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殴り賢者はバレている  作者: 七風


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「学校の購買って、グッズまで売ってるのぉ?」



 昼休みが終わり、午後の授業が始まった。


 教壇に立った伊達先生は、出席簿を机に置くと、教室を見渡した。


「よーし、午後は学内施設の見学だ。冒険者として活動するうえで必要な設備や、学校生活で使う施設について説明していくぞー」


 生徒たちが席に着くと、伊達先生は黒板にいくつかの施設名を書き出した。


「今日見てもらうのは、購買と装備販売所だ。購買は普通のコンビニと同じようなもんだが、ここには学校ならではの商品も置いてある。それから、装備販売所は武器や防具、回復アイテムなんかを扱っている。冒険者を目指すお前たちには、どちらも利用する機会が多いだろうなー」


「装備販売所か! 武器とか、いろいろ置いてあるんだよな?」


 柳が楽しそうに尋ねた。


「もちろんだ。武器も防具も、種類はいろいろあるぞー。ただし、強そうだからって適当に選ぶんじゃないぞ。自分の適性や戦い方に合ったものを選ぶのが大事だからな」


「なるほど……。実際に手に取って、重さや扱いやすさも確認したいところだな」


 琴も興味深そうに頷いた。


 その横で、乙羽はぼんやりと考えていた。


(かわいいアクセサリーとかもあるのかなぁ……。せっかくスパチャが使えるなら、何か買ってみたいなぁ)


 冒険者としての装備には、それほど興味がない。


 けれど、かわいいものを買うのは好きだった。


「それと、もう一つ説明しておくぞー」


 伊達先生が黒板に向き直る。


「昨日の配信が終わってから、お前たちのスパチャ登録を学校側で済ませておいた。だから、次の配信からは本格的にスパチャを受け取れるようになるぞー」


「おおっ! マジか!」


 柳が身を乗り出した。


「じゃあ、これからは配信で稼いだ分を装備に回せるんだな!」


「そういうことだ。学校の配信アカウントで受け取ったスパチャは、学園専用アプリの残高に反映される。パーティーで獲得した分は、登録してある分配ルールに従って各自の残高に加算される仕組みだ」


「つまり、三人で均等に分ける設定なら、三万スパチャを獲得したら一人一万スパチャになるんですね」


 琴が確認する。


「そうだ。学食や購買、装備販売所で使えるから、活動に必要なものはそこから買うといい。装備や回復アイテムにも金はかかるからなー」


「なるほどぉ……。配信って、ちゃんと活動資金にもなるんだねぇ」


 乙羽は感心したように頷いた。


(これで、かわいいアクセサリーも買えるんだぁ……!)


 少しだけ、配信に対する印象がよくなった。


「ただし、どれだけスパチャが集まるかは配信次第だ。必ず稼げるわけじゃないからなー。残高を確認して、計画的に使うんだぞー」


「わかってるって! よーし、次の配信も頑張ろうぜ!」


「私も、活動資金の管理はきちんと考えておきたいな」


 柳と琴がそれぞれ意気込む。


 一方、乙羽は小さく頷きながら、別のことを考えていた。


(うーん……。目立つのは嫌だけど、お金がもらえるのは嬉しいんだよねぇ……。どうしよぉ……)


 そんな乙羽の内心を知ることなく、伊達先生は説明を続けた。


「さて、購買では食べ物や日用品だけじゃなく、卒業生や人気のある在校生のグッズも販売している。アクリルスタンドや缶バッジ、キーホルダーなんかだなー」


「へぇ、卒業生のグッズもあるんだ!」


 柳が反応する。


「そうだ。卒業生の中には、今では有名な冒険者配信者になっている人もいるからな。在校生でも、配信で人気が出ればグッズが作られることがある」


「グッズって、学校が作っているんですか?」


 琴が尋ねた。


「いや、学校が勝手に作るわけじゃないぞー。グッズを作りたい会社があれば、本人と学校、それからグッズ会社の三者で話し合う。どんな商品を作るのか、売上を何%ずつ分けるのか、制作前に契約で決めるんだ」


