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殴り賢者はバレている  作者: 七風


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「ん? 止まる必要ねぇだろ?」

 6月21日(日)


ヴィクトリアの初めての横浜ダンジョン攻略配信が終了した、その日の夜。


 ティンカーベルの公式チャンネルにも、久しぶりにダンジョン攻略配信の告知が掲載された。


『本日、午後7時よりダンジョン攻略配信を再開します!』


 沖縄遠征の配信以来、しばらくダンジョン攻略の配信を休んでいたティンカーベル。


 そのため、告知が出た直後から、コメント欄やSNSは大いに盛り上がった。


『ついに来たああああ!』


『待ってました!』


『沖縄配信以来じゃないか!』


『最近は雑談や学校関係の話題ばかりだったから、そろそろ攻略が見たかったんだよ!』


『今日は何層から始めるんだ?』


『乙羽ちゃんたち、どれくらい強くなったんだろう』


『そういえばヴィクトリアさんも横浜ダンジョンに潜り始めたんだよな?』


『ティンカーベルと合流するのを楽しみにしてる!』


 配信開始を待ち望んでいた視聴者たちは、さっそく今日の攻略内容を予想し始めていた。


 そして午後7時。


 配信画面が切り替わり、見慣れた5人の姿が映し出された。


「みんなぁ、こんばんはぁ」


 乙羽が、いつものように手を振る。


「おっす! 久しぶりだな!」


 柳も元気よく挨拶した。


「こんばんは。今日は久しぶりのダンジョン攻略配信だよ」


 琴が穏やかに続ける。


「待たせちゃってごめんねぇ。今日は横浜ダンジョンを攻略していくよぉ」


 乙羽がそう告げると、コメント欄が一気に流れ始めた。


『待ってたぞー!』


『おかえり、ティンカーベル!』


『今日は何層まで行くんだ?』


『沖縄での攻略から、どれくらい進んだのか気になる!』


『ヴィクトリアさんとの合流はどうするんだ?』


『あの人、今朝から横浜ダンジョンを攻略してるんだよね?』


『合流するまで待ってるの?』


 そのコメントを見た柳が、きょとんとした顔をした。


「ん? 止まる必要ねぇだろ?」


『えっ?』


『止まる必要ないって、どういうこと?』


 柳は不思議そうに首を傾げた。


「あの人、レベルいくつだと思ってんだ? レベル82だぞ? あたしたちと合流するまで、ずっと待ってなきゃいけない理由なんてねぇだろ!」


『あっ、そういえばそうだった』


『レベル82のSランク冒険者だったな……』


『いや、でも横浜ダンジョンは初めてなんじゃ?』


『初めてでも、本人の実力なら十分進めそうだよな』


「そうだね。今までの攻略情報がある階層なら、レベル40もあればソロ攻略できる場所はあると思うよ?」


 琴が補足する。


「もちろん、敵の種類や地形との相性もあるから、誰でも簡単に進めるわけじゃないけどね。それでも、ヴィクトリアさんなら十分に攻略できる範囲はあると思う」


『琴ちゃん普通にすごいこと言ってない?』


『ティンカーベルの感覚が麻痺してるw』


「私でもソロで攻略できたし、大丈夫よ!」


 梓が自信たっぷりに言った。


『梓ちゃんもソロ攻略できるのか!』


『さすがだな……』


『ヴィクトリアさんなら、確かに問題なさそうだ』


「師匠は強いもんねぇ」


 乙羽は、のんびりと頷いた。


「ティンカーベルとの合流が目的だけどぉ、私たちが待ってるとは限らないもんねぇ」


「そういうことだな!」


 柳が笑った。


「あたしらは学生だからな。学校もあるし、毎日ダンジョンに潜れるわけじゃねぇ。潜れる時間は、どうしても限られるってわけだ」


『確かにw』


『ヴィクトリアさんは冒険者活動に時間を使えるけど、みんなは学生だもんな』


『待ってたら逆に追いつけなくなる可能性もあるのか』


『お互い攻略して、どこかで合流する感じか!』


「うん。ヴィクトリアさんが頑張って進んでいるなら、私たちも自分たちのペースで進めばいいと思うよ」


 琴はそう言って、進行方向を確認した。


「合流することは目標だけど、それまで何もしないというわけじゃないからね」


