「べ、別に……よろしくしてあげてもいいわよ!」
数日後。
学園の会議室には、十席のメンバーが集まっていた。
今回から新たに加わった霧ヶ峰梓も、その一人だ。
梓は会議室に入るなり、見覚えのある人物を見つけて足を止めた。
「……は?」
そこにいたのは、羽生翔だった。
「……なんであんたがいるのよ!?」
思わず声が大きくなる。
翔は困ったように頭をかいた。
「ああ……ごめんな……」
「ごめんな、じゃないわよ! あんた、私に負けたでしょう!? 私は10席になったのに、なんで負けたはずのあんたがここにいるのよ!?」
梓にとっては、当然の疑問だった。
序列戦で翔に勝ったことで、自分は十席入りを果たした。翔は順位を一つ落として11位になったはずだ。
それなのに、当たり前のように会議へ参加している。
納得できるわけがなかった。
「いや、実はな……今まで俺も、スタメンに加えた競技会についての会議に出てたんだ」
「スタメン?」
「競技会に出るメンバーのことだよ。俺も政宗たちのパーティーメンバーだから、競技内容の相談には参加してたんだ」
翔は少し申し訳なさそうに続けた。
「それで、今回も俺に参加してほしいって言われたんだ。霧ヶ峰さんが10席なのは間違いないから、そこは安心してほしい」
「……そういうことなのね」
説明を聞いた梓は、ようやく納得した。
どうやら、十席の順位と競技会のメンバー選考は、完全に同じ扱いというわけではないらしい。
翔は順位こそ11位になったが、政宗のパーティーメンバーとして競技会の相談に参加する必要がある。そのため、今回も会議に呼ばれたということだ。
「ごめんなさいね。私、てっきり十席の席を譲ってもらえてないのかと思って。それに十席に割り込んでしまって」
梓は少し気まずそうに謝った。
十席入りを果たしたばかりで、まだ会議の仕組みもよくわかっていない。そんな状態でいきなり文句を言ってしまったのだから、少しばかり恥ずかしい。
しかし、アリスは首を横に振った。
「いや、気にしなくていいよ。十席になったのは正当な結果なんだから、もう少し堂々としていて構わない」
「そうなの?」
「もちろん。序列戦で勝って順位を上げたんだ。誰かに遠慮する必要はないよ。それに、冒険者としては君のほうが先輩なんだから」
アリスの言葉に、梓は少しだけ目を丸くした。
転校してきたばかりの自分に対して、ずいぶんと真っ直ぐな言葉をかけてくれる。
「……そう。なら、遠慮なくそうさせてもらうわ」
梓は小さく頷いた。
そこへ、政宗が苦笑しながら口を挟む。
「すまないな、梓。翔は僕のパーティーメンバーでもあるから、競技内容についても一緒に話し合うんだ。順位とは別に、参加してもらったほうが都合がいいんだよ」
「構わないわよ! 事情がわかれば問題ないわ!」
梓はあっさりと答えた。
そして、気持ちを切り替えるように一歩前へ出る。
「それじゃあ、改めて自己紹介させてもらうわね!」
会議室にいる全員の視線が集まった。
「霧ヶ峰梓! Sランク冒険者として活動しているわ! 今回、序列戦で勝ち上がって十席に入ったの。これからよろしく!」
堂々と胸を張る梓。
その表情には自信が満ちていた。
ただし、彼女の自己紹介はそれだけでは終わらなかった。
「それで、私がこの学校に転校してきた理由なんだけど……」
梓はティンカーベルの三人へ視線を向ける。
「まず! あなたたちティンカーベルよ!」
「ふぇ?」
名指しされた乙羽が、きょとんと首を傾げた。
「私たち、何か怒らせるようなことしたぁ?」
「いや、そういう話じゃないでしょう……」
琴がすかさず突っ込む。
梓は慌てて両手を振った。
「ち、違うわよ! 怒ってなんかいないわ! むしろ、あなたたちのことは前から気になっていたの!」
「おっ? あたしらのことを見ててくれたのか!」
柳が嬉しそうに声を上げた。
「Sランク冒険者に注目されてたってことか? マジかー!」
「柳……」
琴が呆れたように柳を見る。
「静さんに言われたばかりでしょう。Sランク冒険者が私たちにかなり目をつけているから、トラブルになるかもしれないって」
「ああ、そういえばそうか」
柳は思い出したように頷いた。
「最近はあたしたちも注目されてるもんな。乙羽だけじゃなくて、琴もあたしも暫定Sランクになるかもしれないんだった」
「……え?」
今度は梓が固まった。
「ちょ、ちょっと待って!」
梓は琴と柳を交互に見た。
「乙羽が暫定Sランクなのは知ってるわ! 配信も見ていたし、あの実力なら納得できるもの!」
「ありがとぉ」
乙羽はのんびりとお礼を言った。
「でも、あなたたちまでSランクに上がるの!?」
梓の声が裏返る。
「そりゃ、強いのは知ってるわよ! ダンジョン攻略の配信も見ていたし、普通の冒険者とは違うってことくらいわかってるわ!」
彼女は二人を見つめたまま、言葉を続けた。
「だけど、早すぎない!? 琴も柳も、まだ暫定Aでしょう!?」
「いや、あたしたちも一応、冒険者として活動してるからな!」
柳は悪びれもせず答える。
「それに、前よりずっと強くなったし!」
「柳、そういう言い方をすると、余計に驚かせるでしょう」
琴はため息をつきながらも、梓へ向き直った。
「詳しい話は、協会での正式な手続き次第だけどね。私たちも、今の実力を評価してもらっているところなんだ」
「評価してもらっているところって……」
梓は額に手を当てた。
自分もSランク冒険者だ。実力には自信があるし、同年代の中ではかなり強いほうだという自負もある。
だからこそ、ティンカーベルの三人がどれほど特別なのか、配信を通じて調べてきたつもりだった。
けれど、実際に話をしてみると、予想していた以上に規格外らしい。
しかも、乙羽だけでなく、琴と柳までSランク候補だという。
(……やっぱり、この学校に来て正解だったわね)
梓は驚きを隠せないまま、心の中でそう呟いた。
面白い冒険者がいる。
自分と同じくらい、あるいはそれ以上に強い相手がいる。
そして、そんな相手と同じ場所で学び、話せる機会がある。
それを求めて転校してきたのだから、ここで引くつもりはなかった。
「……ふふん。いいわ!」
梓は気を取り直して、再び胸を張った。
「ますます、あなたたちと仲良くなる理由ができたわね!」
「んぅ? 仲良く?」
乙羽が首を傾げる。
「そ、そうよ! せっかく同じ十席になったんだもの! お互いのことを知っておくのは当然でしょう!?」
「そっかぁ。じゃあ、これからよろしくねぇ、梓ちゃん」
乙羽がにこにこと笑いかけた。
「……っ!」
梓は一瞬、言葉に詰まった。
思っていたよりも、ずっと自然に受け入れられた。
「べ、別に……よろしくしてあげてもいいわよ!」
「ふふっ。素直じゃないね」
琴が微笑む。
「なっ、何よ!」
「いやー、梓って面白いな!」
柳も楽しそうに笑った。
「ちょっと、あなたたち! 私は真面目に挨拶してるんだからね!」
会議室に笑い声が広がった。
梓は少しだけ頬を赤くしながらも、内心ではほっとしていた。
これなら、これから少しずつ話をしていけそうだ。
十席の会議に参加する資格も手に入れた。
そして、ティンカーベルとも直接話すことができた。
転校してきた目的は、まだ始まったばかりだ。
梓はそう考えながら、空いている席へと腰を下ろした。