 伊達先生は、黒板に「本人・学校・グッズ会社」と書いた。


「材料の調達や製造費用は、基本的にグッズ会社が負担する。本人が最初にお金を出す必要はない。その代わり、会社は売れるかどうかを考えて商品を作るわけだなー」


「なるほど……。会社も商売だからな」


 琴が納得したように頷く。


「個人のグッズなら本人の収入になるが、パーティー全体のグッズなら、パーティーの収入にすることもできる。分配方法は契約時に決めるんだ」


「じゃあ、ティンカーベルのグッズが売れたら、あたしたち三人の収入にもなるってことか!」


「そういう契約にすればな」


 柳は嬉しそうに笑った。


「いいじゃん! 配信だけじゃなくて、グッズでも収入が入るなら、装備を買う余裕もできるだろ!」


「まあ、そう簡単に話が来るとは限らないがなー」


 伊達先生はそう言ってから、三人に視線を向けた。


「ちなみに、お前たち一席から三席のグッズについては、まだ制作したいって話は来ていないぞー」


「えっ」


 柳の笑顔が止まった。


「ま、まだなのかよ!?」


「まだだな。ただ、お前たちは入学試験の上位三人だ。学校の顔みたいなもんだから、そのうち話が来ると思っておけよー」


「わ、私たちのグッズ……?」


 琴は少し落ち着かない様子で、自分の髪をそっと触った。


 乙羽は慌てて首を振る。


「ええっ!? 私のグッズなんて、作りたい人いるのぉ……?」


「いや、乙羽は昨日の配信で十分目立ってただろ!」


「そ、そうだけどぉ……! 目立ちたくて目立ったわけじゃないんだよぉ!」


 柳のツッコミに、乙羽は困ったように頬を膨らませた。


 すると、肩の近くを飛んでいたリーゼロッテが、嬉しそうに両手を合わせた。


「乙羽のグッズですか! ぜひ、かわいらしい衣装で作っていただきたいですね!」


「先生ぇぇ! まだ決まってないよぉ!」


「ですが、もし作るのであれば、デザインは大切です。髪飾りや衣装にもこだわりたいですね!」


「なんで先生がそんなに乗り気なのぉ!?」


 柳が声を上げて笑い、琴も口元を押さえて小さく笑った。


 伊達先生は軽く咳払いする。


「まあ、実際に話が来たら、契約内容をよく確認してから考えればいい。自分の名前や姿を使うんだからな。条件を聞いて、納得できなければ断ってもいいぞー」


「は、はい……!」


 乙羽はこくこくと頷いた。


 グッズを作るかどうかは、まだ分からない。


 けれど、もし作ることになったら――。


(……かわいいのがいいなぁ)


 そんなことを考えてしまう自分に、乙羽は小さく苦笑した。


 目立ちたくない。


 できれば普通の学校生活を送りたい。


 それでも、かわいいものには心が惹かれてしまうのだった。


     *


「よし、それじゃあ実際に見に行くぞー。まずは購買だ。いつも使っている場所だが、今日はグッズ売り場を中心に見てもらうからなー」


 伊達先生に続いて、生徒たちが教室を出た。


 数分後、一行は校舎一階の購買に到着した。


 おにぎりやパン、飲み物、お菓子に日用品。普段から見慣れた商品が並ぶ店内を抜け、伊達先生は奥の売り場へと案内する。


「こっちがグッズ売り場だ。卒業生のグッズや、今人気のある在校生のグッズが置いてあるぞー」


「おおっ! すげえ!」


 柳が棚を覗き込んだ。


 そこには、剣を構えた冒険者のアクリルスタンドや、配信でおなじみの衣装を着た生徒の缶バッジ、パーティーのロゴが入ったキーホルダーなどが並んでいた。


「本当にいろいろあるんだな……」


 琴も感心したように商品を眺めている。


「この先輩、配信で見たことあるぞ! もうグッズになってるのか!」


「人気が出れば、こういう商品が作られることもあるってことだなー」


 伊達先生が説明する。


 乙羽は、棚に並んだアクリルスタンドを一つずつ見て回った。


「わぁ……。この衣装、かわいいねぇ」


 目に留まったのは、淡い色の衣装を着た女性冒険者のグッズだった。


 武器を構えた凛々しい姿もあれば、普段着で微笑む姿もある。


「こういうのも作れるんだぁ……」


「乙羽、気になるのか?」


「うん。かわいいなぁって思ってぇ」


 柳は笑いながら、乙羽の肩を軽く叩いた。


「お前もそのうち作られるかもしれないぞ!」


「ええっ!? だから、そういうのはまだ決まってないよぉ!」


「まあまあ、可能性の話だって!」


 琴も、棚に並んだグッズを見ながら少しだけ頬を赤くした。


「自分の姿が商品になるというのは、想像すると不思議な感じがするな……」


「琴なら、剣を構えた姿が似合いそうだよな!」


「そ、そうだろうか……?」


 琴は少し照れくさそうに視線を逸らした。


 そのとき、乙羽の目が棚の端にある小さな掲示に止まった。


 そこには、今期入学の主席から三席までの名前が並んでいた。


 音無乙羽。

 桜庭柳。

 柳生琴。


「……ん?」


 乙羽は掲示をじっと見つめた。


「えっ……私たちの名前があるよぉ!?」


 柳と琴も慌てて掲示を覗き込む。


「はぁ!? マジじゃん!」


「こ、これは……」


 掲示には「グッズ制作企画候補」と書かれていた。


 ただし、商品見本はまだなく、販売予定も決まっていない。


 伊達先生が説明する。


「ああ、それか。上位三人は学校の広報でも紹介しているからな。グッズ制作の候補として、名前だけ先に掲示してあるんだ。まだ会社から正式なオファーが来たわけじゃないぞー」


「な、なんだぁ……。びっくりしたよぉ……」


 乙羽は胸を撫で下ろした。


 けれど、掲示をもう一度見上げてしまう。


(……でも、もし作られるなら、どんなのになるのかなぁ?)


