「うん。デコピン便利だねぇ」
「それでは、続きから始めましょう」
リーゼロッテの声とともに、配信が再開された。
『待ってました!』
『前半だけで12件終わったの笑う』
『フェンちゃん、また何か拾ってくるかな?』
「今日は第8層から第10層まで、残り12件ですねぇ」
乙羽が指を折って数える。
「各階層4件ずつです。順調ならすぐ終わりますよ」
「先生の言う順調って、どのくらいの時間なんですか……」
柳が尋ねる。
「必要な時間だけです」
「答えになってないんだけど!」
『先生の効率厨が止まらないww』
『でも実際、ここまで全部あっという間なんだよな』
『配信いつも見てます:後半も楽しみです! フェンちゃんかわいい!(500円)』
「配信いつも見てますさん、ありがとうねぇ」
乙羽がフェンちゃんを撫でる。
「わふっ!」
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第8層
最初の依頼は、指定モンスターの討伐。
2件目は生息域の調査。
3件目は特殊素材の回収。
4件目は放置された物資の捜索だ。
「まずは討伐からですね」
先生が通路の先を確認する。
「対象は奥にいます。ですが、その手前に別のモンスターの群れがありますね」
「じゃあ、どうするのぉ?」
「まとめて処理するのが早いでしょう」
先生が魔法を使うと、通路の先にいたモンスターたちが次々と宙に浮かんだ。
1匹、2匹、3匹。
あっという間に数十匹が空中に固定され、暴れても逃げられない状態になる。
乙羽たちは、その光景を見ても特に驚かなかった。
「おぉ、いっぱいだねぇ」
「対象も混ざっていますね。種類ごとに分けましょう」
先生が手を動かすと、モンスターの群れが空中で分類されていく。
「これなら、討伐対象と素材回収対象を分けておけます。後で確認する手間も省けますね」
「そうだねぇ。楽でいいねぇ」
琴も頷いた。
柳は少しだけ考えてから、納得したように言う。
「まあ、走り回って追いかけるよりは効率いいか」
「そうでしょう?」
先生は満足そうだった。
『いやいやいやwww』
『何十匹浮かせて運んでるんだよw』
『これはトレインではありません、って言うやつだろw』
「これはトレインではありませんよ?」
先生がコメントを見て、すかさず答えた。
『本人が言ったwww』
『トレイン判定を回避するなw』
『いや、理屈は分かるけどさぁ!』
「トレインとは、モンスターを引き連れて移動することですよね。こちらは魔法で拘束して運んでいますから、別の方法です」
「うん。走って逃げる必要がないもんねぇ」
乙羽も同意する。
『ティンカーベルも認めてるww』
『確かに効率的だけど、一般冒険者はどうすればいいんだよ』
『まず何十匹も浮かせる魔法が使えないんですが』
「人が近くにいる場合は、危険なのでやりませんよ。今回は周囲に他の冒険者もいませんからね」
先生は念を押す。
琴と柳も頷いた。
「そこは当然だよな」
「うん。人がいたら別の方法にするよ」
『ちゃんと安全には配慮してるんだな』
『そこはまともで安心した』
『でもやっぱり真似できないw』
討伐対象はそのまま処理され、素材回収対象は傷つけないように分けられた。
依頼はあっという間に完了した。
「では、次の生息域調査に移りましょう」
先生が歩き出す。
「もう終わったんだ……」
柳が呟いた。
2件目の調査は、指定区域にいるモンスターの種類と数を確認するものだった。
先生は少し先を見て、すぐに答えを出した。
「対象区域には指定モンスターが8匹、別種が3匹います」
「……先生、調査ってそれでいいんですか?」
「必要な情報は得られていますよ?」
「いや、そうなんだけど……」
『調査時間、ほぼゼロww』
『冒険者の仕事を何だと思ってるんだw』
「もっと効率的にしなければなりませんよ?」
「もう十分すぎるほど効率的!」
柳のツッコミが響いた。
先生は本気で不思議そうにしている。
「まだ改善の余地があると思いますが」
『これ以上何を改善するんだww』
『先生の効率化、底が見えない』
3件目の特殊素材回収も順調だった。
乙羽はデコピンでモンスターを倒し、琴が素材を回収し、柳が周囲を警戒する。
先生は必要な素材の場所を見つけ、フェンちゃんが周囲の気配を確認する。
「わふっ!」
フェンちゃんが突然、通路の脇へ走った。
「フェンちゃん、どうしたのぉ?」
乙羽が追いかけると、フェンちゃんは岩の隙間から、また何かをくわえてきた。
今度は薄い板のような物だった。
表面は汚れているが、金属とも石とも違う質感がある。
「また見つけたんだねぇ」
