「うん……! ありがとう、乙羽」
午後19時。
ティンカーベルの公式チャンネルで、配信が始まった。
待機画面が切り替わり、見慣れた会議室と3人の姿が映し出される。
「みんなぁ、こんばんはぁ!」
乙羽がいつもの調子で手を振った。
「こんばんは! 今日も来てくれてありがとう!」
琴が笑顔で挨拶し、柳も元気よく声を上げる。
「おっす! みんな、今日は集まってくれてありがとな!」
その瞬間、コメント欄が一気に流れ始めた。
『きたああああ!』
『こんばんはー!』
『重大発表って何!?』
『気になりすぎて仕事が手につかなかったぞ!』
『今日は絶対に最後まで見る!』
『グッズか!? 新しい企画か!?』
『まさかの重大発表で緊張してきたw』
配信開始直後から、視聴者たちの関心は告知された重大発表に集中していた。
普段の配信なら、まずは挨拶を交わし、今日の予定やダンジョン攻略について話すところだ。
しかし、今日は違う。
視聴者たちは、3人がいつ本題を切り出すのかと待ち構えていた。
「ふふっ。みんな、重大発表が気になっているみたいだね」
琴がコメント欄を確認しながら笑った。
「そりゃ気になるだろ! あんな告知をしておいて、何もなかったら怒られるぞ!」
柳が冗談めかして言う。
「んぅー? 何もないわけじゃないよぉ?」
乙羽が首を傾げた。
『何かあるのは確定!』
『乙羽ちゃん、今すぐ教えて!』
『焦らさないでくれー!』
『重大発表って言うくらいだから相当な話なんだろうな』
コメント欄の流れが、さらに速くなる。
乙羽は楽しそうに画面を眺めていたが、琴がそっと話を進めた。
「それじゃあ、そろそろ本題に入ろうか」
「おう!」
「はぁい」
3人が揃ってカメラを見る。
琴が少し姿勢を正した。
「今日は、ティンカーベルの今後の活動について、大切なお知らせがあります」
『きた!』
『ついに来たぞ!』
『正座した』
『重大発表タイム!』
「実はね、今日からティンカーベルは4人で活動することになりました」
「……え?」
コメント欄の流れが、一瞬だけ止まったように見えた。
次の瞬間、画面いっぱいに驚きの声が流れ始める。
『4人!?』
『ええええええ!?』
『新メンバー加入ってこと!?』
『待って、3人組じゃなくなるの!?』
『誰が入るんだ!?』
『まさか本当に新メンバーだったとは!』
『重大発表ってそういうことか!』
柳が満足そうに頷いた。
「そう! 今日は新しい仲間を紹介するぜ!」
「それじゃあ、入ってきてください」
琴が会議室の入口へ視線を向ける。
扉が開いた。
そこから姿を現したのは、半分ずつの黒 銀髪の少女だった。
「み、みんな、こんばんは!」
少し緊張した様子で手を振る。
その顔を見た視聴者たちが、一斉に反応した。
『えええええ!?』
『霧ヶ峰梓!?』
『Sランク冒険者の梓ちゃんじゃん!』
『昨日の配信の人だ!!』
『あの6時間ダンジョン攻略してた梓ちゃん!?』
『まさかティンカーベルに入るのか!?』
『本当に新メンバーだったあああ!』
梓はコメント欄の反応を見て、思わず目を丸くした。
「わっ……すごい。こんなに驚いてもらえるなんて……」
「そりゃ驚くだろ!」
柳が笑う。
「告知には重大発表としか書いてなかったんだからな!」
「それはそうだけど……」
梓は少し照れたように笑った。
琴が改めてカメラへ向き直る。
「紹介するね。こちらが、新しくティンカーベルに加わった霧ヶ峰梓さんです」
「改めまして、霧ヶ峰梓です。これからティンカーベルの一員として活動することになりました。みんな、よろしくね!」
梓はしっかりと頭を下げた。
すると、コメント欄に祝福の言葉が次々と流れ始める。
『梓ちゃん、加入おめでとう!』
