「……先生、それはちょっとえぐくない?」
「それにしても、あれだよな。コメントってありがたいよな」
4層へ続く通路を探して歩きながら、柳がしみじみと言った。
「先ほども助けられましたしね。琴さんへの助言も的確でした」
「そうそう。ああいうの、戦ってる最中だと自分じゃ気づかねえこともあるからな。配信しててよかったって思うわ」
「皆さん、応援してくれているんですよ?」
先生が微笑む。
「まあ、今回は柳さんの口調で少し燃えているようですが」
「いや、先生。それは昔からだから、すぐには治らねぇし、治すとあたしじゃなくね?」
柳は自分の胸を指で叩き、当然のように言い切った。
「たとえばさ、『柳さん、右から敵が来ましたわよ?!』とか言えばいいんか?」
「……それは」
琴がわずかに考え込んだ。
「違和感があるね」
「だろ?」
「コメント欄も同じ意見のようですね」
先生が楽しそうに視線を流す。
『それは気持ち悪い!』
『急にお嬢様になるなwww』
『柳はいつものでいいんじゃね』
『確かに違和感だわ!』
『口が悪いのと、仲間を助けるかどうかは別の話だしな』
『いや、でも配信で人に見られてるんだから、多少は考えたほうがいいだろ』
『それはそう。でも無理にキャラ変されても困る』
『結局、柳にどうしてほしいんだよw』
『そもそも、さっきの戦闘で仲間を置いて逃げるようなことはしてなかったしな。言い方はともかく、ちゃんと前に出てたのは見てて分かった』
『そこを評価する人もいれば、言葉遣いが気になる人もいるんだろうな。全員が同じ感想になるわけじゃないし』
「ほら見ろ。お嬢様口調は不評じゃねえか」
「そこではなく、口調についての話ですよ?」
「分かってるって!」
柳が先生に言い返すと、乙羽が隣でくすくす笑った。
「でもぉ、柳ちゃんって、初めて会った時からヤンキーくさいんだもん」
「おい!」
「えぇ? だって、そうだったよぉ?」
「お前まで言うな! しかも、くさいってなんだ、くさいって!」
「雰囲気かなぁ?」
「雰囲気でヤンキー認定すんな!」
『乙羽ちゃん、さらっと追撃してて草』
『初対面からその印象だったのかw』
『仲がいいのは分かった』
『いや、本人が気にしてないならいいけど、初見からすると怖く見えるのも分かる』
『怖いのは見た目と口調だけで、さっきはちゃんと連携してたじゃん』
『そういう問題じゃない派もいるから、いつまでも平行線なんだよな』
『乙羽ちゃん、こういうところは遠慮ないんだなw』
『でも、柳さんが本気で怒ってるわけじゃないのも分かる。こういうやり取りができるくらいには、普段から仲がいいんだろうな』
柳は流れるコメントを見て、少しだけ肩をすくめた。
「まあ、好きに言えばいいけどよ。あたしはあたしだ。直すところがあるなら直すけど、無理して別人になるつもりはねえよ」
「それでいいと思いますよ」
先生はあっさりと頷いた。
「ただし、相手に伝わる言葉を選ぶ努力はできます。自分らしさを失うことと、伝え方を工夫することは別ですからね」
「……まあ、それはそうだな」
柳は少し考えたあと、頭を掻いた。
「そこは気をつけるわ。できる範囲でな」
『お、今のはいいと思う』
『別人になれって話じゃないしな』
『ちゃんと聞く気があるなら十分じゃね』
『でも切り抜きで広まった印象って、なかなか消えないんだよなあ』
『だから配信を見に来たんだろ。実際どういう子なのか、自分で判断するために』
『それはそう。とりあえず攻略を見せてくれw』
『最初は騒動が気になって見に来たけど、普通にダンジョン攻略も面白いな』
『分かる。戦闘中の連携とか、コメントで気づけることもあるしな』
コメント欄の空気も、少しずつ攻略そのものへと戻り始めていた。
柳の口調について思うところがある視聴者は、今もいる。けれど、実際に彼女たちが戦う姿を見て、もう少し配信を見てから判断しようと考える者も増えているようだった。
「お、そうだった。あたしたちはダンジョン攻略中だったな」
柳が剣の柄に手を添えた、そのときだった。
「……来る」
琴の声とほぼ同時に、フェンちゃんが耳を立てた。
「わふっ! わふわふっ!」
「おっと、話の続きは後だな。みんな、構えろ!」
通路の先から、複数の足音が響いてくる。
現れたのは、角ウサギとゴブリンの混成群だった。角ウサギが左右から飛び出し、その後ろをゴブリンたちが武器を構えて追ってくる。
「数が多いな。琴、左を頼む! あたしは右から崩す!」
「分かった。奥のゴブリンは私が見る」
「じゃあ、わたしは足止めするねぇ」
乙羽が一歩前へ出た。
「おう、頼む!」
柳はそれ以上気に留めず、迫る敵へ向き直った。
乙羽は小さく息を吸い、迫ってくる群れへ手を向けた。
(えっとぉ……みんなが戦いやすいように、動きを止めるだけ……)
威力は抑えたつもりだった。
青白い閃光が通路を駆け抜けた瞬間、轟音が響き渡る。
バチバチッ、と激しい音が連なり、光が消えた。
そこにいたはずの角ウサギもゴブリンも、まともな姿を残していなかった。黒く焦げた床の上に、細かな灰が舞っている。
「…………」
乙羽は目の前の光景を見つめた。
(あわわ……これでもダメなのぉ……?)
