「先生は黙っててぇ……!」
魔物の群れを片づけた一行は、少し広い通路で休憩を取ることになった。
静は全員の様子を見渡し、腕を組んだ。
「それじゃあ、さっきの戦闘について総評していくわね」
その言葉に、政宗たちは姿勢を正した。
「まず政宗君。指示の出し方はよかったわ。敵の数と配置を見て、前衛と後衛の役割をすぐに分けられていたし、自分も状況に合わせて動けていた。少し周囲の評価を気にしすぎるところはあるけど、指揮役としての素質は十分あると思うわ」
「……ありがとうございます」
政宗は少し複雑そうな顔をしたものの、素直に頭を下げた。
「次に琴ちゃん。剣の扱いは丁寧だし、間合いの取り方もいいわね。剣術道場でしっかり鍛えられてきたのがわかるわ。ただ、相手の動きに合わせることに集中しすぎて、周囲への注意が少し薄くなる場面があったわね。自分が対処している敵だけじゃなく、仲間の位置も意識するともっとよくなるわ」
「は、はい! ご指摘、ありがとうございます……!」
琴は緊張しながらも、真剣に頷いた。
「柳ちゃんは、短剣の扱いと立ち回りが上手ね。相手の死角に入る判断も速いし、周りの地形を利用するのも得意みたい。ただ、勢いで動きすぎるところがあるから、仲間との距離には気をつけてね」
「おう! わかった! いやぁ、シズチャンに直接アドバイスもらえるなんて最高だな!」
「ふふっ、ちゃんと次の戦闘で活かしてね」
「もちろん!」
柳は満面の笑みで拳を握った。
静はそんな柳に微笑み返し、最後に乙羽へと視線を向けた。
「……それで、乙羽なんだけど」
「は、はいっ!」
乙羽はびくっと肩を震わせた。
(き、来たぁ……! どうしよう、何を言われるのかなぁ……!)
静は少し考えるように目を細めた。
「正直、乙羽のことはまだよくわからないわね」
「えぇ……」
思わず声が漏れた。
「だって、あなたの魔力量は明らかに普通じゃないもの。それだけの魔力があるなら、できることも多いはず。でも、どこまでできて、何ができないのか……今の段階では私にも判断できないわ」
静は隣に浮かぶリーゼロッテへ目を向けた。
「そのあたりは、ずっと乙羽を教えてきたリーゼロッテにしかわからないのかもしれないわね」
「えぇ……」
乙羽は困ったように頬を引きつらせた。
(ど、どうしよう……! 先生に聞かれたら、また余計なことまで話されちゃうよぉ……!)
しかし、リーゼロッテは静の言葉に満足そうに頷いただけだった。
「乙羽は本当に努力家ですからね。教えたことは、きちんと身につけてくれますよ」
「先生ぇ……!」
「ふふ、何ですか?」
「な、何でもないよぉ……」
乙羽は一度視線を泳がせてから、恐る恐る口を開いた。
「えーっとぉ……先生が教えてくれることは、だいたいできるんだけどぉ……。魔力の調整が難しくて、怖くて使えないものもあるんだよぉ……」
「魔力の調整?」
静が聞き返す。
「う、うん。ちょっと加減を間違えると、思ったより強くなっちゃったりするからぁ……」
(これで、魔法はあんまり使いたくないってわかるよねぇ……? お願いだから、これ以上は聞かないでぇ……!)
乙羽は内心で必死に祈った。
ところが、政宗は何かに納得したように頷いた。
「なるほど……。つまり、その妖精が君に大量の知識を教え込んでいるものの、魔力の制御が十分にできていないということか」
「そ、そう! それだよぉ!」
乙羽は勢いよく頷いた。
「だから私は、魔法を使うより殴った方が早いのかもぉ……」
「……なるほど」
静は顎に手を当て、先ほどの戦闘を思い返した。
「確かに、先ほどの支援魔法も無詠唱だったわね。魔力の調整が難しいから、攻撃魔法はあまり使いたくない……。でも、身体強化や支援魔法なら使いこなせる」
「う、うん……!」
「それなら、拳に少し属性を纏わせて殴るという戦い方も考えられるわね。身体強化もできるなら、近接戦闘を主体にした魔法格闘術……といったところかしら」
「……えっ?」
乙羽は固まった。
(ま、待ってぇ!? なんか、すごくそれっぽい戦い方になってないぃ!?)
静は妹の反応を、別の意味に受け取ったらしい。
「もちろん、まだ仮説だけどね。魔法を使えないんじゃなくて、制御が難しいからこそ、確実に扱える方法を選んでいる。そう考えれば、これまでの戦い方にも説明がつくわ」
「そ、そうだねぇ……!」
(違うよぉ! 拳に属性なんて纏わせてないよぉ! 普通に殴ってるだけなんだよぉ!)
しかし、ここで否定すれば、さらに詳しく説明を求められるかもしれない。
乙羽は必死に笑顔を保った。
「えへへ……。そ、そんな感じかもぉ……」
「なるほど。理にかなった戦い方だな」
政宗まで納得したように頷いた。
「魔法師だからといって、必ずしも遠距離から攻撃する必要はない。自分の得意な戦闘距離を選ぶということか」
「そ、そうそう……!」
(お願いだから、みんな納得してぇ……! そして、もう私の戦い方について考えないでぇ……!)
静は妹の肩を軽く叩いた。
「いいじゃない。自分に合った戦い方を見つけるのは大事なことよ。まだ制御が難しいなら、無理に強力な魔法を使う必要もないしね」
「う、うん! そうだよねぇ!」
乙羽は何度も頷いた。
ようやく、魔法をあまり使いたくないという意図が伝わった。
……少なくとも、本人はそう思っていた。
「ただし、支援魔法だけに頼るのも危険だからね。これから少しずつ、できることを増やしていきましょう」
「えっ……」
「あなたならできるわよ」
「そ、そうかなぁ……」
(なんでぇ……! どうして話が前向きな指導になっちゃうのぉ……!?)
リーゼロッテが嬉しそうに頷いた。
「ええ。乙羽なら、きっともっと成長できますよ!」
「先生は黙っててぇ……!」
ダンジョンの通路に、乙羽の悲鳴が響いた。




