「主席の先輩に任せるぅ……」
翌朝。
教室に入ると、クラスメイトたちは昨日届いたメールの話題で盛り上がっていた。
やがて担任の伊達先生が教室に入ってくる。教卓に出席簿を置くと、騒がしい生徒たちを見回し、面倒くさそうに口を開いた。
「おーい、席につけー。連絡あるぞー」
しかし、序列戦の話題で盛り上がっている生徒たちは、なかなか静かにならない。
「静かにしろー。話進まんぞー」
伊達先生が少し声を張ると、ようやく教室が落ち着いた。
「昨日、急遽決まったんだがー、この学校で学年の垣根なしに序列を決めることになったー」
その言葉に、再び教室がざわつき始める。
「えっ、学年関係なしですか?」
「2年生とも戦うのか?」
「1年でも上位に入れるってこと?」
「そーいうことだー。詳しいルールはこれから詰めるらしいが、今日は決まってることだけ説明するぞー」
伊達先生は手元の資料をちらりと見た。
「まず、8月に競技会がある。今回の序列戦の結果は、その選手選考にも使われることになってるー。基本的には序列20席までの生徒が選考の対象になるが、それだけで決めるわけじゃないぞー」
「20席までに入らなくても、出られる可能性があるんですか?」
「あるぞー。競技会にはいろんな競技があるからなー。序列が上でも、すべての競技が得意とは限らんだろー? だから、序列20席までの生徒を基本にしつつ、それぞれの競技で得意分野の順位が高い生徒なんかも参考にして、出場選手を選ぶことになるー」
伊達先生はそこで一度言葉を切り、資料をめくった。
「競技の数も結構あるらしいからなー。何人選ぶかは、競技ごとの人数や選考次第だ。今の段階で出場人数が何人になるかまでは決まってないぞー」
教室のあちこちから、納得したような声が上がった。
「つまり、序列戦で上位に入れば競技会に出られる可能性が高くなるってことか」
「得意な競技があるなら、20席以内に入れなくてもチャンスはあるんだな」
「まあ、そーいうことだー。細かい日程や対戦形式は、決まったらまた連絡する。今のところは、序列戦があるってことと、競技会の選考にも関わるってことを覚えとけー」
伊達先生は説明を終えたつもりなのか、資料を机に置いた。
すると、待ってましたとばかりに生徒たちがまた騒ぎ始めた。誰と戦うことになるのか、どのくらいの順位を狙えるのか。期待や不安の入り混じった声が教室に広がっていく。
その一方で、乙羽は机に頬杖をつき、心の中でぼやいていた。
(いきなりやること決まってるしぃ……。しかも、序列戦だけじゃなくて競技会まであるのぉ……?)
できれば、序列戦だって出たくない。
それなのに、勝って上位に入れば、その先の競技会までついてくるらしい。
(うぅ……。普通に学校生活を送りたいだけなんだけどなぁ……)
「おーい、また騒がしくなってるぞー。まだ話は終わってないからなー。静かにしろー」
伊達先生の気の抜けた声が、再び教室に響いた。
「まずー、音無ー」
ようやく教室が落ち着いたところで、伊達先生が乙羽に声をかけた。
「お前、やる気あるのかー?」
「うぅ? 出なくていいってことぉ?」
「いやー、無理だろー? 学校全体の序列を決めるんだからなー。お前だけ不参加ってわけにもいかんだろー。俺が言いたいのは、出るなら周りに怪我させないようにしろってことだー」
「怪我させる前提なのかよ!」
すかさず柳が突っ込んだ。
「いや、だってなー……」
「だってなー、じゃねえよ!」
柳の声に、教室のあちこちから笑いが漏れる。
乙羽は困ったように頬をかいた。
「でもぉ……出ないと、また絡まれるんだよねぇ……? 昨日の昼休みもうるさかったしぃ……」
「まあ、主席の実力を試してやろうという輩は多いだろうな」
琴が冷静にそう言った。
その言葉に、近くの生徒たちも思い当たる節があるのか、何人かが頷いた。
「音無を試すって、どこの勇者だよ……」
「一瞬で終わりそうだよね!」
「まあ、先生に強化バフをもらってるって勘違いしてそうなのはいるだろうね」
「配信見てない情弱すぎ……」
好き勝手なことを言い合うクラスメイトたち。どうやら、乙羽の実力を知っている生徒と、まだ十分に理解していない生徒では、序列戦に対する見方もかなり違うらしい。
そんななか、伊達先生の隣にいたリーゼロッテが、ふと思い出したように口を開いた。
「ふふ。乙羽とは今朝も話しましたが、1席は狙わないそうですよ?」
「そうなのかー?」
伊達先生は意外そうに乙羽を見た。
「俺は、お前が1席確定なのは決定事項だと思ってたがなー」
「主席の先輩に任せるぅ……」
乙羽は迷いなくそう答えた。
まるで、最初からそれ以外の選択肢など考えていなかったかのような即答だった。
「お前なー……」
伊達先生は呆れたように頭をかいた。
「まあ、順位をどうするかは勝手だがー、変な負け方して余計な騒ぎを起こすなよー」
「はぁい……」
「絶対分かってない返事だろ、それ!」
柳が再び突っ込むと、教室に笑い声が広がった。
乙羽はそんなクラスメイトたちを見回しながら、心の中でそっとため息をついた。
(……やっぱり、普通に参加するだけじゃ済まなさそうだよぉ……)




