↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
殴り賢者はバレている  作者: 七風


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
4/205

「私、120だったのにぃ……」

「ちょ、ちょっと待って。あんた、本当に妖精を召喚したの?」


 静はリビングのテーブルに置かれた召喚魔法の本を手に取り、乙羽とリーゼロッテを何度も見比べた。


「う、うん……たぶん?」


「だから、たぶんって何よ。召喚したなら、そうなんでしょ?」


「そ、そうだけどぉ……」


 乙羽が困ったように視線を泳がせると、リーゼロッテがふわりと宙に浮かび、静の前で改めて一礼した。


「初めまして。私はリーゼロッテと申します」


「……しゃべった」


「はい。会話はできますよ」


「いや、それは見ればわかるけど……!」


 静は額に手を当てた。ダンジョンで珍しい魔物や未知の現象に遭遇することはあっても、自宅のリビングで妹が妖精を召喚するなど、想像したこともなかったのだろう。


 やがて静は深呼吸をして、乙羽に向き直った。


「乙羽。あんた、冒険者の適性検査を受けなさい」


「……えぇ?」


「えぇ、じゃないわよ。召喚魔法の本を見て、実際に妖精を呼び出したんでしょ? それだけでも普通じゃないわ。あんたには冒険者の才能があると思う」


「そ、そうなのかなぁ……?」


「そう思うから言ってるの。検査を受ければ、もう少し詳しいことがわかるはずよ」


 静の口調は真剣だった。妹を無理やり冒険者にしたいというより、せっかく可能性があるのなら確かめておきたい、という様子だった。


「でも、わたし、もう高校に合格してることになってるみたいだよぉ?」


「進路変更はできるわよ。冒険者を目指す人が少ないから、適性があれば歓迎されるしね。検査を受けてから決めたっていいでしょ?」


「うーん……」


 乙羽としては、できることなら面倒なことは避けたかった。けれど、今の世界で何ができて何ができないのか、知っておくのは悪くない。


「……じゃあ、検査だけならぁ」


「よし、決まりね」


 静は満足そうに頷いたが、ふとリーゼロッテに目を向けると、その表情を引き締めた。


「それと、そこの妖精さん」


「はい、なんでしょう?」


「あんたみたいな存在は、この世界じゃかなり珍しいの。登録もせずに連れ歩いていたら、悪い連中に目をつけられるかもしれないわよ。最悪、攫われる危険だってある」


「……攫われる、ですか?」


 リーゼロッテは少しだけ眉を寄せた。静の言葉に冗談めいたところはなかった。


「そう。だから、乙羽の適性検査と一緒に、あんたの召喚登録も済ませるわ。正式に登録しておけば、少なくとも身元を示す手段になるし、トラブルになったときにも説明しやすいから」


「なるほど。乙羽と一緒に行動するためにも、必要なのですね」


「そういうこと」


 リーゼロッテは乙羽を見た。乙羽も小さく頷く。


「先生がそれで安心できるなら、登録しておこうよぉ」


「わかりました。では、お願いします」


 こうして、乙羽とリーゼロッテは静に連れられ、冒険者協会へ向かうことになった。


 *


 横浜市内にある冒険者協会の支部は、想像していたよりも普通の建物だった。受付や待合スペースがあり、奥には検査用の部屋が並んでいる。冒険者向けの装備を身につけた人たちが行き交っているのを見て、乙羽は少しだけ異世界の冒険者ギルドを思い出した。


「へぇ~……こっちにも、こういう場所があるんだぁ」


「冒険者協会なんだから、当たり前でしょ」


「そっかぁ」


 静に案内され、乙羽は受付で適性検査を申し込んだ。簡単な説明を受けたあと、検査室へ通される。


 検査は、専用の測定器に手をかざし、魔力の反応を読み取る方式だった。職員の指示に従って手を置くと、機器の表面に淡い光が走り、数秒後には結果が表示された。


「……検査結果が出ました」


 職員が画面を確認し、結果表を乙羽に渡した。


 そこには、名前やレベル、HP、職業適性などの項目が並んでいる。


「レベル1。HPは5。職業適性は……魔法師ですね。魔法適性については、風と火の反応が確認されています」


「……え?」


 乙羽は結果表を見つめた。


(レベル1……? HP5……?)