「はぁい」


 乙羽が元気よく返事をする。


 そこで乙羽は、視聴者から寄せられていた質問を見て、もう一つ説明を付け加えた。


「そうだぁ。合流した後のことも、ちゃんと話しておこうかなぁ」


『おっ、何か決まってるのか?』


『合同配信の予定とか?』


「うん。お姉ちゃんが今、45層を攻略中なんだけどねぇ。もう少し横浜ダンジョンを先まで進めたいんだってぇ」


『静さん、もう45層まで行ってるのか』


『相変わらずすごいな……』


『でも、そこから先ってどうなってるんだ?』


「まぁ、そこで私たちが静さんと合流できれば、横浜ダンジョンの未知な部分も攻略できるかもしれない、ということだね」


 琴が説明を引き継ぐ。


「これまでの攻略情報がある場所なら、事前に対策を立てられる。でも、まだ十分に調査されていない場所となると話は別だからね。人数が増えれば、探索できる範囲も広がると思うよ」


『なるほど、未知の階層をみんなで攻略するのか!』


『静さん一人じゃ調査にも限界があるもんな』


『ティンカーベルの能力もあれば、攻略の幅が広がりそう』


「一人で45層とか、大変そうだしな!」


 柳も大きく頷いた。


「静さんだけでも攻略できるかもしれないけど、きつい場面だってあるかもしれないし!」


 梓も続ける。


「それでぇ、まずは私たちとヴィクトリア師匠が合流してから、一緒に攻略していくんだよぉ。つまり、そこからは毎回コラボ配信ってわけだねぇ」


『おおおお!』


『ヴィクトリアさんとティンカーベルの合同攻略が始まるのか!』


『静さんも合流したら、すごいメンバーになるな』


『これは絶対に見たい!』


「ああ! 45層までは、そういうスタイルでやってくつもりだ!」


 柳が力強く宣言した。


「もちろん、私たちが学校に行っている間は、ヴィクトリアさんが一人で攻略を続けることもあると思うけどね」


 琴が補足する。


「でも、それも配信のアーカイブに残るわけでしょう? 攻略情報は共有できるんだから、私たちがその間の探索に参加できなくても、得られるものはあると思うよ」


『確かに、ソロ攻略の様子も見られるわけか』


『コラボの日もソロの日も、どっちも楽しめるな!』


『アーカイブで情報を確認できるのは大きい』


「そこまで先に進まれたからって、私たちも急がなきゃ!ってなる必要はないもの」


 梓が落ち着いた様子で言った。


「そうだねぇ。結果的に、私たちも45層まで行ければいいんだよぉ」


 乙羽は、いつもの柔らかな調子で頷いた。


「ヴィクトリア師匠が先に進んでくれたら、その分、私たちが知らない場所のことも分かるもんねぇ。焦らずに、できることをやっていこうよぉ」


『競争じゃなくて、協力して攻略するってことか』


『先行した人の情報を後から活用できるのは強いな』


『合流までのソロ攻略も、合流後のコラボも楽しみだ!』


 リーゼロッテも、画面の端で小さく頷いていた。


「皆さん、無理をせず、自分たちのペースで攻略を進めましょう。ヴィクトリアさんがどこまで到達するかは、本人の探索状況にもよりますからね」


『先生の言うとおりだな』


『合流を急いで無理する必要はないしな』


『でも、合流したら絶対に一緒に配信してほしい!』


『ヴィクトリアさんとティンカーベルの合同攻略、楽しみすぎる』


「もちろん、合流できたら一緒に攻略したいねぇ」


 乙羽は嬉しそうに笑った。


「でも、まずは今日の攻略だよぉ」


「そうだな! いつまでも話してても始まんねぇし、進もうぜ!」


 柳が声を上げる。


「うん。それじゃあ、今日も安全に攻略していこう」


 琴の言葉を合図に、5人はダンジョンの奥へと進み始めた。


 久しぶりの攻略配信。


 視聴者たちは、彼女たちがどこまで進むのか、そしてヴィクトリアといつ合流することになるのかを楽しみに見守っていた。


 ヴィクトリアもまた、自分の目標に向かって進んでいる。


 待つ必要はない。


 それぞれが攻略を続け、いつか同じ場所へたどり着けばいいのだから。


 こうして、ティンカーベルの横浜ダンジョン攻略も再開されたのだった。


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