生徒会会議
生徒会室に、いつもより少し緊張感のある空気が流れていた。
テーブルを囲んでいるのは、生徒会長の如月アリス、副会長の綾小路政宗、書記の藤堂ヒカル、会計の小金沢祐樹、広報の五代瑠奈。そして、治安部門の代表として呼ばれた大門龍太。顧問の吉田先生も同席している。
全員が揃ったのを確認すると、アリスは手元の資料を閉じた。
「じゃあ、始めようか。今日集まってもらったのは、4か月後に控えた全国大会について話したいからだ」
「去年の結果を考えると、今年は選手選考から見直す必要があるね」
政宗が落ち着いた声で続けた。
「座学の成績や普段の実技評価だけでは、実際の戦闘能力を正確に測れない。全国大会で勝つことを目指すなら、実戦に近い形で実力を確認するべきだと思う」
「だったら、全員で戦わせりゃいいだろ。勝った奴が強い。順位もそれで決めれば分かりやすい」
龍太が腕を組んだまま、あっさりと言い切った。
「勝敗だけで順位を決めるのは、少々乱暴ではありませんか」
ヒカルが淡々と指摘する。
「対戦相手との相性や、能力の種類による有利不利もあります。公平性を保つのであれば、対戦形式についても慎重に検討する必要があるでしょう」
「細かいことは後で詰めりゃいい。まずは実力を比べる場を作るって話だろ?」
「考え方としては悪くないね。選考基準が曖昧なまま代表を決めるよりは、ずっと分かりやすい」
アリスは龍太の意見を受け止め、指先で資料を軽く叩いた。
「全校生徒を対象にしたランキング戦を開催する。参加者同士で戦ってもらって、その結果をもとに順位を決める。上位10人は『学園十席』として、全国大会の代表候補を中心に選考する。これなら選考基準も明確になるし、生徒たちにも納得してもらいやすいんじゃないかな」
「学園十席、か。名前も悪くないね」
政宗が頷いた。
「選考の過程を明確にできるのは大きい。実力のある生徒が、普段の評価だけで埋もれてしまうことも防げるだろう」
「ただし、全員を戦わせるとなると、怪我の危険性は無視できません」
ヒカルはすぐに話を進めた。
「使用できる武器や魔法の制限、降参の判定、試合の中断条件。それに、治療体制も必要です。開催を決める前に、安全面の規定を整えておくべきでしょう」
「そこは俺たち治安部門も協力する。実戦形式にするなら、試合中の監視役も必要だろうな。参加者が熱くなって、必要以上にやり合う可能性もある」
龍太の口調はぶっきらぼうだったが、役割については真剣に考えているようだった。
「安全対策に必要な人員と設備を洗い出しておこう。予算が分からないまま進めるわけにはいかないからね」
小金沢が手帳を開いた。
「会場の整備費、治療担当者への依頼、配信用の機材、それから試合運営に必要な人件費。規模によっては相当な金額になる。開催する意義は理解できるけれど、費用に見合う効果があることは確認したい」
「配信も組み合わせれば、かなり注目を集められると思うよ。普段の授業だけじゃ分からない生徒たちの実力を見せられるし、学校の宣伝にもなるからね」
瑠奈は手元の資料を覗き込みながら話した。
「公式配信にすれば、試合を見逃した人も後から見られるし、全国大会に向けた盛り上がりも作れる。対戦カードによっては、かなり話題になると思うな」
「宣伝効果は期待できそうだな。ただ、配信するなら試合の進行や映像の管理も考えないといけない。選手の情報をどこまで公開するかも決めておく必要がある」
政宗の言葉に、瑠奈は頷いた。
「そこは任せて。配信する範囲も含めて、ちゃんと案をまとめるよ」
「よし。じゃあ、開催する方向で具体案を詰めていこう」
アリスは全員の顔を見渡した。
「安全面、予算、対戦形式、配信。それぞれ担当を決めて、実現できる形に落とし込む。せっかくやるなら、ただ順位をつけるだけじゃなく、生徒たちが自分の実力を知る機会にしたいからね」
