「みんなぁ、こんばんはぁ。今日はお姉ちゃんの配信にお邪魔してるよぉ」
静の公式配信チャンネルでは、突然ライブ配信が始まっていた。
事前告知はない。
配信予定の通知もなく、画面にはダンジョンの中を歩く静と乙羽、そして小さな妖精のリーゼロッテが映し出されていた。
さらに、配信開始から少し遅れて、乙羽の公式アカウントにも短い告知が投稿された。
『今夜は静お姉ちゃんの配信にお邪魔してるよぉ。沖縄ダンジョンの深夜攻略中だよ~!』
静の配信チャンネルへのリンクも添えられている。
その投稿に気づいた視聴者たちが、次々と配信へ流れ込んできた。
『えっ、いきなり始まったw』
『静さんのチャンネル!?』
『乙羽ちゃんもいるじゃん!』
『姉妹配信かwww これもいいなw』
『待って、今って夜だよな?』
『深夜のダンジョン攻略って何事だよw』
『琴ちゃんと柳ちゃんは?』
『梓ちゃんもいないのか』
『先生までいるし、何が始まるんだ……』
『明日帰るんじゃなかったっけ? 最後の夜に潜ってるの!?』
コメント欄は、配信開始直後から大きな賑わいを見せていた。
静はコメント欄を一瞥し、カメラへ向き直った。
「こんばんは。急な配信でごめんなさいね。今日は乙羽と一緒に、沖縄ダンジョンの攻略をすることになったの」
「みんなぁ、こんばんはぁ。今日は静お姉ちゃんの配信にお邪魔してるよぉ」
乙羽も手を振った。
「そして、私も同行していますよ」
リーゼロッテが付け加える。
『先生もこんばんは!』
『この3人で攻略するのか!?』
『静さんと乙羽ちゃんの姉妹コンビ、待ってました!』
『でも、なんで急に配信?』
『何層まで行くつもりなんだろう』
『乙羽ちゃんたちがいるなら、かなり奥まで行きそうだな』
視聴者の疑問に、静が答える。
「今日は、いつもの攻略とは少し違うわ。仲間たちの訓練に合わせる必要がないから、私と乙羽で戦いながら、どこまで進めるか試してみようと思っているの」
「うん。今までみんなと一緒に攻略してきたけど、今日はお姉ちゃんと二人だからねぇ。いろいろ試してみたいんだよぉ」
『二人だけの攻略!?』
『それはそれで豪華だな』
『先生がいるから実質3人だぞw』
『いや、先生は戦闘より素材回収に本気だから……』
『先生のガチャ資金回収配信でもあるのか?w』
「失礼ですね。私は皆さんが戦いやすいように支援するだけですよ?」
リーゼロッテは真面目な顔で答えた。
「それと、素材の回収も大切な仕事です」
『やっぱり素材回収する気だw』
『先生、隠す気がないwww』
乙羽と静は顔を見合わせて笑った。
「そうそう。もう一つ、先に伝えておくねぇ」
乙羽がカメラへ向き直った。
「今日はお姉ちゃんの配信だから、スパチャはお姉ちゃんのチャンネルを応援してあげてねぇ」
コメント欄の流れが、少しだけ落ち着いた。
「私たちティンカーベルの配信じゃないし、琴ちゃんと柳ちゃん、梓ちゃんは今回の企画に関わってないんだよぉ。私だけ参加してる配信で、ティンカーベルの活動資金としてスパチャをもらうのは違うと思うからねぇ」
乙羽はいつもの柔らかな口調のまま、はっきりと続けた。
「みんなが応援してくれるのは嬉しいよぉ。でも、今回はお姉ちゃんの配信だから、お姉ちゃんの活動を応援してもらえると嬉しいなぁ」
静は少し驚いたように乙羽を見た。
「乙羽……ありがとう。でも、そこまで気にしなくてもいいのよ?」
「ううん。ちゃんと分けたほうがいいと思うんだよぉ。みんなが応援してくれたお金だからこそ、誰の活動への応援なのか、ちゃんとしたいんだよねぇ」
乙羽は笑顔で答えた。
静はしばらく妹を見つめてから、柔らかく頷いた。
「……そうね。ありがとう。では、今日は私の配信として、最後まで楽しんでもらえるように頑張るわ」
『乙羽ちゃん、しっかりしてるなぁ』
『こういうところ、本当に誠実だよね』
『なるほど、今回は静さんのチャンネルを応援すればいいんだな』
『ティンカーベルの仲間を大切にしてるのが伝わってくる』
『静さん、応援してます!』
『姉妹の考え方、どっちも素敵だな』
乙羽はコメント欄を確認し、満足そうに頷いた。
「ありがとぉ。それじゃあ、攻略を続けようねぇ」
