↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
殴り賢者はバレている  作者: 七風


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
161/247

「ええ。今夜は、少し本気を出してみましょうか」

 沖縄遠征、最後の夜。


 宿泊施設の一室では、乙羽と静が並んで横になっていた。


 ほかのメンバーは、明日の帰還に備えてすでに眠っている。


 今日までのダンジョン攻略は順調だった。全国大会に向けた合宿場所の選定も終わり、あとは帰るだけ。


 普通なら、疲れを取るためにゆっくり休むところだろう。


 しかし、静は天井を見つめながら、ぽつりと呟いた。


「……暇ね」


「んぅ~? お姉ちゃん、どうしたのぉ?」


 隣で半分眠っていた乙羽が、もぞもぞと寝返りを打った。


「起こしちゃったかしら?」


「ん~ん。まだ起きてたよぉ。それで、どうしたのぉ?」


「今日までみんなとダンジョンを攻略してきたでしょう? あれはあれで楽しかったのだけど……」


 静は少しだけ言葉を切った。


「敵が弱すぎるのよね」


「あぁ~、なるほどねぇ」


 乙羽はすぐに納得した。


 現在、ティンカーベルと静が攻略しているのは第22層まで。出現するモンスターの平均レベルは75程度だった。


 琴や柳、梓にとっては、連携を確認しながら戦うのにちょうどいい相手だ。新しい技術を試すにも、経験を積むにも、適した環境だった。


 けれど、レベル100を超えている乙羽と静にとっては事情が違う。


 仲間たちに合わせて戦うことはできる。実際、これまでの攻略でも二人は周囲に気を配り、必要以上に力を使わないようにしていた。


 ただ、それでは本気で戦う機会が少ない。


「私も、もう少し強い相手と戦ってみたいんだよねぇ」


「でしょう?」


 静は少し嬉しそうに乙羽を見た。


「せっかく沖縄まで来たのだし、もう少し奥まで行ってみない?」


「いいねぇ!」


 乙羽はぱっと表情を明るくした。


「じゃあ、先生も誘おうよぉ。先生なら、先の階層にどんなモンスターがいるか調べられるしぃ」


「そうね。リーゼロッテなら、私たちだけでは気づかないことも教えてくれるでしょうし」


「うんうん。じゃあ、先生のところに行こうかぁ」


 乙羽は起き上がり、ベッドから降りた。


 静も続いて身支度を整える。


「……ところで、先生はまだ起きているのかしら?」


「たぶんねぇ」


「どうしてそう思うの?」


「んぅ~……ゲームしてるかもしれないからぁ」


「……あの先生なら、ありそうね」


 二人は顔を見合わせ、くすりと笑った。


     ◇


 共有スペースへ向かうと、案の定、リーゼロッテは起きていた。


 小さな妖精は、テーブルの上に置いたノートパソコンの前でゲームをしている。画面を見つめる表情は真剣そのものだった。


「先生ぇ」


「はい? どうしました、乙羽?」


 リーゼロッテは画面から目を離さずに返事をした。


「今、ちょっといいかなぁ?」


「少々お待ちください。今、ちょうど大事な場面なので……」


 そう言って、リーゼロッテはしばらく操作を続けた。


 やがてゲームが一区切りつくと、ようやく二人へ向き直る。


「それで、どうしましたか?」


「静お姉ちゃんと、もう少しダンジョンの奥まで行きたいんだけどぉ。一緒に来てくれる?」


「……なるほど」


 リーゼロッテは静を見上げた。


「第22層では物足りなくなったのですね」


「ええ。みんなと攻略するのは楽しいのだけど、私には少し簡単すぎるのよ。せっかくなら、もっと強い相手と戦ってみたいわ」


「私も同じだよぉ。もっといろんな魔法を試してみたいしねぇ」


 乙羽も頷いた。


 リーゼロッテは少し考えてから、二人の希望を受け入れた。


「わかりました。私も同行しましょう」


「やったぁ!」


 乙羽が嬉しそうに声を上げる。


「ただし、いくつか条件があります」


 リーゼロッテは指を一本立てた。


「まず、無理に先へ進もうとしないこと。敵が想定以上に強ければ、その時点で撤退します」


「わかったわ」


「それから、帰還時刻は厳守です。明日は遠征の最終日ですから、攻略に夢中になって帰る時間を忘れないでくださいね」


「もちろんだよぉ」


 乙羽は素直に頷いた。


「あと、ほかの皆さんを起こさないように。せっかく休んでいるのですから、静かに出発しましょう」


「それは気をつけないとねぇ」


 静も同意した。


 今回の目的は、あくまで二人が強敵と戦い、自分たちの実力を試すことだ。


 ほかのメンバーを無理に連れていく必要はない。彼女たちには彼女たちの訓練があり、今は十分に休んでもらうほうがいい。


「では、準備をしましょうか。第22層の転移陣から始めれば、すぐに攻略を再開できます」


「うん。そこから先は、まだ行ったことがないんだよねぇ」


「ええ。どんな相手がいるのか、楽しみね」


 静は剣の柄を確かめ、軽く笑った。


 先ほどまでの退屈そうな表情は、もう消えている。


 これから待っているのは、仲間たちに合わせるための戦いではない。


 自分の実力を存分に試せる、姉妹二人だけの攻略だ。


     ◇


 準備を終えた三人は、宿泊施設の外へ出た。


 夜風が頬を撫でる。


 周囲は静まり返っており、遠くから聞こえる虫の声だけが、夜の訪れを感じさせていた。


「それでは、行きましょうか」


 リーゼロッテが二人を見上げる。


「はぁい!」


「ええ。よろしく頼むわね」


 乙羽と静は、それぞれ返事をした。


 リーゼロッテが魔法を発動させると、三人の足元に淡い光が広がる。


 行き先は、沖縄のダンジョン、第22層。


 その先には、まだ見ぬ強敵たちが待っている。


「ふふっ。楽しみだねぇ、お姉ちゃん」


「ええ。今夜は、少し本気を出してみましょうか」


 姉妹は顔を見合わせた。


 次の瞬間、三人の姿が光に包まれ、夜の宿泊施設から消えた。


 こうして、沖縄遠征最後の夜。


 みんなが眠る中、乙羽と静、そしてリーゼロッテによる、秘密の深夜攻略が始まったのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。