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殴り賢者はバレている  作者: 七風


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「おぉ~、いっぱい人がいるねぇ」

 広告撮影から、数週間後。


 ティンカーベルの公式チャンネルに、短い告知が掲載された。


『近日、横浜駅周辺にて新しい広告を公開予定!』


 それだけだった。


 詳しい日時も、広告の内容も書かれていない。添えられていたのは、霧ヶ峰家の企業ロゴと、冒険者向け装備の広告企画が進んでいることを示す簡単な案内だけだ。


 しかし、ティンカーベルのファンにとっては、それだけでも十分だった。


『新しい広告!?』


『横浜駅ってことは、駅に大きな広告が出るのか?』


『装備の広告って言ってたやつかな』


『ティンカーベルの新しいビジュアルが見られるってこと!?』


『日時が書いてないんだけど、いつ行けばいいんだw』


『近日っていつだよ!』


 SNSでも話題になり、横浜駅周辺を利用するファンたちは、広告がいつ公開されるのか気になって仕方がなかった。


 そして、数日後。


 横浜駅西口の広場に、普段とは少し違う人だかりができていた。


「なんだ? 何かイベントでもあるのか?」


「さあ……。でも、あっちに人が集まってるぞ」


 通りかかった人たちが、何事かと足を止める。


 広場の大型ビジョンは、いつもどおり企業広告や案内映像を流していた。ところが、ある時刻になると、画面が一瞬暗くなった。


 次の瞬間。


 画面いっぱいに、5人の冒険者が映し出された。


 中央に立つのは、白っぽいジャケットとスカートをまとった乙羽。手元には小さな光が浮かび、周囲には色とりどりの魔法が広がっている。


 その左右には、刀を構える琴と、2本の短剣を手にした柳。


 少し後ろには、中華風の衣装を着た梓。そして、蝶のような羽を広げた小さな妖精、リーゼロッテ。


 足元には、可愛らしい鞍を着けたフェンちゃんの姿もあった。


 5人と1匹が、それぞれの個性を見せながら並んでいる。


 そして、画面の中央に大きな文字が浮かび上がった。


 『次代を切り拓く、冒険者たち。』


 その下には、霧ヶ峰家の企業ロゴと、冒険者向け装備の広告であることを示す案内が表示されていた。


「……え?」


 最初に気づいたファンが、ぽかんと口を開けた。


「ちょっと待って。あれ、ティンカーベルじゃないか!?」


「本当だ! 乙羽ちゃんたちだ!」


「琴ちゃんも柳ちゃんもいる!」


「梓ちゃんまでいるぞ!?」


「先生とフェンちゃんもいるじゃん!」


 声に気づいた人たちが次々と集まってくる。


 スマートフォンを取り出し、ビジョンを撮影する人。友人に連絡する人。公式チャンネルの告知を見直す人。


 広場は、あっという間に賑やかになった。


『横浜駅西口にティンカーベルの広告出てる!!』


『本当に来た! 今、現地にいる!』


『えっ、今日だったの!?』


『告知、簡単すぎるだろwww』


『仕事帰りに寄ったらとんでもないものが見えたんだが』


『乙羽ちゃんたち、めっちゃかっこいい!』


『フェンちゃんもいる! かわいい!』


 SNSには、現地の写真や動画が次々と投稿され始めた。


 広告は一度流れて終わりではなかった。


 しばらくすると、再び映像が切り替わり、今度は5人がそれぞれ装備を構える姿が映し出される。


 乙羽の周囲では、炎と風が美しく重なり合っていた。琴の刀は静かに光を反射し、柳は短剣を手に軽やかな構えを見せる。梓は鋭い視線をカメラへ向け、リーゼロッテは小さな杖を掲げている。


 最後にフェンちゃんが顔を上げ、尻尾を振る映像が入った。


「かわいいいい!」


 誰かの声が広場に響く。


「最後のフェンちゃん、反則だろ!」


「装備の広告なのに、フェンちゃんのところ何回も見ちゃうんだけど!」


「いや、全員いいだろ! 衣装もそれぞれ似合ってるし!」


 広告を見た人たちの反応は、さまざまだった。


 冒険者たちは装備のデザインや、それぞれの武器に目を向けている。一方、普段からティンカーベルを応援しているファンは、いつも配信で見ている5人の新しい姿に夢中だった。


