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殴り賢者はバレている  作者: 七風


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「もっと弱くすればいいのぉ?」

「それでは、本日の配信を始めますね」


『待ってました!』

『今日は冒険者活動の続きかな?』

『前回の配信から楽しみにしてた!』


「今日は冒険者協会から受けた依頼を片づけていくよぉ。第5層から第10層まで、各階層で4件ずつだねぇ」


『合計24件!?』

『一度に受ける量じゃなくない?w』

『普通は1件ずつ攻略しながら進めるんじゃ……』


「一度にできることを、わざわざ分ける必要はありませんからね」


リーゼロッテが淡々と言った。


「依頼対象が近くにいるなら、まとめて処理した方が効率的でしょう?」


「そうだねぇ」


乙羽が頷く。


琴も異論はないらしく、柳も短剣の具合を確かめながら同意した。


「まあ、移動ばっかりするよりは楽だよな」


『この人たち、24件って数字を聞いても普通なのかw』

『今回も何かやらかしそうで楽しみ』


『ねこぱんち:今日も配信ありがとう! 無理せず頑張ってね!(500円)』


「ねこぱんちさん、ありがとうねぇ」


乙羽が配信画面に手を振る。


「では、まずは第5層ですね。最初の依頼は指定モンスターの討伐です」


「はぁい」


---


第5層


依頼対象は、岩場に生息する中型のモンスターだった。


指定数は5匹。


「じゃあ、探そうかぁ」


乙羽が周囲を見渡すより先に、リーゼロッテが通路の先を指差した。


「右手の岩場に3匹。奥の窪みに4匹いますね」


「えっ、もう見つけたの?」


「はい」


「じゃあ、倒してくるねぇ」


乙羽が歩き出す。


数分後、指定されたモンスターはすべて倒されていた。


ついでに、近くにいた別の群れもいなくなっていた。


「乙羽、指定数は5匹だったんだけど」


柳が倒されたモンスターを数えながら言う。


「んぅー? いっぱい居たからぁ」


「いっぱい居たから全部倒した、じゃないんだよ!」


「でも、もう出てこないよぉ?」


「そういう問題じゃないって!」


『討伐数をオーバーしてるww』

『余計な戦闘を避けるために余計な戦闘をしてる』

『倒すのが早すぎて誰も止められないw』


「討伐対象の確認はできましたし、余分な分も危険性はありません。依頼の報告時に指定数と実際の討伐数を分けて伝えれば問題ないでしょう」


先生は落ち着いている。


「先生、乙羽を止める気はなかったんですか?」


「必要がありませんでしたから」


「そういうところだよ……」


琴が小さく息を吐いた。


『琴のツッコミが視聴者の総意』


続いて、2件目は薬草の採取。


指定された薬草は10株だった。


フェンちゃんが「わふっ」と鳴いて走り出す。


「あ、フェンちゃん、見つけたのぉ?」


乙羽たちが追いかけると、フェンちゃんは岩陰にちょこんと座っていた。


その周囲には、目的の薬草がまとまって生えている。


「わふっ!」


「おぉ、いっぱいあるねぇ」


「必要数を超えていますね。採取するのは指定された10株だけにしましょう」


先生が手際よく採取に適した株を選び始めた。


作業はすぐに終わった。


「では、次はこちらです」


「えっ、もう終わり?」


「はい。次の依頼対象も確認できています」


『ほぼ先生が対象を勝手に見つけてしまうww』

『探索とは』

『ただの作業になってるんだがww』


「もっと効率的にしなければなりませんよ?」


「これ以上どうするんですか!?」


柳の声がダンジョンに響いた。


先生は首を傾げた。


「移動中に次の対象を確認しておけば、到着してから探す時間を省けますよね?」


「それはそうだけどさ!」


『先生が正論で殴ってくるww』

『効率化の方向性がおかしいw』


3件目は、モンスターの素材回収。


今回は討伐ではなく、指定された部位を傷つけずに持ち帰る必要がある。


「乙羽、今回は素材の回収が目的です。対象を倒せばよいというものではありませんからね」


「んぅー、わかったぁ」


乙羽は素直に頷いた。


そして、目の前に現れたモンスターへ向かっていく。