足止めするつもりだったのに。
(ちゃんと弱めたつもりだったんだけどなぁ……。うぅ、やっぱり難しいよぉ……)
異世界で身につけた力が、この世界ではどれほどのものなのか。乙羽も、自分が普通の冒険者とは違うことくらい分かっている。
けれど、魔法師たちが実際にどの程度の魔法を使えるのか、どこまで威力を抑えられるのか。その基準は、まだよく分からなかった。
「……乙羽?」
柳が振り返った。
「お前、足止めするって言ってなかったか?」
「えぇ? そ、そうだよぉ?」
「いや、敵がいなくなってんだけど!」
「……あれぇ?」
乙羽は困ったように笑った。
「倒せちゃったねぇ……」
『倒せちゃったねぇ、じゃないんだよwww』
『今、詠唱したか?』
『いや、してないだろ。手を向けただけだぞ』
『無詠唱……?』
『待って、現代で無詠唱って相当な技術じゃなかったか?』
『一流の魔法師でも簡単にはできないって聞いたぞ』
『魔法の威力もおかしいだろ! 敵が消えてるんだが!?』
『柳の炎上を見に来たら、とんでもないものを見せられている』
『この子、いったい何者なんだよ……』
『魔法を使った本人が一番困惑してるように見えるの、どういうことなんだw』
『足止めって言ってたから、せいぜい動きを鈍らせる程度だと思ったんだが……』
『いや、あれを食らって立っていられる魔物がいるのか? 威力を抑えたつもりでこれなら、普通に撃ったらどうなるんだよ』
コメント欄が一気に騒がしくなった。
その中には、驚きのあまり、思わずスパチャを送る者も現れた。
『魔法観察中:いや、今の魔法は本当にすごかった。詠唱もなく、あの数の魔物を一瞬で倒す威力……。これで本人は足止めのつもりだったのか?(300円)』
『ダンジョン好き:今のはさすがに予想外だった。柳さんと琴さんの戦闘も見どころがあったのに、一瞬で全部持っていかれたw(200円)』
『雷魔法研究会:あの範囲をまとめて攻撃しながら、味方を巻き込んでいないのも気になる。単純な威力だけじゃなくて、制御までできているのか……?(500円)』
乙羽は流れる文字を見て、内心でさらに焦った。
(あわわわ……! そっちもダメだったのぉ……?)
