「それでいいよぉ……。もう、それでいいよぉ……」
「んで、あたしの意見はだな」
柳が、待ってましたとばかりに手を挙げた。
「先生をマスコットにすれば人気は出るって、前に話したな? そこで『フェアリーズ』だ!」
「ふむ。少し直球ではないか? 私は『ヨウセイノツルギ』だな」
「ツルギ要素、お前しかねぇんだわ」
柳が即座に突っ込む。
「フェアリーですか。私は正確に言えば、フェアリープリンセスとなりますよ?」
「……え?」
乙羽の顔が引きつった。
「シルフやウンディーネ、サラマンダーなどは、この世界でも聞いたことがあるでしょう? あの妖精たちは一属性に特化しているわけです。ですが、私は数千年、この世界とは違う世界で生きてきて、五属性を極めています。そのため、種族進化しているのです! すごいんですよ?」
(なんで今、そんな説明を始めちゃうのぉ……!?)
乙羽は頭を抱えたくなった。
ただパーティー名を決めていただけなのに、どうしてこんな話になっているのだろう。
「妖精の王族ってことなのか……?」
「音無、どれだけ引きがいいんだよ……。王族召喚してるじゃねぇか」
「妖精女王だと、ティターニアとか有名だよな」
「地球とは違うんだろうな、明らかに……」
教室のあちこちから、驚きや感心の声が上がる。
リーゼロッテは褒められていると思ったのか、満足そうに胸を張っていた。
「先生の世界って、どんなとこなんだ?」
柳が興味津々といった様子で尋ねた。
「確かに気になるな。妖精だけでなく、種族進化というものもあるのだろう?」
琴も真剣な表情で頷く。
(余計なこと言わないでねぇ……)
乙羽は心の中で必死に祈った。
しかし、リーゼロッテは二人の質問を受け、楽しそうに説明を始めてしまう。
「そうですね。エルフ、ドワーフ、獣人、妖精、もちろんヒューマンもいますね! それから、幻獣などは幻獣界に住んでいますが、めったに出てきません。人間の世界には勇者や聖女などもいますよ?」
「勇者に聖女……」
琴が小さく呟く。
「王制ですね。ラノベやマンガの世界だと思えばよいでしょう」
「おいおい、マジかよ! じゃあ、魔王とか魔族もいたりするのか?!」
柳の目が、さらに輝いた。
「いますよ。ただ、よく勘違いされていますが、モンスターと魔族はほぼ関係ないのです」
リーゼロッテは人差し指を立て、教師のような口調で続けた。
「魔王は魔族の王というだけですね。そして、モンスターには意思疎通が難しい、知能の低い害獣も多いのです。この世界のダンジョンは、配信を見る限りモンスターしか見ませんね」
「へぇ……。魔族とモンスターって、別物なんだな」
「つまり、魔王がダンジョンのモンスターを操っているとは限らない、ということか」
琴も興味深そうに考え込んでいる。
「そういうことですね!」
リーゼロッテは得意げに頷いた。
(先生ぇ……! 説明が詳しすぎるよぉ……!)
乙羽は机の下で、ぎゅっと拳を握った。
別に、先生が自分の世界について話すこと自体は悪くない。
ただ、あまりにも具体的すぎるのだ。
しかも、柳も琴もすっかり興味を持ってしまっている。
(パーティー名を決めるだけだったのにぃ……。どうして異世界の話になってるのぉ……?)
「よし、決めたぞ!」
柳が突然、机を叩いた。
「やっぱり『フェアリーズ』でいいんじゃねぇか? 先生の世界の話も聞けたし、妖精がいるってわかりやすいしな!」
「話を聞いたことと、パーティー名は別問題だと思うが……」
琴はまだ納得していないようだった。
「でも、覚えやすいのは確かだな」
「うーん……」
乙羽は困り果てた。
(お願いだから、もっと普通の名前にしようよぉ……)
けれど、リーゼロッテはというと。
「フェアリーズ! いい名前ですね!ですがもう少し捻ってほしいですね。」
すっかり乗り気になっていた。
(もうダメかもしれないよぉ……)
「おい、乙羽。お前、他人事みてぇじゃねぇか! あたしらのパーティー名だぞ?」
柳が、すっかり傍観者になっていた乙羽に声をかけた。
「えぇ……? ちゃんと考えてるよぉ……」
「本当か?」
「う、うん……」
琴も腕を組み、乙羽へと視線を向けた。
「乙羽の好きなジャンルの小説などを聞かせてほしい。何か参考になるかもしれない」
「んー……。神話とかはかっこいいよねぇ」
「神話か! いいじゃねぇか!」
柳が乗り気になったところで、乙羽は少し考えてから続けた。
「でも、私たちって卒業後も一緒なのぉ? 名前だけかっこよくて、解散とかしたら恥ずかしいなぁって……」
「確かに……」
柳は、さっきまでの勢いを少し落とした。
「ずっと活動するとしたら、簡単な名前じゃダメかもしれねぇな」
「だから言っただろう? 簡単に決めるなと」
「お前もさっき、ヨウセイノツルギとか言ってたじゃねぇか」
「それはそれ、これはこれだ」
「どういう理屈だよ!」
二人のやり取りを聞きながら、乙羽はぼんやりと考えていた。
(そんなに気にすることなのかなぁ……。Aチームとかでいいじゃぁん……)
「そうですね……」
リーゼロッテが、何かを思いついたように手を叩いた。
「乙羽、私、知っていますよ? この世界には『ピーターパン』という物語があるそうですね?」
「確かにあるけどぉ?」
「そこには、ティンカーベルという妖精がいるそうですね。もう、それでいいんじゃないでしょうか?」
「ティンカーベル?」
柳が首を傾げる。
「ええ。私より相当格下でしょうけど」
「おお、なんかかわいいじゃねぇか!」
柳は、すっかり気に入った様子だった。
「悪くはないな。先生も入れたパーティーだということがわかりやすいかもしれない」
琴も、今度は反対しなかった。
「確かに格下なんだろうけど……」
「言い方悪すぎだろ!」
「まあ、プリンセス先生だしな……」
教室のあちこちから、好き勝手な感想が飛んでくる。
リーゼロッテは、そんな声も気にせず満足げに頷いていた。
「ふふん。私のほうが格上ですからね!」
(そこ、張り合うところなのぉ……?)
乙羽は小さく息を吐いた。
神話だの、妖精だの、格上だの格下だの。
パーティー名を決めるだけなのに、どうしてこんなに話が大きくなってしまうのだろう。
「それでいいよぉ……。もう、それでいいよぉ……」
乙羽は机に頬を寄せ、投げやりに呟いた。
「よし! じゃあ、ティンカーベルで決まりだな!」
「待て、柳。正式に決める前に、表記も考えたほうがいいのではないか?」
「まだ考えるのかよ!?」
(お願いだから、これ以上は増やさないでねぇ……)
乙羽の願いもむなしく、二人は再び真剣な相談を始めてしまった。




