「おぉ~。行ってみたいねぇ」
学園の会議室では、全国大会に向けた十席会議が続いていた。
競技会でどの競技に誰を出すのか。ほかの生徒たちにどう経験を積ませるのか。話し合うことは、まだまだ残っている。
そんな中、資料を確認していた祐樹が、ふと思いついたように口を開いた。
「なあ、みんな。夏休みの予定って、もう決まってる?」
「夏休み?」
柳が顔を上げた。
「まだ細かいところまでは決めてないけど、どうしたんだ?」
「せっかくだし、三つのパーティーで合同合宿をしないかと思ってさ」
「合同合宿かぁ」
乙羽がのんびりと繰り返す。
「どこでやるのぉ?」
「沖縄なんてどうだ?」
「沖縄!?」
乙羽の声が、少しだけ弾んだ。
「海があるところだよねぇ?」
「そりゃあるだろ。沖縄なんだから」
「おぉ~。行ってみたいねぇ」
乙羽はすっかり興味を引かれた様子だった。
その反応を見て、祐樹は笑いながら話を続ける。
「もちろん、遊びに行くだけじゃないぞ。ティンカーベルだけじゃなく、ブレイカーズとバスタードも一緒に訓練するんだ。全国大会に向けて、普段とは違う環境で経験を積むのも悪くないだろ?」
「なるほど。合同訓練には意味があると思うよ」
アリスが頷いた。
「ただ、沖縄まで行くとなると、移動や宿泊の手配も必要になるね。日程も調整しないといけないし」
「そこなんだけどさ」
祐樹は待っていたと言わんばかりに手を挙げた。
「宿泊先なら、たぶん問題ないぞ。沖縄には、うちの系列ホテルが何か所かあるんだ。合宿で使わせてもらえるか、空室や受け入れ条件を確認する必要はあるけどな」
「えっ、ホテルまであるの?」
瑠奈が驚いたように聞き返した。
「何か所かあるって言っただろ。団体で泊まれるところを選べばいいし、訓練に出やすい場所を優先して探すこともできる」
「それは大きいですね」
ヒカルが頷いた。
「大人数で泊まれる場所を確保できる見込みがあるなら、計画も立てやすくなります」
「だよな。移動手段や食事についても、系列ホテルを使えるなら相談しやすいと思う。もちろん、費用や利用条件は確認する必要があるけどさ」
祐樹はそう付け加えた。
沖縄で合宿をするとなれば、宿泊場所を探し、食事を用意し、移動の予定も組まなければならない。
人数が増えるほど、そうした準備は面倒になる。
しかし、祐樹の家の系列ホテルを利用できるのなら、少なくとも宿泊先の確保という大きな問題は解決できる可能性がある。
それだけでも、沖縄合宿を実現するためのハードルはかなり下がった。
「それなら、候補として考える価値はありそうだね」
アリスが資料に目を落とす。
「でも、肝心なのは訓練内容だよ。沖縄まで行く以上、ただ場所を変えるだけでは意味がないからね」
「もちろん、ダンジョンを使うつもりだ」
祐樹が答えた。
「沖縄にあるダンジョンの中から、高経験値のところを選びたいんだ。敵を倒したときに得られる経験値が多ければ、限られた合宿期間でも成長につながるだろ?」
「高経験値ダンジョンかぁ」
龍太が腕を組んだ。
「それなら、レベル上げにも向いてそうだな」
「そう。ただ、経験値が多いだけじゃ駄目だ。敵が強すぎても困るし、数が少なくても効率が悪い。俺たちが訓練できる範囲で、経験値を稼ぎやすい場所を探したいんだ」
「今回の参加者は、三つのパーティーで合計11人だ。レベルにも差があるから、全員が訓練できる相手でなければ、合同合宿にする意味が薄れてしまう」
政宗が落ち着いた声で続けた。
「そうだね。目安としては、レベル50前後までのモンスターが中心の場所がいいと思う」
アリスも頷いた。
「それなら、経験値を稼ぎながら、各自の戦闘技術も磨けるはずだよ」
「なるほどねぇ」
乙羽は話を聞きながら、少し考え込んだ。
「でも、11人もいるなら、狭いところだと動きにくくないかなぁ?」
「そのとおりです」
リーゼロッテが答えた。
「通路の狭いダンジョンでは、全員が同時に戦うのは難しいでしょう。大人数で訓練するなら、広い場所が必要ですね」
「だったら、開けたフィールドがあるダンジョンがいいな!」
柳が身を乗り出す。
「敵がある程度まとまって出てくるなら、パーティーごとに分かれて戦うこともできるだろ?」
「うん。それなら合同訓練にも向いていそうだね」
琴も賛成した。
「ただ敵を倒すだけじゃなくて、三つのパーティーで役割を分けたり、連携を確認したりすることもできるもの」
「広い場所なら、11人全員での討伐訓練もできそうですね」
ヒカルが付け加えた。
「普段は別々に活動している三つのパーティーが一緒に戦う機会は、そう多くありません。全国大会の前に経験しておく意味はあると思います」