『ようこそティンカーベルへ!』
『4人目きたあああ!』
『昨日の配信を見てから、もしかしてと思ってた!』
『これから4人での攻略が見られるのか!』
『Sランク冒険者が加入するの、すごすぎるだろ!』
『ティンカーベル、さらに豪華になったな!』
『梓ちゃんの拳でダンジョン攻略する姿、また見たい!』
そして、スーパーチャットの通知音が鳴った。
『みかん箱:梓ちゃん、加入おめでとうございます!(1,000円)』
『夜ふかし猫:新メンバー加入おめでとう! これからの活動が楽しみです!(3,000円)』
『冒険者見習い:梓さん、ようこそティンカーベルへ!(5,000円)』
『青いペンギン:4人でのダンジョン攻略、期待してます!(2,000円)』
『しろくま:梓ちゃん加入おめでとう! ずっと応援します!(10,000円)』
『ダンジョン探索部:新体制のティンカーベル、始動おめでとう!(10,000円)』
通知が次々と重なり、画面の端がスーパーチャットの表示で埋まっていく。
「わぁ……! みんな、ありがとう!」
梓は驚きながらも、丁寧に頭を下げた。
「こんなに歓迎してもらえるなんて思っていなかったわ。本当にありがとう!」
「梓ちゃん、よかったねぇ」
乙羽が嬉しそうに笑う。
「うん……! ありがとう、乙羽」
梓は乙羽のほうを見て、少しだけ表情を和らげた。
昨日、自分のチャンネルで配信をしたときも、たくさんの視聴者が見守ってくれていた。
けれど、今日は違う。
自分がずっと憧れ、並び立ちたいと思っていたティンカーベルの一員として、こうして視聴者の前に立っている。
その事実が、少しずつ実感になってきていた。
◇
「それで、どうして梓が加入することになったのか、少しお話ししておこうか」
琴がそう切り出すと、コメント欄の流れがまた変わった。
『理由も気になる!』
『昨日の配信と関係あるのかな?』
『前から仲がよかったの?』
『どういう経緯で加入が決まったんだろう』
「梓ちゃんは、前から私たちの活動に興味を持ってくれていたんだよねぇ」
乙羽が説明する。
「うん。みんなの配信を見て、いつか一緒に活動できたらいいなって思っていたの」
梓は自分の言葉で続けた。
「でも、ただ一緒に活動したいと言うだけじゃ、納得できなかった。私はSランク冒険者だけど、ティンカーベルのみんながどれだけ強いのかも知っていたから」
少しだけ、言葉を選ぶように間を置く。
「だから、自分なりに力を磨いて、みんなと並んで活動できるようになりたいと思ったのよ」
『梓ちゃん、かっこいい!』
『昨日の配信、そういう思いがあったんだな』
『6時間も攻略してたの、本当にすごかった』
『自分の力で認めてもらおうとしたんだね』
『これから一緒に強くなっていく姿も見たい!』
梓はコメントを見つめ、小さく笑った。
「昨日の配信も、見てくれた人がたくさんいたみたいね。ありがとう。あれは、私なりに今できることを見てもらいたかったの」
「すごかったよぉ。梓ちゃん、ずっと頑張ってたもんねぇ」
乙羽が頷く。
「うん。だから、私たちも一緒に活動したいと思ったんだよ」
琴が穏やかに続けた。
「ティンカーベルは、ただ強い人を集めたいわけじゃない。お互いに信頼して、一緒に活動できる仲間でありたいと思っているんだ」
「そうだぜ! それに、梓は面白いしな!」
「ちょっと、柳! そこはもっといい言い方があるでしょう!?」
「いや、褒めてるって!」
「本当に?」
「本当だって!」
2人のやり取りに、乙羽がくすくすと笑う。
『もう仲良しで草』
『柳ちゃん、褒め方が雑w』
『この4人の会話、絶対面白くなる』
『新体制の雑談配信も期待!』
梓も、とうとう我慢できずに笑い出した。
