「えへへ……。二人とも、頑張ったんだよぉ」
第五階層の攻略を終え、一行は第六階層へと続く階段の前にたどり着いていた。
「いやー、第五階層、マジですごかったね!」
瑠奈はフェンちゃんの背中から降りると、カメラを琴と柳へ向けた。
「二人とも本当に強くなってたじゃん! あれだけの魔物を相手にして、ほとんど苦戦してなかったよね?」
「まあ、修行したからな」
柳は、さも当然といった顔で答えた。
「当然よ。あれくらいで苦戦していたら、あの修行を乗り越えた意味がないもの」
琴も涼しい顔でうなずく。
『第五階層、無双すぎたww』
『マジで一方的だったなw』
『支援なしであれはおかしいだろ』
『前に見たときと別人みたいだった』
『二人の修行、どんだけ厳しかったんだよ……』
『あの連携、見てて気持ちよかった』
『乙羽ちゃんの支援がなくても普通に強いのが証明されたな!』
『これは素直に二人を褒めたい』
『琴ちゃんも柳ちゃんもかっこよかったぞ!』
「えへへ……。二人とも、頑張ったんだよぉ」
乙羽は、まるで自分のことのようにうれしそうに笑った。
「いや、乙羽に褒められるのも悪くねえけどさ」
柳は少しだけ照れくさそうに頭をかいた。
「ここからが本番だろ。第五階層で満足してるわけにはいかねえよ」
「そうね。私たちがどこまで通用するのか、もっと先まで進んで確かめたいわ」
琴も階段の先を見つめた。
リーゼロッテが、静かに説明を始める。
「第六階層へ進みましょう。地図を確認しながら案内します。索敵で敵の位置や数を把握でき次第、お伝えしますね」
「じゃあ、引き続き道案内お願いしまーす、先生!」
瑠奈が明るく言った。
「ええ。敵の位置と数は随時報告します。攻略そのものには手を出しませんので、ご安心ください」
「うん。じゃあ、ここからは私も一緒に戦うねぇ」
乙羽がそう言うと、琴と柳が振り返った。
「お、やっと出番か?」
「第五階層は私たちに任せてもらったものね。ここからは一緒に行きましょう」
「そうだねぇ。それと……」
乙羽は二人を見て、にこりと笑った。
「今度は支援も使うよぉ。二人が強くなったのは、さっきのでちゃんと伝わったと思うからねぇ」
『おおお!』
『乙羽ちゃんも参戦!』
『ここからバフ解禁か!』
『支援なしであれだったのに、支援ありだとどうなるんだ……』
『第五階層で実力証明してからバフ解禁するの、いい流れだな』
『これはさらにやばくなる予感w』
「それじゃあ、行こうかぁ」
乙羽が一歩踏み出す。
琴と柳も、それに続いた。
第六階層へ降りた先は、第五階層よりも広い空間だった。
天井は高く、壁には淡い光を放つ鉱石が点在している。通路は複雑に分岐していたが、リーゼロッテが地図を確認しながら案内してくれるため、迷う心配はなさそうだった。
「前方に魔物が十体。近接型が六、遠距離型が四です。右側の通路にも五体いますが、まずは正面の群れから処理するのがよいでしょう」
「了解だよぉ」
乙羽は二人の少し後ろに立ち、手を軽く持ち上げた。
淡い光が琴と柳を包み込む。
「身体強化、反応速度の補助、それから魔力効率の向上。いつもの支援だよぉ」
「ありがと。じゃあ、さっそく試させてもらうわ」
琴は剣を構えた。
柳も、軽く拳を握ってから敵の群れを見据える。
「よし、行くぞ!」
二人が同時に駆け出した。
第五階層では、二人とも身体能力と技術だけで戦っていた。
しかし、今は違う。
支援によって身体の動きが軽くなり、反応も鋭くなる。二人はその変化をすぐに理解し、強化された能力を前提に動き始めた。
「うわっ、速っ! 支援が入った瞬間、さらに速くなってない!?」
瑠奈が思わず声を上げた。
『支援入った瞬間に加速してない?』
『いや、もともと速かったのがさらに速くなってるw』
『これが支援ありのティンカーベルか!』
柳は前衛型の魔物へ向かって走りながら、ふと足を止めた。
「そういや、今日は隠す必要もねえんだったな」
「柳ちゃん?」
乙羽が首を傾げる。
「いや、第五階層じゃ普通に殴ってばっかりだったからな。せっかくだし、こっちも見せておくか」
柳の足元に、黒い影が広がった。
それは彼女の身体から伸びた影のようでありながら、床の上を意思を持つ生き物のように滑っていく。
『ん?』
『今、影が動かなかった?』
『床の影、なんかおかしくね?』
柳が片手を軽く振る。
