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殴り賢者はバレている  作者: 七風


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162/205

「みんなぁ、こんばんはぁ。今日はお姉ちゃんの配信にお邪魔してるよぉ」

 静の公式配信チャンネルでは、突然ライブ配信が始まっていた。


 事前告知はない。


 配信予定の通知もなく、画面にはダンジョンの中を歩く静と乙羽、そして小さな妖精のリーゼロッテが映し出されていた。


 さらに、配信開始から少し遅れて、乙羽の公式アカウントにも短い告知が投稿された。


『今夜は静お姉ちゃんの配信にお邪魔してるよぉ。沖縄ダンジョンの深夜攻略中だよ~!』


 静の配信チャンネルへのリンクも添えられている。


 その投稿に気づいた視聴者たちが、次々と配信へ流れ込んできた。


『えっ、いきなり始まったw』

『静さんのチャンネル!?』

『乙羽ちゃんもいるじゃん!』

『姉妹配信かwww これもいいなw』

『待って、今って夜だよな?』

『深夜のダンジョン攻略って何事だよw』

『琴ちゃんと柳ちゃんは?』

『梓ちゃんもいないのか』

『先生までいるし、何が始まるんだ……』

『明日帰るんじゃなかったっけ? 最後の夜に潜ってるの!?』


 コメント欄は、配信開始直後から大きな賑わいを見せていた。


 静はコメント欄を一瞥し、カメラへ向き直った。


「こんばんは。急な配信でごめんなさいね。今日は乙羽と一緒に、沖縄ダンジョンの攻略をすることになったの」


「みんなぁ、こんばんはぁ。今日は静お姉ちゃんの配信にお邪魔してるよぉ」


 乙羽も手を振った。


「そして、私も同行していますよ」


 リーゼロッテが付け加える。


『先生もこんばんは!』

『この3人で攻略するのか!?』

『静さんと乙羽ちゃんの姉妹コンビ、待ってました!』

『でも、なんで急に配信?』

『何層まで行くつもりなんだろう』

『乙羽ちゃんたちがいるなら、かなり奥まで行きそうだな』


 視聴者の疑問に、静が答える。


「今日は、いつもの攻略とは少し違うわ。仲間たちの訓練に合わせる必要がないから、私と乙羽で戦いながら、どこまで進めるか試してみようと思っているの」


「うん。今までみんなと一緒に攻略してきたけど、今日はお姉ちゃんと二人だからねぇ。いろいろ試してみたいんだよぉ」


『二人だけの攻略!?』

『それはそれで豪華だな』

『先生がいるから実質3人だぞw』

『いや、先生は戦闘より素材回収に本気だから……』

『先生のガチャ資金回収配信でもあるのか?w』


「失礼ですね。私は皆さんが戦いやすいように支援するだけですよ?」


 リーゼロッテは真面目な顔で答えた。


「それと、素材の回収も大切な仕事です」


『やっぱり素材回収する気だw』

『先生、隠す気がないwww』


 乙羽と静は顔を見合わせて笑った。


「そうそう。もう一つ、先に伝えておくねぇ」


 乙羽がカメラへ向き直った。


「今日はお姉ちゃんの配信だから、スパチャはお姉ちゃんのチャンネルを応援してあげてねぇ」


 コメント欄の流れが、少しだけ落ち着いた。


「私たちティンカーベルの配信じゃないし、琴ちゃんと柳ちゃん、梓ちゃんは今回の企画に関わってないんだよぉ。私だけ参加してる配信で、ティンカーベルの活動資金としてスパチャをもらうのは違うと思うからねぇ」