◇
第22層の奥へ進むと、岩場の地形が少しずつ変わってきた。
道幅が広がり、ところどころに大きな岩柱が立っている。その陰には、先ほどとは違うモンスターの気配があった。
「今度は8体ですね。先ほどよりも動きが速い個体が混じっています」
リーゼロッテが告げた。
「私がやるわ」
静が剣を構える。
今度の敵は、細長い体と鋭い爪を持つ獣型のモンスターだった。岩柱を蹴って跳び、空中から攻撃を仕掛けてくる。
1体が高く跳び上がった。
静は剣を振り上げず、相手が降りてくる位置へと歩を進めた。
着地の瞬間、剣が閃く。
そのまま次の個体へ向き直り、攻撃を受け流しながら斬り返す。
上空から別の敵が迫ると、静は足元に聖魔法を集中させた。
軽く踏み込む。
身体が滑るように移動し、爪の軌道から外れる。
そして、空いた胴へ一撃を叩き込んだ。
敵が倒れる。
静は一度も大きく跳び退くことなく、相手の動きを読みながら、順番に数を減らしていった。
『静さん、剣の動きがきれいだな』
『無駄な動きがほとんどない』
『聖魔法を身体強化に使ってるのか?』
『敵が跳んでくる位置を先に取ってるのすごい』
『これがSランクの戦い方か……』
「静お姉ちゃん、剣がすごく滑らかだねぇ」
「ありがとう。剣術そのものは長く続けてきたからね。魔法を組み合わせるようになってから、できることも増えたわ」
静は答えながら、最後の敵を倒した。
リーゼロッテがすぐに近づき、倒れたモンスターの素材を確認する。
「こちらは爪と外皮が使えそうですね。魔石もあります」
指先を動かすと、素材が次々と空中へ浮かび上がった。
爪、外皮、魔石、骨、そして体内に残っていた小さな結晶。
リーゼロッテは一つずつ確認し、傷んでいないものを選びながら、すべて収納魔法へ収めていく。
「先生、全部持っていくのぉ?」
「もちろんです。使える素材を残していく理由がありませんからね」
『先生、回収が細かすぎるw』
『骨まで拾ってるぞwww』
『ガチャ代を稼ぐためなら一切妥協しない妖精』
『先生の収納魔法、便利だなぁ』
『これ、普通のパーティーなら回収にかなり時間かかるだろ』
「回収は大切ですよ。素材の価値を知らずに捨ててしまうのは、もったいないでしょう?」
リーゼロッテは胸を張った。
「それに、数が集まれば、それだけ収入にもなりますからね」
「先生、正直だねぇ」
「当然です」
乙羽と静は、また顔を見合わせて笑った。
リーゼロッテは笑われていることにも気づかず、岩場の隙間に落ちていた魔石まで拾い上げていた。
◇
第22層の転移陣に到着したころには、配信開始からそれなりの時間が経過していた。
しかし、二人に疲れた様子はない。
「次は第23層ね」
静が転移陣を見下ろした。
「ええ。ここから先は、沖縄支部が確認している攻略記録の最深部に近づきます」
リーゼロッテが説明する。
「現在、沖縄ダンジョンで攻略が確認されている最高階層は第23層です。複数の高ランクパーティーが連携し、ようやく到達した場所ですね」
「へぇ~。じゃあ、そこを越えたら記録更新なんだねぇ」
「そういうことになります」
乙羽は少し考えたあと、静を見上げた。
「お姉ちゃん、行ってみようよぉ」
「ええ。せっかくここまで来たのだもの。確かめてみましょう」
静は迷わず頷いた。
『第23層!?』
『沖縄の最高攻略階層って、そこじゃなかったか?』
『え、今からそこへ行くの?』
『待って、ここまで何時間もかかってないよな?』
『複数パーティーでようやく到達した階層だぞ!?』
『姉妹だけで行くのか……』
『先生がいるとはいえ、これはすごいことになるぞ』
コメント欄の勢いが一気に増した。
静は配信画面を見て、視聴者へ説明する。
「もちろん、危険があれば撤退するわ。記録を更新すること自体が目的ではないもの。私たちにとって大切なのは、無理をせず、実力に合った相手と戦うことよ」
「うん。行けるところまで行ってみるよぉ」
乙羽も頷いた。
「それでは、第23層へ移動しますね」
リーゼロッテが魔法陣を起動させた。
光が三人を包み込む。
次の瞬間、周囲の景色が変わった。
◇
第23層。
そこは、広大な峡谷だった。
