↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
殴り賢者はバレている  作者: 七風


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
39/229

(先生ぇ……そういうのは先に言ってほしいよぉ……!)

「よーし! それじゃあ、第二回ダンジョン配信、始めていくぜ!」


 柳の元気な声とともに、配信がスタートした。画面にはいつもの石造りの通路が映し出され、コメント欄が少しずつ流れ始める。今日はスパチャも解禁されている。前回よりも賑やかな配信になりそうだった。


『スパチャ解禁おめでとう!』

『今日はどこまで潜るんだ?』

『乙羽ちゃん、今日もかわいい!』


「おっ、さっそくコメント来てるな! ありがとな!」


 柳が笑顔で手を振った、その直後だった。


『SHIZUKA:解禁おめでとう お小遣いだ がんばれよ!(30000円)』


「……は?」


 柳が固まった。


「えっ、SHIZUKAさんから?!」


 琴も思わず画面を見つめる。昨日、二人ともSHIZUKAと話をしたばかりだ。そんな相手が配信に来てくれただけでなく、いきなり三万円も投げてきたのだから驚くのも無理はない。


「す、すごいな……本当に見てくれているんだな」


 琴はいつもより口数が少ないながらも、明らかに動揺していた。Sランク冒険者が自分たちの配信を見ているというのは、やはり緊張するらしい。


 一方、乙羽は頬を赤くして、画面の向こうにいる姉を思い浮かべた。


「お、お姉ちゃん、家で言えばいいのにぃ……」


 思わずこぼれた声は、配信にも拾われていた。


『お姉ちゃん呼びかわいいw』

『身内から三万円は強すぎる』

『SHIZUKAさん、気前よすぎだろ!』


 乙羽はますます恥ずかしくなり、少しだけうつむいた。


(うぅ……みんなに聞かれちゃったよぉ……)


 でも、わざわざ配信に来て応援してくれたのは、やっぱり嬉しい。口元が緩みそうになるのを、乙羽はなんとかごまかした。


「三万円……私の取り分は、いくらになるのでしょう?」


 リーゼロッテが画面を覗き込み、何やら真剣に考え始めた。


「これだけあれば、スカブルのガチャを……」


『先生、この配信スパチャは学校で使えるお金だから課金はできないよぉ?』

『学食とか購買とか装備販売所で使うやつだろw』

『先生、まさか課金する気だったのかwww』

『スパチャをソシャゲの課金に使おうとするなw』

『計画立ててたのかよwww』


「…………え?」


 リーゼロッテの表情が止まった。しばらく画面を見つめたあと、目に見えて肩を落とす。


「そう、でしたか……」


「先生、そんなに落ち込むことあるか?!」


 柳のツッコミに、コメント欄が笑いで埋まった。


 やがてSHIZUKAのスパチャ騒ぎが落ち着いたころ、また新しい通知が表示される。


『政宗:まだお前らの実力を見せてもらったわけじゃないからな!(1000円)』


「お、主席パイセンかよ」


 柳がコメントを読み上げると、琴が少し首を傾げた。


「先輩も見ているんですか?」


「へぇ……主席の人なんだぁ」


 乙羽が何気なく呟く。


『名前覚えられてないwwww』

『昨日あんなに話したのにwww』

『政宗くん、存在は認識されてるぞ! よかったな!』

『主席って肩書きで認識されてて草』


「いや、本人が聞いたら泣くぞ、それ!」


 柳は笑いながらコメントにツッコミを入れた。乙羽は政宗の顔を思い出そうとしたものの、どうにもはっきりしない。


(えっとぉ……昨日の、あの人だよねぇ……?)