威力を抑えただけでなく、なるべく目立たないようにしたかった。けれど、敵をまとめて消し炭にした時点で、そんな願いは叶いそうにない。
「えへへぇ……。みんな、無事でよかったねぇ」
「いや、あたしたちは無事だけどよ……」
柳は焦げた床を見てから、乙羽に視線を戻した。
「まあ、助かったのは助かったけどな。次はあたしたちが戦う分も残してくれよ?」
「う、うん。気をつけるねぇ」
(次は、もう少し弱い魔法にしよう……。でも、どれくらいなら大丈夫なのかなぁ……)
乙羽は笑顔のまま、心の中で頭を抱えた。
『次は気をつける、で済む規模かこれw』
『本人も失敗したと思ってるっぽいのがまた謎』
『無詠唱であれだけの魔法を使って、失敗扱いなのか……』
『乙羽ちゃん、魔法師としても規格外なのでは?』
『いや、まだ何も分かってない。落ち着け』
『落ち着けるかwww』
『今の見て「すごい」しか言えない自分が悔しい。魔法の知識がある人、解説してくれ』
『解説しようにも、詠唱なしであの範囲を焼き払うなんて、普通の基準じゃ説明できないだろ……』
そこへ、配信画面に新たなスパチャが表示された。
『政宗:やはり威力がすごいな……。あれほどの魔法を、あの様子で使うとは(1000円)』
政宗は画面越しに、先ほどの光景を思い返していた。
魔法の規模もさることながら、気になったのは乙羽の様子だった。彼女は魔物を倒したことを誇るでもなく、むしろ失敗したような顔をしている。
あの威力を基準にしているのなら、彼女が想定する「普通」とは何なのだろうか。
さらに、もうひとつスパチャが流れる。
『アリス:……音無さんと序列戦になったら、私、大丈夫だろうか。いや、今の魔法を見たあとだと、少し本気で考えてしまうね(500円)』
アリスはパーティー全体を見ながらも、乙羽の魔法を前にして、自分が戦うことになった場合を考えずにはいられなかった。
柳と琴の連携は確かに見事だ。先生も、状況に応じて敵を無力化する技術を持っている。フェンちゃんも索敵で一行を支えている。
だが、乙羽の魔法は、その戦術的な役割を一瞬で塗り替えてしまうほどのものだった。
『瑠奈:え、マジやばwww 今の一瞬で全員消えたんだけど!? 乙羽ちゃん、ほんと予想の斜め上すぎるって!(500円)』
『魔法観察中:アリスさんの気持ち、ちょっと分かる。あの魔法を見たあとで対戦相手になる可能性があるって、なかなか落ち着かないよな』
『ダンジョン好き:でも乙羽ちゃん、仲間に戦ってもらおうとしてるんだよな。強いのに全部自分で片づけようとしてないのは、いいところだと思う』
『見守り隊:分かる。さっきも足止めって言ってたし、本人としてはサポートのつもりだったんだろうな。結果が全然サポートの範囲じゃないけどw』
乙羽はスパチャの表示に気づき、少しだけ表情を明るくした。
「魔法観察中さん、ありがとぉ。そんなにすごかったかなぁ……?」
『すごかったよ!!』
『すごいどころじゃないw』
『本人に自覚がないのが一番怖い』
「そっかぁ……。でも、みんなが無事だったからよかったねぇ」
乙羽がほっとしたように笑うと、コメント欄には再び応援の言葉が流れた。
『ミケ:みんな無事でよかった! 次は柳さんたちの戦闘も見たいな!(100円)』
『見守り隊:こういうところが乙羽ちゃんらしいんだろうな。自分の魔法がどれだけすごいかより、仲間が無事かどうかを気にしてる』
『ダンジョン好き:それはそうと、次はちゃんと柳さんと琴さんの出番も残してあげてくれw』
「乙羽、次は頼むから、あたしたちにも仕事をさせてくれよ」
柳が苦笑すると、琴も頷いた。
「うん。私たちも、ちゃんと戦いたいから」
「分かったぁ。今度は気をつけるねぇ」
乙羽は素直に返事をした。
『仲間の成長を考えてる感じなのかな』
『柳と琴も普通に受け入れてるし、普段からこうなのか?』
『いや、柳は今ちょっと困ってただろw』
『でも仲間同士の連携はいいな』
『さっきの雷魔法は衝撃だったけど、こうして見るとパーティーとしての役割分担もできてるんだな』
「よし、先へ進むぞ!」
柳が剣を構え直した。
「まだ敵はいるかもしれないから、油断しないようにね」
琴が周囲を警戒する。
フェンちゃんも「わふっ」と元気よく吠え、先へ進む一行を先導した。
しばらく進んだところで、通路の先に再び魔物の気配が現れた。
「今度はあたしが前に出る。琴、援護頼む!」
「了解」
