本格的 ガチムチラッシュボーディング 第六節
左舷側から走りくる弓兵を、振り向きざまに銃撃する。
突きつけた拳銃を、思いきって踏みこめば長弓で打ち払える距離にせまっていたが、弓兵は対応できずに胸を撃たれた。
彼の数メートル後ろにつづいていた仲間は、やけくそ気味にこちらへ小剣を投げつけ、横に跳んで転がっているテーブルと円柱に隠れた。
左手側の弓兵が、死体をどけ手をついて膝立ちになった。有馬は後ろ回し蹴りで、ふたたび彼を床に倒した。
列柱を戻り、軽装歩兵の剣を拾う。剣身二尺半、身幅が日本刀の二倍ほどの両刃剣だった。技巧よりも握力と手首の頑丈さを必要とする、骨切り包丁の類だ。
「これは、日本語だ。わかるなら答えろ。答えなくば殺す」
蹴り倒した弓兵の腕を据えものに切れ味を試した有馬は、まわりに言った。
弓兵の兜は、現代地球の歩兵用ヘルメットと同じく、射撃の妨げとなる顔覆いはついていなかった。靴底で鼻や口を砕かれた弓兵は、血泡を噴く顔を押さえたまま無抵抗に両腕を断たれた。
円柱に隠れた弓兵が、早口で叫びかえした。
何秒かつづいた言葉は、地球の主要な言語ではなかった。聞くだけならば数十の言語を聞いたことがある有馬にも、いかなる語族に属するのかも見当がつかなかった。
有馬は答えなかった軽装歩兵に追いつき、彼の腹を剣で切り裂いた。九ミリ弾の一発を、楯で止めた戦士だ。防御しようとあげた彼の左腕が、もろともに切れて落ちた。向けられたラウンド・シールドに砕裂痕ができていた。
剣に内臓をえぐられた戦士は、苦痛の悲鳴をあげて床に転がった。
敵を切り刻みたいという欲望を認め、有馬は拳銃のデコッキング・レバーをさげた。
拳銃をホルスターに収め、右手で戦士の首をつかむ。とりたてて筋骨逞しいという体型ではなかった。ユーラシアの紛争地にいくらでも湧くゲリラと大差はない。有馬は熟練したベント・ローイングの動作で、肩の高さに彼を持ちあげた。
戦士はソファに刺してしまった短槍を回収できなかったが、まだ腰に剣を吊っている。こぼれた腸を手探りでどけ、それを抜こうと試みた彼の右腕も、有馬は料理するように剣で切断した。
揺れて剣身にへばりついた臓物は、偶然にもホモ・サピエンスそっくりに独自に進化した異星の生物のものには見えなかった。それは見慣れた脊椎動物の大腸そのものだった。
下顎角の裏を有馬の指に押さえられ、あおむいて呻く戦士の顔には、ある種の熱狂があった。士気の高さや負傷への頑強さは、メタンフェタミンでも使っているかのようだった。
有馬は剣を切りこみ、戦士の鼻から瞼まで顔皮を剝いだ。刃を鼻骨にかませ、うごめかす頭を固定して確認してみたが、瞳孔は投薬で異常に散大はしていない。有馬を見かえす血まみれになった戦士の目には多幸感などなく、狂おしい焦燥でぎらついていた。
有馬と目をあわせた戦士は突然に意志を崩壊させ、絶叫し始めた。
恐怖状態におちいってうるさく叫ぶ戦士の顔を、ひるがえした剣で有馬は串刺しにした。鼻腔から食道へ、剣を突きこんで戦士を黙らせる。絶叫がやむと、負傷の衝撃から回復したらしい若者のかすれた声がなにかを指示した。
有馬は戦士の剣帯から、代わりの剣を抜いた。弦が鳴り、遅い矢が一メートルほど離れたところを飛びすぎた。
横倒しになったテーブルが円柱へ引きずられる。テーブルの木脚を両手で握った弓兵が、その後ろに立ちあがり身がまえた。貧弱な矢の連射に掩護され、有馬へ突進する。
こちらも楯にした戦士を右肩にかまえ、有馬は弓兵を迎え撃った。
同時に若者が、撃たれた右脚を引きずりデッキへ後退した。逃げるためではない。左手には長弓を濡らさぬように握っていた。
弓兵は楯にしたテーブルを用いて、体当たりで挑みかかってきた。近接戦には慣れていないのか、単純な動きだった。
弓兵がテーブルを捨て身で振るう。
戦士の体をテーブルに打ちつけ、それを重量の差で有馬は止めた。
左側方へかわしざまに斬撃し、弓兵の背へ袈裟懸けに剣をめりこませる。革の上着と、それに縫いつけられた金属の小札、筋肉と肋骨が切り砕かれ、しぶいた血にまみれた。
戦士を捨てた血まみれの右手で弓兵をつかみ、剣から抜く。これで九人が倒れた。
有馬は予定を少し変え、残る一人は生け捕ることにした。生かして帰すつもりはないが、船乗りの知識は必要だった。文綾丸に搭載されているボートを動かすにせよ、この世界の地理、気候を知る者は乗せておきたい。
ロビーの外へ若者を追う。一行の統率者らしきあの若者を人質にすれば、小型船と一時的な交渉は可能だと思われた。




