ずっと一緒にいるために
宿の部屋を出るとミアやギリアムたちが支度を整えていた。
「どうかしたんですか、クレア様?」
ミアが私の様子に気づく。
「なんでもないわ!」
アイゼルが変な事を言うから、頬の赤みが消えない。
考えないようにしていた事だったのに!
これから、やらなきゃ行けない事があるから、今の状態をそのままにしておきたいけど……。
もしかしたら、アイゼルと二度と会えなくなるかもしれない……。
まだ、全然わかってないし、はっきり決められてないのに……別の余計な事で悩ませないでよね!
私はアイゼルを睨んだ。
アイゼルも私を不満がありそうに見ている。
さっきまでは宿屋の部屋の中で抱き合ってたのに、外ではまた手を繋ぐ事も出来ない。
アイゼルが皇弟アレイウスに成りすましてるから、私の居場所がない。
皇弟アレイウスはまだ独身なのだ。
アイゼルの妻の私の居場所がない。
ミアとギリアムたちと同じ従者と言う立場になるのかな。
やっぱりマーシャルを名乗り続けないといけないのか。
でも、さっきはアレイウスが大司教レオナールの前で私を抱きしめてたし、使用人だけど愛し合ってる、くらいの認識はされているのかな?
それは、原作と同じ構図だ。
この世界の皇弟アレイウスとマーシャルは、私の生み出したルークのせいで恋中にはならなかったけど、原作では愛し合って子供がいるんだ。
原作の再現をどっちも身代わりの、私とアイゼルでやるとは思わなかったわ。
◆◇◆
大聖堂に止めてもらう事になってるけど、宿泊場所の候補は3ヶ所あった。
大司教のレオナールは、自分たちと同じ大司教や司教がいる場所に泊めたがっている。
そこならアレイウスをずっと監視できるからだ。
意外にもアイゼルもこの場所がいいらしい。
魔力の形の資料を盗み出したように、もっと大聖堂内部の資料を盗もうと考えているらしい。
ただ、それは危険だとギリアムに反対されていた。
レオンハルトが帝国から派遣されてる騎士たちの宿舎にも泊まれると言ったけど、アイゼルが司教たちから遠すぎると反対した。
後は、大聖堂に来た観光客が泊まる場所だ。
観光できる回廊のそばにあって、大司教の居住区にも近く、帝国の騎士の宿舎にも近い。
間をとってこの場所に泊まる事にした。
アイゼルはここから大司教の居住区に行ってやっぱり資料を盗むらしいけど……。
トーマス司祭もいると思うんだけど、出会ってしまったらアイゼルがアレイウスと呼ばれている事をどう思われるんだろう?
あまり長いはいたくない場所なんだけど、皇弟アレイウスとして名乗ったらすぐに帰って行くのも怪しまれる。
今回はアイゼルの他に資料もみたい都合も合わせて、一日か二日はここに泊まる予定だ。
その後は、本物のマーシャルとルークが、私とアイゼルに成りすまして先に行っている、辺境伯の別荘に行く。
ただ、私はその前に行くところがあった。
原作に書かれていないけど、原作者の頭の中にあった場所。
この物語の世界で、その原作者の考えが表れている本、『隠された皇子とメイドの愛』に登場する場所。
辺境伯の別荘は鉱山都市ミストルニアにある。
普通に進んでも険しい場所も通っていく都市だけど、普通の道からズレた山道を通って鉱山都市ミストルニアへいく途中に、多分、私の探している場所はあるんだ。
これは私の原作知識があって、原作者のインタビューを見て、『隠された皇子とメイドの愛』を読んでたどり着いた仮説。
誰かに話してわかってもらう事も出来ない。
アイゼルは、危険すぎると言って私がその山道を通る事を許さないだろう。
そして私は説得する言葉を持ってない。
だから、一人で行くしかない!
でも、どうやって一人で行くかが問題だった。
アイゼルから逃げる方法なんてあるのかしら?
湖の上では転移魔法で、ボートという小さな一点に狙って転移して来るし、やってないだけで、やろうと思えばなんでも出来るんじゃないの?
原作のアイゼルも、魔力を使うにはかなりの制限がある中で、かなり大胆な事をして問題を解決してたような気がする。
騎士としても優秀だと原作にも書いてあるんだけど、そっちの見せ場はあまりなかったと思う。
でも、今にアイゼルは従者達を差し置いて一番強いって言われてた。
巻いて、行ける気がしない。
アイゼル自身が、私から離れてくれる事ってあるかな……アイゼルに、私よりも大事な物が出来るみたいでちょっと嫌だけど……。
話して説得なんて無理そうだから、それは本当に一か八かの最終手段だ。
一人で逃げる方法があるか?
アイゼルが私から離れる方法があるか?
この二つをよく考えてみよう。
大聖堂に泊まって考える時間が増えたのは良かった。
私は与えられた大聖堂の部屋から外を見ていた。
ミアが荷物の整理をしてくれている。
外には聖地の浮かぶ湖が見えて、アイゼルが昼間に魔力を解放して火柱を上げさせた聖地がよく見える。
火柱は落ち着いてい、今も四大精霊の魔力が均等に働いている。
聖地と呼ばれてはいるけど、たまたま四大精霊の魔力が均等に働いて見えるから、教会が聖地と呼んで、周りに聖都ヴァティウスを作ったにすぎない場所だ。
本当に原作者が聖地と呼べるほどの仕掛けを施した場所が、鉱山都市ミストルニアへ行く危険な山道から外れた場所にある。
『隠された皇子とメイドの愛』の中で、ヒロインとヒーローが遭難して避難した古い城のような建物から続く道に、その一端が描写されている。
と言うのは、私の想像だけど、多分あってるはずで。
とにかく行って、本当に古い城のような建物があるか確かめないといけない。
でも、この建物を探すのも大変そうだ。
小説には遭難する過程が丁寧に書いてあって、行けば目印が見つかると思うけど、山道と言うのは広大だし、歩いていくだけでも大変だと思う。
アイゼルに守られて、何もして来なかった私にはかなり難しいかもしれない……。
巡礼宿で三人組に捕まって森の中を歩いた時は歩き辛さに辟易した。
あの時、仮面の男——エドが助けってくれなかったら、身動き出来なかったかもしれない……。
……あ。
仮面の男エドは私を監視していると言う。
もしかして、今も監視していてくれるなら、私を助けてくれるんじゃない!?
三人組に捕まった時みたいに、山道の危険から助けてくれたりする?
「何考えてるの? クレアちゃん」
「わっ!」
気がつくと目の前にアイゼルがいた。
「ど、どうやって入って来たの!? 誰かに見られたら……!?」
「転移魔法で来たから大丈夫だよ」
金髪の本来の姿に戻っているアイゼルが笑う。
逃げようと考えてた所に、現れられるとびっくりする!
アイゼルに抱きしめられる。
「あの聖地に本当の神秘の力はなくても、この眺めは綺麗だからクレアと見たかったんだ」
それは私も思っていたから、実行してくれて嬉しい。
「これからも、ずっと一緒だからね、クレアちゃん」
ギュッと私を背中から抱きしめるアイゼル。
私は一瞬、何も言えなくなった。
私が去ろうとしている事を見透かされてる気がした。
でも、私はアイゼルから逃げたいんじゃない、アイゼルとずっと一緒にいたいから離れるんだ。
「……ずっと、アイゼルと一緒にいるから……!」
私は決意を強くする。