柳と琴が息の合った動きで敵を迎え撃つ。乙羽は今度こそ魔法を使わず、2人の動きを見守ることにした。
(うぅ……。やっぱり、普通に戦うのって難しいなぁ……)
敵の攻撃をかわし、隙を見つけて反撃する柳。琴もその動きに合わせ、敵の死角へ回り込んで確実に仕留めていく。
乙羽が手を出す必要はなかった。
「よし、終わり!」
柳が剣を払う。
「2人とも、すごかったよぉ」
「おう、ありがとな!」
「乙羽が止めてくれたおかげで、さっきの戦闘も助かったよ」
「えへへぇ」
乙羽は笑いながら、ほっと胸を撫で下ろした。
『今度はちゃんと柳と琴が戦えたな』
『こういう連携が見たいんだよ』
『乙羽ちゃん、さっきの魔法が強すぎただけで、ちゃんと仲間を立ててるんだな』
『でも無詠唱の謎は解けてないぞ』
『そこは本人に聞いても、たぶん「んぅ~?」ってなる』
『想像できるのやめろw』
『柳さん、今の戦いよかった! さっきの乙羽ちゃんの魔法もすごかったけど、こっちはこっちで見応えがある』
『琴さんの援護がうまいんだよな。柳さんが前に出ても、ちゃんと死角をカバーしてる』
画面に小さなスパチャが表示された。
『ミケ:今の連携もよかった! 柳さんの動き、さっきより落ち着いて見えた!(100円)』
柳が画面に目を向ける。
「お、ミケ、ありがとな! 見てくれてるなら、もうちょい格好いいところ見せねえとな」
『名前呼ばれた!?』
『ミケさん、よかったなw』
『こういうの、少額でも送ってみたくなるの分かるわ』
『柳さん、ちゃんとお礼言うんだな。こういうところはいいよね』
柳はコメントを見て、照れくさそうに鼻を鳴らした。
「ま、応援してもらえるのはありがたいからな。あたしらも、ちゃんと攻略しねえと」
その後も一行は、敵の数や配置に応じて役割を変えながら進んだ。
フェンちゃんが敵を見つけて吠え、柳が前衛を崩し、琴が隙を突いて仕留める。乙羽は必要な場面で短く援護し、先生は全体を見ながら、2人が危険になりすぎないように魔法を使った。
先生の魔法は、乙羽のものとは対照的だった。
敵の足元に淡い魔法陣が浮かび、数体のゴブリンがその場で眠りに落ちる。
「おやすみなさい」
先生は穏やかに微笑みながら、別のゴブリンの動きも水魔法で封じた。水の膜が敵の周囲に広がり、腕や武器の動きを拘束する。相手が武器を落とすと、先生はすぐに魔法を解除した。
「……先生、それはちょっとえぐくない?」
柳が微妙な顔をする。
「そうですか? 命を奪わずに無力化できる、便利な方法ですよ」
『妖精先生がえぐいwww』
『眠らせたり、水で動きを止めたり、手際がよすぎる』
『やっぱりプリンセス』
『見た目はかわいいのに戦い方が容赦ない』
『先生、普段はフェンちゃんの写真ばっかり投稿してる人だよな?』
『そう。その人です』
『情報量の差がすごいw』
『睡眠魔法で複数を止めて、別の敵には水魔法を使うのか。状況を見ながら使い分けてるのがすごいな』
『乙羽ちゃんの魔法が圧倒的な火力なら、先生は制御と無力化が得意なのかな。戦い方が全然違う』
先生の魔法を見ていた政宗も、感心したようにコメントを送った。
『政宗:やはり妖精先生も、色々と隠し持っているな。魔法の威力だけでなく、対象を傷つけずに無力化する技術も見事だ(500円)』
さらに、アリスからもスパチャが届く。
『アリス:音無さんは魔法師と呼んでいい存在なのかな? 先生もいるし、使っている魔法もとんでもないね。そもそも、このパーティーは戦い方の幅が広すぎる(500円)』
アリスは乙羽だけでなく、パーティー全体の動きを見ていた。
柳は前衛として敵を崩し、琴は冷静に隙を突く。フェンちゃんが危険を察知し、先生は複数の魔法を使い分けて戦闘を制御する。そのうえ、乙羽があの規格外の火力を持っている。
単に強い人間が集まっているというより、それぞれが違う役割を持ち、互いに補い合っているように見えた。
『瑠奈:先生もちょーかわいいよねー! 魔法もすごいし、フェンちゃんもかわいいし、最高すぎ! こういう配信、ずっと見てられるんだけど!(500円)』
『ふわもこ推し:先生とフェンちゃんのコンビ、ほんと癒やされる。戦闘中なのに安心感がすごいw(300円)』
スパチャの表示に気づいた先生は、にこりと微笑んだ。
「瑠奈さん、ありがとうございます。フェンちゃんのことも褒めていただけて嬉しいです」
『先生に名前呼ばれた!!』
『瑠奈、今日めっちゃ得してるなw』
『先生のファン、確実に増えてるだろこれ』
