「ふふん。まあ、こんなものね!」
序列戦の会場。
霧ヶ峰梓と、十席第10位の羽生翔による試合が始まっていた。
翔は剣を構え、梓の動きを警戒している。
対する梓は、いつもの自信ありげな表情を崩さなかった。
「さあ、来い!」
「言われなくても!」
翔が踏み込み、剣を振るう。
梓はその剣筋を見極め、指先でわずかに軌道を逸らした。
体勢を崩した翔へ、すかさず攻撃を繰り出す。
しかし――。
ガキンッ!
「……っ!」
梓の攻撃は、翔の目の前に展開された結界に阻まれた。
結界は盾のように攻撃を受け止め、梓の一撃を弾き返す。
梓はすぐに距離を取った。
「……破れないか」
正面から攻めても、結界を突破するのは難しそうだった。
「へぇ……正面から潰そうとしても、きっちり跳ね返されるのね。厄介だわ」
梓は感心したように結界を眺めた。
「さすが十席ってところかしら。11位とは全然違うわね」
「そりゃそうだろ! この結界を正面から突破するのは簡単じゃないぞ!」
翔が自信たっぷりに答える。
梓は小さく笑った。
「でも、これならどう?」
「何?」
次の瞬間、梓の姿が動いた。
翔の正面から、右へ。
そう思った瞬間には、すでに左側へ回り込んでいる。
「なっ、速っ……!」
翔は慌てて剣を動かし、結界の向きを変えようとした。
だが、梓は一か所にとどまらない。
前後左右へと高速で移動し、翔の視界を揺さぶっていく。
結界そのものは強固だ。
しかし、翔が攻撃を認識し、防御の向きを合わせるまでには、わずかな時間が必要だった。
「どこから来るんだよ!?」
「さあ、どこでしょうね?」
梓の声が、翔の背後から聞こえた。
「しまっ――」
「隙あり」
梓の指先が、翔の背中に触れた。
次の瞬間、翔の体に強い痛みが走る。
「ぐっ……!?」
梓が使ったのは、魔力を指先に集中させ、接触した相手の体へと作用させる独自の技術だった。
人間相手に危険な威力を出すつもりはない。だが、動きを一時的に乱す程度なら十分だった。
翔の体が硬直する。
その隙に、梓は間合いを取り直した。
「そこまで!」
試合を見守っていた審判が声を上げる。
「勝者、霧ヶ峰梓!」
会場から歓声が上がった。
『梓ちゃん、十席入りきたあああ!』
『21位から連勝して翔まで倒したのかよ!』
『今日だけで十連勝って、普通にすごいな』
『翔の結界も強かったけど、相性を見て戦い方を変えたのがうまい』
『正面から突破できないと判断した瞬間に、視界の外を取るのか』
『あの指先の技、何なんだ……』
梓は審判の宣言を聞き、満足そうに頷いた。
「ふふん。まあ、こんなものね!」
強がった口調だったが、内心ではかなり喜んでいた。
これで十席入りだ。
そして、十席になれば――。
(ふふ! 十席になれば定期的な会議に参加できるっていうし、まあ今は参加権がもらえるだけで十分よね!)
梓の本当の目的は、単に順位を上げることではなかった。
ティンカーベルの3人と、もっと自然に話せる機会が欲しかったのだ。
十席の定期会議に参加できれば、顔を合わせる機会も増える。わざわざ理由を探して近づく必要もなくなるだろう。
もちろん、そんなことを周囲に言うつもりはない。
「よし。今日はここまでにしておくわ」
梓は軽く髪を整え、会場を見渡した。
今日の目的は果たせた。
これ以上、無理に試合を続ける必要はない。十席入りを決めたばかりなのだから、ここで切り上げるのも悪くないだろう。
観客席では、ティンカーベルの面々も試合を見届けていた。
「梓ちゃん、やっぱり強いねぇ」
乙羽が感心したように言う。
「翔の結界を正面から突破するのは難しいと判断して、すぐに戦い方を変えた。判断が早いな」
琴も頷いた。
「しかも、相手の視界から外れるように動いてたよな。あれなら結界が強くても対応しきれないってわけか!」
柳は楽しそうに笑った。
リーゼロッテも、梓の動きを思い返しながら口を開く。
「魔力の扱い方も独特でしたね。単純に威力を高めるのではなく、必要なところへ集中させているようです。あの技術は、かなり練習を積んでいるのでしょう」
「へぇ……。ますます話してみたくなったねぇ」
乙羽はそう言って、梓の姿を目で追った。
梓は会場を出る前に一度だけこちらを振り返った。
視線が合う。
彼女は一瞬だけ目を見開いたが、すぐに何事もなかったかのように顔をそらした。
(べ、別に見てほしかったわけじゃないんだから!)
そのまま足早に会場を後にする。
背中に向けられた視線に気づいているのか、いないのか。
少なくとも、本人は気にしていないふりをしていた。




