SHIZUチャン
その日の夜。
静は自室で配信用の機材を準備していた。
配信チャンネルの名前は『SHIZUチャン』。冒険者としての活動やダンジョン攻略を中心に配信しているが、今日は少しばかり話したいことがあった。
「はい、こんばんは。シズチャンです。今日はダンジョン攻略じゃなくて、ちょっと報告があるんだけど……」
配信開始と同時に、コメントが流れ始める。
『こんばんはー!』
『今日は雑談?』
『攻略配信じゃないの珍しいな』
「そうね。実は、妹がおかしいのよ」
『いきなり何!?』
『妹ちゃんに何があったw』
『反抗期?』
「いや、そういうのじゃなくて。昨日まで普通だったはずなんだけど、なんか最近、家の中が変なのよね……」
静は少し考えてから、苦笑した。
「まず、妹が妖精を召喚したの」
『…………は?』
『妖精?』
『ファンタジー始まった?』
『妹ちゃん、召喚士だったのか!?』
「私も最初はびっくりしたわよ。しかも、その妖精が普通に家でお茶飲んで、お菓子食べてるの」
『情報量が多いwww』
『妖精って実在するの!?』
『いや、召喚したって何!?』
静はスマートフォンを手に取った。
「とりあえず、見てもらったほうが早いわね。本人の許可は取ってあるから」
画面に写真が表示される。
そこには、白い髪に透き通った羽を持つ小さな少女――リーゼロッテが、テーブルの上でカップを両手に持っている姿が写っていた。
『妖精かよ!?』
『ガチで羽生えてるじゃん!』
『妹、妖精召喚したのか?』
『これ加工じゃないの?』
『待って、めっちゃかわいいんだけど』
「加工じゃないわよ。実物。ちなみに、この子、ちゃんと会話もできるから」
『マジかよ……』
『妹ちゃん何者なんだ』
『シズチャンの家、どうなってんのw』
「それでね。今日、妹と一緒に町へ出かけたんだけど……」
静は思い出したように、深いため息をついた。
「デパートで服を見て、ファミレスでパフェを食べて、ゲームセンターで遊んで、帰ってきたらアニメに夢中。今朝なんて、起きてすぐに『昨日の続きを見ましょう!』って言ってたのよ」
『妖精、地球を満喫してて草』
『パフェにハマったのかw』
『ゲームもアニメも理解できるの!?』
『妹ちゃんより妖精の話が気になるんだがw』
『異世界から来たの?』
「私もそれが気になってるのよね……」
静は頬杖をついた。
「まあ、本人たちにも事情があるんだろうし、無理に聞き出すつもりはないけど。少なくとも、うちの妹が普通じゃないことだけは確かね」
『妹ちゃんも相当気になるw』
『次は妹ちゃんも配信に出して!』
『妖精のゲーム実況見たい』
『シズチャン、保護者みたいになってるぞw』
「誰が保護者よ。私は姉!」
静が思わず声を上げると、コメント欄はさらに盛り上がった。
その頃、リビングでは――。
「先生、もう一話だけだよぉ?」
「はい。もう一話だけです」
乙羽の隣で、リーゼロッテは真剣な顔でリモコンを握っていた。
静の配信がどれほど話題になっているかなど、二人はまだ知る由もなかった。