次の瞬間、魔物の足元にあった影が盛り上がり、黒い帯となってその脚へ絡みついた。
「グオッ!?」
魔物が動きを止める。
そこへ、柳が正面から一気に踏み込んだ。
「おらっ、まず一体!」
一撃で魔物を倒し、柳はそのまま次の敵へ向かう。
「えっ、ちょっと待って! 今の何!? 柳ちゃん、魔物の影を使ったの!? そんなことできんの!?」
瑠奈が興奮した声を上げた。
「できるぞ。影を操って、動きを止めたり、足場にしたりな」
柳は、何でもないことのように答えた。
『はあああ!?』
『影を操る!?』
『そんな能力あったの!?』
『第五階層では使ってなかったよな!?』
『闇魔法ってそういうこともできるのか!』
『敵の影から攻撃できるの、強すぎない?』
「闇魔法による影の操作ですね」
リーゼロッテが解説を始める。
「影を媒介にして対象を拘束したり、攻撃を仕掛けたりできるのでしょう。相手の意識が向いていない方向から奇襲できるのが、大きな利点ですね」
「なるほどねー! 正面で戦ってると思ったら、足元からも攻撃が来るわけだ! それ、相手からしたらめっちゃ厄介じゃん!」
瑠奈はカメラを柳へ向けたまま、感心したようにうなずいた。
その間にも、柳は影を操っていた。
正面から迫る魔物の攻撃をかわしながら、別の魔物の影を伸ばし、背後から足首へ絡ませる。
動きを封じられた魔物へ、柳は振り返りもせずに拳を叩き込んだ。
「はい、二体目!」
『後ろ見てないのに拘束してるw』
『影が完全に別方向から動いてるのすごいな』
『これ、複数相手にめちゃくちゃ強い能力じゃん』
『第五階層で使ってたらもっと早く終わってたのではw』
「第五階層は、普通に戦っても問題なかったからな。今日はこっちも見せておこうと思っただけだ」
柳はコメントに返事をしながら、次の魔物の影を捕らえた。
「それに、影を使うときは相手の位置をちゃんと把握しておく必要がある。適当に伸ばせばいいってもんでもねえんだよ」
「へえー! ちゃんと使い方にコツがあるんだね! 何でも自由自在ってわけじゃないんだ!」
瑠奈が感心する。
「そりゃそうだろ。何でも考えなしに使えるわけじゃねえよ」
柳は笑いながら、影に拘束された魔物を仕留めた。
一方、琴もまた、これまで見せていなかった能力を使い始めていた。
「じゃあ、私も少し見せてあげようかしら」
琴が手をかざす。
彼女の周囲に、複数の剣が現れた。
一本、二本、三本。
宙に浮かんだ剣は、琴の周囲をゆっくりと旋回している。
『えっ!?』
『剣が浮いてる!?』
『召喚したのか!?』
『琴ちゃん、そんなこともできたの!?』
「剣の召喚……それに、物質操作ですね」
リーゼロッテが説明する。
「召喚した剣を空中に維持し、自在に動かしているようです。これなら、本人が直接攻撃している相手とは別の敵にも対処できますね」
「そういうこと!」
琴が指先を動かす。
浮かんでいた剣のうち二本が、後方の遠距離型へ向かって飛んでいった。
魔物が攻撃を放とうとした瞬間、その武器が腕をかすめ、狙いをそらす。
さらにもう一本の剣が、別の魔物の進路を塞いだ。
琴自身は、目の前の敵へ向かって走り続けている。
「こっちは私が相手するわ。後ろは剣たちに任せる!」
琴は正面の魔物の攻撃を受け流し、反撃を叩き込んだ。
背後では、浮遊する剣が別の敵を牽制し、攻撃の機会を与えない。
『うわあああ!』
『剣を浮かせて別の敵も相手してる!』
『本人が前衛なのに後ろの敵まで対応できるのか』
『これ、実質一人で複数の場所を守れるじゃん!』
『琴ちゃんの能力、想像してたのと違った!』
「ふふっ、驚いた?」
琴は余裕のある声で答えた。
「剣を動かすだけなら、そこまで難しくないわ。相手の動きを見ながら、どこに置けば邪魔になるかを考えるのが大事なの」
『説明がわかりやすい』
『普通に戦いながらコメントにも返事してるw』
『敵が弱いって言っても、この余裕はすごいな』
「この階層の魔物なら、そこまで苦労しないもの」
琴はそう言いながら、宙に浮く剣を操り、正面の敵を倒した。
柳も、影の拘束を使って残りの魔物を次々に仕留めていく。
そして最後の一体が倒れた。
第六階層に入ってから、まだそれほど時間は経っていない。
それでも、視聴者にとっては驚きの連続だった。
「いやー! ちょっと待って! 今日、新情報多すぎなんだけど!」
瑠奈は興奮した様子でカメラに向かって話した。
