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殴り賢者はバレている  作者: 七風


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姉の心配

家に帰った静は、自室でパソコンを開いていた。


画面に映っているのは、乙羽たちが今日配信したダンジョン攻略のアーカイブだ。


「……改めて見ても、おかしいよな」


最初は、妹が学校で配信を始めたこと自体に驚いた。


けれど、映像を見続けるうちに、気になることが増えていった。


魔物に囲まれても、どこか慌てながら対処していく乙羽。


威力を抑えようとしているように見える魔法。


そして、本人の戸惑いとは裏腹に、あっさりと魔物を倒してしまう場面。


静は少し前の映像に戻し、再生速度を落とした。


「この威力で、本人は困ってるのか……?」


配信中の乙羽は、決して余裕たっぷりというわけではなかった。


むしろ、魔法を使うたびに予想外の結果になり、困惑しているように見える。


冗談や演出で片づけるには、違和感が大きすぎた。


「それに、殴っただけであれだけ吹っ飛ぶって……」


静は以前、自分なりに理由を考えたことがある。


拳に風の魔法をまとわせているのではないか。あるいは、魔法を身体強化に応用しているのではないか。


そう考えれば、説明がつく部分もあった。


だが、今日の映像を見れば見るほど、それだけで説明できるのか疑問が残る。


「……乙羽、いったい何があったんだ?」


画面の中では、乙羽がまた困ったような声を上げていた。


静はそこで再生を止めた。


今すぐ問い詰めたところで、乙羽がうまく説明できるとは限らない。


映像を見ているだけでも、本人が自分の状況を持て余していることは伝わってきた。


「……まあ、話せるようになったらでいいか」


静は小さく息を吐いた。


ただし、これだけは伝えておかなければならない。


無茶をしてほしくないこと。


困ったときには、ひとりで抱え込まずに相談してほしいこと。


「……姉として、そこだけは言っておかないとな」


静はパソコンの画面を見つめたまま、そう呟いた。


乙羽が何を経験し、どんな事情を抱えているのか。


今はまだ、わからないことばかりだ。


それでも、妹が危険な目に遭うのを黙って見ているわけにはいかなかった。


やがて静は、パソコンを閉じて自室を出た。


その直後、玄関の方から物音がした。


「ただいまぁー」


乙羽の声だ。


静がリビングに出ると、乙羽とリーゼロッテがちょうど帰ってきたところだった。


「おかえり、乙羽」


「ただいま、お姉ちゃん!」


いつもと変わらない笑顔。


だからこそ、静は少しだけ複雑な気持ちになった。


「乙羽。ちょっといいか?」


「ふぇっ? な、なにかなぁ……?」


静の真剣な顔を見て、乙羽の表情が少しこわばる。


「配信、もう一度見直してたんだ」


「あっ……」


乙羽は気まずそうに目を逸らした。


「……お前に何があったんだ?」


「えっとぉ……あったというか、終わったというかぁ……。少し説明が難しいのぉ……」


「終わったって、どういうことだ?」


「うぅ……」


説明できないわけではない。


けれど、話せることと話せないことがある。


何より、自分でもまだ整理しきれていないことが多すぎた。


そんな乙羽を見て、リーゼロッテが静の前に一歩進み出た。


「静、もう少し情報を集めてからでもいいですか? 乙羽もちょっと戸惑っているところがあるので」


静はしばらく乙羽を見つめていたが、やがて小さく頷いた。


「そうか」


それ以上、問い詰めることはしなかった。


「私はただ、無理はしてほしくないだけだからね」


「お姉ちゃん、ありがとぉー」


乙羽の顔に、ほっとした笑みが戻る。


静はその頭を軽く撫でた。


「本当に危ないと思ったら、ちゃんと逃げるんだぞ。ひとりで何とかしようとするなよ」


「う、うん。気をつけるねぇ……」


「その返事、ちょっと不安なんだけど」


「えぇっ!?」


思わず声を上げる乙羽に、リーゼロッテがくすりと笑った。


いつもどおりのやり取り。


けれど、静の心配が消えたわけではない。


今はまだ、乙羽が何を経験してきたのかも、なぜあれほどの力を持っているのかもわからない。


それでも、無理に聞き出すつもりはなかった。


いつか乙羽が話せるようになったとき、きちんと受け止めてやれるように。


静は、妹の笑顔をそっと見守ることにした。

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