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殴り賢者はバレている  作者: 七風


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「絶対気のせいじゃないよぉ……」

配信終了後。


柳は集計結果を前に、目を丸くしていた。


「……えっ、ちょっと待て。今回のスパチャ、全部で50400円もあるのか!?」


「えっ、そんなにぃ?」


乙羽もスマートフォンの画面を覗き込む。


配信で集まったスパチャの総額は、50400円。


それを3人で分けると、1人あたり16800円になる。


「1人、16800円……。いや、すごくないか、これ! 学生が一回の配信でもらう金額じゃないだろ!」


柳は興奮した様子で、何度も集計結果を確認していた。


「確かに、学生にとってはかなりの金額だな。だが、これで満足せず、次回も同じように支援してもらえるとは限らない。配信の内容も、攻略の実力も、もっと磨いていく必要があるだろう」


琴はそう言いながらも、金額の大きさには驚いているようだった。


「わぁ……。16800円あったら、明日の学食、何食べようかなぁ」


「乙羽! 私のお菓子も忘れてはダメですよ?」


「いや、そこはまず使い道を考えようぜ!?」


柳が思わず突っ込む。


「まぁ、ほぼ乙羽頼みの攻略だということを忘れるな。今回だけでも危ない場面はいっぱいあったのだからな」


琴は冷静に釘を刺した。


「えぇ……。でも、頑張ったのはみんなだよぉ?」


「それはそうだが、次も同じようにいくとは限らない。だからこそ、今回の反省は必要だ」


「……そうだな。よし、次も頑張るか!」


柳は気を取り直すと、ぐっと拳を握った。


「そういえば先生の取り分はどうするんだ?」


柳に尋ねられ、乙羽は少し考えてから答えた。


「あー、私と先生で1人分でいいからぁ。多分、先生のグッズのオファー、私達より先に来そうだよねぇ……。契約者は先生になるだろうし、それでいいんじゃないかなぁ」


「確かに、もう固定ファンもいるみたいだしな」


「私の食べる量は、乙羽の食事を少し分けてもらうだけでお腹いっぱいになりますからね。他に学校で欲しいものも特にありません」


リーゼロッテは、何の問題もないという顔でうなずいた。


「……先生、お菓子は別腹なんだねぇ」


「もちろんです!」


配信の収益を確認し、これからのグッズ販売や学食の話でひとしきり盛り上がったあと。


柳が、ふと思い出したように手を叩いた。


「……って、そうだ! せっかくだし、今回の反省会しようぜ!」


「反省会?」


乙羽が首を傾げる。


「そうそう。今回のダンジョン配信、いろいろあっただろ? 次もやるなら、ちゃんと振り返っといたほうがいいじゃん」


「まぁ、それは必要だな」


琴も頷いた。


「配信そのものだけでなく、ダンジョン攻略についてもだ。今回、危険な場面がなかったわけではない」


「えぇ……。私、明日の学食のことを考えてたのにぃ……」


「乙羽、現実逃避するな!」


「してないよぉ……。明日のご飯は大事だよぉ……」


「それは否定しないが、今は反省会だ」


琴が淡々と告げると、柳はスマートフォンを取り出した。


「よし! じゃあ、場所はファミレスでいいか? 食いながら話せば、ちょうどいいだろ!」


「賛成です。乙羽、お菓子も頼んでいいですか?」


「先生、それ反省会に必要かなぁ……?」


「もちろんです。頭を使うと糖分が必要になりますから」


「先生は頭を使わなくても食べるよねぇ……」


「乙羽、何か言いましたか?」


「な、なんでもないよぉ!」


こうして一行は、ダンジョンから学校へ戻る途中にあるファミレスへ向かうことになった。


ファミレスに到着した一行は、奥のテーブル席に腰を下ろした。


それぞれがメニューを開き、飲み物や食事を注文していく。


乙羽は自分の注文を済ませると、店員を呼び止めた。


「あ、すみませぇん。ストローと小皿も一緒にお願いできますかぁ?」


「かしこまりました」


やがて注文した品が運ばれてくる。


乙羽は自分のチーズケーキとソフトクリームをテーブルに置くと、小皿を使って少しずつ取り分けた。


「はい、先生。どうぞぉ」


「ありがとうございます、乙羽」


リーゼロッテは嬉しそうに小皿を受け取る。ストローを使って飲み物を口にしながら、取り分けられたデザートを眺めていた。


その様子を見て、柳が首を傾げる。


「先生、それで足りるのか?」


「ええ、十分ですよ」


「いや、ほら。今日はかなり助かったしさ。スパチャのお金は学校の外じゃ使えないけど、みんなで出してもいいぞ?」


柳の言葉に、琴も頷いた。


「今回の攻略では、先生にも世話になったからな。遠慮する必要はない」


しかし、リーゼロッテは首を横に振った。


「いえ。元々、乙羽の頼んだ分を少し分けてもらっているだけなので、問題ありません。ただ……」


そこで、リーゼロッテの言葉が途切れた。


視線が、ちらりとテーブルの向こうへ向く。


「……ただ?」


琴が不思議そうに尋ねる。


「先生、なんかあるなら言えよ?」


柳も心配そうに顔を覗き込んだ。


乙羽は2人の様子を見て、そっとため息をついた。


「たぶん……あれだよぉ……」


そう言って、乙羽は指を伸ばした。


その先にあったのは、店内の壁に貼られた大きなポスターだった。


人気アニメとのコラボキャンペーンを告知するもので、限定メニューの写真と、注文特典のグッズが大きく掲載されている。


リーゼロッテの目が、きらりと輝いた。


「そうなのです!」


「やっぱりかぁ……」


乙羽が小さく呟く。


リーゼロッテは身を乗り出し、2人に向かって力強く告げた。


「私のことを心配してくださるのでしたら、あのコラボメニューを注文して、グッズをいただけると嬉しいです!」


「そっちかよ!」


柳が思わず声を上げた。


「ですが、コラボメニューは量が多いものもありますからね。私1人では食べきれません。ですので、皆さんにも協力していただければと」


「つまり、みんなでコラボメニューを食べて、先生にグッズを渡せばいいってことか?」


「その通りです!」


リーゼロッテは満面の笑みで頷いた。


琴はポスターと先生を交互に見て、静かに息を吐いた。


「……なるほど。先ほどから気にしていたのは、これだったのか」


「えへへ……。先生、ほんとに地球の文化が好きだよねぇ……」


乙羽は呆れ半分、微笑ましさ半分といった顔で先生を見た。


柳もポスターを見上げてから、苦笑した。


「ま、まぁ、あたしが食いたいメニューもそれだったしな。グッズには興味ないから、もらってくれていいけどさ……」


そして、改めてリーゼロッテを見る。


「……ほんとに地球の文化にはまってるんだな、先生」


「ええ。こちらの世界には、まだまだ知らない楽しいものがたくさんありますから!」


リーゼロッテは胸を張って答えた。


その表情は、ダンジョン攻略中に罠を見抜いていたときよりも、ずっと輝いているように見えた。


「……先生、ダンジョンのときより楽しそうだよぉ」


「気のせいです、乙羽」


「絶対気のせいじゃないよぉ……」


こうして反省会は、始まる前からコラボメニューの注文会議へと脱線しかけていた。

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