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結婚したのに6年間無視され続けた私、本当の理由 〜原作にいない貴族令嬢は世界を変える〜  作者: 唯崎りいち
第四章 誰も知らない物語

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忘れられた村の秘密

 僕、アイゼルは聖都ヴァティウスの大聖堂で、教皇に呼ばれていた。


 四大精霊を祀る教会で、たった一人の精霊の代理人が教皇だ。


 四大精霊とは、火、水、風、土の四つの精霊だ。

 大昔には本当にこの世界をたくさんの精霊が飛び回っていたらしい。


 今は精霊たちは人々ん住む大地になっている。


 大地から魔石が取れて、大地から魔力が大気に流れている理由だった。

 大地に眠る精霊たちの身体から魔力が流れている。


 四大精霊の声を一番よく聞けるのが、聖都ヴァティウスの湖の上にある聖地だった。

 四大精霊の力が程よく交わる場所。


 教皇が、毎日の祈りを捧げる場所で、年に一度の大規模な祈りの儀式を捧げる場所でもある。


 僕が、枯渇していた聖地の魔力を一時的に復活させたが、教会が言うほどに神秘性のある場所ではない。


 聖都周りの魔力枯渇に作用して、教会の神秘性を保って恩が売れると思って聖地を選んだんだが。


 教皇が釣れるとは——!


 年老いた教皇は滅多に人前に現れないと聞いているが、余程、聖地のことが気になっていたのか?


 僕は、呼びに来た司教の後に続く。


◆◇◆


 教皇イノセンティウスの部屋は大聖堂のずっと奥にあった。


 教皇は年老いて骨と皮だけになった老人だった。

 椅子にかろうじて座っているだけのように見えた。


 教皇は一度なってしまえば、ずっと教皇のままだ。

 帝国の皇帝と同じだが、絶大な魔力を持つ皇帝とは違い、教皇は魔力の才能で選ばれるわけではない。

 そして本当に精霊の言葉が聞けるわけでもない。


 老いてしまえば、この聖都ヴァティウスでは大司教レオナールが実権を持ち、教会全体では枢機卿たちの力が強い。


 教会が一枚岩じゃないのは元々だが、現在の教皇の状態が拍車をかけているように思う。

 10年前なら、まだ元気だっただろうかから、その前に起こった前皇帝の暗殺未遂事件や僕が隠された事も一般に知らされていること以上に知っていたんじゃないか?


 だから、僕のことを、ただの皇弟アレイウスだと思っていないのか?

 だったら何を話す?


 急に事件の真相を話したくなると言うのはないだろう。


 僕は、教皇に呼ばれた理由が分からなかった。


 何か、僕の知らない秘密があるのか?


「お久しぶりです。アレイウス様に聖都ヴァティウスまでお越しいただけるとは思いませんでした」


 僕の心臓が跳ねた。


 教皇は帝都にいる本物のアレイウスを知っている……!?


「……お会いした事がありましたか? 教皇聖下が帝都にいらしていると子供の頃はよく耳にしていましたが」


 僕の双子の弟で、僕の本当の名前のアレイウスとして過ごしている彼は、病弱なはずだ。

 教皇に会えるほど回復しているとは思えない。


 教皇に会っていたとしても、教皇が帝都まで来れたのは10年くらい前だろう。

 僕もアレイウスを名乗っている弟も14歳だった。

 まだ父の前皇帝も生きていた頃で、14歳で病弱と言われる皇子が教皇と政治的な話をしたとも思えない。


 会ったことを忘れている程度の事だろう。


「そうでしたね。私が一方的にお見かけしただけでした」


 やはり、僕が本物の方のアレイウスかもしれないと疑われている。


「もう、私には教会で出来ることは何もありません。あなたをお呼びしたのは、実は個人的な事なのです」


「個人的な事ですか……?」


 教皇の瞳は穏やかだった。


「私の生まれ村はこの聖都ヴァティウスから北に行った山奥にありました。大魔道士の隠れ家に人が集まってきて出来た村で、人口は少ないけれど、みんな穏やかで平和に暮らしていました。

 でも、数百年の時を生きる大魔道士が亡くなった途端。村の様子が一変しました。不気味な毒ガスが吹き出して、魔物が村に侵入するようになり、人が住めなくなり放棄されたのが80年近く前のことです。

 大人たちは村を去る前に『——ルシアンがいてくれたら』と言っていたのです」


「ルシアン……!」


 教皇から聞き覚えのある名前が呼び出した。

 僕が忘れていて、クレアが知っていた宮廷の大魔道士。


「そうです。あなたも知っている、宮廷に出入りしているあの男が、私の村にかつて住んでいたルシアンです。

 聖職についた70年前に彼を見かけて、もしかしたらと思いましたが、その後もずっと彼の容姿は変わらなかった。

 私の村で、大魔道士を凌ぐかも知れないと言われていた弟子で、何十年も前に村を出て行った人物です。

 ずっと前に出て行ってしまって、一度も帰って来ない者を、大人たちは“ルシアンなら必ず取りに戻る”と信じていました。彼が“必ず戻しにくる”品物があったからです。

 しかし、彼は戻らず、今も毒ガスの吹き出て魔物が歩き回る、あの村においてあるのです」


 僕は、ルシアンには一度しか会ったことがない……アイゼルとしては。

 聖都ヴァティウスに来る前の、城塞都市フェルゼンの仮面舞踏会であった。


 仮面を付けていても隠せない圧倒的な美貌を持っていた。


 何故か、クレアが彼を知っていて、僕がまだアレイウスと呼ばれて帝都で暮らしていた時に、病弱な双子の弟のオルフェウスを見てくれていたのがルシアンだと教えてくれた。


 それで、僕は忘れていた記憶を思い出した。


 確かに、子供の頃に見たルシアンと、ついこの間仮面舞踏会で会ったルシアンは変わっていない。


 何百年と生きる大魔道士の最後の一人。


 魔法を使えるものが珍しくなった時代に、取り残されたような男だ。


 ただの最後の大魔道士の一人なら、ここまで気にはならない。


 気になるのは、クレアだ。


 クレアが秘密を持っていいるのは知っている。


 “絶対に言えない秘密”


 だから、ルシアンを知っていたのも、その秘密の一部なんだろう。


 なら、何故、僕にルシアンの事を話したんだ?

 絶対に言えないんじゃないのか!?


 ——何か理由がある。


 ルシアンの存在を僕に話した理由。


 ルシアンを探れば何か分かるのか?


 “ルシアンなら必ず取りに戻る”品物


 それはなんだ?


 教皇イノセンティウスが言う。


「子供の頃から伝説の存在だったルシアンが“必ず取りに来る物”とはなんだったのか、気になっていたのです。

 ルシアンは美しく穏やかで、宮廷で見かけるたびに誰かと話していて人気がありました。

 でも私には、ただ美しいだけで、何を考えているのか分からない、不気味な存在に見えた」


 教皇が身震いした。

 本当に恐れているんだろうか?


「この間、ルシアンがここを訪ねてきて見かけた時に、ルシアンが“必ず取りに来る物”の正体が分かれば、もっと彼に親しみを持てるのではないかと思ったのです。同じ村出身の者としての、ただの興味です。

 力をお持ちでルシアンを知っているアレイウス様なら、もしかしてと思って、話したくなったのです」


 教皇が感じている恐怖は本物だとして、この話はどうだ?

 裏があるのかもしれない。


 ただ——


「とても、興味を引きました。教皇聖下のご期待に添えると思います」


 クレアの秘密に近づけるかもしれない。


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