「なんで私が首席なのぉ……?」
「私、別に強いとか興味ないんだけどなぁ……」
乙羽は、すっかり困り果てた顔で呟いた。
「なんでこの世界にダンジョンなんてあるのぉ……。二年前まで普通だったじゃぁん……。もう何なの、この世界ぃ……」
「乙羽、それは世界中の人が疑問に思っていることなのだ。受け入れるしかないだろう?」
琴は真面目な顔で答えた。
「うぅ……。それはそうなんだけどぉ……」
「まぁ、本人がこれだけダンジョン適性が高いのに、びびって力を隠そうってのはわかるんだけどな!」
柳が腕を組み、うんうんと頷く。
「私は普通の女の子だよぉ……!」
「ふふ、仕方ありませんね」
リーゼロッテは、なぜか微笑ましそうに乙羽を見つめていた。
「いいですか、政宗君。レベル2でこれほどの力を持つ乙羽が、常識では測れない存在に少し怯えるのは仕方のないことなのです」
「いや、キミも大概だろう!?」
政宗が思わず声を上げた。
「なんで音無君の方がすごいって感想なんだ!? さっきの魔法を見ただろう! あの威力はどう考えても普通ではない!」
「それは努力したからです!」
「だから、キミも普通じゃないだろう!?」
政宗の叫びがダンジョンに響く。
しかし、リーゼロッテはまったく動じていなかった。むしろ、教え子の努力を褒められたかのように胸を張っている。
「もうぅ……。なんでみんな喧嘩するのぉ? 今日、初めてダンジョンに来たのにぃ……」
乙羽は頭を抱えた。
「視聴者さんも困ってるよぉ!」
『乙羽ちゃんの実力に困ってるんだが』
『このコンビ、見てるだけでおもしろい!』
『政宗先輩、完全にツッコミ役になってるw』
『レベル2の新人と妖精先生に振り回される二年主席』
『乙羽ちゃん、そろそろ自分が普通じゃないことを認めよう?』
「ほらぁ! みんな困ってるじゃん!」
乙羽はコメント欄を指さした。
「いや、コメントを見る限り、困っているのは君の実力についてだと思うが……」
政宗は額を押さえた。
そもそも、彼にはどうしても納得できないことがあった。
「……というか、音無君。君はなんで自分の力を隠すような動きをしているんだ?」
「えっ?」
「戦闘中もそうだ! 明らかに実力を抑えているように見える。自分の能力を正しく把握し、磨くことは冒険者にとって重要だぞ!」
「そ、そうなのぉ……?」
「そうだ! 君は主席として、もっと自覚を持つべきだろう!」
政宗は身だしなみを整え、改めて乙羽を見据えた。
「せっかく優れた能力を持っているのだから、それを隠すのではなく――」
「なんで私が首席なのぉ……」
「……は?」
政宗の言葉が止まった。
乙羽は本当に不思議そうな顔をしていた。
「私、普通に試験を受けただけだよぉ……? 首席になりたいとか、一回も言ってないのにぃ……」
「いや、入学試験の結果が――」
「それに、私は普通に学校へ通いたいだけなんだよぉ……。強いとか弱いとか、首席とか、そういうの全然興味ないのにぃ……」
「君は……」
政宗は何か言い返そうとしたが、言葉が出てこなかった。
目の前の少女は、これだけの騒ぎを起こしておきながら、本気で自分が特別扱いされる理由を理解していないようだった。
隣では、リーゼロッテがうんうんと頷いている。
「そうですね。乙羽は昔から、自分の実力を誇示することには興味がありませんでしたから」
「先生ぇ! 昔の話はしなくていいよぉ!」
「おや、これは失礼しました」
「絶対わかってないよぉ……!」
『昔からって何!?』
『先生、情報を小出しにするのやめてw』
『乙羽ちゃんの過去が気になる』
『本人は普通の学校生活を送りたいだけなのに、周囲が勝手に伝説を作っていく』
『これ、今日の配信だけで何回目の騒ぎだ?』
コメント欄は、ますます賑やかになっていく。
乙羽はそれを見て、深いため息をついた。
(どうしてぇ……。私はただ、普通に学校生活を送りたいだけなのにぃ……)
そして、改めてダンジョンの壁を見上げた。
(……やっぱり、ダンジョンって何なのぉ……?)




