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殴り賢者はバレている  作者: 七風


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――またみんなで遊ぼうね。

 ファミレスの帰り、乙羽たち4人はゲームセンターに遊びに来ていた。


 店内にはゲームの音や楽しそうな歓声が響き、クレーンゲームの景品棚には、ぬいぐるみやフィギュアが所狭しと並んでいる。


 そんな中、リーゼロッテがある景品の前でぴたりと足を止めた。


「……こ、これはっ! スカブルのグッズじゃありませんか!」


 ガラスケースの中に並んでいたのは、リーゼロッテが大好きなゲーム『スカブル』のキャラクターグッズだった。ぬいぐるみや小さなマスコットが、種類ごとに分けられている。


 リーゼロッテは目を輝かせ、ケースの中をじっくりと見渡した。


「よーし! 全種類コンプリートするまで帰りません!」


「いや、いきなり宣言するなよ……」


 柳が呆れたようにツッコミを入れるものの、リーゼロッテはすでにやる気満々だった。


「ふふふ、私にお任せください! 狙った景品は逃しません!」


「先生、こういうの得意なのぉ?」


 乙羽がのんびりと尋ねると、リーゼロッテは胸を張った。


「もちろんです! ゲームで培った集中力を見せてあげましょう!」


 そう言って、さっそくクレーンゲームに挑戦する。


 しかし、ここで思わぬ問題が発生した。


 身長わずか20cmほどのリーゼロッテにとって、人間向けに作られたクレーンゲームは大きすぎるのだ。景品の位置は見えていても、クレーンの真下に景品があるのか、少し手前なのか、低い視点からでは正確に把握しにくい。


