「んぅ! 師匠を迎えに行こう!」
6月27日(土)
「Hello everyone! 今日もダンジョン攻略、始めるわよ!」
ヴィクトリアの配信は、横浜ダンジョン20層から始まった。
彼女はカメラに向かって軽く手を振ると、周囲を見回した。
「ティンカーベルは……前回の配信から、まだ23層のままね。今日中に23層まで行ければ、追いつくわね!」
そこで少し考え込む。
「でも、今の階層、私にしてみれば余裕なのよ。ここ、そんなに大変じゃないわ」
『翻訳さん、お願いします!』
『本人は余裕って言ってるけど、20層って普通に大変な場所では?』
『Sランクの基準で話されても困るw』
「えっと……翻訳、お願い」
ヴィクトリアがカメラの向こうにいる視聴者へ頼むと、翻訳さんがコメントを寄せた。
『翻訳さん:ヴィクトリアさんは、現在の20層は自分にとって難しい階層ではない、と言っています。一般的な冒険者にとって簡単だという意味ではありません!』
『ですよねー!』
『Sランク基準だったか』
『そりゃそうだw』
そんなコメントを眺めながら、ヴィクトリアは先へ進んだ。
やがて、広い空間へ出る。
その中央には、ひときわ大きな魔物がいた。周囲の魔物とは明らかに違う存在感。どうやら、この階層のボスらしい。
「Oh! ボス、みたいね!」
ヴィクトリアは楽しそうに目を細めた。
「じゃあ、倒すわ!」
魔物が咆哮を上げ、彼女へ向かって突進する。
しかし、ヴィクトリアは慌てない。
相手の動きを見極め、攻撃をかわし、反撃を叩き込む。魔物が体勢を崩したところへ、さらに攻撃を重ねた。
戦闘は長引かなかった。
最後の一撃を受けた魔物が倒れ、周囲に静けさが戻る。
「……大したことないわね」
『倒すの早っ!』
『ボス戦があっという間に終わったんだがw』
『さすがSランク』
『今の戦闘、ほとんど危ない場面なかったぞ』
『これがアメリカのSランク冒険者か……』
ヴィクトリアは視聴者の反応を見て、満足そうにうなずいた。
「Good! さぁ、次の階層攻略を始めるわ!」
彼女はそのまま先へと進んでいった。
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一方、その頃。
ティンカーベルもまた、横浜ダンジョンで配信を行っていた。
ただし、こちらはボス攻略ではない。
依頼で指定された品を集める、比較的のんびりとした探索だった。
「んぅ? 師匠が今22層にいるんだってぇ!」
乙羽が視聴者コメントを見て、声を上げた。
『ヴィクトリアさんの配信から来ました!』
『師匠、20層のボスを倒して先に進んでるよ!』
『今22層まで来たって! このペースなら今日中に23層行けそう!』
『ヴィクトリアさん、めちゃくちゃ速いです!』
「思ったより早かったな!」
柳が感心したように言った。
「1週間で追いつかれちゃったね」
琴もコメント欄に目を向ける。
「しょうがないわよ。私達には毎日ダンジョンに来る余裕はないんだから!」
梓は腕を組んだ。
「自由登校って言っても、序列戦とか十席会議とかも出ないとだもんねぇ」
乙羽が少し困ったように言う。
ダンジョン攻略だけに時間を使えるわけではない。学校での立場がある以上、そちらの活動もこなさなければならなかった。
「だからと言って、無理にダンジョンへ来る回数を増やす意味もありませんよ? 無茶なダンジョン計画はダメです」
リーゼロッテが釘を刺す。
「んぅ、わかってるよぉ。無理はしないからねぇ」
乙羽は素直にうなずいた。
「でも、師匠と合流出来れば、もっと早く進めそうだもんねぇ」
『確かに、Sランクが加わったら攻略速度は上がりそう』
『いや、今でも十分速いんだけどね?』
『フェンちゃんに乗って移動したら、もっと速いのでは?』
『あっ』
柳が、ぱっと顔を上げた。
「んじゃ、今日は依頼の品集めで視聴者さんもまったりしてるだろうし、たまにはフェンちゃん爆走で迎えにいくか!」
『爆走!?』
『まったり配信とは何だったのか』
『フェンちゃん出動だー!』
『ヴィクトリアさん、逃げて! いや、逃げなくていい!』
『これ、合流する瞬間を見られるのか!?』
「師匠を迎えに行こう!」
乙羽も一気に乗り気になった。
「依頼の品はどうするのよ?」
梓がもっともな疑問を口にする。
「必要な分はもう集まってるだろ?」
柳が答えると、琴が手元の確認を始めた。
「ええ、あと少しだけど……今日中に終わらせる予定だった分は、ほぼ集まってるね」
「なら問題ないわね」
梓も納得したようだった。
「先生、いいよねぇ?」
乙羽がリーゼロッテを見上げる。
「依頼に支障がなく、無茶な行程にならないのであれば、構いませんよ。ただし、フェンちゃんを走らせること自体が目的にならないように」
「はーい!」
乙羽が元気よく返事をする。
その直後、フェンちゃんが召喚された。
いつもの愛らしい姿を見せたフェンちゃんは、主人たちの様子を見て首を傾げる。
「フェンちゃん、今日はちょっと遠くまで走ってもらうぞ!」
柳が告げた瞬間、フェンちゃんの尻尾が勢いよく揺れた。
『フェンちゃん、やる気だw』
『これは速そう』
『ダンジョン内で最速のお迎え便』
『ヴィクトリアさんの配信も開いて待機しよう!』
「よーし、それじゃあ師匠を迎えに出発だよぉ!」
乙羽の声を合図に、ティンカーベル一行は移動を開始した。
依頼品集めのまったり配信は、いつの間にかヴィクトリアとの合流を目指すお迎え配信へと変わっていた。




