「……は?」
沖縄合宿の候補地や訓練内容について、ひと通り話し合った十席。
まだ正式に決まったわけではないが、祐樹の家の系列ホテルを利用できる見込みがあることもあり、実現に向けた道筋は少しずつ見えてきていた。
そんな中、祐樹が再び口を開いた。
「それと、せっかく沖縄まで行くなら、もう一つ企画を考えておきたいんだ」
「まだ何かあるの?」
アリスが尋ねる。
「配信だよ。三つのパーティーが合同で合宿するんだから、その様子を配信すれば注目されるだろ?」
「それはそうだね」
琴が頷いた。
「普段は別々に活動している私たちが一緒に訓練するわけだし、連携の練習やダンジョン攻略の様子を見てもらうのは面白そうだね」
「だろ? それに、沖縄の魅力も紹介できると思うんだ。ダンジョンだけじゃなくて、食事や観光地なんかも取り上げれば、現地のPRにもつながるだろうし」
「おぉ~。沖縄のおいしいものも紹介するのぉ?」
乙羽が興味深そうに身を乗り出した。
「もちろん。地元の料理を食べたり、観光地を巡ったりする様子も配信できれば、合宿の雰囲気が伝わると思うぞ」
「いいねぇ。楽しそうだよぉ」
「ただし、訓練が本来の目的だからね」
琴が念を押す。
「配信のために訓練時間を削りすぎないようにしないと」
「わかってるって。そこはちゃんと調整するつもりだ」
祐樹は頷いた。
ダンジョン攻略だけでなく、沖縄の観光や食事も紹介する。
三つのパーティーが参加する合同合宿なら、普段の配信とは違った内容にできるだろう。沖縄を訪れる人が増えれば、宿泊や飲食、交通などにもよい影響が期待できる。
学校の公式活動として配信するなら、収益や必要経費についても学校側と相談して決めればいい。
企画としては、十分に検討する価値がありそうだった。
「それなら、写真も活用できるんじゃないか?」
祐樹が、さらに話を進めた。
「沖縄の景色を背景に撮影して、学校の公式アカウントや広告に使うんだ。合宿の告知にもなるし、三つのパーティーを知ってもらう機会にもなるだろ?」
「写真かぁ。いいんじゃねぇか?」
柳が気軽に頷く。
「みんなで撮った写真なら、思い出にもなるしな!」
「そうですね。ダンジョンでの訓練風景や、沖縄の観光地を紹介する写真なら、企画にも合っていると思います」
ヒカルも賛成した。
しかし、祐樹はそこで少し考えるように首を傾げた。
「それで、沖縄といえば海だろ? せっかくなら、水着の写真も撮っておけば宣伝効果があるんじゃないか?」
「……は?」
アリスの表情が変わった。
「ちょっと待って。誰の水着写真を撮るつもりなの?」
「え? いや、参加するメンバーの写真だけど……」
「祐樹、それは本気で言っているの?」
ヒカルも冷静な声で問い返した。
「いや、沖縄のPR企画として考えただけだぞ? 海を背景にした写真なら、観光の宣伝にもなるだろうし……」
「海を紹介することと、私たちの水着写真を宣伝に使うことは別の話だよ」
琴が静かに指摘した。
「本人たちが撮りたいかどうかもあるし、写真をどこで、どう使うのかも決めないといけないでしょう?」
「そ、そうだね……」
祐樹は、周囲の視線が思った以上に冷たいことに気づいたらしい。
瑠奈は呆れたように肩をすくめた。
「いやいや、祐樹くん。いきなり水着写真って、ちょっと飛躍しすぎじゃない? 沖縄のPRなら、海とか料理とか、もっといろいろ見せ方があるでしょ!」
「それはそうなんだけどさ……」
「そもそも、写真に写るかどうかは本人が決めることだよ。宣伝効果があるからって、勝手に決めるものじゃないでしょ?」
瑠奈の言葉に、アリスも頷いた。
「そうだね。企画を考えるのはいいけれど、参加する人の希望を無視して進めるわけにはいかないよ」
「……悪かった。ちょっと先走ったな」
祐樹は素直に謝った。
企画そのものが悪いわけではない。
ただ、宣伝効果を考えるあまり、撮影される側の気持ちを置き去りにしてしまったのだ。
リーゼロッテも、少し考えてから口を開いた。
「それに、ティンカーベルには活動に関する契約がありますからね。水着を着ることや、海で遊ぶこと自体が禁止されているわけではありませんが、アイドルのような活動を前提とした売り方には制限があります」
「なるほど。単純に写真を撮るだけなら問題なくても、商品として販売したり、宣伝に使ったりするなら確認が必要なんだね」
アリスが整理する。
「そういうことです。撮影する本人の意思はもちろん、契約上の扱いや公開範囲も確認しておく必要があります」
「うん。そこは学校に相談して、きちんと決めたほうがいいね」
琴も同意した。
祐樹は腕を組み、少し考え込んだ。
「なるほどな……。じゃあ、沖縄のPRとしては、観光地や食事の紹介を中心にして、写真も本人たちが納得できる内容にする。それなら問題ないだろ?」
「うん。それならいいと思うよ」
アリスが頷いた。
「最初からそういう企画にしておけば、余計な問題も起きにくいからね」
そのとき、梓がふふんと胸を張った。
「まあ、広告撮影ということなら、私たちはすでに経験があるけどね!」
「えっ?」
祐樹が梓を見る。
「経験って、広告撮影?」
「そうよ。以前、ティンカーベルの冒険者装備を紹介する広告を撮影したの。装備の特徴や実際の使用感を伝える、ちゃんとした商品広告よ」