「よし、条件は見えてきたな」
祐樹は、会議室にいる全員を見渡した。
「経験値が多いこと。敵はレベル50前後までが中心であること。それから、11人が動ける広さがあること。このあたりを条件にして、候補を探そう」
「まだ決まったわけではありませんよ」
リーゼロッテが念を押した。
「まずは、実際にどんなモンスターが出るのか確認する必要があります。種類や数、出現する頻度だけでなく、地形や危険な仕掛けの有無も調べなければなりません」
「そうだな。いきなり全員で向かうんじゃなくて、先に調査しておく必要がある」
政宗も同意した。
「敵の強さが想定と違った場合、訓練計画そのものを見直すことになるからね」
「そっかぁ。じゃあ、ティンカーベルだけで沖縄のダンジョン配信をするのもいいねぇ」
乙羽が、ふと思いついたように口を開いた。
「ん? 下見も兼ねてってことか?」
柳が尋ねる。
「うん。どんなダンジョンなのか、実際に見てみたいしぃ。せっかく沖縄まで行くなら、配信もできたら楽しそうだよねぇ」
「ふふっ!乙羽、私たちはある程度自由登校だもの!その下見に行ってもいいわよね!」
梓が楽しそうに笑った。
「なるほどね。先に私たちで候補のダンジョンを確認しておけば、合宿の計画も立てやすくなりそうだね」
琴も頷いた。
「それに、先生もいるなら、鑑定でモンスターのレベルを正確に把握できるはず。見た目や戦い方だけでは判断できない部分も確認できるよ」
「そうですね。実際に現地へ行けば、出現するモンスターのレベルだけでなく、種類や出現頻度も調べられます。合宿に適した場所かどうか、判断しやすくなるでしょう」
リーゼロッテが説明する。
「それは助かるな。候補を絞るためにも、まずは下見をしてみるのがよさそうだ」
政宗も納得した様子だった。
「それに、沖縄なら観光もゆっくりできそうだよねぇ」
乙羽はすでに、合宿の先にある楽しみを想像しているらしい。
「どうせ横浜にずっといなきゃいけないわけでもねぇし、行ってもいいよな!」
柳も乗り気だった。
「ダンジョンの下見が目的だけど、自由時間も取れるなら悪くないね」
琴が笑う。
「ふふっ。そうと決まれば、沖縄でおいしいものも食べましょう。ダンジョンの調査のついでに、現地の食事を楽しむのも大切ですからね」
リーゼロッテが、どこか真剣な顔で付け加えた。
「先生、もう食べることまで考えてるのぉ?」
「もちろんです。現地の食文化を知ることも、訪問先を理解するうえでは重要ですよ?」
「絶対、食べたいだけだろ!」
柳が突っ込むと、会議室に笑い声が広がった。
もっとも、下見を兼ねて沖縄へ行くという案には、十分な意味がある。
ティンカーベルが先に候補のダンジョンを調べておけば、敵のレベルや地形、出現頻度などを確認できる。さらに、実際に訪れた経験をもとに、合宿の訓練内容も考えられるだろう。
もちろん、学校の予定や配信の調整は必要だ。それでも、合宿の準備を進めるための第一歩としては悪くない案だった。
「下見をして、問題がないと確認できてから合宿先として決める。そういう順番がよさそうだね」
アリスが話をまとめた。
沖縄合宿の実現に向けて、少しずつ必要な条件が整理されていく。
高経験値のダンジョンを見つけること。
11人が訓練できる広い場所があること。
そして、敵の強さや危険性が、参加者たちの実力に合っていること。
どれか一つでも欠けていれば、せっかくの合宿が十分な成果につながらない可能性がある。
それでも、宿泊先については祐樹の家の系列ホテルを利用できる見込みがある。
合宿の計画を立てるうえで、大きな障害の一つが取り除かれたのは確かだった。
「これなら、ちゃんと計画を詰めていけそうだね」
アリスが頷く。
「まずは候補となるダンジョンと、ホテルの受け入れ条件を調べよう。そこから日程や移動手段を決めていけばいい」
「おう! せっかく行くなら、いい合宿にしたいよな!」
柳が元気よく答えた。
「んぅ~。沖縄かぁ。海も見たいし、おいしいものも食べたいねぇ」
「乙羽、まだ合宿先に決まったわけじゃないよ?」
琴が苦笑する。
「わかってるよぉ。でも、行けたら楽しそうだなぁって」
乙羽は楽しそうに笑った。
沖縄合宿は、まだ提案の段階だ。
それでも、高経験値ダンジョンの候補を探すことができ、宿泊先についても系列ホテルを利用できる見込みがある。
最初に考えていたよりも、ずっと具体的な計画になりつつあった。
あとは、訓練に適したダンジョンを見つけ、日程や安全面の条件を整えていくことになる。
沖縄合宿の実現に向けて、まずは最初の一歩が踏み出されたのだった。




