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殴り賢者はバレている  作者: 七風


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「お金、持っているのでしょう?」

「……先生。もう一度お願いするわね?私も、そのタイムジェイルでの修行を受けられないかしら?」


 静が真剣な顔で尋ねると、リーゼロッテは少し考え込んだあと、あっさりと答えた。


「そうですねー……。面倒です」


「どうして即答なのよ!?」


「だって、修行の準備も指導も大変ですから。柳さんと琴さんのときだって、ずいぶん手間がかかったのですよ?」


「その2人を半年も鍛えたのは先生でしょう……?」


「ええ。ですから、もう十分です」


 リーゼロッテは、これ以上話すことはないとばかりに手元のスマートフォンへ視線を戻した。


 しかし、静は簡単には引き下がらなかった。


「お願い。私も、まだ強くなれると思うの。今の実力に満足しているわけではないし、妹を守るためにも、もっと強くなっておきたいのよ」


「……ふむ」


 リーゼロッテはスマートフォンから顔を上げた。


「そういえば、静さんはSランク冒険者でしたね?」


「ええ。それがどうかしたの?」


「お金、持っているのでしょう?」


「……はい?」


 あまりにも唐突な質問に、静は目を瞬かせた。


「何をいきなり……」


「私専用のゲーミングPCで手を打ちましょう」


「…………は?」


「高性能なものをお願いしますね。ゲームが快適に動くことはもちろん、電子書籍を読むときにも使えると便利です。モニターも大きいものがいいですね。キーボードやマウスも、使いやすいものを選びたいです」


「ちょ、ちょっと待って!? 修行の話はどこへ行ったの!?」


「修行を引き受ける対価の話ですが?」


「対価って、ゲーミングPC!?」


「はい」


 リーゼロッテは、にこりと微笑んだ。


「静さんなら、問題なく用意できるでしょう?」


「いや、買えるかどうかじゃなくて……!」


 静は頭を抱えた。


 Sランク冒険者としての実力を認められ、普段から高額な依頼もこなしている。ゲーミングPCを購入すること自体は、簡単な話だ。


 だが、まさか修行を頼みに来て、ゲーム環境の交渉をさせられるとは思ってもいなかった。


「……分かったわ。用意すれば、修行を引き受けてくれるのね?」


「ええ。私専用のものをお願いします」


「……本当にゲームが好きなのね、あなた」


「当然です。ゲームは大切な日課ですから」


 リーゼロッテは真顔で答えた。


 静はしばらく先生の顔を見つめていたが、やがて諦めたように息を吐いた。


「……分かったわ。ゲーミングPCは用意する。それでいいのね?」


「はい。では、修行についてですが――」


 リーゼロッテはそこで、少しだけ表情を改めた。


「静さん。タイムジェイルは、私が管理する特殊な空間です。修行を受けるのであれば、私が指定した目標を達成するまで、自由に帰還することはできません。それでも構いませんか?」


「ええ。覚悟はできているわ」


「そうですか。では、ひとつ提案があります」


「提案?」


「修行を受けたいのであれば、勝手に入って、勝手に修行目標を達成してください」


「…………」


 静は数秒間、完全に言葉を失った。


「……えっと。今、何て?」


「ですから、私の指導を前提にしないで、ご自身で修行を進めてください。必要な場所と目標は用意します。指導は現地の私の配下に任せますのであとは静さんの努力次第です」


「それ、修行を引き受けるって言わないんじゃないかしら!?」


「ゲーミングPCは受け取りますよ?」


「そこはしっかりしてるのね!?」


 リーゼロッテは満足そうに頷いた。


「もちろんです。約束は大切ですから」


「……この先生、本当に……!」


 静は言いかけて、結局、深いため息をついた。


 けれど、タイムジェイルで鍛えられた柳と琴の姿を思い出すと、簡単に諦める気にもなれなかった。


「……いいわ。そこまで言うなら、自分で目標を達成してみせる」


「ふふ。期待していますね、静さん」


 リーゼロッテは再びスマートフォンを手に取った。


「それと、PCの納期はなるべく早めでお願いしますね」


「……あなた、絶対そっちが本命でしょう?」


「何のことでしょう?」


 リーゼロッテは、いつものように穏やかに微笑んだ。


 静はもう一度ため息をついた。


 どうやら、修行を始める前から、すでに先生との交渉で疲れてしまったらしい。


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