一撃。


モンスターは倒れた。


しかし、肝心の素材も損傷していた。


「……乙羽」


「んぅ?」


「素材が壊れています」


「ありゃぁ」


『ありゃぁ、じゃないww』

『依頼の目的を忘れないでw』

『火力が高すぎる問題』


「では、次は力加減を変えてみましょう」


先生が説明すると、乙羽は少し考えた。


「もっと弱くすればいいのぉ?」


「そうですね。素材を傷つけないようにしてください」


「はぁい」


次のモンスターが現れた。


乙羽は指先を軽く構えた。


ぺちん。


デコピンを受けたモンスターが、その場に崩れ落ちる。


素材は無事だった。


「おぉ、これなら大丈夫だねぇ」


「……ええ。結果としては問題ありません」


先生は頷いた。


『デコピンwww』

『攻撃方法を変えることで解決したw』

『素材回収の最適解がデコピンなの嫌すぎるw』


「乙羽、今後もその方法でお願いします」


「はぁい」


「採用するんだ!?」


柳が叫んだ。


琴は倒れたモンスターと無傷の素材を確認し、静かに言った。


「……壊れるよりはいいんじゃない?」


「琴まで!?」


『ティンカーベルの常識が侵食されていくww』


4件目は、生息状況の調査だった。


先生が周囲を確認し、フェンちゃんが通路の先へ走っていく。


「わふっ!」


フェンちゃんが戻ってきたとき、口には何かがくわえられていた。


小さな石のようにも見えるが、表面には見慣れない模様が刻まれている。


「んぅ? それ、なぁに?」


「わふっ?」


フェンちゃん自身も分からないらしい。


先生が手に取って確認した。


「……見覚えがありませんね。一般的な素材ではないようです」


「珍しいものなの?」


「現時点では判断できません。持ち帰って調べる必要がありますね」


『フェンちゃん、何拾ってきたの!?』

『未発見アイテムだったりする?』

『ダンジョン探索で謎のアイテムを拾うの、ゲームみたいだなw』


「フェンちゃん、えらいねぇ」


乙羽が頭を撫でると、フェンちゃんは嬉しそうに「わふーっ」と鳴いた。


調査依頼そのものは、先生とフェンちゃんのおかげであっという間に終わった。


ただし、謎の物については何も分からないままだ。


「まあ、持って帰ってから考えようかぁ」


「そうですね。発見物として協会に報告しておきましょう」


『今回の成果、討伐数よりそっちでは?』


---


第6層


第6層では、鉱石の採掘、特殊素材の採取、モンスターの痕跡調査、危険区域の確認を行う。


「まずは鉱石ですね」


先生が壁の一部を指差した。


「この辺りに必要な鉱石があります」


「えっ、そんなすぐ分かるの?」


「はい」


「いや、あたしには普通の岩にしか見えないんだけど……」


柳は短剣を鞘に戻しながら、壁を見つめた。


琴も近づいて確認したが、先生が指差した場所と周囲の岩との違いはよく分からない。


「……まあ、先生が言うならあるんでしょうね」


「ありますよ」


先生は手際よく採掘箇所を示し、必要な量を確保した。


次の特殊素材も同様だった。


先生が場所を見つけ、フェンちゃんが周囲の安全を確認し、乙羽たちが採取する。


作業は順調だった。


順調すぎた。


「先生、あたしたち、何かしてます?」


柳が思わず尋ねた。


「採取していますよ?」


「そうなんですけど!」


『仕事が早いとかいうレベルじゃないww』

『探索担当の先生が強すぎる』

『本人たちはちゃんと働いてるつもりなのがまたw』


「では、次の調査に移りましょう」


先生は気にせず歩き出した。


3件目のモンスターの痕跡調査では、フェンちゃんが大活躍した。


地面の足跡を嗅ぎ、壁の傷を確認し、通路の奥へ向かう。


「わふっ!」


「フェンちゃん、何か分かったのぉ?」


フェンちゃんは頭を動かした。


「こちらですね。確かに、指定されたモンスターの痕跡があります」


先生も確認する。


必要な記録を取り、依頼は完了した。


4件目は危険区域の確認だった。


本来なら、慎重に周囲を調べ、危険な場所を記録しながら進む必要がある。


しかし、先生は入口で立ち止まると、少し先を見ただけで言った。


「奥に3か所、注意すべき場所があります。左側の通路は崩落の危険があり、右側はモンスターの巣に近いですね」