 名前と顔が結びついていないことに、乙羽は内心で申し訳なくなった。けれど、今さら聞き直すわけにもいかない。


「ま、まあ、見てくれてるなら頑張らないとな。まずは行けるとこまで行く、ってことでいいんだよな?」


 柳が確認すると、琴も頷いた。


「ああ。乙羽、今回も支援魔法をよろしく頼む」


「おう、乙羽! 支援魔法頼むわ!」


「はぁい。任せてねぇ」


 乙羽は二人に支援魔法をかけた。身体強化に反応速度の強化、防御面の支援も加えておく。前回も経験している二人は、魔法の効果を確かめるように軽く身体を動かした。


「おお、やっぱり動きやすいな!」


「反応もいい。これなら戦いやすそうだ」


 二人が準備を整えたところで、リーゼロッテが乙羽に尋ねる。


「さて、今日は私はどうしましょう?」


「先生が参加するとぉ……すぐに敵が消えそうだよぉ?」


「そうだな。先生が倒すとマジであたしらの配信が先生主役になっちまうしな」


「そうだな。先生には休んでいてもらってもいい」


「そうだねぇ。危なくなったら助けてねぇ」


「ふむ……」


 リーゼロッテは少し考えると、すっと片手を掲げた。


「サモン! 我が声を聞き、姿を現せ!」


 彼女の前に魔法陣が浮かび上がり、淡い光が広がっていく。その光の中から現れたのは、子犬ほどの大きさをした銀色の狼だった。ふわふわの毛並みに、つぶらな瞳。見た目だけなら、とても強そうには見えない。


「わぁ……かわいい!」


 乙羽の顔がぱっと明るくなった。銀色の狼はリーゼロッテの足元に寄り添い、嬉しそうに尻尾を振る。


『召喚獣が召喚獣を召喚するな!』

『待て待て、先生は召喚獣じゃないだろw』


「失礼な! 私はフェアリープリンセス、獣ではありませんよ!」


 リーゼロッテが胸を張る。


「フェンちゃんは幻獣ですが」


『結局そっちは幻獣なのかよ!』

『フェンちゃん? まさかフェンリルか?!』

『やっぱりフェンリルくさいんだが!』

『先生の召喚獣だろ? 絶対なんかもってる!』


 コメント欄がざわつくが、正体についてはまだ誰にも分からない。


 リーゼロッテはフェンちゃんの背中にひょいと乗り、満足そうに頷いた。


「では、私はお友達に乗って、皆さんをサポートしましょうか」


「お、おう……あんまり派手にやらないでくれよな」


 本当に分かっているのだろうか。柳は少し不安になったものの、これ以上考えるのはやめておいた。


 一行はダンジョンの通路を進み始めた。最初の階層は、学校が推奨する低〜中難度のダンジョンらしく、石造りの通路が続いている。ところどころに分岐があり、曲がり角の先は見通せない。


「右の通路に気配がありますね。二体ほどでしょうか」


 フェンちゃんの耳がぴくりと動き、リーゼロッテが進行方向を示した。


「よし、あたしが先に行く!」


 柳が前に出る。曲がり角から現れた魔物に素早く反応し、攻撃を受け流してから一撃を叩き込んだ。支援魔法によって動きが強化されているとはいえ、相手の攻撃を見極める判断力は柳自身のものだ。


 もう一体が横から飛びかかると、琴が剣を抜き、冷静に迎撃した。魔物の動きを見切って攻撃をかわし、隙を突いて切り伏せる。


「よし、倒した!」


「問題ないな。乙羽の支援があると、かなり動きやすい」


 二人の戦いぶりを見ながら、乙羽はほっとした。


(よかったぁ……二人ともちゃんと戦えてるよぉ……)


 自分が余計なことをしなければ、二人の活躍を見てもらえる。できれば、このまま最後まで何事もなく進んでほしい。


『柳ちゃん、動きいいな!』

『琴さんの剣さばきかっこいい!』

『支援魔法ってこんなに変わるのか……』

『先生と乙羽ちゃん、さっきから余裕ありすぎない?』


「この調子なら、順調に進めそうだな!」


 柳が笑顔で言うと、琴も頷いた。


「ああ。ただ、油断はしない方がいい」


 その後も、リーゼロッテとフェンちゃんが魔物の気配を察知し、通路の先を案内してくれた。二人が敵を片っ端から倒すわけではない。あくまで進む方向を教えたり、危険を知らせたりする役目だ。


 柳と琴は何度か魔物と戦いながら、着実に通路を進んでいった。


 しかし、進むにつれて遭遇する魔物の数が増えてきた。前方から一体、さらに横道から二体。柳と琴がそれぞれ対応するものの、別方向から現れる敵まで相手にするのは難しい。


「うわっ、まだ来るのかよ!」


「柳、右だ!」


 琴が声を上げ、迫ってきた魔物を受け止める。柳も目の前の敵を押し返したが、別の一体が二人の隙を突こうとしていた。


 乙羽は二人の位置を確認した。


(ど、どうしよう……! 二人とも頑張ってるけど、あっちの魔物まで来ちゃったら危ないよねぇ……?)


