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殴り賢者はバレている  作者: 七風


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「うぅ……。どうしてこうなるのぉ……」

 険悪な空気の中、リーゼロッテが冒険者たちをじっと見つめた。


「ふむ……あなた達はレベルが20、22、24。剣士、剣士、剣士……これはバランスが悪くないでしょうか?」


「…………は?」


 冒険者たちの表情が固まった。


 リーゼロッテは特に気にした様子もなく、首を傾げる。


「前衛に偏りすぎていますし、魔法による遠距離攻撃や回復を担当する方もいないようですが……。その構成で、よく毎日のようにダンジョンへ潜れていますね?」


「てめぇ……!」


 冒険者の一人が、思わず一歩前に出た。


「人のパーティーにケチつけてんじゃねぇぞ!」


「え? 私は構成について疑問を述べただけですが?」


「それがケチつけてるって言ってんだよ!」


「そうなのですか? ですが、事実ではありませんか?」


 リーゼロッテは不思議そうに瞬きをした。


 悪意など微塵もない。


 ただ、目の前のパーティー構成に問題があると感じたので、率直に指摘しただけだった。


(せ、先生ぇぇぇ……! なんで今そんなこと言うのぉ……!?)


 乙羽は頭を抱えたくなった。


 せっかく自分が素直に同意して、これ以上揉めないようにしようとしていたのに。


 先生が自分から火に油を注いでいる。


『先生、火力高すぎるwww』

『レベルまで正確に見えてるの何?』

『剣士3人は確かに偏ってるけど!』

『フェアリープリンセス、容赦ないなw』

『乙羽ちゃんが困ってるのに追撃するなw』


 配信コメントが一気に盛り上がる。


「おい、妖精……! 俺たちがどれだけ苦労してきたかも知らねぇで!」


「ええ、知りませんよ?」


「なっ……!?」


「ですから、今の情報から判断できる範囲で申し上げたのですが……」


 リーゼロッテは本気で不思議そうだった。


「もしかして、何か間違っていましたか?」


 冒険者たちは言葉に詰まった。


 間違っているとは言い切れない。


 しかし、素直に認めるのも腹立たしい。


 そんな微妙な沈黙の中、柳が小声で呟いた。


「……先生、敵作るの上手すぎだろ」


「えっ、えっ……? どうしよぉ……。私たち、まだダンジョンに入ってないんだよぉ……?」


 乙羽の悲痛な声だけが、配信にしっかりと拾われていた。


 険悪な空気の中、乙羽が慌ててリーゼロッテの前に出た。


「ご、ごめんなさぁい! 先生、こっちの世界に来てまだ配信でしかダンジョンを知らないからぁ……。でも、分析してくれるいい子なんだよぉ? ほら、謝ろうねぇ」


 乙羽はリーゼロッテの方を向き、困ったように促した。


 まるで、いたずらをした子供をなだめるような口調だった。


 しかし、リーゼロッテは納得していない様子で首を傾げる。


「なぜです? 私の世界だとザコしかいないダンジョンなのですが」


「せ、先生ぇ……!」


 乙羽の顔が引きつった。


「マジかよ……。ここ、結構難しいダンジョンだぞ?」


 柳が思わず声を漏らす。


 このダンジョンは育成学校の実習先としても利用されているが、決して初心者向けというわけではない。奥には強力な魔物も出現し、経験を積んだ冒険者でも油断できない場所だ。


「先生……あんまり揉めたくないのだが……」


 琴も困ったようにリーゼロッテを見上げた。


 配信中ということもあって、どう対応すればいいのか判断に迷っているらしい。


 だが、冒険者たちの怒りはもう収まらなかった。


「なるほどな。今日がダンジョンデビューで、妖精を使って話題を作ろうとしてるだけなんだろ?」


 冒険者の一人が、乙羽たちを見回して吐き捨てるように言った。


「いいか? このダンジョンはまだ完全攻略できてねぇんだ! それをお前! そっちの女なら余裕でクリアできるだと? バカにするのもいい加減にしとけよ!」


「えぇ……私、何も言ってないのにぃ……」


 乙羽は困り果てた顔で呟いた。


 そもそも、ダンジョンを制覇できると言い出したのはリーゼロッテだ。乙羽自身は、目立たないようにしようと必死だっただけである。


(どうして私まで怒られてるのぉ……? 先生の発言なのにぃ……)