 乙羽はいつもの柔らかな口調のまま、はっきりと続けた。


「みんなが応援してくれるのは嬉しいよぉ。でも、今回はお姉ちゃんの配信だから、お姉ちゃんの活動を応援してもらえると嬉しいなぁ」


 静は少し驚いたように乙羽を見た。


「乙羽……ありがとう。でも、そこまで気にしなくてもいいのよ?」


「ううん。ちゃんと分けたほうがいいと思うんだよぉ。みんなが応援してくれたお金だからこそ、誰の活動への応援なのか、ちゃんとしたいんだよねぇ」


 乙羽は笑顔で答えた。


 静はしばらく妹を見つめてから、柔らかく頷いた。


「……そうね。ありがとう。では、今日は私の配信として、最後まで楽しんでもらえるように頑張るわ」


『乙羽ちゃん、しっかりしてるなぁ』

『こういうところ、本当に誠実だよね』

『なるほど、今回は静さんのチャンネルを応援すればいいんだな』

『ティンカーベルの仲間を大切にしてるのが伝わってくる』

『静さん、応援してます!』

『姉妹の考え方、どっちも素敵だな』


 乙羽はコメント欄を確認し、満足そうに頷いた。


「ありがとぉ。それじゃあ、攻略を続けようねぇ」


     ◇


 第22層の奥へ進むと、岩場の地形が少しずつ変わってきた。


 道幅が広がり、ところどころに大きな岩柱が立っている。その陰には、先ほどとは違うモンスターの気配があった。


「今度は8体ですね。先ほどよりも動きが速い個体が混じっています」


 リーゼロッテが告げた。


「私がやるわ」


 静が剣を構える。


 今度の敵は、細長い体と鋭い爪を持つ獣型のモンスターだった。岩柱を蹴って跳び、空中から攻撃を仕掛けてくる。


 1体が高く跳び上がった。


 静は剣を振り上げず、相手が降りてくる位置へと歩を進めた。


 着地の瞬間、剣が閃く。


 そのまま次の個体へ向き直り、攻撃を受け流しながら斬り返す。


 上空から別の敵が迫ると、静は足元に聖魔法を集中させた。


 軽く踏み込む。


 身体が滑るように移動し、爪の軌道から外れる。


 そして、空いた胴へ一撃を叩き込んだ。


 敵が倒れる。


 静は一度も大きく跳び退くことなく、相手の動きを読みながら、順番に数を減らしていった。


『静さん、剣の動きがきれいだな』

『無駄な動きがほとんどない』

『聖魔法を身体強化に使ってるのか?』

『敵が跳んでくる位置を先に取ってるのすごい』

『これがSランクの戦い方か……』


「静お姉ちゃん、剣がすごく滑らかだねぇ」


「ありがとう。剣術そのものは長く続けてきたからね。魔法を組み合わせるようになってから、できることも増えたわ」


 静は答えながら、最後の敵を倒した。


 リーゼロッテがすぐに近づき、倒れたモンスターの素材を確認する。


「こちらは爪と外皮が使えそうですね。魔石もあります」


 指先を動かすと、素材が次々と空中へ浮かび上がった。


 爪、外皮、魔石、骨、そして体内に残っていた小さな結晶。


 リーゼロッテは一つずつ確認し、傷んでいないものを選びながら、すべて収納魔法へ収めていく。


「先生、全部持っていくのぉ?」


「もちろんです。使える素材を残していく理由がありませんからね」


『先生、回収が細かすぎるw』

『骨まで拾ってるぞwww』

『ガチャ代を稼ぐためなら一切妥協しない妖精』

『先生の収納魔法、便利だなぁ』

『これ、普通のパーティーなら回収にかなり時間かかるだろ』


「回収は大切ですよ。素材の価値を知らずに捨ててしまうのは、もったいないでしょう?」


 リーゼロッテは胸を張った。


「それに、数が集まれば、それだけ収入にもなりますからね」


「先生、正直だねぇ」


「当然です」


 乙羽と静は、また顔を見合わせて笑った。


 リーゼロッテは笑われていることにも気づかず、岩場の隙間に落ちていた魔石まで拾い上げていた。


