「なんでティンカーベルの私が、10席で大人しくしてると思っているの?」
午後16時。
学園の序列戦会場には、多くの生徒が集まっていた。
学園公式チャンネルでは、注目試合として生放送が始まっている。会場に来られない生徒や、学園外の視聴者も、画面越しに試合の開始を待っていた。
今回の対戦者は、暫定4位の綾小路政宗と、10位の霧ヶ峰梓。
政宗はすでに会場に姿を現しており、対戦相手が来るのを待っていた。
やがて、反対側の入口から梓が現れる。
彼女は迷いのない足取りで試合場へと進み、政宗の前で立ち止まった。
「久しぶりね、政宗」
「そうだな。まさか、こんな形で戦うことになるとは思わなかったよ」
「私は、いつかこうなると思っていたけど?」
梓は自信ありげに笑った。
その表情を見て、政宗は少しだけ首を傾げる。
昔から知っている相手だが、今日の梓はいつも以上に気合いが入っているように見えた。
「……一つ聞いてもいいか?」
「何?」
「今回の序列戦、君が申請したのか? それとも学校の判断で、この組み合わせになったのか?」
政宗が尋ねると、梓は一瞬きょとんとした。
そして、次の瞬間には呆れたように肩をすくめる。
「……わかってないのね、政宗」
「ん? どういうことだ?」
政宗は本気でわからないという顔をした。
試合の組み合わせがどう決まったのか。それを確認したかっただけなのだが、梓の反応は予想と違っていた。
梓は腰に手を当て、堂々と言い放つ。
「なんでティンカーベルの私が、10席で大人しくしてると思っているの?」
「……は?」
政宗の表情が止まった。
ティンカーベルの、私。
今、確かにそう言った。
「いや、待て。梓はまだティンカーベルに入ったわけじゃ……」
「だから、入るためにここにいるんでしょう?」
梓は当然のように言い返した。
「私は乙羽たちと一緒に活動したい。そのために自分を鍛えて、昨日だって配信で実力を示したわ。あの三人に並ぶために、できることは全部やるつもりよ」
その声には、迷いがなかった。
昨日の配信で見せた戦いぶり。
長時間にわたるダンジョン攻略。
新しい魔法に頼ることなく、自分が積み重ねてきた技術だけで戦い抜いた姿。
あれは、ただ強さを見せつけるためだけのものではなかった。
ティンカーベルの一員として並び立つために、梓自身が出した答えだったのだ。
「そして、せっかく序列戦があるんだから、利用しない手はないでしょう?」
梓は試合場を見渡し、それから政宗へ視線を戻す。
「やっぱり、1位から4位までティンカーベルで揃えたいじゃない!」
「……そういうことか」
政宗はようやく理解した。
梓が欲しいのは、単に10位という順位を守ることではない。
ティンカーベルに加わり、その名にふさわしい位置へ上がること。
そして、彼女が目をつけたのが、暫定4位にいる自分だったのだ。
「だから、あなたから貰う!」
梓は政宗を指差し、堂々と宣言した。
「その4位、私に譲ってもらうわよ!」
会場の空気が、わずかに変わった。
近くで聞いていた生徒たちが、二人の会話に気づき始める。
「今、梓が4位を狙うって言ったか?」
「政宗から順位を奪うつもりなのか!?」
「10位から4位への挑戦ってことか……!」
配信のコメント欄にも、反応が流れ始めた。
『梓ちゃん、いきなり4位狙い!?』
『ティンカーベルで1位から4位を独占したいってことか!』
『昨日の配信、そういう意味もあったのか……?』
『政宗相手に宣戦布告とは、思い切ったな!』
政宗は周囲のざわめきを聞きながら、苦笑した。
「なるほど。つまり、最初から僕の順位を狙っていたわけか」
「そうよ。もちろん、簡単に勝てるとは思っていないわ」
梓は拳を軽く握った。
「でも、勝てるかどうかを考えるだけで終わるつもりもない。私は自分で挑戦して、自分の力で順位を上げる。そのために来たんだから」
その言葉を聞いた政宗の表情から、苦笑が消えた。
梓が本気なのは、もう十分に伝わっている。
ならば、自分も相応の覚悟で応えるべきだろう。
「……わかった。なら、遠慮はいらないな」
「最初からそのつもりよ!」
梓が笑う。
政宗もまた、静かに笑みを浮かべた。
「ただし、4位は簡単には渡さない。僕だって、この順位を守るために戦うつもりだからね」
「ええ。それでこそよ!」
二人は互いに視線を合わせた。
幼いころからの知り合い。
しかし、今この瞬間だけは、互いの順位を懸けた冒険者同士だ。
勝てば順位が上がる。
負ければ、その位置を失う可能性がある。
そして梓にとって、この試合は単なる順位争いではなかった。
ティンカーベルに入るために、自分がどこまで本気なのかを示す戦いでもある。
会場に、開始を告げるアナウンスが響いた。
『まもなく、序列戦。綾小路政宗対霧ヶ峰梓の試合を開始します』
観客席から歓声が上がる。
配信のコメント欄も、一気に流れ始めた。
『始まるぞ!』
『政宗、負けるなよ!』
『梓ちゃん、4位奪取なるか!?』
『これは絶対に見逃せない!』
政宗と梓は、それぞれ試合場の開始位置へと移動した。
政宗は静かに構えを取り、梓は両手を軽く握って肩の力を抜く。
互いに、もう余計な言葉は必要なかった。
梓はティンカーベルの一員になるために。
政宗は自分の順位と誇りを守るために。
午後16時。
序列戦、綾小路政宗対霧ヶ峰梓。
その戦いが、いよいよ始まろうとしていた。




