「パーティー名って、決めなきゃダメなのぉ?」
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入学してから、二週間ほどが過ぎた。
乙羽たちは今、基礎体力の訓練や武器の扱い方、ダンジョンでの注意事項など、冒険者として活動するための基礎を学んでいた。
いきなりダンジョンへ潜るわけではない。まずは安全に活動するための知識を身につけ、装備の扱い方や危険への対処を覚える。それが、この学校の方針だった。
もっとも、普通の高校とはずいぶんと違う。
この冒険者育成学校は二年制。文化祭や体育祭、部活動といった一般的な高校行事はなく、その代わりにダンジョン配信や実地訓練を通して、冒険者としての実力と経験を積んでいく。
卒業後は冒険者として活動する者もいれば、配信を中心に活動する、いわゆる冒険者芸能人のような道へ進む者もいる。
ただし、この学校ができてから、まだ二年しか経っていない。
乙羽たちは第三期生にあたる。
卒業生の実績も、まだ十分に積み上がっているとはいえなかった。
それでも、二年連続で開催された競技会は一般の人々からも注目を集めており、学校の知名度は少しずつ上がっているらしい。
そんな中、今日の授業はいつもと少し違っていた。
「さてー。今日は、お前らに決めてもらうことがあるぞー」
教壇に立った教師が、のんびりとした声で告げた。
「今までに組んでもらったパーティーで、これから活動してもらうわけだがー。その前に、パーティー名を決めて、冒険者の仮登録をしてもらわないといけないんだなー」
「パーティー名……?」
乙羽は隣に座る柳を見た。
「なんか、いよいよって感じだな!」
柳は楽しそうに笑っている。
その向こうでは、琴も話を聞きながら考え込んでいた。
「パーティー名か。今後の活動で使うのなら、きちんと考えたいところだな」
(パーティー名……。そんなものまで決めるんだぁ……)
乙羽としては、できることなら目立たずに済ませたい。
名前を決めるだけなら簡単そうだが、配信で何度も呼ばれることになるのなら、変な名前をつけるわけにもいかないだろう。
そもそも、自分は冒険者として有名になりたいわけではないのだ。
「まず、我が校では卒業時に正式な冒険者登録を行い、Cランクからスタートすることが約束されているなー」
教師は黒板に説明を書きながら続けた。
「もちろん、全員が同じ成績というわけじゃない。学校での成績や実績によって、卒業時のランクが上がることもあるわけだー」
教室の空気が少し変わった。
生徒たちが互いに顔を見合わせる。
「今年の二年生の主席については、Aランク相当での登録が妥当じゃないか、という検討もされているなー。まあ、まだ決まったわけじゃないが」
小さなどよめきが起こった。
Aランクといえば、冒険者の中でも高い実力を認められた者が到達するランクだ。
「お前らも、二年間でどれだけやれるかが将来に関わってくるぞー。実力をつけるのはもちろん、パーティーでの連携や、配信での活動も大事になってくるからなー」
教師の説明を聞きながら、乙羽はぼんやりと考えていた。
(卒業したらCランク……。成績がよければ、もっと上のランクにもなれるんだぁ……)
冒険者として上を目指したい生徒にとっては、きっと大切な話なのだろう。
けれど、乙羽にはあまり関係がなかった。
冒険者になりたいわけではないし、配信で人気者になりたいわけでもない。
ただ、友達を作って、普通の高校生らしい生活を送りたかっただけなのだ。
「乙羽、聞きましたか?」
隣でリーゼロッテが、目を輝かせながら囁いた。
「二年もここに通えるのですね! 授業もありますし、行事こそ少ないようですが、学べることはまだまだありそうです!」
「……二年とか、無駄だと思うよぉ……」
乙羽は小さな声で返した。
「えっ?」
「友達は欲しいけどぉ……。冒険者になるために二年も勉強するのは、私には長いよぉ……」
リーゼロッテは不思議そうに首を傾げた。
「ですが、乙羽。学校に通うのは、勉強だけが目的ではないのでしょう?」
「うん……。それは、そうだけどぉ」
「ならば、友達と一緒に過ごす時間も大切にすればいいではありませんか」
「……それは、そうだねぇ」
乙羽は、少しだけ表情を和らげた。
柳と琴と一緒に過ごす時間は、嫌いではない。
むしろ、楽しいと思っている。
ただ、学校で目立つのは避けたいし、配信で注目を集めるのも困る。冒険者としての実績を求められるほど、面倒なことが増えていく気がしてならなかった。
(普通に友達とお昼を食べたり、お休みの日に遊びに行ったりするだけじゃ、ダメなのかなぁ……)
「それじゃあ、まずはパーティー名を決めてくれー。仮登録の書類に必要だから、今日中に提出するようになー」
教師の言葉に、教室のあちこちで相談が始まった。
「よし、あたしたちも決めようぜ!」
柳が勢いよく振り返る。
「琴は何か考えてるか?」
「まだだ。パーティー名は配信でも使うのだろう? あまり軽々しく決めるものでもないと思う」
「うーん、たしかになぁ……。先生の名前を入れるとか?」
「私ですか!?」
リーゼロッテがぱっと顔を上げた。
「例えば『妖精と愉快な仲間たち』とか!」
「それは柳が愉快な仲間になりたいだけじゃないのぉ……?」
乙羽がぽつりと突っ込む。
「なんだよ! いい名前じゃん!」
「いや、配信で名乗るには少し恥ずかしいな……」
琴は真剣に悩んでいるようだった。