「もう……。でも、そうね。これからは一緒に活動する仲間なんだから、私も遠慮せずにやらせてもらうわ!」
「うん。よろしくねぇ、梓ちゃん」
「こちらこそ、よろしく!」
4人が揃って笑顔を見せる。
その光景を見た視聴者たちから、さらに祝福のコメントが流れた。
『改めて加入おめでとう!』
『4人のティンカーベルを応援するぞ!』
『これからの活動が楽しみすぎる!』
『次のダンジョン配信は絶対見る!』
◇
加入の発表がひと段落すると、琴が次の話題を切り出した。
「それから、もうひとつお知らせがあります」
『まだあるの!?』
『重大発表第二弾!?』
『今度は何だ!?』
琴は少し笑ってから、カメラを見た。
「今後は、4人でダンジョン攻略を行う予定です。次回の配信では、実際に4人でダンジョンへ潜る様子をお届けしようと思っています」
「おぉー、次回は4人で攻略だよぉ!」
乙羽が手を振る。
「梓の戦い方も、もっと見てもらえると思うぜ!」
柳が続けた。
梓は少し緊張したように姿勢を正す。
「私も、みんなの足を引っ張らないように頑張るわ。これからは一緒に戦う仲間として、できることを増やしていきたいと思っているの」
「梓ちゃんがいれば、できることも増えると思うよ」
琴が微笑む。
「それぞれ得意なことが違うからね。4人でどう連携していくか、私たちも楽しみにしているんだ」
『4人攻略きた!』
『梓ちゃんの拳と琴ちゃんの剣、柳ちゃんの影、乙羽ちゃんの魔法……』
『戦い方が全然違うから連携が楽しみ』
『次回は絶対リアタイ!』
『20層まで行くのかな!?』
コメント欄には、早くも次回の攻略を楽しみにする声が並び始めた。
もちろん、具体的な攻略予定については、まだ詳しく説明していない。
けれど、4人で活動するという発表だけでも、視聴者にとっては十分に大きなニュースだった。
「それじゃあ、今日はこのあたりで終わりにしようか」
琴が締めくくる。
「みんな、梓ちゃんを温かく迎えてくれてありがとうねぇ」
乙羽が笑顔で手を振った。
「これから4人で頑張っていくから、応援よろしくな!」
柳も元気よく手を振る。
「これからよろしくお願いします!」
梓も最後に頭を下げた。
配信が終了する直前まで、コメント欄には祝福の言葉が流れ続けていた。
『梓ちゃん加入おめでとう!』
『新生ティンカーベル、応援してます!』
『次回のダンジョン攻略が待ちきれない!』
『4人での活動、楽しみにしてます!』
そして、午後19時45分。
ティンカーベルの加入記念配信は、温かな祝福に包まれながら終了した。
◇
配信終了後。
会議室には、少しだけほっとした空気が流れていた。
「いやー、すごかったな!」
柳が椅子の背もたれに体を預ける。
「思ってた以上にスパチャが来ていたね」
琴は配信の記録を確認しながら頷いた。
「梓ちゃん、緊張したぁ?」
「……少しね。でも、みんなが歓迎してくれたから、途中からは楽しかったわ」
梓は素直に答えた。
「これから、4人で活動するんだねぇ」
乙羽が嬉しそうに言った。
「うん。これからよろしくね、みんな」
梓が3人を見渡す。
「こちらこそ!」
琴が答え、柳も笑顔で頷いた。
「おう! まずは次のダンジョン攻略だな!」
「そうだね。準備を整えて、4人での初攻略に臨もう」
琴の言葉に、全員が頷く。
梓の加入は、これで正式に発表された。
ティンカーベルは3人から4人へ。
新たな仲間を迎えた彼女たちの活動は、ここからさらに広がっていく。
そして次回。
4人になったティンカーベルが、ダンジョン15層から攻略を再開する。
目指すは20層。
新体制での本格的なダンジョン攻略が、いよいよ始まろうとしていた。




