「……集計が終わりました」
十層の水場。
広大な水面の下には、色とりどりの魚型モンスターが泳いでいた。水底には岩場が広がり、その隙間には甲殻類に似たモンスターや、珍しい水草も見える。
水中に入ると、陸上とは感覚がまるで違った。
体を動かすたびに水の抵抗があり、方向を変えるにも力の入れ方を考えなければならない。水中で魔法を使う場合も、地上と同じように放てばいいわけではなかった。
楽斗は慣れた動きで水中へ潜っていった。
泳ぎながら周囲を確認し、魚型モンスターの群れを見つけると、無駄な動きをせずに接近する。
獲物が逃げる方向を予測し、先回りして捕獲する。逃げ道を塞ぎ、必要以上に追い回さず、効率よく食材を集めていった。
一方、梓は少し慎重だった。
泳げないわけではない。しかし、戦闘を前提に水中で動く経験は、楽斗ほど多くない。
陸上なら簡単にできる動作でも、水の抵抗があるとタイミングがずれる。拳を振るうと水が押し返し、方向転換にも余計な力が必要だった。
(なるほど……。確かに、陸上とは勝手が違うわね)
梓は水中で姿勢を整えた。
魚型モンスターが目の前を通り過ぎる。
追いかけようとしたが、相手は予想以上に素早く、岩の隙間へと逃げ込んでしまった。
(……逃げ道まで考えないといけないのね)
梓は一度、動きを止めた。
そして、周囲の地形を確認する。
魚の群れがどこから来て、どこへ向かうのか。岩場の隙間はどこにつながっているのか。無理に追うのではなく、相手が通りそうな場所で待ち構えればいい。
そう考え直し、梓は次の群れを探した。
やがて、数匹の魚型モンスターが岩場の間を泳いでくる。
梓はタイミングを見極め、一気に接近した。
拳を振るうのではなく、手を伸ばして進路を塞ぎ、逃げようとした個体を素早く捕まえる。
「……よし!」
水中で小さく頷いた。
最初の一匹を確保できた。
その後も、梓は試行錯誤を繰り返しながら、少しずつ捕獲数を増やしていった。
『楽斗さん、動きがすごく自然だな』
『水の中なのに、方向転換が滑らかだ』
『梓ちゃんは最初ちょっと苦戦してる?』
『でも、すぐに動き方を変えたぞ』
『あの適応力がすごいんだよな』
『水中で拳を使うのは難しそう』
『二人とも、地上とは違う戦い方をしてるなぁ』
水中の映像は、陸上での戦闘とは違う面白さがあった。
楽斗は経験を生かして効率よく動き、梓は持ち前の身体能力と判断力で水中の感覚に順応していく。
どちらも簡単には譲らなかった。
◇
時間が経つにつれて、二人の捕獲数は増えていった。
楽斗は魚の群れを見つけるたび、無理のない動きで接近し、確実に捕まえていく。水中の地形を熟知しているため、逃げられた魚がどこへ向かうかも予測できていた。
梓は、最初の苦戦が嘘のように動きがよくなっていた。
水の抵抗を計算に入れ、無駄な動作を減らす。力任せに追いかけるのではなく、相手の進路を読んで先回りする。
それでも、経験の差は残っていた。
楽斗は、魚を見つけてから捕獲するまでの時間が短い。梓は一匹ずつ確実に捕まえているものの、どうしても時間がかかる場面があった。
やがて、制限時間が残り少なくなる。
楽斗は、最後に見つけた群れをまとめて捕獲した。
「よし、これでかなり集まったな!」
水中で満足げに頷く。
一方の梓も、最後の一匹を捕まえてから水面へ戻った。
「……ふぅ。思ったより大変だったわね」
梓は息を整えながら、集めた食材を確認した。
楽斗の捕獲数は多い。
魚型モンスターだけでなく、甲殻類や食用の水草も揃っている。地元のダンジョンを知り尽くしているからこそ、食材になるものを効率よく見つけられたのだろう。
梓のほうは、数では少し劣っていた。
しかし、彼女が集めた食材の中には、珍しい種類の魚や、魔力を多く含んだ希少な素材がいくつも混ざっていた。
「では、鑑定してみましょうか」
リーゼロッテが食材を一つずつ確認する。
数量だけなら、楽斗が上回っている。
だが、品質や希少性も含めて評価すると、結果は変わってきた。
「……集計が終わりました」
リーゼロッテは二人を見比べた。
「今回の勝負は、梓の勝ちですね」
「えっ!?」
楽斗が目を丸くした。
「ちょ、ちょっと待ってくれ! 数なら俺のほうが多いだろ!?」
「ええ。捕獲数は楽斗のほうが上です。ただし、梓が集めた食材には、希少性の高いものや品質のよいものが多く含まれていました。総合評価では梓が上回っています」
「そ、そんな……!」
楽斗は自分の食材を見下ろした。
数を集めることには成功した。水中での動きも、効率も、十分に自信があった。
しかし、勝負は数だけではなかった。
梓は水中戦に慣れていない分、見つけた食材を慎重に選び、価値の高いものを優先して集めていたのだ。
「……なるほどね」
梓は納得したように頷いた。
「数だけじゃなくて、何を集めるかも大事だったってことね」
「そういうことです」
リーゼロッテが答える。
楽斗は悔しそうに頭をかいたが、やがて大きく息を吐いた。
「……参った。俺の負けだな」
「ええ。いい勝負だったわ」
梓は素直に答えた。
「楽斗の水中での動きは、本当に慣れていたもの。あのまま数だけを競っていたら、私が負けていたでしょうね」
「……そう言ってもらえると、少し救われるな」
楽斗は苦笑した。
『梓ちゃん勝った!』
『楽斗さん、数は圧倒してたのに惜しい!』
『品質と希少性まで評価するルールが効いたな』
『梓ちゃん、途中で動き方を変えたのが大きかった』
『楽斗さんの水中技術もすごかったぞ』
『これぞ接戦って感じだな!』
『梓ちゃん、報酬ゲットおめでとう!』
コメント欄は、二人の勝負を称える声で埋め尽くされていた。