「わふっ!」
先生が受け取り、前半で見つけた石や金属片と並べた。
「……やはり、分かりませんね。これらが何なのか、現時点では判断できません」
「ダンジョンの落とし物かなぁ?」
「可能性はあります。ただ、自然にできた物なのか、何かの部品なのかも分かりません。持ち帰って調べる必要がありますね」
『謎が増える一方なんだがw』
『フェンちゃん、未発見アイテム発見係になってるw』
『これ、実は重要アイテムだったりしない?』
「フェンちゃん、すごいねぇ」
乙羽が頭を撫でると、フェンちゃんは得意げに「わふーっ」と鳴いた。
4件目の物資捜索は、さらに簡単だった。
「この先の岩陰にありますね」
先生が指差す。
「行ってみようかぁ」
そこには、依頼対象の物資がそのまま残されていた。
周囲に危険なモンスターもいない。
物資を回収し、依頼完了。
「これで第8層も終わりですね」
「本当に早いな……」
柳が感心する。
『この階層、何分いた?』
『体感だと10分も経ってないw』
『依頼を受けてから帰るまでの方が長そう』
「次は第9層です」
先生はすでに先を見ていた。
第9層
第9層では、希少素材の回収、指定モンスターの討伐、危険区域の確認、特定地点の探索を行う。
最初の希少素材回収は、乙羽がデコピンを使うことで無事に完了した。
「素材もきれいに残っていますね」
先生が確認する。
「うん。デコピン便利だねぇ」
「……乙羽、もう少し普通の感想はないの?」
柳が言う。
「んぅー? 便利なものは便利だよぉ」
『デコピンを便利機能みたいに言うなww』
『素材回収のために生まれた技』
2件目の討伐依頼では、対象のモンスターが少し手強かった。
といっても、ティンカーベルにとっては大きな問題ではない。
琴が前に出て攻撃を受け流し、柳が短剣で動きを制限する。
乙羽が隙を見て攻撃し、短時間で討伐を終えた。
「これで大丈夫だねぇ」
「はい。指定対象で間違いありません」
『普通に戦うとちゃんと冒険者っぽい』
『たまにはまともな戦闘もあるんだなw』
3件目の危険区域確認では、少しだけトラブルが起きた。
先生が危険な通路を見つけ、迂回するルートを示したのだが、その先から複数のモンスターが現れた。
「……あちらから来ましたね」
「どうするのぉ?」
「安全を確保してから進みましょう」
先生はモンスターを空中に浮かせた。
その数、十数匹。
「これで通路が空きましたね」
「うん。通りやすくなったねぇ」
琴が周囲を確認し、柳も短剣を構えたまま安全を確かめる。
「……まあ、危険はなくなったけどさ」
『危険区域の確認をしてたら危険区域が片づいたww』
『先生、便利すぎる』
『もう先生が全部やればいいのでは?』
「必要な確認は皆さんにしていただいていますよ?」
『一応、仕事は分担してるらしいw』
4件目の特定地点の探索は、フェンちゃんが担当した。
「わふっ!」
フェンちゃんが通路を進み、少し開けた場所で立ち止まる。
乙羽たちが追いつくと、指定地点を示す目印が見つかった。
「ここだねぇ」
先生が確認し、必要な記録を取る。
「これで第9層の4件も完了です」
「残り4件だねぇ」
乙羽が嬉しそうに言った。
『残り4件って言葉が軽いw』
『普通はここまで来るのも大変なんだよ!』
『深層好き:次はいよいよ第10層ですね。前回の攻略も見てました!(3000円)』
「深層好きさん、ありがとうねぇ。次は第10層だよぉ」
「最後の4件ですね。順調に進めばすぐ終わるでしょう」
『先生のその言葉、もう信用できるようなできないようなw』
第10層
第10層に入ると、乙羽は以前の攻略を思い出すように周囲を見回した。
前回は、レイド級と呼んでもおかしくないほどの数のオークが集まっていた。
あのときの戦闘は、今思い返しても異常だった。
しかし、今回は様子が違う。
「……あれ?」
琴が通路の先を見て、足を止めた。
「どうしたの?」
柳が尋ねる。
「オークがいる」
「えっ、何匹?」
「10匹くらい」
その言葉に、乙羽も視線を向けた。
確かに、オークが10匹ほど集まっている。
数だけを見れば、珍しい規模ではない。
だが、前回の光景を覚えている3人には、妙な違和感があった。
「前回は、もっといっぱい居たよねぇ?」
「いっぱいどころじゃなかっただろ。あれ、レイド級だったじゃん」
柳が短剣を構えながら言った。
「今回は普通の群れに戻っているようですね」
先生も周囲を確認する。
「……あのときが異常だったのかなぁ?」
乙羽が首を傾げた。
『前回のオークの数、確かに異常だったよな』
『今回は10匹くらいなのか』
『前回が特殊な状況だったのか?』