「……まだ入ってないですよね?」


「はい」


「どうして分かるんですか?」


「確認したからです」


『確認とは』

『先生の探索、工程が省略されすぎてるww』


先生は必要な箇所だけを記録し、危険区域の調査も終わらせた。


「これで第6層の4件は完了ですね」


「早いねぇ」


「予定どおりです」


『予定どおりなのが一番怖いw』


『まったり配信応援団:今日もみんなの活躍が見られて嬉しいです!(1000円)』


「まったり配信応援団さん、ありがとうねぇ」


乙羽が手を振った。


「次は第7層だねぇ」


---


第7層


第7層の依頼は、特殊な植物の採取、モンスターの生態調査、指定素材の回収、特定モンスターの討伐だ。


「この階層は植物が多いですねぇ」


乙羽が周囲を見回す。


「そうですね。採取対象はこの先にあります」


先生が先導し、フェンちゃんが少し前を歩く。


やがて、フェンちゃんが急に立ち止まった。


「わふっ?」


また何かを見つけたらしい。


今度は、苔に埋もれた小さな金属片だった。


フェンちゃんはそれを前足でつつき、乙羽の方を見る。


「んぅ? また見つけたのぉ?」


「わふっ!」


先生が金属片を受け取り、表面を確認した。


「これも、見覚えがありませんね」


「さっきの石と同じ?」


「材質も形状も違うようです。関連があるかどうかも、今は分かりません」


「ふぅん……」


乙羽は興味深そうに眺めたあと、フェンちゃんを撫でた。


「フェンちゃん、宝探しが上手だねぇ」


「わふーっ!」


『フェンちゃんの拾い物シリーズ始まったw』

『ダンジョンの謎が増えていく』

『持ち帰らないと正体が分からないのが気になるな』


先生は2つの発見物を安全に保管した。


採取対象の植物は、すぐ近くに生えていた。


「こちらが必要な植物です。採取する量は指定どおりにしてくださいね」


「はぁい」


乙羽たちは手早く採取を終えた。


2件目の生態調査も、先生が対象の行動を確認し、フェンちゃんが痕跡を追ったことで終了。


3件目の素材回収では、乙羽がデコピンを使うようになったおかげで、素材の損傷も起きなかった。


「最初からこうしていればよかったねぇ」


「そうですね。学習できて何よりです」


『デコピンが正式採用されてるww』

『これがティンカーベル式の素材回収か……』


4件目は、指定されたモンスターの討伐。


今回は対象を見つけるのに少し時間がかかった。


といっても、数分程度だ。


「先生でもすぐには見つからないことがあるんですね」


柳が言うと、先生は少し考えた。


「そうですね。対象が移動しているようです」


「じゃあ、探そうかぁ」


乙羽たちが周囲を確認していると、フェンちゃんが突然、別方向へ駆け出した。


「わふっ!」


そのまま走っていき、少し離れた岩場で立ち止まる。


「見つけたみたいだねぇ」


乙羽が追いかけると、指定されたモンスターが岩陰に潜んでいた。


乙羽が近づく。


モンスターが反応するよりも早く、デコピンが飛んだ。


ぺちん。


討伐完了。


「これで第7層も終わりだねぇ」


「はい。残りは第8層から第10層まで、12件です」


先生が淡々と答えた。


『もう半分終わったの!?』

『まだそんなに残ってるのに、もう終わった感がすごいw』

『このペースなら本当に1配信で24件いけそうだな』


『ダンジョン観測者:先生の効率化が怖いですw 次も楽しみにしてます!(2000円)』


「ダンジョン観測者さん、ありがとうねぇ」


「先生の効率化は、まだ改善の余地がありますよ」


「先生、まだ改善するんですか!?」


柳の叫びが響いた。


先生は不思議そうに首を傾げる。


「当然でしょう?」


『まだやる気だww』

『次の階層で何が起きるんだよw』


フェンちゃんは「わふっ」と鳴き、乙羽の足元に寄り添った。


その口には、いつの間にか小さな石がもう1つくわえられていた。


「……フェンちゃん?」


「わふっ?」


「それも持って帰ろうねぇ」


『また増えたwww』


謎の発見物を抱えたまま、ティンカーベルは第8層へと向かうのだった。

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