「むむむ……。もう少し右……いえ、奥でしょうか……?」


 慎重に位置を合わせてボタンを押す。


 クレーンが動き、景品へと降りていった。


 だが、爪はぬいぐるみの端をかすめただけで、何もつかめないまま上昇していく。


「ああっ! 惜しいっ!」


「今の、ちょっと横にずれてたな」


 柳が横から指摘する。


「わ、分かっています! 次こそは大丈夫です!」


 リーゼロッテは気を取り直し、もう一度挑戦した。


 しかし、今度も失敗。さらに次も失敗。狙いを変えてみても、景品はなかなか持ち上がらなかった。


 その様子を隣で見ていた乙羽が、不思議そうに首を傾げる。


「先生、さっきから惜しいところまではいくねぇ。でも、なかなか取れないねぇ……」


「乙羽、そこはもう少し私を応援するところですよ!」


「えっ? 応援してるよぉ?」


 乙羽はきょとんとした顔で答えた。


「だって、取れそうなのに取れないから、難しいんだなぁって」


「うぐっ……! そ、それはそうですが……!」


 悪気のない感想だからこそ、リーゼロッテには妙に刺さる。


 琴もクレーンの動きを眺めながら、冷静に口を開いた。


「先生、もう少し手前を狙ったほうがいいんじゃないか? 今の位置だと、爪が景品の端にしかかかっていない」


「なるほど……! では、次は手前ですね!」


 リーゼロッテはアドバイスを受け、気合を入れ直した。


 ところが、結果はまたしても失敗だった。


「あああっ! どうしてですかぁ!?」


「うーん……今のも惜しかったねぇ」


「乙羽!? 毎回そんなに素直に感想を言わなくてもいいんですよ!?」


「えっ、でも、本当に惜しかったよぉ?」


「そういうところです!」


 柳はとうとう吹き出した。


「はははっ! 先生、乙羽に悪気がないのが余計につらいな!」


「柳さんまで笑わないでください!」


 それからもリーゼロッテは何度も挑戦を続けた。狙い方を変え、クレーンの動きを観察し、時には台の前で腕を組んで考え込む。


 気がつけば、投入した金額は1000円を超えていた。


 それでも景品は取れていない。


「……おかしいですね。私の計算では、そろそろ取れてもいいはずなのですが……」


「先生、もう1000円以上使ってるよぉ?」


 乙羽が何気なく告げる。


「わ、分かっています! 私だって、それくらい把握していますから!」


「うん。じゃあ、あと少しで取れるといいねぇ」


「……っ!」


 リーゼロッテは言葉に詰まった。


 応援されている。間違いなく応援されているはずなのに、どうしてこうも心に刺さるのだろう。


 琴は少し考えてから、財布を取り出した。


「先生、いったん交代しないか? 私も試してみる」


「えっ、琴さんが?」


「景品の位置は分かったからな。少しだけ試させてくれ」


 琴が操作すると、クレーンは景品の上へと移動し、今度はぬいぐるみの胴体をしっかりとつかんだ。


 持ち上がったぬいぐるみが、ゆっくりと出口へ運ばれていく。


「おおっ! 取れそうじゃん!」


 柳が身を乗り出す。


 しかし、出口の直前でぬいぐるみが傾き、ぽとりと落ちた。


「あっ……」


 琴は画面を見つめたまま、静かに息を吐いた。


「……思ったより難しいな」


「でしょう!? そうでしょう!?」


 リーゼロッテが勢いよく同意する。


「これは機械の設計に問題があるのです! 私の腕が悪いわけではありません!」


「先生、さっきは集中力を見せるって言ってなかった?」


 柳が笑いをこらえながら尋ねる。


「集中力を発揮することと、機械の設計に問題があることは両立します!」


「そういうもんかぁ……」


 乙羽は納得したような、していないような顔で頷いた。


 結局、その後も何度か挑戦した末、柳が景品の位置を見ながら操作したところ、ようやくぬいぐるみを1つ獲得することができた。


「やったー! ついに取れました!」


 リーゼロッテは大喜びでぬいぐるみに抱きついた。


「ふふふ、やはり最後には私の勝利ですね!」


「いや、操作したのは柳だけどな……」


「細かいことは気にしないでください!」


「先生、よかったねぇ」


 乙羽がにこにこと笑うと、リーゼロッテも満足そうに頷いた。


「はい! ……ですが、全種類コンプリートは次回に持ち越しですね」


「まだやる気なのかよ!」


 柳のツッコミが、ゲームセンターの賑やかな音に混じって響いた。


     ◇


 その後も4人は店内を回り、いくつかのゲームを楽しんでいた。


 ふと、乙羽が音楽ゲームの筐体を見つけて足を止めた。画面にはリズムに合わせて踊るキャラクターが映っており、軽快な音楽が流れている。


「あ、このゲーム好きなんだよねぇ」


「へえ、乙羽ってこういうのやるんだ?」


 柳が興味を示すと、乙羽はゆっくりと頷いた。


「うん。なんか楽しいんだよぉ」


 そう言って、乙羽はゲームを始めた。


 音楽が流れ出すと、先ほどまでののんびりした様子からは想像できないほど、乙羽の身体が軽やかに動き始めた。画面に表示されるリズムに合わせ、無駄のない動きでステップを踏み、次々と判定を成功させていく。


 最後のノーツが流れた瞬間、画面いっぱいに表示されたのは――PERFECTの文字だった。


「……は?」


 柳が固まった。


「え、今の全部パーフェクトだったのか!?」


「うん。楽しかったねぇ」


 乙羽は満足そうに笑いながら、筐体から離れた。


「いやいや、そういう問題じゃねえだろ! お前、なんでそんな動けるんだよ!?」


「んー……? なんでだろうねぇ」


 乙羽は本当に不思議そうに首を傾げている。自分が特別なことをしたという意識はないらしい。


 琴も感心したように頷いた。


「まぁ、運動神経は元々いいのかもな」


「そうなのかなぁ……」


 乙羽は少し考えたあと、いつもの調子で答えた。


「毎日ランニングはさせられてるぅ……」


「マジかよ。毎日?」


「うん。先生も一緒だよぉ」


 乙羽の肩にちょこんと座っていたリーゼロッテが、誇らしげに胸を張る。


「もちろんです! 健康のためにも、適度な運動は大切ですからね!」


「先生も走ってんのか……」


「当然です! 私だって、健康管理には気を使っていますから!」


 柳は感心したように頷いたものの、すぐに自分のことを思い出したのか、少しだけ気まずそうな顔になった。


「うーん……俺も走ったほうがいいのかなぁ」


 それから琴のほうを向く。


「そういや、琴も普段から運動してるのか?」


「しているぞ。うちの道場は、町内マラソンが終わってから素振りが基本だからな」


「町内マラソンが基準なのかよ!?」


 柳が思わず声を上げると、琴はきょとんとした顔で首を傾げた。


「そうだが?」


「いや、そこは毎日走るとかじゃねえの!?」


「町内マラソンに向けて走るのも、立派な鍛錬だぞ」


「そういう話なのか……?」


 柳は納得できない様子だったが、乙羽はそんな2人のやり取りを眺めながら、楽しそうに笑っていた。


     ◇


「せっかくだし、最後にプリクラ撮っていこうぜ!」


 柳の提案に、乙羽と琴が頷いた。


「プリクラかぁ。久しぶりだねぇ」


「私はあまり撮ったことがないな」


「大丈夫大丈夫! 適当にポーズ取れば何とかなるって!」


 4人はプリクラの機械に入り、画面の案内に従って並んだ。


 乙羽はリーゼロッテを肩に乗せ、柳は元気よくピースサインをする。琴は少し照れくさそうにしながらも、2人に合わせて小さくピースをした。


「先生、ちゃんとカメラに映るかなぁ?」


「当然です! 私の美貌をカメラが見逃すはずありません!」


「んー……そういう意味じゃないんだけどなぁ」


「乙羽!?」


 柳が吹き出し、琴も口元を押さえて笑った。


「先生、小さいからな!」


「柳さんまで! ちゃんと映りますからね!」


 そんなやり取りをしながら、4人は何枚かの写真を撮影した。


 やがて落書き画面に切り替わると、柳はスタンプを貼り、琴は控えめに飾りを追加した。リーゼロッテは自分の周囲にキラキラをたくさんつけるよう注文し、画面の一角がずいぶん賑やかになっていく。


 その隣で、乙羽は少し考え込んでから、空いているスペースにメッセージを入力し始めた。


「乙羽、何書いてるんだ?」


 柳が画面をのぞき込もうとする。


「んー……ひみつぅ」


「なんだよ、気になるじゃん!」


「あとで見ればいいよぉ」


 乙羽は楽しそうに笑いながら、最後に小さなハートのスタンプを添えた。


 やがて完成したプリクラが印刷され、4人はそれぞれ自分の分を受け取った。


 乙羽は自分のプリクラをじっと眺めた。4人で並んだ写真の隅には、乙羽が書いたメッセージが添えられている。


 ――またみんなで遊ぼうね。


「……えへへ」


 思わず頬が緩み、乙羽はプリクラを大切そうに胸元へ抱えた。


「ん? 乙羽、何にやけてんだ?」


「んーん、なんでもないよぉ」


 そう答えながらも、乙羽の顔には嬉しそうな笑みが浮かんでいた。


 今日のことも、きっと楽しい思い出になる。


 そんなことを思いながら、乙羽はもう一度、プリクラを眺めた。

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