両側には切り立った岩壁がそびえ、谷底には大小の岩が転がっている。ところどころに細い水路が流れ、岩壁の高い位置には、いくつもの洞窟が口を開けていた。
風が谷を抜けるたび、低い唸りのような音が響く。
「ここが第23層……」
静は周囲を見渡した。
見通しは悪くない。だが、敵がどこから現れるのかは分からない。岩壁の上にも洞窟の中にも、身を隠せる場所が多い。
「周囲に複数の反応があります。正面に大型が3体、上の岩棚に小型が5体。さらに、谷の奥にも大きな魔力反応がありますね」
リーゼロッテが告げた。
「一度に来るのかしら?」
「その可能性があります。ここは複数の群れが連携して動くようです。前方の大型が注意を引き、その間に上から小型が襲いかかる構成でしょう」
「なるほどね」
静は剣を構えた。
「じゃあ、上は私が抑えるわ。乙羽、正面をお願いできる?」
「はぁい」
乙羽は楽しそうに頷いた。
谷の奥から、低い咆哮が響いた。
岩棚の上で、小型のモンスターが一斉に動き始める。
そして、正面から現れたのは、岩のような外皮を持つ大型の獣だった。
体長は数メートル。頭部には太い角があり、四肢は岩壁を砕けそうなほど太い。
3体が並んで、谷底を駆けてくる。
「おぉ~。大きいねぇ」
乙羽は感心したように声を上げた。
「でも、動きはわかりやすいかなぁ」
乙羽は両手を前へ向けた。
地面が持ち上がり、谷底に低い岩の壁が生まれる。
大型の獣たちは勢いを止めきれず、壁へぶつかりそうになった。
その瞬間、乙羽が指を動かす。
岩壁が左右へ分かれ、獣たちの進路を二手に分けた。
1体は右へ、残る2体は左へ。
ばらけた敵の足元に、今度は水が走った。
薄い水膜が岩場を覆い、獣たちの足取りを乱す。
そこへ風が吹き抜けた。
体勢を崩した獣たちが、互いにぶつかるようにして足を止める。
「えいっ」
乙羽が手を振ると、雷が走った。
青白い閃光が3体を包み込む。
次の瞬間、大型の獣たちは動きを止め、その場に崩れ落ちた。
『えっ!?』
『今の、3体まとめて!?』
『地・水・風・雷を連続で使った?』
『壁で分断して、水で足元を乱して、最後に雷……』
『ただの火力押しじゃなくて、ちゃんと連携させてるのか』
『第23層の大型モンスターが一瞬で……!?』
乙羽は倒れた獣たちを見て、少し首を傾げた。
「んぅ~。もうちょっと強いと思ったんだけどねぇ」
「乙羽、まだ敵は残っているわよ」
静が声をかけた。
「上から来るわ!」
岩棚から小型のモンスターが飛び降りてきた。
静は剣を振るい、聖魔法を刃へと重ねる。
剣先から淡い光が伸び、最初の敵を斬り払った。
次の敵が横から飛びかかる。
静は体を沈めてかわし、相手の着地点へ足を踏み込む。剣が一閃し、敵が地面へ落ちた。
残る敵は、岩壁を蹴って角度を変えながら襲いかかってくる。
静はその動きを見極め、聖魔法で身体を強化した。
次の瞬間、剣が連続して閃く。
敵の動きが速くても、静の剣筋には迷いがなかった。
5体すべてが倒れるまで、わずかな時間しかかからなかった。
『静さんもすごい!』
『乙羽ちゃんが正面を片づけてる間に、上の5体を処理したぞ』
『二人とも動きが無駄なくて速い』
『これ、複数パーティーで来たときは、連携を合わせるだけでも大変だったんじゃないか?』
『今のところ、先生が索敵して、姉妹がそれぞれ倒すだけで終わってるんだがw』
「皆さん、素材の回収を忘れないでくださいね」
リーゼロッテが言った。
「はい、先生ぇ」
乙羽が返事をする。
リーゼロッテはすでに倒れたモンスターのもとへ向かっていた。
大型の獣からは、硬い外皮、角、爪、魔石が取れる。小型のモンスターからも、羽や骨、魔力を含んだ結晶が見つかった。
リーゼロッテはそれらを一つずつ確認し、収納魔法で回収していく。
さらに、岩壁の隙間に落ちていた魔石も見逃さない。
「先生、そっちにもあるよぉ」
「ありがとうございます。これは見落とすところでした」
『先生、回収に本気すぎるw』
『姉妹が戦ってる間に、先生が地面を這う勢いで素材を探してるw』
『ガチャ代への執念がすごい』
『これだけの素材なら、かなりの金額になりそうだな』
『沖縄支部に売ったら数百万いくんじゃないか?』
