「私は、そんな迷惑なことはしていないわ!」
広告企画についてひと通り話し合いが終わったころ、琴がふと思い出したように口を開いた。
「そういえば、今回みたいな広告の依頼が増えると、私たちに接触してくる人も増えるかもしれないね」
「んぅ? どういうことぉ?」
乙羽が首を傾げる。
「広告だけじゃなくて、コラボや合同訓練の誘いも増えるかもしれないってこと。私たちは配信で戦い方を見せているし、冒険者としての知名度も上がっているでしょう?」
「なるほどな。面白そうだから一緒に活動しよう、って話ならいいけど……」
柳は少し考え、眉を寄せた。
「この前の鈴木みたいなのが来たら面倒だよな」
「ああ……」
琴も思わず頷いた。
初めてのコラボ配信に割り込んできた鈴木太郎。自分の経験や立場を一方的に主張し、相手の都合を十分に聞かないまま模擬戦まで持ち込もうとした人物だ。
結果として、乙羽との実力差を思い知らされることになったわけだが、あの一件で全員が少なからず疲れたのも事実だった。
「Sランク冒険者だからって、みんながみんな話のわかる人とは限らないものね」
琴が続ける。
「実力がある人ほど、自分のやり方に自信を持っている場合もあるし。私たちの活動方針を無視して、勝手に予定を決めようとする人がまた現れないとも限らないよ」
「そうですね。模擬戦だけならまだしも、勝手にダンジョンへ同行しようとしたり、配信に参加すると言い出したりする可能性もあります」
リーゼロッテも頷いた。
「そういう相手には、最初からきちんと対応したほうがいいでしょう。相手がSランクだからといって、こちらが無条件に要求を受け入れる必要はありませんからね」
「うん。面白そうな話でも、まずは学校や協会を通して確認したほうがいいねぇ」
乙羽も納得したように頷いた。
そのときだった。
「……う」
梓が小さく声を漏らした。
3人の視線が、一斉に彼女へ向く。
「梓ちゃん?」
「どうしたんだ?」
「……いえ、何でもないわ」
梓は目をそらした。
しかし、その反応はどう見ても何でもないというものではなかった。
琴が少し考えてから、控えめに尋ねる。
「もしかして、梓も似たようなことをした経験があるの?」
「なっ!? ち、違うわよ!」
梓は勢いよく顔を上げた。
「私は、そんな迷惑なことはしていないわ!」
「でも、少し心当たりがありそうな反応だったよぉ?」
乙羽が不思議そうに首を傾げた。
「うっ……」
梓は言葉に詰まった。
確かに、思い当たることはある。
ティンカーベルの存在を知ってから、彼女たちの実力にはずっと興味を持っていた。転校してきた理由の1つにも、彼女たちと直接交流し、その実力を自分の目で確かめたいという気持ちがあった。
だからこそ、同じクラスになったときには嬉しかったし、十席の会議で顔を合わせたときも、積極的に話しかけた。
その後、初めてのコラボ配信に誘われたときなど、嬉しさのあまり即答してしまったくらいだ。
もちろん、鈴木のように相手の予定を無視して模擬戦を押しつけたわけではない。
それでも、もし自分が相手の立場だったら、興味を持たれること自体を負担に感じる場合もあるのではないか。
そう考えると、少しばかり胸が痛んだ。
「……私も、あなたたちと知り合いたかったのは事実よ」
梓は観念したように口を開いた。
「転校してきた理由の1つでもあったし、同じクラスになれたのは嬉しかったわ。だから、積極的に話しかけていたのも本当」
「うん。梓ちゃん、よく話しかけてくれるもんねぇ」
乙羽は特に気にした様子もなく頷いた。
「そ、それだけじゃないわよ! あなたたちの実力を知りたかったし、仲良くなりたいとも思っていたの!」
「それなら、別に悪いことじゃないと思うけどな」
柳があっさりと言った。
「こっちだって、梓と仲良くなれたのは嬉しいしさ。問題なのは、相手の都合を無視して自分の希望を押しつけることだろ?」
「そうだね。興味を持ってくれること自体は嬉しいよ」
琴も微笑んだ。
「ただ、相手にも予定や希望があるからね。そこを確認せずに話を進めてしまうと、善意のつもりでも迷惑になることはあると思う」
「……そうね」
梓は小さく頷いた。
自分は、ティンカーベルと知り合いたかった。
彼女たちのことをもっと知りたかったし、できれば一緒に活動したいとも思っていた。
その気持ちは今でも変わらない。
けれど、だからといって、相手が必ず自分の希望に応じてくれるわけではないのだ。
「私も、少し気をつけるわ。Sランク冒険者として、相手の都合を考えずに行動するのは失格ね」
梓は反省したように肩を落とした。
「いや、梓ちゃんはそこまで気にしなくてもいいんじゃないかなぁ?」
乙羽がすぐに声をかける。
「梓ちゃんは、ちゃんと私たちの話を聞いてくれるもん。鈴木さんとは違うよぉ」
「……そう?」
「うん。だから、これからも普通に誘ってくれていいよぉ。ただ、予定が合わないときは断るかもしれないけどねぇ」
「もちろんよ! そこはわかっているわ!」
梓は少しだけ顔を明るくした。
「それなら、今後も遠慮なく声をかけさせてもらうわね!」
「ふふっ。うん、よろしくね」
リーゼロッテは、そんな一同を眺めながら静かに頷いた。
「まあ、結局のところ、相手の意思を尊重することが大切なのですよ。どれほど実力があっても、周囲との関係を築けなければ、気持ちよく活動することはできませんからね」
「そうだねぇ」
乙羽は頷いた。
広告企画も、今後のコラボも、すべては相手との話し合いから始まる。
面白そうだから。強い相手だから。知名度があるから。
そんな理由だけで、一方的に話を進めていいわけではない。
ティンカーベルとして活動する以上、これからは今まで以上に多くの人と関わることになるだろう。
だからこそ、相手を選ぶことも、断るべきときに断ることも大切になる。
「じゃあ、今後は変な誘いが来ても、まずはみんなで相談しようねぇ」
「そうだね。契約や配信に関わることなら、学校にも確認してもらおう」
琴がまとめる。
「おう! 面白そうだからって、すぐ飛びつかないようにするぜ!」
「柳が一番心配なんだけど……」
「なんでだよ!?」
再び笑い声が上がった。
こうして、広告企画の話し合いはひとまず終了した。
正式な契約条件は、これから学園を通して確認することになる。
その一方で、ティンカーベルの4人は、今後増えていくかもしれない依頼や誘いについても、少しずつ考えるようになっていた。
知名度が上がるということは、それだけ多くの人に知られるということだ。
嬉しいことばかりではないかもしれない。
それでも、互いに相談し、相手の意思を尊重していけば、無用なトラブルは避けられるはずだった。
梓もまた、今回の話を心に留めておこうと考えていた。
ティンカーベルと知り合いたかったという気持ちは、今も変わらない。
だからこそ、これからは彼女たちの都合も大切にしながら、同じ仲間として付き合っていきたい。
そう思いながら、梓は乙羽たちの会話に加わっていった。