     ◇


 第22層の転移陣に到着したころには、配信開始からそれなりの時間が経過していた。


 しかし、二人に疲れた様子はない。


「次は第23層ね」


 静が転移陣を見下ろした。


「ええ。ここから先は、沖縄支部が確認している攻略記録の最深部に近づきます」


 リーゼロッテが説明する。


「現在、沖縄ダンジョンで攻略が確認されている最高階層は第23層です。複数の高ランクパーティーが連携し、ようやく到達した場所ですね」


「へぇ~。じゃあ、そこを越えたら記録更新なんだねぇ」


「そういうことになります」


 乙羽は少し考えたあと、静を見上げた。


「お姉ちゃん、行ってみようよぉ」


「ええ。せっかくここまで来たのだもの。確かめてみましょう」


 静は迷わず頷いた。


『第23層!?』

『沖縄の最高攻略階層って、そこじゃなかったか?』

『え、今からそこへ行くの?』

『待って、ここまで何時間もかかってないよな?』

『複数パーティーでようやく到達した階層だぞ!?』

『姉妹だけで行くのか……』

『先生がいるとはいえ、これはすごいことになるぞ』


 コメント欄の勢いが一気に増した。


 静は配信画面を見て、視聴者へ説明する。


「もちろん、危険があれば撤退するわ。記録を更新すること自体が目的ではないもの。私たちにとって大切なのは、無理をせず、実力に合った相手と戦うことよ」


「うん。行けるところまで行ってみるよぉ」


 乙羽も頷いた。


「それでは、第23層へ移動しますね」


 リーゼロッテが魔法陣を起動させた。


 光が三人を包み込む。


 次の瞬間、周囲の景色が変わった。


     ◇


 第23層。


 そこは、広大な峡谷だった。


 両側には切り立った岩壁がそびえ、谷底には大小の岩が転がっている。ところどころに細い水路が流れ、岩壁の高い位置には、いくつもの洞窟が口を開けていた。


 風が谷を抜けるたび、低い唸りのような音が響く。


「ここが第23層……」


 静は周囲を見渡した。


 見通しは悪くない。だが、敵がどこから現れるのかは分からない。岩壁の上にも洞窟の中にも、身を隠せる場所が多い。


「周囲に複数の反応があります。正面に大型が3体、上の岩棚に小型が5体。さらに、谷の奥にも大きな魔力反応がありますね」


 リーゼロッテが告げた。


「一度に来るのかしら?」


「その可能性があります。ここは複数の群れが連携して動くようです。前方の大型が注意を引き、その間に上から小型が襲いかかる構成でしょう」


「なるほどね」


 静は剣を構えた。


「じゃあ、上は私が抑えるわ。乙羽、正面をお願いできる?」


「はぁい」


 乙羽は楽しそうに頷いた。


 谷の奥から、低い咆哮が響いた。


 岩棚の上で、小型のモンスターが一斉に動き始める。


 そして、正面から現れたのは、岩のような外皮を持つ大型の獣だった。


 体長は数メートル。頭部には太い角があり、四肢は岩壁を砕けそうなほど太い。


 3体が並んで、谷底を駆けてくる。


「おぉ~。大きいねぇ」


 乙羽は感心したように声を上げた。


「でも、動きはわかりやすいかなぁ」


 乙羽は両手を前へ向けた。


 地面が持ち上がり、谷底に低い岩の壁が生まれる。


 大型の獣たちは勢いを止めきれず、壁へぶつかりそうになった。


 その瞬間、乙羽が指を動かす。


 岩壁が左右へ分かれ、獣たちの進路を二手に分けた。


 1体は右へ、残る2体は左へ。


 ばらけた敵の足元に、今度は水が走った。


 薄い水膜が岩場を覆い、獣たちの足取りを乱す。


 そこへ風が吹き抜けた。


 体勢を崩した獣たちが、互いにぶつかるようにして足を止める。


「えいっ」


 乙羽が手を振ると、雷が走った。


 青白い閃光が3体を包み込む。


