「私の振りをしてた人って、どこ消えたのぉ!?」
家に帰る途中、乙羽はずっと検査結果のことを考えていた。
レベル1。HP5。魔法師の適性があって、属性は風と火。
地球の基準で考えれば、十五歳で魔法師の適性があるだけでも珍しいらしい。静姉も、将来が楽しみだと言っていた。
けれど、乙羽にはどうしても納得できないことがあった。
(私、レベル1じゃなかったんだけどなぁ……。120だったんだけどなぁ……)
もちろん、地球に戻ったことで何かが変わった可能性はある。身体だって十五歳に戻っているのだから、ステータスまで元に戻っていても不思議ではない……のかもしれない。
でも、それならそれで、もう少し何か変化があってもよさそうなものだ。
そんなことを考えながら歩いていると、隣を飛んでいたリーゼロッテが、不意に乙羽の顔を見上げた。
「乙羽、少しよろしいですか?」
「ん? どうしたの、先生?」
「あなたのステータスですが……おかしいですね」
「えぇ?」
思わず足を止めた。
リーゼロッテは真剣な顔で続ける。
「地球で測定された数値も、本来の数値も、どちらも確認できています。ですが、その差が不自然です。あなたのステータスが、二つ存在しているように見えます」
「ふ、二つぅ!?」
乙羽は自分の顔を指さした。
「えぇ? どういうことぉ?」
「詳しく確認してみましょう」
リーゼロッテは目を閉じ、乙羽のステータスを改めて鑑定した。
彼女の目には、乙羽の状態がかなり正確に映し出されている。地球の検査装置が出した結果だけでなく、その奥にある本来の数値まで、はっきりと読み取れていた。
「レベルですが、1(120)になっていますね」
「……えっ?」
「HPは5(4800)です。ほかの項目にも同じような傾向があります。地球で測定された数値と、本来の数値が並んでいるようですね」
「え、えっと……じゃあ、カッコの中が本来の数値なのかな?」
「その可能性が高いと思います」
乙羽は自分の手をじっと見つめた。
(そっかぁ……。消えたわけじゃないんだねぇ)
レベル1と表示されたときは、異世界で積み重ねてきたものが全部なくなってしまったのかと思った。
けれど、そうではないらしい。
少なくとも、リーゼロッテには本来の数値が見えている。地球の検査装置が読み取れていないだけなのか、それとも別の理由があるのか。
「この世界の鑑定装置が、そこまで正確ではないのではないでしょうか。測定できる情報に限界があるのかもしれません」
「うーん……。でも、レベルとかHPって、数字で出てたよぉ?」
「数字で表示されることと、正しく測定できていることは別ですから」
「そ、それはそうだけどぉ……」
乙羽は頬を膨らませた。
地球に帰ってきたと思ったら、時間のことも、家族の記憶のことも、ステータスのことも、わからないことばかりだ。
いったい何がどうなっているのだろう。
リーゼロッテは少し考え込んでから、静かに口を開いた。
「それに、もう一つ気になることがあります」
「まだあるのぉ!?」
「あなたがこちらに戻ってきたとき、皆さんには、あなたがずっとこの世界にいたという記憶があるようでしたね」
「う、うん。そうみたい……」
「その存在が、今回の現象に関係しているのかもしれません」
乙羽の顔から、すっと血の気が引いた。
地球の時間は、自分が異世界へ行った日に戻っていた。
なのに、母も静姉も、自分がずっとここにいたと思っている。世の中の歴史だって、ダンジョンや冒険者が二年前から存在していたことになっていた。
そして今度は、自分のステータスまで二重になっている。
もしも。
もしも、家族の記憶にある自分が、本当に自分ではなかったのだとしたら。
「……ちょっとまってぇ……」
乙羽は頭を抱えた。
「私の振りをしてた人って、どこ消えたのぉ!?」
「わかりませんよ」
「わかんないのぉ!?」
「はい。私にも、そこまでは」
リーゼロッテは困ったように首を傾げた。
乙羽はその場で固まった。
(えっ、なにそれ……。私がいない間、私の振りをしてた誰かがいたってことぉ? じゃあ、その人は今どこにいるの? なんで私が戻ってきたら、何事もなかったみたいになってるのぉ……?)
考えれば考えるほど、頭の中がぐちゃぐちゃになっていく。
「……うぅ。もう、わかんないよぉ……」
乙羽は泣きそうな声を漏らした。
異世界から帰ってきて、ようやく家族にも会えた。これからは普通の高校生として暮らせると思っていたのに。
どうやら、普通の生活を始める前に、解決しなければならない問題が山ほどあるらしい。
ただし、その問題を解決する方法も、そもそも何が起きているのかさえ、今の乙羽にはさっぱりわからなかった。




