前の事を聞いたミアは、その後に私がお母様のことで考えごとをしている間も起きていた。


「少し外に出よう」


「アイゼル、教会には行っちゃダメだって行ったのに」


「ギリアムと二人で行くのを禁止しただけだよ。僕と行くなら反対してない」


 別にギリアムと二人きりで行ってもいいと思うけど。


「アイゼルは目立つんだから、外にでちゃダメよ」


「もう夕暮れだからそれほど目立たないよ」


 確かに窓の外は少し薄暗くなってきていた。


◆◇◆


 僕、アイゼルは、クレアと宿の外に出る。


 冷たい風が吹いていた。


 クレアをマントの中に入れる。


 いつものようにあたりを警戒するが、仮面の男の気配はない。


「エドのマントと同じだわ……」


 クレアが僕のマントを掴んでいう。


「あったかい……!」


 その笑顔が気に入らない。


 まるで仮面の男のことを褒めているみたいだ。


「……クレアちゃん、このマントは仮面の男のマントよりも厚手で高級なんだ。もっとずっと暖かい。フードもついてるし」


「……別にマントぐらいエドに負けててもいいでしょ?」


「負けてない!」


 別に、勝ち負けなんて競ってないけど、クレアちゃんに言われるとムキになってしまう。


 僕はクレアをマントで隠してキスした。


 マントから出たクレアは赤くなっていた。


 可愛い。


「……エ、エドさんに見られてたらどうするの!?」


 赤くなった理由は可愛くない……。


 クレアはキョロキョロと辺りを見回してる。


 監視されていると聞いたら嫌がりそうなのに、クレアにとっては嬉しいことなんだろう。


 その様子自体はやっぱり可愛いから、クレアの気持ちを裏切って欲しくはない……。


「夜の出店が出始めたみたいだ」


 話を逸らしように、宿場町の大通りに目を向ける。


 焼き菓子を売る店もあるけど、蜂蜜酒を売っている店が目についた。


 僕の心臓が、酒場でのクレアを思い出して一瞬跳ねた。


「もう飲まないわよ」


 と、クレアが僕の様子に気づいて言う


 大通りを真っ直ぐ行くと教会が見えてくるが、今は静まり返っているだろう。


 僕たちは脇道に入る。


 吟遊詩人の歌声が微かに酒場から聞こえる。


 ……ここも危険だ。


 夜の裏通りは、石畳が店からもれる少ない明かりを反射して濡れたようの光ってる。


 ——しかし、ある一角から光が消えた。


 すっかり日が暮れて夜の闇の中に、人の住まない廃墟があればこんな感じになるのだろう。


 酒場の華やかな音に包まれた光とは対照的な、静寂が包む闇。


 けれど、そこは無人の廃墟などではなかった……。


「わぁ! 可愛い! ランタンのお店なのね。綺麗ね、アイゼル」


 クレアが、その何も色のない場所を綺麗だと言う……。


 白い影が色を持ち去った場所だと言うのに……。


 あの、僕たちの結婚式の日に、辺境伯の城から見えた白い影たち。


 白い影たちが消えた後に残った色のない空間と正気のない人々……。


『あら、また出たのね。……あの白い影はクレアにかかった呪いなのよ。あなたに選ばれた事でずっとあの子は呪われている——』


 君の継母が言った言葉。


『可哀想に、クレアとあなたが近づけば近づくほど、白い影はあなた達を滅ぼそうとするでしょう』

 

 僕はこの白い影がなんなのか追った。


 辺境伯の領地で何度も見かけた現象だ。


『あなたが6年間クレアを守れたなら、もしかしたら呪いが解けるかもしれないわね——』


 白い影の謎はわからないまま、六年が経ったから、ターニアが現れた事を理由に、呪いを解けたことにした。


 何も、白い影の問題は解決していない。


 辺境のみの現象だとは思っていなかったが……。


 辺境を離れて目にすると衝撃が大きい。


 もっと、世界中に広がっている現象なんだろう。


 僕とクレアの間に横たわってるらしい、この呪いはどうすれば解けるんだ!


「ねえ、お店の中に入ってみましょう」


 クレアには、この白い影で失われた空間がいつもと変わらない様子に見えている。


 最初に見た正気のない青年といつもと変わらないような態度で接する店主。


 ロイスとコリン、ダリルも最初は何も変わったことがないと言っていた。


 白い影が見えるものと、見えないものがいるのだ。


 僕は、クレアは、たぶん、白い影吟遊詩人見えない側の人間だろうと思った。


 継母の口ぶりから、自分に呪いがかかっていると知らない様子だったからだ。


 しかし……。


 予想はしていたけど、いざ目の前で、はっきり見える色の消えた世界に、気づかない妻を見るのはショックだった。


「クレアちゃん……もう帰ろう」


 僕は少し震えて、クレアちゃんの身体を抱く。


 けれど、クレアは僕のマントからと飛び出す。


「ちょっとだけだから」


 そういって、色のない場所に行く。


 僕の心臓が跳ね上がる。


 僕だって色のない場所には行ったことがあるから、場所自体が危害を加えることがないのは知っている。


 だけど、クレアに色のない場所に入って欲しくなくて、手を伸ばす。


 あと少し足りずにクレアが色のない場所に、片足を踏み入れる。


 その時——。


 足の先から光が溢れる。


 色をもった光が目の前を駆け抜けると——。


 クレアが、美しい光をたたえるランタンの店の前に立っていた。


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