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殴り賢者はバレている  作者: 七風


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119/201

「ふふん。まあ、こんなものね!」

 序列戦の会場。


 霧ヶ峰梓と、十席第10位の羽生翔による試合が始まっていた。


 翔は剣を構え、梓の動きを警戒している。


 対する梓は、いつもの自信ありげな表情を崩さなかった。


「さあ、来い!」


「言われなくても!」


 翔が踏み込み、剣を振るう。


 梓はその剣筋を見極め、指先でわずかに軌道を逸らした。


 体勢を崩した翔へ、すかさず攻撃を繰り出す。


 しかし――。


 ガキンッ!


「……っ!」


 梓の攻撃は、翔の目の前に展開された結界に阻まれた。


 結界は盾のように攻撃を受け止め、梓の一撃を弾き返す。


 梓はすぐに距離を取った。


「……破れないか」


 正面から攻めても、結界を突破するのは難しそうだった。


「へぇ……正面から潰そうとしても、きっちり跳ね返されるのね。厄介だわ」


 梓は感心したように結界を眺めた。


「さすが十席ってところかしら。11位とは全然違うわね」


「そりゃそうだろ! この結界を正面から突破するのは簡単じゃないぞ!」


 翔が自信たっぷりに答える。


 梓は小さく笑った。


「でも、これならどう?」


「何?」


 次の瞬間、梓の姿が動いた。


 翔の正面から、右へ。


 そう思った瞬間には、すでに左側へ回り込んでいる。


「なっ、速っ……!」


 翔は慌てて剣を動かし、結界の向きを変えようとした。


 だが、梓は一か所にとどまらない。


 前後左右へと高速で移動し、翔の視界を揺さぶっていく。


 結界そのものは強固だ。


 しかし、翔が攻撃を認識し、防御の向きを合わせるまでには、わずかな時間が必要だった。


「どこから来るんだよ!?」


「さあ、どこでしょうね?」


 梓の声が、翔の背後から聞こえた。


「しまっ――」


「隙あり」


 梓の指先が、翔の背中に触れた。


 次の瞬間、翔の体に強い痛みが走る。


「ぐっ……!?」


 梓が使ったのは、魔力を指先に集中させ、接触した相手の体へと作用させる独自の技術だった。


 人間相手に危険な威力を出すつもりはない。だが、動きを一時的に乱す程度なら十分だった。


 翔の体が硬直する。


 その隙に、梓は間合いを取り直した。


「そこまで!」


 試合を見守っていた審判が声を上げる。


「勝者、霧ヶ峰梓!」


 会場から歓声が上がった。


『梓ちゃん、十席入りきたあああ!』


『21位から連勝して翔まで倒したのかよ!』


『今日だけで十連勝って、普通にすごいな』


『翔の結界も強かったけど、相性を見て戦い方を変えたのがうまい』


『正面から突破できないと判断した瞬間に、視界の外を取るのか』


『あの指先の技、何なんだ……』


 梓は審判の宣言を聞き、満足そうに頷いた。


「ふふん。まあ、こんなものね!」


 強がった口調だったが、内心ではかなり喜んでいた。


 これで十席入りだ。


 そして、十席になれば――。


(ふふ! 十席になれば定期的な会議に参加できるっていうし、まあ今は参加権がもらえるだけで十分よね!)


 梓の本当の目的は、単に順位を上げることではなかった。


 ティンカーベルの3人と、もっと自然に話せる機会が欲しかったのだ。


 十席の定期会議に参加できれば、顔を合わせる機会も増える。わざわざ理由を探して近づく必要もなくなるだろう。


 もちろん、そんなことを周囲に言うつもりはない。


「よし。今日はここまでにしておくわ」


 梓は軽く髪を整え、会場を見渡した。


 今日の目的は果たせた。


 これ以上、無理に試合を続ける必要はない。十席入りを決めたばかりなのだから、ここで切り上げるのも悪くないだろう。


 観客席では、ティンカーベルの面々も試合を見届けていた。


「梓ちゃん、やっぱり強いねぇ」


 乙羽が感心したように言う。


「翔の結界を正面から突破するのは難しいと判断して、すぐに戦い方を変えた。判断が早いな」


 琴も頷いた。


「しかも、相手の視界から外れるように動いてたよな。あれなら結界が強くても対応しきれないってわけか!」


 柳は楽しそうに笑った。


 リーゼロッテも、梓の動きを思い返しながら口を開く。


「魔力の扱い方も独特でしたね。単純に威力を高めるのではなく、必要なところへ集中させているようです。あの技術は、かなり練習を積んでいるのでしょう」


「へぇ……。ますます話してみたくなったねぇ」


 乙羽はそう言って、梓の姿を目で追った。


 梓は会場を出る前に一度だけこちらを振り返った。


 視線が合う。


 彼女は一瞬だけ目を見開いたが、すぐに何事もなかったかのように顔をそらした。


(べ、別に見てほしかったわけじゃないんだから!)


 そのまま足早に会場を後にする。


 背中に向けられた視線に気づいているのか、いないのか。


 少なくとも、本人は気にしていないふりをしていた。



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