コメントを見たリーゼロッテが、ぴたりと手を止めた。
「……数百万円ですか?」
「先生、そこに反応するのぉ?」
乙羽が笑う。
「当然です。素材の価値を把握するのは大切なことですよ」
リーゼロッテは真剣な顔で答えた。
「もし本当にそれだけの金額になるのであれば、今回の攻略は非常に有意義ですね」
『ガチャ資金確保に目が輝いたwww』
『先生、正直すぎるw』
『攻略記録より売却額が気になってるだろw』
「そんなことはありません。攻略も大切です」
リーゼロッテは言い切り、再び素材を収納し始めた。
ただし、その手つきは先ほどよりも少しだけ速くなっていた。
◇
第23層の奥へ進むと、峡谷の道が大きく開けた。
その先には、巨大な岩の門がそびえている。
門の周囲には、これまでよりも強い魔力が漂っていた。
「……ここが、この階層の奥かしら」
静が呟く。
「ええ。先ほどから確認していた大きな反応は、あの先にあります」
リーゼロッテが答えた。
「ただし、通常のモンスターよりも強い個体がいる可能性があります。慎重に進みましょう」
「わかったわ」
静が頷く。
乙羽も、少しだけ表情を引き締めた。
「じゃあ、ここからは二人で行こうねぇ」
「ええ」
二人は並んで門へ向かった。
その瞬間、岩の門が低い音を立てて開いた。
中から現れたのは、巨大な獅子に似たモンスターだった。
全身を岩のような外皮が覆い、背中には鋭い突起が並んでいる。口を開くと、低い咆哮が峡谷全体に響き渡った。
その魔力反応は、先ほどの大型モンスターとは明らかに違う。
「これは……」
静が剣を構える。
「かなり強そうね」
「うん。じゃあ、私が動きを止めるねぇ」
乙羽が一歩前へ出た。
獅子型のモンスターが地面を蹴る。
岩の床が砕け、巨体が一気に迫ってきた。
乙羽は地面へ手をかざす。
岩の壁がせり上がり、獅子の進路を塞ぐ。
しかし、獅子はその壁を正面から砕いた。
「おぉ~。力が強いねぇ」
乙羽は感心したように声を上げた。
獅子が再び突進する。
今度は乙羽が風を起こし、相手の進路を横へずらした。
その隙に静が踏み込む。
剣へ聖魔法を集中させ、獅子の前脚へ斬り込んだ。
硬い外皮に光が走る。
獅子が咆哮し、前脚を振り上げた。
静はすぐに距離を取る。
「外皮が硬いわね」
「じゃあ、関節を狙おうかぁ」
乙羽が答えた。
二人は視線を交わしただけで、次の動きを決めた。
乙羽が水と氷を組み合わせ、獅子の足元を凍らせる。
動きが鈍った瞬間、静が横から踏み込み、聖魔法をまとった剣で関節へ斬撃を入れた。
獅子の体勢が崩れる。
そこへ乙羽が雷を放った。
青白い閃光が走り、獅子の巨体が大きく揺れた。
だが、まだ倒れない。
獅子は残った力で立ち上がり、二人へ向かって咆哮した。
『おおっ、今度は一撃で終わらない!』
『第23層の奥にいるだけあって、さっきの敵とは違うな』
『でも姉妹、落ち着いて対応してる』
『乙羽ちゃんが動きを制限して、静さんが関節を狙う。役割分担がきれいだ』
『これ、二人だからできる連携なのかもしれないな』
静は剣を構え直した。
「乙羽、次で決めるわ」
「うん。任せてぇ」
乙羽が両手を前へ向けた。
地面が隆起し、獅子の四肢を囲むように岩の柱が立ち上がる。
同時に、風が巻き起こり、獅子の体勢を崩した。
逃げ道が塞がれた瞬間、静が踏み込んだ。
聖魔法をまとった剣が、獅子の胸元へ一直線に伸びる。
光が弾けた。
獅子の動きが止まる。
次の瞬間、巨体が地面へ倒れ込んだ。
静は剣を下ろし、静かに息を吐いた。
「……これで終わりね」
「おぉ~。いい連携だったねぇ」
乙羽が嬉しそうに笑った。
リーゼロッテは倒れた獅子のもとへ駆け寄り、素材の確認を始めた。
「これは……。外皮も角も、かなり良質ですね。魔石も大きいです」
彼女は目を輝かせながら、素材を一つずつ収納していく。
「この品質なら、査定額も期待できそうです」
『先生の目が輝いてるw』
『沖縄支部の査定、いくらになるんだろうな』
『第23層の大型個体の素材だぞ。かなり高そう』
『これだけ回収してたら、本当に数百万円いくかもしれない』
『先生、ガチャ代どころか当分遊べるくらい稼げるんじゃないかw』