 異世界での自分のレベルは120だった。HPも、こんな数字ではなかったはずだ。


(ええぇ……私、120だったのにぃ……)


 思わず声に出しそうになったが、乙羽はなんとかこらえた。ここで異世界の話をするわけにはいかない。


 隣から結果を覗き込んだ静は、意外そうに眉を上げた。


「最初から魔法師なの?」


「えーっと……そうみたい」


「普通はノービスっていう、まだ何になれるかわからない状態から始まるものなのよ。魔法師の適性が最初から出るのは珍しいわね」


「へぇ~……」


 乙羽は曖昧に頷いた。


(風と火だけなんだぁ……。回復も召喚も、土も水も雷も使えるんだけどなぁ……)


 もっとも、地球側の検査で判明するのは、確認できた範囲の大まかな適性だけらしい。具体的にどんな魔法を使えるか、どれほどの威力があるかまではわからないという。


「適性はかなり高いようですね。ただ、実際にどのような魔法を扱えるかは、これだけでは判断できません」


「なるほどね。まあ、まずはこれからってことか」


 静は納得したように頷いた。


「レベル1なのは、まだ経験を積んでいないからでしょ。これから上げていけばいいのよ」


「そっかぁ……」


(いや、経験ならいっぱいあるんだけどぉ……)


 乙羽は心の中でつぶやいたが、もちろん口には出さなかった。


 検査を終えたあと、職員からステータスカードについて説明を受けた。カードには名前、レベル、職業、冒険者ランクなど、冒険者として必要な基本情報が記録される。スキルや魔法の詳細は載らず、カードの情報を他人に見せるかどうかも本人が選べるという。


 能力を他人に知られたくない冒険者もいるため、協会として公開情報を必要最低限にしているらしい。


「へぇ~。ちゃんと考えられてるんだねぇ」


 乙羽は渡されたカードを眺めた。そこに記載されているのは、名前とレベル、職業などの基本情報だけだ。


 その後、リーゼロッテの登録手続きも行われた。妖精という珍しい存在であるため、職員は慎重に確認を進めていたが、本人が意思を示し、乙羽との関係も確認できたことで手続きは無事に終わった。


「これで登録は完了です。何か問題があれば、協会へご相談ください」


「ありがとうございます」


 リーゼロッテが丁寧に頭を下げる。静もひとまず安心したようだった。


「よし、これで一安心ね。あとは乙羽が進路をどうするかだけど……まあ、今日は帰ってから考えましょ」


「うん……」


 乙羽はカードを握りしめたまま、複雑な気持ちで頷いた。


 *


 協会を出て、家へ向かう道を歩いていると、リーゼロッテが乙羽の手元を見つめた。


「乙羽、そのカードを少し見せてもらえますか?」


「ん? いいよぉ」


 乙羽がカードを差し出すと、リーゼロッテは小さな手をかざした。淡い光が一瞬だけ指先に灯る。


「……なるほど」


「どうしたの、先生?」


 リーゼロッテはすぐには答えず、カードに記された数値をもう一度確かめた。


「乙羽。あなたのステータス、おかしいですね」


「……え?」


「レベル1、HP5。先ほどの検査結果もそうでしたね。しかし、私が鑑定したあなたのステータスとは一致しません」


 乙羽は足を止めた。


「やっぱりぃ……?」


「はい。少なくとも、あなたの本来の数値はこのようなものではありません」


 乙羽はカードを見下ろした。地球側の検査ではレベル1。けれど、先生が鑑定すれば違う数値が見える。


(私、120だったのにぃ……。どうしてこっちだと、こんなことになってるのぉ……?)


 わからないことは増えるばかりだった。


 ただひとつ確かなのは、地球の検査が示した結果と、乙羽が異世界で積み重ねてきたものが、まるで一致していないということだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。