 少しだけ手を貸したい。でも、自分が攻撃するとまた妙なことになるかもしれない。


(先生が最弱魔法でいいって言ってたよねぇ……みんながいない敵を狙えばいいかなぁ……)


 乙羽は二人から離れた位置にいる魔物へ視線を向け、詠唱もせずに小さな火の魔法を放った。


 次の瞬間、通路の奥で爆発が起きた。


 轟音が石壁に反響し、熱風が一行のところまで吹き抜ける。魔物の姿は爆炎の向こうに消え、周囲には焦げた跡が残った。


「…………」


 乙羽は無言で魔法を放った手を見つめた。


(えっ……あれぇ……? 最弱魔法だよねぇ……?)


 どうやら、今回も加減を間違えたらしい。


『なんだあれ……』

『殴りだけじゃねぇじゃん!』


 柳は目の前の光景を見てから、ゆっくり乙羽へ顔を向けた。


「お、おう……お前が魔法使わないってこういうことか……」


「ま、まぁまだ一層……近接で頼む……」


 琴も爆発の跡を見つめながら、なんとかそう言った。


「はぁい……」


 乙羽は小さく返事をした。


(うぅ……また目立っちゃったよぉ……。普通に手伝いたかっただけなのにぃ……)


 リーゼロッテはフェンちゃんの背中で、何事もなかったかのように微笑んでいる。


「今のは、かなり控えめな魔法だったのですが」


「先生、それは今言わなくていいから!」


 柳の悲鳴に、コメント欄はさらに盛り上がった。


 その様子を見ていた視聴者のひとりが、スパチャを送った。


『クロネコ:柳ちゃんも琴さんもかっこいい! 乙羽ちゃんも無理せず頑張って!(5000円)』


「おっ、クロネコさん、ありがとな!」


 柳がすぐに反応する。


『おお、初めて見る名前だ』

『応援スパチャ助かる!』

『クロネコさん、これからもよろしく!』


 乙羽もカメラに向かって小さく頭を下げた。


「ありがとうございまぁす……」


(応援してくれるのは嬉しいけどぉ……できれば、あんまり変なところは見られたくないよぉ……)


 もちろん、そんな心の声は誰にも届かない。


 それからも一行は慎重に進み、魔物を倒しながら通路を抜けていった。柳と琴が前衛として戦い、乙羽は二人の支援を続ける。危険な場面では無理をせず、リーゼロッテとフェンちゃんの案内も活用した。


 やがて、一行は下の階層へ続く階段を発見した。


「おっ、階段だ! よし、ここまで来られたな!」


「一度、休憩を取ろう。次の階層に進む前に、装備や体調を確認しておきたい」


 琴の提案に、柳も賛成した。階段のそばで休憩を取りながら、二人は水分を補給し、装備を確認する。乙羽もようやく一息ついた。


「思ったより順調だったねぇ」


「乙羽の支援があったからな。助かった」


「二人とも、ちゃんと戦えてたよぉ」


「おう、そう言ってもらえると嬉しいぜ!」


 柳が笑い、琴も小さく頷いた。


 そのとき、リーゼロッテが不思議そうに首を傾げた。


「ところで、皆さんは先ほどから地図を気にしていましたが……地図を書くなんて効率が悪いのでは? 私、空間魔法でこのダンジョンの階層把握できますが?」


「……え?」


 乙羽は目を丸くした。


「それはやくいってほしかったよぉ……」


『マッパーいらず!www』

『どんだけチートなんだ!』

『探索の常識が壊れていくwww』

『先生、できることは最初に全部教えてください!』


 乙羽は両手で顔を覆った。せっかくみんなで道を確認しながら進んできたのに、まさか先生が最初から階層を把握できたとは。


(先生ぇ……そういうのは先に言ってほしいよぉ……!)


 リーゼロッテはきょとんとしている。


「聞かれませんでしたので」


「そういう問題じゃないよぉ……!」


 乙羽の悲鳴が、ダンジョンの通路に響いた。


 そして配信画面には、最後のスパチャが表示された。


『SHIZUKA:リーゼロッテあとで何が出来るかをパーティーで共有しておきなさい(100円)』


 乙羽はその通知を見て、深々と頷いた。


「……はぁい」


 第二回ダンジョン配信は、まだ始まったばかりだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。