 次の瞬間、大型の獣たちは動きを止め、その場に崩れ落ちた。


『えっ!?』

『今の、3体まとめて!?』

『地・水・風・雷を連続で使った?』

『壁で分断して、水で足元を乱して、最後に雷……』

『ただの火力押しじゃなくて、ちゃんと連携させてるのか』

『第23層の大型モンスターが一瞬で……!?』


 乙羽は倒れた獣たちを見て、少し首を傾げた。


「んぅ~。もうちょっと強いと思ったんだけどねぇ」


「乙羽、まだ敵は残っているわよ」


 静が声をかけた。


「上から来るわ!」


 岩棚から小型のモンスターが飛び降りてきた。


 静は剣を振るい、聖魔法を刃へと重ねる。


 剣先から淡い光が伸び、最初の敵を斬り払った。


 次の敵が横から飛びかかる。


 静は体を沈めてかわし、相手の着地点へ足を踏み込む。剣が一閃し、敵が地面へ落ちた。


 残る敵は、岩壁を蹴って角度を変えながら襲いかかってくる。


 静はその動きを見極め、聖魔法で身体を強化した。


 次の瞬間、剣が連続して閃く。


 敵の動きが速くても、静の剣筋には迷いがなかった。


 5体すべてが倒れるまで、わずかな時間しかかからなかった。


『静さんもすごい!』

『乙羽ちゃんが正面を片づけてる間に、上の5体を処理したぞ』

『二人とも動きが無駄なくて速い』

『これ、複数パーティーで来たときは、連携を合わせるだけでも大変だったんじゃないか?』

『今のところ、先生が索敵して、姉妹がそれぞれ倒すだけで終わってるんだがw』


「皆さん、素材の回収を忘れないでくださいね」


 リーゼロッテが言った。


「はい、先生ぇ」


 乙羽が返事をする。


 リーゼロッテはすでに倒れたモンスターのもとへ向かっていた。


 大型の獣からは、硬い外皮、角、爪、魔石が取れる。小型のモンスターからも、羽や骨、魔力を含んだ結晶が見つかった。


 リーゼロッテはそれらを一つずつ確認し、収納魔法で回収していく。


 さらに、岩壁の隙間に落ちていた魔石も見逃さない。


「先生、そっちにもあるよぉ」


「ありがとうございます。これは見落とすところでした」


『先生、回収に本気すぎるw』

『姉妹が戦ってる間に、先生が地面を這う勢いで素材を探してるw』

『ガチャ代への執念がすごい』

『これだけの素材なら、かなりの金額になりそうだな』

『沖縄支部に売ったら数百万いくんじゃないか?』


 コメントを見たリーゼロッテが、ぴたりと手を止めた。


「……数百万円ですか?」


「先生、そこに反応するのぉ?」


 乙羽が笑う。


「当然です。素材の価値を把握するのは大切なことですよ」


 リーゼロッテは真剣な顔で答えた。


「もし本当にそれだけの金額になるのであれば、今回の攻略は非常に有意義ですね」


『ガチャ資金確保に目が輝いたwww』

『先生、正直すぎるw』

『攻略記録より売却額が気になってるだろw』


「そんなことはありません。攻略も大切です」


 リーゼロッテは言い切り、再び素材を収納し始めた。


 ただし、その手つきは先ほどよりも少しだけ速くなっていた。


     ◇


 第23層の奥へ進むと、峡谷の道が大きく開けた。


 その先には、巨大な岩の門がそびえている。


 門の周囲には、これまでよりも強い魔力が漂っていた。


「……ここが、この階層の奥かしら」


 静が呟く。


「ええ。先ほどから確認していた大きな反応は、あの先にあります」


 リーゼロッテが答えた。


「ただし、通常のモンスターよりも強い個体がいる可能性があります。慎重に進みましょう」


「わかったわ」


 静が頷く。


 乙羽も、少しだけ表情を引き締めた。


「じゃあ、ここからは二人で行こうねぇ」


「ええ」


 二人は並んで門へ向かった。


 その瞬間、岩の門が低い音を立てて開いた。