「もう少し、私たちの特徴が伝わる名前のほうがいいと思う」
「特徴かぁ……」
柳は腕を組み、うんうんと唸った。
乙羽は三人の様子を見ながら、そっと机に頬を寄せる。
(お願いだから、目立つ名前だけはやめてねぇ……)
パーティー名を決めるだけのはずなのに、なぜか先行きが不安だった。
教師は教室を見渡し、いつもの調子で話を続けた。
「まずー、冒険者ってのは大体がパーティーを組むもんだー。音無の姉、Sランク冒険者のSHIZUKAに憧れてるやつもいるだろうなー」
何人かの生徒が頷いた。
「だが、あれは規格外だと思ってくれー。ソロでダンジョンに潜るとか、冒険者一年目には考えないことー」
教師はそこで、乙羽へと視線を向けた。
「……まあ、音無妹はもう好きにさせてもいいんじゃないかー、って話も出ているがー。お前、やる気なさそうだもんなー」
「正直……あんまり目立ちたくないですねぇ……。お姉ちゃんを見てると、ファンの人がめんどうそうだし……」
乙羽は困ったように笑った。
静の配信には大勢の視聴者が集まっている。応援してくれる人がいるのはいいことなのだろうが、あれだけ注目されるのは大変そうだ。
できることなら、自分はひっそりと学校生活を送りたい。
そんな乙羽の言葉に、教室のあちこちから小声が聞こえてきた。
「余裕すぎるだろ……」
「いや、家でみっちり訓練とかさせられてるんじゃないか?」
「姉が優秀だと、妹も優秀なのか?」
「いや、妖精さんとの連携訓練を見ただろ……。あれ、手を抜いてるのバレバレだったぞ」
(なんでばれてるのぉ……)
乙羽は机の下で、そっと肩を落とした。
目立たないようにしているつもりなのに、どうしてこうなってしまうのだろう。
「なあ、乙羽」
柳が不思議そうに顔を覗き込んできた。
「お前って、なんでこの学校を選んだんだ?」
「えー……。特に理由ないなぁ……。先生が行きたがったからぁ?」
「私ですか!?」
リーゼロッテが驚いたように振り返る。
「だってぇ、先生が学校に行ってみたいって言ったんだもん……」
「そ、それはそうですが……!」
リーゼロッテは少し言葉に詰まったあと、胸を張った。
「ですが、乙羽はすでに十分な実力を持っていますよ。私も、Sランク相当の実力はあると思っています」
「先生、声が大きいよぉ……!」
乙羽が慌てて制止する。
しかし、すでに周囲の生徒たちには聞こえていた。
「Sランク相当って……」
「妖精さん、言い切ったぞ……」
「本人はやる気ないって言ってるのに、実力だけは本物なのか?」
乙羽はますます小さくなった。
(だから、そういう話を広げないでほしいんだよぉ……!)
「まあ、学校に通わなくても冒険者にはなれるんだがなー」
教師が話を戻した。
「ただし、一般の冒険者は簡単な研修を受けたら、すぐに実践だー。装備もアイテムも、基本的には自分で用意しなきゃならん。なかなか面倒なわけだー」
黒板に、学校を通じて冒険者になる場合と、個人で登録する場合の違いが書き出されていく。
「その点、この学校なら学びながら冒険者の仮登録ができる。活動すれば報酬も出るし、配信でのお布施も期待できる。実績を積みながら、卒業後に向けて準備できるわけだなー」
「なるほどぅ……」
乙羽は黒板を見つめた。
「卒業までは長いけど、ちゃんと道筋を作ってくれてるんだねぇ」
「そういうことだなー。二年間で知識も経験も積んで、自分に合った道を見つけてくれー」
「実際、前年度の卒業生は、もうファンを獲得して活動しているしな」
琴も頷いた。
「競技会で活躍した生徒は、配信を見ていた人たちからも注目されていた。学校にいる間から活動の基盤を作れるのは、利点だと思う」
「へえ……。そういう仕組みなんだな!」
柳は目を輝かせた。
「あたしもSHIZUKAみたいに、ガンガン攻める冒険者になるんだ!」
「柳なら、勢い余ってモンスターに突っ込みそうだねぇ……」
「おい! まだ突っ込んでねえだろ!」
「まだ、というところが気になるな……」
琴が真顔で付け加えた。
「琴まで!?」
二人のやり取りを聞きながら、乙羽は頬杖をついた。
(んー……。お姉ちゃんが最上級クラスにいるのもなぁ……。異世界からしたら、微妙なんだよねぇ……)
静が弱いと思っているわけではない。
地球の冒険者としてSランクにまで上り詰めたのだから、十分にすごいことなのだろう。
ただ、乙羽が異世界で見てきた強者たちと比べると、どうしても感覚がずれてしまう。
その基準を口にするわけにはいかないし、そもそも比べること自体が余計な誤解を招きそうだった。
(うん。やっぱり、余計なことは言わないようにしよう……)
「ではー、パーティー名は放課後までに決めておいてなー。決まったら、冒険者登録の手続きに行くぞー」
教師がそう告げると、教室のあちこちで再び相談が始まった。
「よし、あたしたちも真面目に考えようぜ!」
柳が机に身を乗り出す。
「目立つ名前は避けたいなぁ……」
「せっかく配信するのだから、覚えてもらいやすい名前がいいと思う」
琴は真剣だ。
「私としては、妖精の魅力が伝わる名前を希望します!」
リーゼロッテも負けじと主張する。
「ええぇ……。どうしよう……」
乙羽は三人を見比べた。
目立ちたくない乙羽。
派手に活躍したい柳。
剣術を見てもらいたい琴。
そして、マスコットとして注目される気満々のリーゼロッテ。
(この四人で、どんなパーティー名になるのぉ……?)
乙羽の不安は、まだまだ尽きそうになかった。