『乙羽ちゃん、完全に巻き込まれてるw』

『先生が自由すぎる』

『まだ入場前なのに何回揉めるんだよw』

『このダンジョン、未攻略なのか』

『妖精の発言を売名扱いしてるのか……』

『乙羽ちゃんは本当に何も言ってないなw』


 コメント欄にも、冒険者たちの言葉に疑問を持つ視聴者が出始めていた。


 柳は冒険者たちと乙羽たちの間に視線を行き来させ、深く息を吐く。


「なあ……。とりあえず、ダンジョンに入る前にこんなことで揉めるのやめないか?」


「お前らが先に失礼なことを言ったんだろうが!」


「いや、だから……」


「柳、もうよい……」


 琴が小さく柳を制した。


 しかし、カメラの前でどう話をまとめればいいのか、琴自身もまだ答えを見つけられていない。


 乙羽はリーゼロッテの袖をそっと引っ張った。


「先生ぇ……お願いだから、もう何も言わないでぇ……」


「ですが、乙羽。私は事実を述べているだけですよ?」


「そこが問題なのぉ……!」


 乙羽の小さな悲鳴が、配信に流れていった。


「……いい機会だ」


 冒険者の一人が、腕を組んで乙羽たちを見下ろした。


「お前ら学校生が、毎回ケガして帰ってくるのは迷惑だったからな。俺が本当に戦えるか見てやる!」


「おい、ちゃんと手加減してやれよ? 問題になるからな!」


 隣にいた冒険者が、念を押すように言った。


「もちろんだ! 俺もC級ランクだからな。入学したばっかの奴に、指導対戦してやるだけだからよ!」


 冒険者Aは自信満々に胸を張った。


 C級冒険者といえば、一定の実績を積み、実際のダンジョン探索にも慣れた者たちだ。入学したばかりの学生にとっては、十分に格上の相手である。


 少なくとも、普通の新人ならば。


「お前ら、ダンジョンの横に試し斬りとかできる訓練所がある。そこでやろうぜ」


 冒険者Bが訓練所の方を指差した。


「おう。あれだけ大口をたたいたんだ。俺らを納得させてみろ!」


「いや、だから大口をたたいたのは先生で……」


 乙羽の小さな抗議は、誰にも届かなかった。


『え、いきなり模擬戦?』

『相手C級かよ』

『新人に指導対戦って、まあ言い方としてはそうだけど……』

『完全に売り言葉に買い言葉になってるな』

『乙羽ちゃん、さっきから巻き込まれすぎw』


 配信コメントも、突然の展開にざわついている。


 柳は頭を抱えた。


「おいおい……面倒どころじゃねぇんだが」


 せっかく初めてのダンジョン探索を始めようとしていたのに、まさか入場前にC級冒険者との模擬戦をすることになるとは思わなかった。


「どうする……?」


 琴も困惑した表情で乙羽たちを見た。


 相手はC級冒険者。こちらは入学したばかりの学生だ。指導対戦という名目でも、配信中にケガでもさせられたら大問題になる。


 できれば穏便に断りたいところだが、相手はすっかりその気になっている。


 そのときだった。


「いいでしょう!」


 リーゼロッテが、ぱっと表情を明るくした。


「乙羽、ちょうどいいです! この無礼者たちに、あなたの実力を見せる時が来ましたよ!」


「えぇ……頼んでないよぉ……」


 乙羽の顔から、さっと血の気が引いた。


(なんでぇ……? どうして先生はそんなに乗り気なのぉ……?)


「ほら、乙羽! 行きましょう!」


「い、いやいやいや! ちょうどよくないよぉ!?」


 リーゼロッテに背中を押され、乙羽は慌てて両手を振った。


 目立ちたくない。普通にダンジョンへ入って、普通に探索して、できるだけ普通の学生として過ごしたい。


 そのために、ここまで必死に言葉を選んできたはずなのに。


(どうしよぉ……。まだダンジョンに入ってないのに、もう帰りたいよぉ……!)


『先生、完全にやる気だwww』

『乙羽ちゃん逃げてー!』

『いや、逃げたら余計に煽ったと思われそう』

『これ、どう転んでも目立つやつでは?』


 コメント欄が盛り上がる中、冒険者Aは訓練所へ向かって歩き出した。


「ほら、来いよ。口だけじゃないってところを見せてみろ!」


「うぅ……。どうしてこうなるのぉ……」


 乙羽は泣きそうな顔で、リーゼロッテを見上げた。


 しかし、先生は期待に満ちた笑顔で頷くばかりだった。

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