 少しだけ気になってしまったのだ。


 リーゼロッテは、すでに乙羽の横で目を輝かせていた。


「やはり、乙羽のグッズはかわいらしいものがよいですね! 髪飾りをつけた姿など、きっと素敵だと思います!」


「先生ぇ……! だから、まだ作るって決まってないんだよぉ!」


「ええ。ですから、今のうちに希望を考えておくのです!」


「なんでぇ……!?」


 柳は腹を抱えて笑い、琴もこらえきれずに口元を緩めた。


 伊達先生は、そんな四人を見て肩をすくめた。


「まあ、そういう話が来たら、契約内容をよく確認してから考えればいい。自分の名前や姿を使うんだからな。条件を聞いて、納得できなければ断ってもいいぞー」


「は、はい……!」


 乙羽はこくこくと頷いた。


 グッズを作るかどうかは、まだ分からない。


 でも、もし作ることになったら――。


(……かわいいのがいいなぁ)


 乙羽はそんなことを考えながら、売り場を後にした。


     *


 購買の見学を終えた一行は、次の施設へ向かった。


「次は装備販売所だ。こっちは購買とは別の施設で、武器、防具、回復アイテム、各種消耗品を扱っている。冒険者として活動するなら、こっちを利用する機会も多くなるぞー」


 伊達先生の説明を聞きながら、乙羽たちは校舎の反対側へと歩いていく。


 装備販売所の入口には、武器や防具を展示したショーケースが見えた。


「おおっ、武器がいっぱいあるじゃん!」


 柳が目を輝かせる。


「剣だけでも、ずいぶん種類があるんだな……」


 琴も真剣な顔で店内を見つめた。


 その一方で、乙羽の視線は入口脇の小さな棚に引き寄せられていた。


 そこには、魔力補助の効果があるというアクセサリーが並んでいる。


 青い宝石のついた髪飾り。

 小さな星をあしらったブレスレット。

 花の形をしたペンダント。


「わぁ……かわいい……!」


 乙羽は思わず棚に近づいた。


「乙羽、そっちは魔力補助装備の売り場だぞー。魔法師なら、効果も確認して選ぶんだぞ」


「はぁい!」


 返事をしながら、乙羽は青い宝石の髪飾りを手に取った。


 説明書きには、魔力の流れをわずかに整える効果があると書かれている。


「……へぇ~」


「どうだ? 気に入ったのか?」


「うん! かわいいから、これがいいなぁ!」


 伊達先生は、説明書きと乙羽の顔を交互に見た。


「いや、効果も確認したほうがいいぞ? 魔力制御を補助する装備だから、魔法師にとっては大事なものなんだが……」


「えっ、そうなのぉ?」


 乙羽は説明書きをもう一度見た。


「でも、かわいいし……。効果には、そんなに期待してないかなぁ」


「いやいやいや! そこは期待しろよ!」


 柳が思わず突っ込んだ。


「魔力補助装備なんだぞ!? 見た目だけで決めるのかよ!」


「だ、だってぇ……。なくても困らないしぃ……」


「乙羽、それは装備を選ぶ基準としてどうなんだ……?」


 琴も困惑していた。


 もちろん、乙羽は自分の魔力制御が悪いことを気にしている。けれど、これまでの経験では、魔力補助装備がなくても大抵のことはできてしまうのだ。


 だから、今は性能よりも見た目が気になっていた。


(だって、せっかくスパチャで買えるんだもん……! かわいいアクセサリーくらい、つけてみたいよぉ……!)


 リーゼロッテは、そんな乙羽を見て嬉しそうに頷いた。


「いいと思いますよ、乙羽。気に入ったものを身につけるのも、大切なことですからね!」


「先生、そこは性能も確認するように言ってください!」


 琴が思わず声を上げる。


「もちろん、性能も大切です。ですが、乙羽が気に入ったものを選ぶのもよいことではありませんか?」


「そ、それはそうですが……!」


 琴は言葉に詰まった。


 柳はとうとう笑い出す。


「ははっ! まあ、乙羽らしいっちゃ乙羽らしいな!」


 乙羽は髪飾りを胸元に抱え、少しだけ頬を緩めた。


「えへへ……。これ、買ってもいいかなぁ?」


「もちろんだ。残高と相談して、必要な装備も忘れずに揃えるんだぞー」


「はぁい!」


 乙羽は嬉しそうに頷いた。


 こうして、装備販売所の見学は始まった。


 柳は武器の性能を確かめ、琴は剣の重さやバランスを真剣に調べている。


 そして乙羽は、かわいい髪飾りを手にしたまま、ほかにも気に入るものがないかと棚を眺めていた。


(うん……! 学校生活って、意外と楽しいかもぉ!)


 もちろん、目立たずに過ごしたいという目標は変わらない。


 ただし、かわいいものを見つけたときだけは、その目標が少しだけ後回しになってしまうのだった。

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