「それは、査定してみないとわかりませんよ」
リーゼロッテはそう答えたが、表情は明るかった。
◇
岩の門の向こうには、次の階層へ続く転移陣があった。
リーゼロッテが周囲を確認し、危険な反応がないことを確かめる。
「第23層の主要な反応は、これで片づきました。先へ進めそうですね」
「じゃあ、ここが沖縄の最高攻略階層なんだねぇ」
乙羽が転移陣を見つめた。
「現時点では、そうなりますね」
リーゼロッテが頷く。
静は少し考えてから、乙羽へ向き直った。
「……どうする? ここで引き返しても、十分な成果は出ているわ」
「んぅ~……」
乙羽は転移陣を見つめた。
そして、いつもの調子で笑った。
「せっかくここまで来たんだもん。もう少し先まで行ってみようよぉ」
「ふふっ。そうね。まだ時間もあるものね」
静も笑顔で頷いた。
リーゼロッテは二人を見上げ、念を押す。
「無理は禁物ですよ。帰還時刻は忘れないでくださいね」
「はぁい」
二人は揃って返事をした。
そして、三人は転移陣へ足を踏み入れた。
光が広がり、景色が変わる。
沖縄ダンジョンの最高攻略階層、第23層。
そこへ、二人の姉妹が到達した。
複数の高ランクパーティーが連携して、ようやく攻略した階層だった。
それを、乙羽と静は短時間のうちに突破してしまったのである。
配信コメント欄は、二人が転移陣へ消えたあとも、しばらく大騒ぎだった。
『ちょっと待って、今のが最高攻略階層だったんだよな!?』
『複数パーティーで攻略した場所を、姉妹二人で突破したのか……』
『先生もいるとはいえ、実際に戦っていたのは二人だぞ』
『これ、沖縄支部に知られたら大ニュースになるんじゃないか?』
『いや、配信してるから知られるどころじゃないだろw』
『明日の朝、支部が大変なことになりそう』
『しかも素材も全部回収してるw』
『攻略記録更新と素材大量回収を同時にやるなwww』
『この三人、何しに沖縄へ来たんだよw』
『深夜のお散歩のつもりだったんじゃないのかw』
乙羽はコメントを見て、楽しそうに笑った。
「みんな、楽しんでくれてるねぇ」
「そうね。せっかくの配信だもの。最後まで楽しんでもらいましょう」
静も頷いた。
リーゼロッテは収納魔法の中身を確認し、満足そうに頷いていた。
「これだけ素材が集まれば、明日の査定が楽しみですね」
「先生、やっぱりそこなんだねぇ」
「当然です」
リーゼロッテは胸を張った。
こうして、沖縄ダンジョンの最高攻略階層は更新された。
しかし、姉妹の深夜攻略はまだ終わらない。
次に待っているのは、第24層。
そして、夜明けまでに、どこまで進めるのか。
視聴者たちも、すでにその続きを待ちきれなくなっていた。
◇
午前0時を過ぎても、配信は続いていた。
沖縄ダンジョンの最高攻略記録を更新した姉妹は、休むことなく第24層の探索を始めていた。
そして、その配信を見ていた一人の海外冒険者が、思わずコメントを書き込んだ。
『Oh... Crazy Sisters, Otonashi. You two are incredible.』
続いて、スーパーチャットの通知が表示される。
『Victoria Gray:Oh... Crazy Sisters, Otonashi. Amazing fight!(10,000円)』
「おぉ~、海外の人かなぁ?」
乙羽がコメントを読み上げる。
「ありがとうございます。楽しんでもらえているなら嬉しいわ」
静もカメラへ向かって軽く手を振った。
リーゼロッテは、コメントの名前を見て少しだけ目を細めた。
「……ヴィクトリア・グレイさんですか」
「先生、知ってるのぉ?」
「アメリカのSランク冒険者ですね。」
「へぇ~。そうなんだねぇ」
乙羽は特に気負うこともなく、いつもの調子で手を振った。
「ヴィクトリアさん、ありがとうねぇ。これからも楽しんでいってねぇ」
その言葉を最後に、三人は再び攻略へ意識を戻した。
沖縄ダンジョンの最高攻略階層は、すでに更新された。
だが、夜はまだ長い。
そして姉妹は、まだ第24層に足を踏み入れたばかりだった。
深夜攻略は、ここからさらに続いていくのだった。




