「Yes! Otoha and Shizuka Otonashi!(そう!オトハとシズカ・オトナシよ!)」
冒険者協会、横浜支部。
その日、受付カウンターに一人の外国人女性が姿を現した。
金色の髪を後ろでまとめ、明るい笑顔を浮かべた女性。気さくな雰囲気ではあるが、その顔を見た職員たちは一瞬で緊張した。
(ヴィクトリア・グレイ……!?)
アメリカで活動する女性Sランク冒険者。
海外でも名の知られた実力者が、何の前触れもなく横浜支部を訪れたのだ。
受付の職員は内心の驚きを抑え、姿勢を正した。
「い、いらっしゃいませ。ヴィクトリア・グレイ様、本日はどのようなご用件でしょうか?」
声が少しだけ硬くなる。
それでも、相手は大切な来訪者だ。失礼のないよう、丁寧に対応しなければならない。
ヴィクトリアはそんな職員の緊張を気にする様子もなく、にこやかに声をかけた。
「Hey! I'd like to meet the Otonashi sisters, please!(やあ!オトナシ姉妹に会いたいのだけど!)」
「オトナシ姉妹、ですか?」
職員は一瞬だけ意外そうな顔をしたものの、すぐに頷いた。
「はい。オトハさんとシズカさんですね。お二人に何かご用でしょうか?」
「Yes! Otoha and Shizuka Otonashi!(そう!オトハとシズカ・オトナシよ!)」
ヴィクトリアは嬉しそうに頷いた。
職員はすぐに端末を確認する。
「申し訳ありません。静さんは現在、ダンジョンの攻略中です。すぐにお会いいただくのは難しいかと存じます」
「Oh, I see.(あら、そうなのね)」
ヴィクトリアは残念そうに眉を下げたが、すぐに笑顔へ戻った。
「Can I meet her younger sister, Otoha?(それなら、妹のオトハには会えるかしら?)」
「はい。乙羽さんでしたら、こちらから連絡を取ることができると思います。確認いたしましょうか?」
「That would be wonderful! Please!(それは嬉しいわ! お願い!)」
「かしこまりました。少々お待ちください」
職員は丁寧に頭を下げ、連絡の準備を始めた。
その一方で、受付の周辺では、ヴィクトリアの来訪を知った職員たちが落ち着かない様子を見せていた。
(まさか、本当にヴィクトリア・グレイが来るなんて……)
(事前の連絡もなかったはずだぞ?)
(音無姉妹に会いに来たのか……。いったい、どんなつながりがあるんだ?)
もちろん、本人に聞こえるような声で話す者はいない。
それでも、海外の有名なSランク冒険者が突然訪れたのだから、支部内がそわそわするのも無理はなかった。
そんな様子を少し離れた場所から見ていた男がいた。
鈴木太郎である。
彼はヴィクトリアの顔を見た瞬間から、ずっと気になっていた。そして、彼女がオトナシ姉妹の名前を口にしたことで、確信した。
(……あれは、アメリカのランカー。ヴィクトリア・グレイじゃないか!)
鈴木の目が輝いた。
(まさか、こんなところで会えるとはな……!これはチャンスだ!)
鈴木はすぐにスマートフォンを確認した。
配信は、すでに始まっている。
ヴィクトリアが来日することも、ここで姉妹に会おうとしていることも、本人から事前に聞いたわけではない。もちろん、配信への出演について話をつけているわけでもなかった。
それでも、鈴木にとっては絶好の機会だった。
アメリカのSランク冒険者と交流できれば、配信の注目度も上がるだろう。うまく話を進められれば、コラボや模擬戦に発展する可能性だってある。
(よし……どうにかして、こちらに話を振ってもらおう)
鈴木は表情を整え、ヴィクトリアのもとへ歩み寄った。
そのころ、ヴィクトリアは受付の職員に礼を言っていた。
「Thank you! I'll be happy to wait.(ありがとう! 喜んで待たせてもらうわ)」
彼女は受付の近くで楽しそうに周囲を見回している。
どうやら、オトハに会えるのを心待ちにしているらしい。
鈴木はそんな彼女の前に立つと、できるだけ自然な笑顔を浮かべた。
「Hello!(こんにちは!)」
ヴィクトリアが振り返る。
「あなたがヴィクトリアさんですね。俺は鈴木太郎、横浜支部で活動しているSランクです」
ヴィクトリアは鈴木を見た。
鈴木は胸を張り、相手の反応を待っていた。
だが、ヴィクトリアの関心はすぐに受付の職員へ戻りかけていた。
彼女がここへ来た目的は、最初から決まっている。
オトハとシズカ。
その二人に会ってみたい。
ただ、それだけだった。