 中には、通りすがりに広告を見て興味を持ち、初めてティンカーベルの名前を知った人もいた。


 大型ビジョンの映像は、何度も繰り返し流れている。


 そのたびに、新しい人だかりができていた。


     ◇


 しばらくして、広場の端に停まった車から、見覚えのある一団が降りてきた。


「……あれ?」


「嘘だろ!?」


 誰かが気づいた。


 乙羽、琴、柳、梓、そしてリーゼロッテ。


 さらに、乙羽のそばには子犬姿のフェンちゃんもいる。


 広告に映っていた本人たちが、実際に現れたのだ。


「ティ、ティンカーベルだあああ!」


「本物!?」


「乙羽ちゃん! 琴ちゃん! 柳ちゃん!」


「梓ちゃんもいるぞ!」


 広場の空気が、一気に変わった。


 先ほどまでビジョンを撮影していた人たちが振り返り、スマートフォンを手にしたまま声を上げる。


「おぉ~、いっぱい人がいるねぇ」


 乙羽は集まった人たちを見て、のんびりと声を上げた。


「広告、もう流れてるんだねぇ」


「そうだね。思っていた以上に注目されているみたい」


 琴も大型ビジョンを見上げた。


「いや、これだけ大きな画面に出てるんだぞ! そりゃ人も集まるだろ!」


 柳は楽しそうに笑っている。


「ふふん。私たちの広告なんだから、注目されるのは当然よ!」


 梓も得意げに胸を張った。


「皆さん、今日は広告の公開に合わせて、少しだけご挨拶に来ました」


 琴が集まった人たちへ声をかける。


「撮影に協力してくださった霧ヶ峰家の皆さん、関係者の皆さんに感謝しています。私たちの活動を応援してくれている皆さんにも、改めてお礼を伝えたいです」


 その言葉に、周囲から拍手が起こった。


「広告、すごくよかったです!」


「みんなかっこいい!」


「フェンちゃんかわいい!」


「新しい装備、これから使うんですか?」


 次々と声が飛んでくる。


「ありがとぉ。かわいく撮ってもらえたよねぇ」


 乙羽は大型ビジョンを見上げて笑った。


「先生も、ちゃんと映ってるねぇ」


「当然です。私もティンカーベルの一員ですからね」


 リーゼロッテは満足そうに頷いた。


 そのとき、足元のフェンちゃんが元気よく鳴いた。


「わふっ!」


「フェンちゃんも、みんなに挨拶してるのかなぁ」


 乙羽がしゃがんで頭を撫でると、フェンちゃんは尻尾を振りながら、集まった人たちのほうを見た。


「かわいい……!」


 近くにいたファンが、思わず声を漏らした。


 フェンちゃんはすっかり人気者だった。


     ◇


 その後も、ティンカーベルの5人は広場でしばらくファンたちと交流した。


 安全と通行の妨げにならないよう、スタッフが周囲を確認しながら、短い挨拶や写真撮影に応じていく。


「乙羽ちゃん、広告おめでとう!」


「ありがとぉ」


「琴ちゃん、刀の衣装がすごく似合ってました!」


「ありがとう。そう言ってもらえると嬉しいよ」


「柳ちゃん、短剣かっこよかった!」


「おう! ありがとな!」


「梓ちゃん、広告で初めて知ったんですけど、すごく素敵でした!」


「ふふん。そうでしょう?」


 梓は嬉しそうに胸を張る。


「先生の衣装もかわいかったです!」


「ありがとうございます。細部まできちんと作っていただきましたからね」


 リーゼロッテも機嫌よく答えた。


 広告を見て足を止めた人たちの中には、ティンカーベルの配信を知らなかった人もいた。


「この人たち、配信もやってるんですか?」


「そうだよぉ。ダンジョン攻略の配信もしてるんだよぉ」


 乙羽が答える。


「よかったら、公式チャンネルも見てねぇ」


「見ます! 今日帰ったら確認します!」


 そんなやり取りもあり、広告の公開は単なる宣伝にとどまらず、新しいファンを増やすきっかけにもなっていた。


 そして、大型ビジョンに再び広告が流れる。


 5人と1匹が並ぶ姿。


 それぞれの装備。


 魔法と武器が織りなす、冒険者らしい一瞬。


 最後に表示される言葉。


 『次代を切り拓く、冒険者たち。』


 その映像を、本人たちも広場から眺めていた。


「なんだか、不思議な感じだねぇ」


 乙羽が呟く。


「自分たちがこんな大きな画面に映るなんてね」


 琴も少し照れたように笑った。


「でも、いい広告になったんじゃないか?」


 柳が頷く。


「これを見て、冒険者になりたいって思う人が増えたら嬉しいな」


「そうね。私たちの姿を見て、誰かが一歩踏み出すきっかけになったら素敵だと思うわ」


 梓も、いつになく素直な口調で答えた。


 リーゼロッテは5人を見渡してから、満足そうに頷く。


「ええ。皆さんの魅力が伝わる広告になったと思いますよ」


「先生も、満足そうだねぇ」


「もちろんです」


 リーゼロッテは迷いなく答えた。


「私もきちんと映っていますからね」


「そこなんだぁ」


 乙羽がくすくすと笑い、周囲にも再び笑い声が広がった。


 こうして、ティンカーベル初の本格的な広告は、横浜駅西口で公開された。


 短い告知から始まった、少しゲリラ的な公開。


 けれど、その場に集まった人たちにとっては、忘れられない出来事になった。


 そして、広告の公開をきっかけに、ティンカーベルの名前はまた新たな場所へと広がっていくのだった。

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