「ただ、そうですね。消えても問題のない時間帯は、間違いなくありますけどね」
「ダメです。夏はイベントが多くて忙しいですし、あなたたちが何年修行するつもりなのかも知りませんが、学生が長時間の予定を空けるのは難しいでしょう?」
リーゼロッテは、きっぱりと言い切った。
「静のときは、地球から5日ほど姿を消していたんですよ? その間にティンカーベルで何かあれば、乙羽が一人で対処しなければなりません」
「うっ……」
乙羽は少しだけ困ったように首を傾げた。
「ただ、そうですね。消えても問題のない時間帯は、間違いなくありますけどね」
「え? 完全に拒否されたんじゃ?」
琴が意外そうに尋ねる。
「そこまで薄情でもないつもりですが。そうですね……夜中の数時間程度なら、問題ないのでは?」
「なるほどな! 夜中に呼び出す奴もいねぇだろ!」
柳が納得したように頷いた。
「うちに泊まったときにでも行けばいいんじゃないかなぁ?」
乙羽が何気なく提案する。
「乙羽はあたしたちと行くのか? お前、もうレベルはいらねぇんじゃ?」
「まぁ、乙羽がいないからといって、私たちがすぐに育つという話でもないよ」
琴が冷静に指摘した。
「悔しいけど、支援魔法があるかないかでは段違いなのよね。私もタイムジェイルの召喚モンスターを一人で相手にしたときは、なかなかきつかったわ」
梓がそう言うと、乙羽は首を横に振った。
「私は完全にレベルが止まってるわけじゃないよぉ? あっちだと新しい魔法を教えてもらえるのが大きいもんねぇ。まだ先生から転移魔法を教えてもらってないけどぉ。時間がかかりそうなんだよぉ」
「ええ。転移魔法は難易度が段違いです。あちらの世界でも伝説に近い魔法なのですよ」
「習得するのも難しいってことか?」
柳が尋ねる。
「地球では、まとまった時間を確保するのが難しいですからね。十分な訓練ができないというのも、乙羽の先生としてはかわいそうな話です」
「先生は地球ではよく使ってるのよね?」
梓が聞くと、リーゼロッテはあっさり頷いた。
「ええ。学校へ行くときや、協会からここへ帰ってくるときなどは、すぐに戻れますから。下のコンビニへ行くときも」
「ムダ使いだな!」
柳の一言に、琴が小さく笑った。
「とりあえず、乙羽が来てくれるならありがたいよ」
「ただし、乙羽が敵を倒してしまえば、それだけあなたたちが得られる経験値は少なくなりますからね?」
「そっかぁ。じゃあ、私は支援魔法と、たまに回復をすればいいかなぁ。ソロのほうが早いしぃ」
「そうなのよね……。今の私たちは、乙羽にとってお荷物になっているのよね。乙羽が一人で本気を出したほうが、攻略は早いもの」
「い、いや、そういうわけじゃないよぉ!」
乙羽は慌てて手を振った。
「確かに攻撃は制限されちゃうけどぉ、みんなのことを邪魔だなんて思ってないからねぇ」
梓は少しだけ表情を和らげた。
「わかってるわ。それでも、週に一回でも夜に利用させてもらえれば、結構早くあなたに追いつけるかもしれないわね!」
「そうですね。ただし、わかっていると思いますが、レベルが上がったことをむやみに話さないでください」
リーゼロッテは、念を押すように続けた。
「ほかの十席にも同じことをしてほしいと言われたら、対応するのが面倒すぎます。それに、周囲から嫉妬される原因にもなりますからね。わざわざ自慢するようなことはしないでください」
「ああ、そこは気をつけよう」
琴が頷く。
「配信中も言わねぇようにしねぇとな」
柳も同意した。
「この地球では、正確に鑑定できる人もいないでしょうけどね」
リーゼロッテが付け加えると、梓は納得したように頷いた。
「短時間で簡単にレベルを上げられると思われたら、厄介ね」
「実際は何年単位だけどねぇ」
乙羽がのんびりと答える。
「理解できないと、そういうことになるのです。ですから、もう話を広げないでくださいね」
「はぁい」
乙羽は素直に返事をした。
夜中の数時間。
その限られた時間を利用するなら、地球での生活を大きく崩さずに修行を続けられるかもしれない。
ただし、経験値を得る機会を仲間から奪わないこと。そして、タイムジェイルでの修行について、余計な騒ぎを起こさないこと。
その二つを守りながら、彼女たちは利用方法を考えていくことになった。