『でも、あれだけの数が集まった理由は分からないんだよな』
「一応、協会には報告しておきましょう。前回と今回で状況が違うのは確かですから」
先生の提案に、琴も頷いた。
「そうだね。念のため記録しておこう」
「うん。あのとき何があったのか、分からないままだしねぇ」
乙羽たちは今回のオークの数と生息状況を記録した。
原因は分からない。
前回だけが異常だったのか。
それとも、何か別の要因があったのか。
今の時点では、判断できる材料が足りなかった。
「では、まずは討伐依頼を終わらせましょう」
先生が言った。
「はぁい」
乙羽たちはオークの群れへ向かう。
戦闘は短時間で終わった。
琴が攻撃を受け流し、柳が短剣で相手の動きを制限する。乙羽が残りを倒し、指定された討伐対象を確認する。
「これで1件目は完了ですね」
「次は希少素材だねぇ」
2件目の依頼は、希少素材の回収だった。
指定された素材を探している途中、フェンちゃんがオークの残骸の近くで立ち止まった。
「わふっ?」
「フェンちゃん、何か見つけたのぉ?」
フェンちゃんは、オークシャーマンが持っていた杖をくわえてきた。
戦闘の際に落ちたものらしい。
杖の先端には、見慣れない石が取り付けられている。表面には細かな模様が刻まれ、持ち手にも独特の装飾があった。
「んぅー? これ、杖だねぇ」
乙羽が受け取る。
「オークシャーマンの装備ですね。素材として価値があるかもしれません」
先生が確認した。
「持って帰ってみようかぁ」
「そうですね。協会で鑑定してもらいましょう」
乙羽は杖を大事そうにしまった。
「わふっ!」
フェンちゃんは尻尾を振った。
『オークシャーマンの杖!』
『これ、普通の素材とは違いそうだな』
『何か特殊な効果があるのかな?』
『フェンちゃん、またいいもの見つけたんじゃない?』
「フェンちゃん、ありがとねぇ」
乙羽が頭を撫でると、フェンちゃんは嬉しそうに鳴いた。
杖が何なのか、今はまだ分からない。
ただ、乙羽はなぜか、その杖を手放す気にはならなかった。
3件目は、生息状況の調査。
先生が周囲を確認し、フェンちゃんが痕跡を追ったことで、必要な情報はすぐに集まった。
今回のオークの数は、記録上も10匹程度。
前回の異常な規模とは明らかに違っていた。
「やっぱり、今回は普通の群れなんだねぇ」
「そうですね。前回の状況については、別途報告しておく必要がありそうです」
先生は調査結果を記録した。
「原因は分からないままだけど、一応報告はできるね」
琴が言う。
「うん。何か分かればいいけどねぇ」
4件目は、指定地点の最終確認だった。
先生が場所を特定し、乙羽たちが目印を確認する。
特に問題はなく、依頼は完了した。
「これで第10層の4件も終わりですね」
「ということはぁ……」
乙羽が指を折る。
「24件、全部終わったねぇ」
『本当に終わったww』
『24件だぞ!?』
『今回もあっという間だったな』
『でも第10層のオークは気になる』
『前回が異常だったのか、それとも今回が少なかったのか……』
「オークの件は協会に報告しておきましょう。今回の状況も、前回の記録と合わせれば何か分かるかもしれません」
先生がそう言った。
「そうだねぇ」
乙羽は頷いた。
「それじゃあ、帰ろうかぁ」
帰り支度を整えながら、乙羽はしまった杖を少しだけ確認した。
オークシャーマンが持っていた杖。
今のところ、何に使えるのかは分からない。
けれど、持ち帰って調べる価値はありそうだった。
「……へへ」
乙羽が小さく笑う。
「乙羽、何かありましたか?」
「んぅー? なんでもないよぉ」
乙羽は杖をしまい直した。
それが後々、自分の力に関わるものになるとは、まだ誰も知らない。
「それでは、配信を締めましょう」
先生の言葉に、乙羽が画面へ手を振った。
「みんな、今日も見てくれてありがとうねぇ。依頼は全部終わったよぉ。また配信するから、よろしくねぇ」
『お疲れ様!』
『24件達成おめでとう!』
『謎のアイテムと杖の鑑定結果が気になる!』
『次回も楽しみにしてます!』
『ねこぱんち:24件お疲れ様! フェンちゃんも大活躍だったね!(1000円)』
「ねこぱんちさん、ありがとうねぇ。フェンちゃんも頑張ったねぇ」
「わふーっ!」
フェンちゃんが元気よく鳴いた。
こうして、ティンカーベルの依頼達成配信は終了した。
24件の依頼は完了した。
前回のオークの異常な群れについては、新たな疑問が残ったまま。
フェンちゃんが見つけた謎の品々も、正体は分からない。
そして、乙羽が持ち帰ったオークシャーマンの杖もまた、まだ誰も知らない可能性を秘めていた。