 中から現れたのは、巨大な獅子に似たモンスターだった。


 全身を岩のような外皮が覆い、背中には鋭い突起が並んでいる。口を開くと、低い咆哮が峡谷全体に響き渡った。


 その魔力反応は、先ほどの大型モンスターとは明らかに違う。


「これは……」


 静が剣を構える。


「かなり強そうね」


「うん。じゃあ、私が動きを止めるねぇ」


 乙羽が一歩前へ出た。


 獅子型のモンスターが地面を蹴る。


 岩の床が砕け、巨体が一気に迫ってきた。


 乙羽は地面へ手をかざす。


 岩の壁がせり上がり、獅子の進路を塞ぐ。


 しかし、獅子はその壁を正面から砕いた。


「おぉ~。力が強いねぇ」


 乙羽は感心したように声を上げた。


 獅子が再び突進する。


 今度は乙羽が風を起こし、相手の進路を横へずらした。


 その隙に静が踏み込む。


 剣へ聖魔法を集中させ、獅子の前脚へ斬り込んだ。


 硬い外皮に光が走る。


 獅子が咆哮し、前脚を振り上げた。


 静はすぐに距離を取る。


「外皮が硬いわね」


「じゃあ、関節を狙おうかぁ」


 乙羽が答えた。


 二人は視線を交わしただけで、次の動きを決めた。


 乙羽が水と氷を組み合わせ、獅子の足元を凍らせる。


 動きが鈍った瞬間、静が横から踏み込み、聖魔法をまとった剣で関節へ斬撃を入れた。


 獅子の体勢が崩れる。


 そこへ乙羽が雷を放った。


 青白い閃光が走り、獅子の巨体が大きく揺れた。


 だが、まだ倒れない。


 獅子は残った力で立ち上がり、二人へ向かって咆哮した。


『おおっ、今度は一撃で終わらない!』

『第23層の奥にいるだけあって、さっきの敵とは違うな』

『でも姉妹、落ち着いて対応してる』

『乙羽ちゃんが動きを制限して、静さんが関節を狙う。役割分担がきれいだ』

『これ、二人だからできる連携なのかもしれないな』


 静は剣を構え直した。


「乙羽、次で決めるわ」


「うん。任せてぇ」


 乙羽が両手を前へ向けた。


 地面が隆起し、獅子の四肢を囲むように岩の柱が立ち上がる。


 同時に、風が巻き起こり、獅子の体勢を崩した。


 逃げ道が塞がれた瞬間、静が踏み込んだ。


 聖魔法をまとった剣が、獅子の胸元へ一直線に伸びる。


 光が弾けた。


 獅子の動きが止まる。


 次の瞬間、巨体が地面へ倒れ込んだ。


 静は剣を下ろし、静かに息を吐いた。


「……これで終わりね」


「おぉ~。いい連携だったねぇ」


 乙羽が嬉しそうに笑った。


 リーゼロッテは倒れた獅子のもとへ駆け寄り、素材の確認を始めた。


「これは……。外皮も角も、かなり良質ですね。魔石も大きいです」


 彼女は目を輝かせながら、素材を一つずつ収納していく。


「この品質なら、査定額も期待できそうです」


『先生の目が輝いてるw』

『沖縄支部の査定、いくらになるんだろうな』

『第23層の大型個体の素材だぞ。かなり高そう』

『これだけ回収してたら、本当に数百万円いくかもしれない』

『先生、ガチャ代どころか当分遊べるくらい稼げるんじゃないかw』


「それは、査定してみないとわかりませんよ」


 リーゼロッテはそう答えたが、表情は明るかった。


     ◇


 岩の門の向こうには、次の階層へ続く転移陣があった。


 リーゼロッテが周囲を確認し、危険な反応がないことを確かめる。


「第23層の主要な反応は、これで片づきました。先へ進めそうですね」


「じゃあ、ここが沖縄の最高攻略階層なんだねぇ」


 乙羽が転移陣を見つめた。


「現時点では、そうなりますね」


 リーゼロッテが頷く。


 静は少し考えてから、乙羽へ向き直った。


「……どうする? ここで引き返しても、十分な成果は出ているわ」


「んぅ~……」


 乙羽は転移陣を見つめた。