梓は少し得意げに説明した。
「撮影した写真は、すでに広告として使われているわ。だから、商品を紹介する企画なら、どういう形が適切なのかもある程度わかっているつもりよ」
「へえ……。それは知らなかったな」
祐樹は感心したように頷いた。
「なるほど。水着写真で宣伝するより、冒険者としての活動や装備を紹介するほうが、ティンカーベルのイメージにも合っているわけか」
「そういうこと!」
梓は満足そうに頷いた。
「せっかく冒険者として活動しているんだから、私たちにしかできない宣伝を考えたほうがいいでしょう?」
「確かに、そのほうが自然だね」
琴も同意した。
「沖縄のダンジョンで使う装備を紹介したり、訓練の様子を見せたりするのも面白そうだよ」
「それなら、合宿の目的とも合っているね」
アリスが話をまとめる。
「観光のPRは観光のPRとして行い、冒険者としての広告は別に考える。本人の希望や契約も確認しながら進めれば、無理なく企画を組み立てられると思う」
「そうだな。水着写真の話は一旦置いておくよ。まずは合宿そのものを成立させないとな」
祐樹は苦笑した。
「ホテルの確認に、ダンジョンの下見、日程調整。それに配信の企画もある。順番に進めていこう」
「うん。まずは安全に合宿できる環境を整えることが先だね」
政宗が頷いた。
話し合いは、再び合宿の準備へと戻っていった。
◇
しばらくして、リーゼロッテが引率について話を切り出した。
「そういえば、引率についても考えておいたほうがよさそうですね。ダンジョンの下見や合宿中の安全管理を考えると、経験豊富な冒険者が一人いると安心です」
「それなら、静さんにお願いするのはどうかな?」
琴が提案した。
「乙羽のお姉さんだし、Sランク冒険者としての経験も豊富だからね」
「確かに、静さんなら適任かもしれないね」
アリスも賛成した。
「ただ、本人の予定もあるから、お願いするなら早めに相談したほうがいいと思う」
「そうですね」
リーゼロッテは、すぐにスマートフォンを取り出した。
「今、連絡してみましょうか」
「今!?」
柳が思わず声を上げる。
「だって、予定を確認するだけですよ?」
リーゼロッテは不思議そうに首を傾げ、静へ電話をかけた。
数回の呼び出し音のあと、静の声が聞こえてくる。
『もしもし、リーゼロッテ? どうしたの?』
「静、今度の夏休みに沖縄で合同合宿を行う案が出ているのですが、引率をお願いできませんか?」
『……沖縄? 合宿?』
電話の向こうで、静が少し考え込む気配がした。
『まだ日程は決まっていないのよね?』
「はい。これから調整するところです」
『それなら、ひとまず予定を空けられるか確認しておくわ。日程が決まったら、もう一度相談してちょうだい』
「ありがとうございます。助かります」
『ええ。みんなが安全に合宿できるように、私も協力するわ』
通話が終わると、リーゼロッテはスマートフォンをしまった。
「ひとまず、予定を確認しておいてくれるそうです。日程が決まったら、改めて相談しましょう」
「先生、仕事が早いな……」
柳が呆れ半分に呟く。
「まだ候補を出した段階なのに、もう静さんの予定まで押さえにいったぞ」
「仮の確認ですよ。正式な依頼は、日程が決まってからです」
「そういう問題じゃねえんだけどな……」
柳の言葉に、会議室で小さな笑いが起きた。
もっとも、静が協力してくれる見込みができたのは大きい。
Sランク冒険者としての経験があり、乙羽たちの活動も理解している。安全管理や戦闘時の判断についても、頼れる存在になるだろう。
「これで、合宿の形が少し見えてきたね」
アリスが言った。
「まずは候補となるダンジョンを調べて、ホテルの利用条件も確認する。それから日程を決めて、学校に正式な計画を提出しよう」
「賛成だ」
政宗が頷く。
「下見の結果次第では、別の場所を探すことも考えておこう。高経験値という条件だけで決めるわけにはいかないからね」
「そうですね。経験値効率、敵の強さ、地形、移動のしやすさ。全員が訓練できる環境かどうかを確認しましょう」
リーゼロッテも同意した。
沖縄合宿は、まだ提案の段階だ。
それでも、高経験値ダンジョンの候補を探すことができ、宿泊先についても祐樹の家の系列ホテルを利用できる見込みがある。さらに、静が引率に協力してくれる可能性も出てきた。
実現に向けた課題は残っているものの、最初に考えていたよりも、ずっと具体的な計画になりつつあった。
「じゃあ、次は候補のダンジョンを探すところからだねぇ」
乙羽は楽しそうに言った。
「沖縄かぁ。海、楽しみだなぁ」
「だから、合宿が本来の目的だからね?」
琴が念を押す。
「わかってるよぉ。ちゃんと訓練もするからねぇ」
「本当かなぁ……」
柳が笑う。
「するよぉ。たぶんねぇ」
「たぶんじゃ駄目でしょう!」
梓のツッコミが飛び、会議室に再び笑い声が広がった。
こうして、十席会議で提案された沖縄合同合宿は、実現に向けて動き出すことになった。
高経験値ダンジョンの調査に、系列ホテルの利用確認、そして日程の調整。
やるべきことは多い。
けれど、三つのパーティーが一緒に成長できる機会になるのなら、準備を進める価値は十分にあった。




