「……面白いじゃないか」
月曜日の朝。
登校の準備をしていた綾小路政宗のスマートフォンに、一通のメールが届いた。
通知音に気づいた政宗は、手にしていた鞄を置き、画面を確認する。
「……学校からか」
件名には、序列戦に関する連絡と記されていた。
政宗はメールを開き、本文に目を通す。
そこに書かれていたのは、本日行われる序列戦についての通知だった。
対戦者は、綾小路政宗と霧ヶ峰梓。
開始時刻は、午後16時。
「……今日の16時か」
政宗は思わず呟いた。
序列戦が始まった以上、いずれ自分も試合をすることになるとは思っていた。だが、まさか月曜日の今日、しかも梓との対戦が組まれるとは予想していなかった。
梓は、つい先日まで自分と同じ学園の生徒ではなかった。
Sランク冒険者として活動していた彼女は、序列戦に参加して勝ち上がり、十席入りを果たしたばかりだ。
そして今、政宗の対戦相手として正式に名前が記されている。
「梓と戦うことになるのか……」
政宗はスマートフォンの画面を見つめた。
梓の実力は知っている。
幼いころからの付き合いということもあり、彼女がどれほど負けず嫌いで、勝負に対して真剣なのかも理解していた。
もちろん、Sランク冒険者としての実力も侮れない。
それに、最近の梓には何か変化があった。
ティンカーベルの配信に参加したあと、彼女が何を考え、どのような行動を取ったのか。政宗はまだ、そのすべてを把握しているわけではない。
ただ、今朝のメールを見る限り、梓は序列戦で自分の実力を示すつもりなのだろう。
「……面白いじゃないか」
政宗は小さく笑った。
せっかくの序列戦だ。相手が誰であろうと、手を抜くつもりはない。
梓が本気で来るのなら、自分も正面から受けて立つ。
そう考えながら、政宗はメールの内容をもう一度確認した。
試合開始は16時。
それまでに、できる準備をしておこう。
政宗はスマートフォンをポケットへしまい、鞄を持ち上げた。
◇
登校後。
教室に入った政宗は、仲間たちの姿を見つけると、さっそく声をかけた。
「みんな、今日の序列戦の連絡は見たか?」
「おう、見たぜ」
龍太が頷く。
「政宗と梓の試合だろ? 今日の16時からだってな」
「私のところにも通知が来ていたよ」
アリスもスマートフォンを手にしながら答えた。
「学校公式チャンネルで配信する予定みたい。注目試合として告知されているね」
「なるほど。最初から配信することも決まっているのか」
政宗は頷いた。
序列戦は、学園内の順位を決めるためだけのものではない。競技大会に向けた選抜の参考にもなるため、上位陣の試合は教師たちにとっても重要な判断材料となる。
そして、注目度の高い試合は学園公式チャンネルで生放送される。
政宗と梓の対戦は、その最初の注目試合として選ばれたわけだ。
「梓も本気だろうな」
ヒカルが言った。
「十席に入ったばかりだし、ここで自分の実力を示したいはずだよ」
「そうだな。俺も負けるつもりはない」
政宗は迷いなく答えた。
そこへ、翔が少し気まずそうな顔で口を開く。
「……梓さん、昨日もかなり気合いが入っていたみたいだからな」
「何か知っているのか?」
「いや、詳しいことまでは知らないけどさ。ただ、あの人は自分で決めたことには、とことん真剣になるだろ?」
翔の言葉に、政宗は小さく頷いた。
「確かに、それは昔から変わらないな」
梓は勝負にこだわる。
けれど、ただ勝ちたいだけではない。自分が納得できる結果を出すために、できることをやり切ろうとする。
だからこそ、政宗も彼女との試合を軽く考えるつもりはなかった。
「16時なら、授業が終わってからだな」
龍太が時計を確認する。
「観戦する側としても楽しみだぜ。上位同士の試合だしな!」
「龍太、試合を楽しみにするのはいいけど、授業には集中してね」
アリスが釘を刺した。
「わかってるって!」
龍太は笑って答える。
政宗も、仲間たちのやり取りに小さく笑みを浮かべた。
試合までは、まだ時間がある。
焦る必要はない。
今は授業を受け、午後になったら試合に備える。それだけだ。
◇
昼休み。
学園の公式サイトには、政宗と梓の対戦告知が掲載されていた。
『本日16時開始 序列戦注目試合』
『綾小路政宗 VS 霧ヶ峰梓』
対戦者の名前と開始時刻、そして学園公式チャンネルで生放送を行うことが明記されている。
告知を見つけた生徒たちは、さっそく話題にしていた。
「今日の16時、政宗と梓が戦うらしいぞ!」
「転校してきたばかりなのに、いきなり上位との試合か」
「梓ってSランク冒険者なんだろ? そりゃ注目されるよな」
「政宗も強いからな。どんな試合になるんだろう」
「公式配信もあるみたいだし、見逃せないな!」
昼休みの教室や廊下では、そんな会話があちこちで交わされていた。
序列戦の告知は、生徒たちのアプリにも配信されている。
そのため、試合の開始時刻を知らない生徒はほとんどいなかった。
そして、午後16時。
綾小路政宗と霧ヶ峰梓。
学園の上位を争う二人の序列戦が、いよいよ始まろうとしていた。