 そして、いつもの調子で笑った。


「せっかくここまで来たんだもん。もう少し先まで行ってみようよぉ」


「ふふっ。そうね。まだ時間もあるものね」


 静も笑顔で頷いた。


 リーゼロッテは二人を見上げ、念を押す。


「無理は禁物ですよ。帰還時刻は忘れないでくださいね」


「はぁい」


 二人は揃って返事をした。


 そして、三人は転移陣へ足を踏み入れた。


 光が広がり、景色が変わる。


 沖縄ダンジョンの最高攻略階層、第23層。


 そこへ、二人の姉妹が到達した。


 複数の高ランクパーティーが連携して、ようやく攻略した階層だった。


 それを、乙羽と静は短時間のうちに突破してしまったのである。


 配信コメント欄は、二人が転移陣へ消えたあとも、しばらく大騒ぎだった。


『ちょっと待って、今のが最高攻略階層だったんだよな!?』

『複数パーティーで攻略した場所を、姉妹二人で突破したのか……』

『先生もいるとはいえ、実際に戦っていたのは二人だぞ』

『これ、沖縄支部に知られたら大ニュースになるんじゃないか?』

『いや、配信してるから知られるどころじゃないだろw』

『明日の朝、支部が大変なことになりそう』

『しかも素材も全部回収してるw』

『攻略記録更新と素材大量回収を同時にやるなwww』

『この三人、何しに沖縄へ来たんだよw』

『深夜のお散歩のつもりだったんじゃないのかw』


 乙羽はコメントを見て、楽しそうに笑った。


「みんな、楽しんでくれてるねぇ」


「そうね。せっかくの配信だもの。最後まで楽しんでもらいましょう」


 静も頷いた。


 リーゼロッテは収納魔法の中身を確認し、満足そうに頷いていた。


「これだけ素材が集まれば、明日の査定が楽しみですね」


「先生、やっぱりそこなんだねぇ」


「当然です」


 リーゼロッテは胸を張った。


 こうして、沖縄ダンジョンの最高攻略階層は更新された。


 しかし、姉妹の深夜攻略はまだ終わらない。


 次に待っているのは、第24層。


 そして、夜明けまでに、どこまで進めるのか。


 視聴者たちも、すでにその続きを待ちきれなくなっていた。


     ◇


 午前0時を過ぎても、配信は続いていた。


 沖縄ダンジョンの最高攻略記録を更新した姉妹は、休むことなく第24層の探索を始めていた。


 そして、その配信を見ていた一人の海外冒険者が、思わずコメントを書き込んだ。


『Oh... Crazy Sisters, Otonashi. You two are incredible.』


 続いて、スーパーチャットの通知が表示される。


『Victoria Gray:Oh... Crazy Sisters, Otonashi. Amazing fight!(10,000円)』


「おぉ~、海外の人かなぁ?」


 乙羽がコメントを読み上げる。


「ありがとうございます。楽しんでもらえているなら嬉しいわ」


 静もカメラへ向かって軽く手を振った。


 リーゼロッテは、コメントの名前を見て少しだけ目を細めた。


「……ヴィクトリア・グレイさんですか」


「先生、知ってるのぉ?」


「アメリカのSランク冒険者ですね。」


「へぇ~。そうなんだねぇ」


 乙羽は特に気負うこともなく、いつもの調子で手を振った。


「ヴィクトリアさん、ありがとうねぇ。これからも楽しんでいってねぇ」


 その言葉を最後に、三人は再び攻略へ意識を戻した。


 沖縄ダンジョンの最高攻略階層は、すでに更新された。


 だが、夜はまだ長い。


 そして姉妹は、まだ第24層に足を踏み入れたばかりだった。


 深夜攻略は、ここからさらに続いていくのだった。



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