先生は楽しそうにコメント欄を眺めたあと、眠ったゴブリンたちを確認しながら言った。
「皆さん、あまり手を出しすぎてもいけませんからね。私がすべて倒してしまうと、皆さんのレベルが上がりませんから」
「……先生、今さらっとすごいこと言いませんでした?」
柳が目を細めた。
「そうですか?」
「いや、そうですかじゃねえって。普段から手加減してたってことだろ?」
「もちろんです。乙羽も柳さんも琴さんも、自分たちで戦う経験を積むことが大切ですから」
「なるほどなぁ……」
柳は納得したように頷き、それから乙羽を見た。
「ってことは、乙羽もあたしたちに合わせて手加減してるってことか?」
「んぅ~?」
「その顔、今日何回目だよ!」
「えぇ? だってぇ……みんなが戦えるようにしたほうがいいかなぁって」
乙羽は本当に不思議そうに首を傾げた。
『あっ』
『今の、さらっと大事なこと言わなかった?』
『みんなが戦えるように、ってことは……』
『いや、乙羽ちゃんの強さはさっきので十分分かったよw』
『本人は隠してるつもりなんだろうな』
『隠せてないけどな!』
『先生も乙羽ちゃんも、仲間の経験を考えて戦ってるってことか。そういう方針なんだな』
『でも、乙羽ちゃんの「手加減」はちょっと信用できないw』
琴は小さく息をつきながらも、どこか楽しそうだった。
「……乙羽らしいね」
「そうなのぉ?」
「うん」
柳は苦笑し、剣を肩に担いだ。
「まあ、いいや。あたしたちももっと強くならなきゃいけねえってことだな」
「そうだね。今の連携をもっと安定させたい」
「わたしも応援するねぇ」
「お前は、もうちょっと魔法の加減を覚えてくれ……」
「うぅ……が、頑張るねぇ」
『柳の言うとおりで草』
『魔法の加減を覚えるのが今後の課題なのかw』
『でも、どうやって覚えるんだろうな』
『そこが一番難しそう』
『先生、乙羽ちゃんの魔法の加減も教えてあげてくださいw』
先生はそのやり取りを見て、くすりと笑った。
「焦らず練習していきましょう。乙羽なら、きっとできますよ」
「うん……」
乙羽は小さく頷いた。
(本当にできるかなぁ……)
内心ではまだ不安だったが、今は考えても仕方がない。
ひと通り周囲を確認し、先生が地図を開いた。
「さて、先へ進みましょう。こちらの通路を抜ければ、4層への入口があるはずです」
「よし、じゃあ行くか!」
柳が剣を収め、先頭へ戻る。
今度は雑談をしながらも、全員が周囲への警戒を怠らなかった。フェンちゃんが先を歩き、琴が分岐を確認し、柳が前方を警戒する。乙羽も必要以上に手を出さないよう気をつけながら、先生と一緒に後方を進んだ。
『連携は本当に安定してるな』
『さっきの戦闘、柳と琴の動きがよかった』
『乙羽ちゃんが本気で戦ったらどうなるのか、逆に怖いんだが』
『いや、今の雷魔法も本人は本気じゃないっぽいぞ』
『それ以上考えるのはやめようw』
『最初は柳さんの話が気になって来たけど、普通にパーティー全員のファンになりそう』
『分かる。先生もフェンちゃんもかわいいし、戦闘も見応えあるし、見どころが多い』
『こういう配信って、攻略の上手さだけじゃなくて、みんなの会話も楽しいんだよな』
そんなコメントが流れる中、フェンちゃんが突然、尻尾を高く上げた。
「わふっ!」
「ん? 何か見つけたか?」
柳が前を向く。
通路の先には、石造りの大きな門があった。壁面には古い紋様が刻まれ、その向こうから、これまでとは違う冷たい空気が流れてきている。
先生が地図と門を見比べ、頷いた。
「見つかりましたね。ここが4層への入口です」
「よっしゃ! 思ったより順調じゃねえか!」
柳が拳を握る。
「この先も油断しないようにしよう」
琴の言葉に、乙羽もこくりと頷いた。
「うん。みんなで頑張ろうねぇ」
『4層到着!』
『ここから何が出るんだろう』
『柳、琴、乙羽、先生にフェンちゃん。パーティーのバランスいいな』
『乙羽ちゃん、次は何をやらかすのか』
『やらかす前提にするなw』
『4層からも楽しみだな。今度はどんな魔物が出るんだろう』
『さっきの魔法も気になるけど、柳さんたちの攻略ももっと見たい』
『先生の魔法も、まだ見せてない技がありそうだよな』
乙羽は最後のコメントを見つけて、きょとんとした。
「……やらかす?」
「気にすんな、乙羽。とりあえず先に進むぞ!」
「はぁい」
柳の声に、乙羽はいつもの柔らかな笑顔で答えた。
4層の門が、ゆっくりと開いていく。
配信はまだ始まったばかりだった。