話がまとまりかけたところで、政宗がふと思い出したように口を開いた。
「……ただ、音無さんは参加するだろうか」
その言葉に、何人かが政宗へ視線を向けた。
「音無さんか。確かに、彼女の参加は気になるところだね」
アリスは少し考えるように目を細めた。
「実力だけを考えれば、参加した場合は上位に入るだろう。でも、本人は目立つことを望んでいないんじゃないかな」
「そうだね。以前、本人とも話したけれど、強さを見せつけたいという気持ちはないようだった。むしろ、普通の学校生活を送りたいと考えている」
政宗は少し苦笑した。
「僕は彼女の実力を認めているし、ランキング戦に参加すれば、ほかの生徒にとっても得るものは大きいと思う。だが、それと本人が参加したいかどうかは別の話だ。無理に出場を促すつもりはないよ」
「うん。音無さんがどう考えているかは、ちゃんと確認したほうがいいね。参加するのが当然、という前提で話を進めるのは違うと思う」
アリスも政宗の意見に同意した。
「でも、乙羽ちゃんが出てくれたら、話題になるのは間違いないと思うけどね。配信を見ている人たちも、きっと注目するだろうし」
瑠奈は期待を隠しきれない様子で言ったものの、すぐに肩をすくめた。
「もちろん、本人が嫌がるなら無理強いはできないけど」
「配信での戦いを見る限り、音無さんの実力は疑いようがありません」
ヒカルは表情を変えずに述べた。
「ただ、本人が目立つことを望んでいないのであれば、参加を前提に運営計画を立てるべきではないでしょう。出場するかどうかにかかわらず、成立する形式にする必要があります」
「その点は賛成だね」
小金沢は手帳に書き込みながら頷いた。
「音無乙羽さんが参加すれば注目度は上がるだろうけれど、それを予算や運営計画の前提にするのは適切ではない。参加しなくても開催できる計画にしておこう」
「それがいいだろうな」
それまで黙っていた龍太が口を開いた。
「ただ、音無の実力を甘く見る奴が出てくるのは避けたいところだ。リーゼロッテ様の火力を見たときも思ったが、あれは普通じゃねえ。音無の配信を見りゃ、あいつ自身も相当やばいってのが分かる」
龍太の言葉に、政宗も静かに頷いた。
同じパーティーで行動した際、リーゼロッテの圧倒的な火力を目の当たりにした龍太にとって、あの光景は忘れられるものではない。さらに乙羽の配信を見て、その実力が並外れたものであることも十分に理解していた。
「ランキング戦だからといって、面白半分で実力を試そうとするのはやめておけよ。参加するかどうかは本人が決めることだ」
「そうだな。実力を知ることと、本人に無理をさせることは別の話だ」
政宗は同意し、少し考えるように視線を落とした。
「僕も以前は、自分の考えを彼女に押しつけてしまったからね。今は、本人がどうしたいのかを尊重するべきだと思っている」
「なら、方針は決まりだね」
アリスは話をまとめるように資料を揃えた。
「ランキング戦は全校生徒を対象にして、公平な基準と安全対策を整える。参加は本人の意思を尊重する。音無さんについても、特別扱いするわけじゃなく、ほかの生徒と同じように本人の判断に任せよう」
それぞれが頷くのを確認すると、アリスは吉田先生へ視線を向けた。
「先生、学校側への相談をお願いできる?」
「おう、任せとけ!」
吉田先生は豪快に笑い、机に置かれた資料を手に取った。
「安全面も含めて、ちゃんと形にしなきゃならんな。全国大会に向けて全員が力を伸ばせるなら、やる価値はある。いやあ、面白くなってきたじゃないか!」
生徒会室に、少しだけ和やかな空気が戻った。
こうして、全校ランキング戦の開催案は学校側へ提出されることになった。
そして翌日。
神奈川育成学校の全生徒へ、ランキング戦の開催と公式配信について知らせるメールが送られたのだった。