「琴ちゃんは剣を召喚して空中で操作できるし、柳ちゃんは影を操って拘束や奇襲ができるし! 第五階層で見せてくれた戦いだけでも十分すごかったのに、まだこんな能力があったの!? マジでびっくりなんだけど!」
「まだ見せていないものもあるけどな」
柳が、さらりと答えた。
『まだあるの!?』
『情報量が多すぎて追いつかないw』
『二人とも能力を隠してたというより、必要なかっただけか?』
『第五階層で全力を見せたあとに、さらに新能力が出てくるのすごいな』
「必要な場面がなかっただけよ。何でもかんでも使えばいいというものでもないしね」
琴も、浮かせていた剣を消しながら答えた。
乙羽は二人の様子を見て、うれしそうに笑っていた。
「二人とも、すごいでしょぉ?」
「いや、乙羽ちゃんが誇らしそうなのはわかるけど、これは本当にすごいって! 私も知らなかった能力が出てきて、マジでびっくりしたもん!」
瑠奈は思わず笑った。
『乙羽ちゃん、完全に保護者目線w』
『でも気持ちはわかる』
『第五階層で実力証明して、第六階層で新能力披露は構成がうますぎる』
『支援なしでも強い、支援ありだともっと強い。これが答えか』
「えへへ……」
乙羽は少し照れくさそうに笑う。
「でも、まだまだ先は長いからねぇ。次も頑張ろうねぇ」
「おう!」
「ええ、もちろん」
琴と柳が、そろってうなずいた。
リーゼロッテが、地図を確認してから次の通路の情報を伝える。
「この先に、魔物が十五体います。前衛型が十、遠距離型が五。左右に分かれて配置されているようです」
「じゃあ、柳ちゃんは左側をお願い。私は右から行くわ」
「了解。乙羽、支援を頼む」
「うん。任せてねぇ」
乙羽が手をかざす。
再び淡い光が二人を包み、身体能力と反応速度が引き上げられていく。
「よし、行くぞ!」
柳が走り出す。
琴も反対側へ駆け、宙に剣を召喚した。
左右から迫る魔物たち。
柳の影が床を走り、敵の足を縛る。琴の剣が空中を飛び、後方の敵の攻撃を妨害する。
そして二人自身は、支援によって強化された速度で敵陣へ切り込んでいった。
『これ、さっきよりさらに速くない!?』
『バフありだとこんなに変わるのか!』
『柳ちゃんの影と琴ちゃんの剣、組み合わせも強いな』
『敵が何もできないまま倒されていくw』
「右側、あと三体!」
瑠奈が実況する。
「了解!」
琴が返事をしながら、浮かべた剣を動かした。
一体が攻撃を避けようとした先へ、別の剣が回り込む。
その隙に琴本人が接近し、一撃で仕留めた。
「はい、これで右は終わり!」
『返事しながら倒したw』
『琴ちゃん、余裕ありすぎる』
「左も終わったぞ!」
柳の声が響く。
彼女の足元では、影に拘束された魔物たちが次々と倒れていた。
「お疲れさま、二人ともぉ」
乙羽は二人をねぎらいながら、周囲の様子を確認する。
「次の通路も、まだ魔物がいるんだよねぇ?」
「はい。さらに奥に二十体ほど確認できます」
リーゼロッテが答えた。
「ただし、通路の幅が狭いため、まとまって進むよりも、前後に分かれて対応したほうが効率的でしょう」
「了解。じゃあ、私が前に出るわ」
琴が剣を構え直す。
「俺は影で動きを止める。琴が前を崩したら、後ろは俺が片づける」
柳が言うと、琴はうなずいた。
「いいわね。乙羽、支援はそのままお願い」
「うん。二人とも、無理はしないでねぇ」
「わかってるって!」
二人は再び走り出した。
第六階層の攻略は、まだ続く。
第五階層で証明した二人の実力。
第六階層で初めて披露された、闇魔法による影の操作と、剣の召喚・物質操作。
そこに乙羽の支援が加わったことで、戦闘の速度はさらに上がっていた。
『今日の配信、見どころ多すぎるw』
『琴ちゃんと柳ちゃん、まだまだ奥がありそうだな』
『乙羽ちゃんが支援に回ってるのもいい』
『この三人、組み合わせが強すぎる』
『第六階層でこれなら、この先どうなるんだ……』
瑠奈は、次々と倒れていく魔物たちを映しながら、楽しそうに笑った。
「よーし! この調子で、どんどん進んでいこー!」
乙羽も、フェンちゃんの背中から身を乗り出すようにして、前を見つめた。
「うん。行けるところまで、行ってみようねぇ」
その声に、琴と柳が笑って答える。
「当然!」
「ええ、行きましょう!」
こうして、ティンカーベルの第六階層攻略は、さらに勢いを増していった。




