「ふぅ……。まあ、こんなものね」
序列戦の会場。
ティンカーベルの4人は、配信機材の確認をしながら、次の試合の準備を進めていた。
乙羽は会場を見回し、試合予定の表示に目を留める。
「今日は連戦の子がいるんだねぇ~」
「ああ、転校生だろ!? あの霧ヶ峰がうちの学校に来るとは思わなかったけどな」
柳が試合予定を確認しながら答えた。
霧ヶ峰梓。
新しく神奈川校へ転校してきたSランク冒険者だ。先ほどの初戦では、21位の生徒を相手に圧勝していた。
そして、試合が終わったばかりだというのに、すでに次の挑戦を申請しているらしい。
「ええ。初戦は圧勝だったみたいね。今回は十席の翔先輩の予約まで埋めてるらしいよ」
琴が試合予定の画面を確認しながら説明した。
「んぅ~? 翔くんとやるの~?」
乙羽が首を傾げる。
「そうみたいだな! しかも、翔が受けることになってるぜ」
柳は楽しそうに笑った。
「へぇ……。転校してきたばかりなのに、ずいぶん積極的だねぇ」
「Sランクとしての実力を試したいんじゃないかな。21位との試合だけでは、まだ物足りなかったのかもしれないね」
琴はそう言って、試合予定をもう一度確認した。
梓が次に挑戦するのは、序列10位の羽生翔。
十席の一人である。
もっとも、翔は十席の中では最下位に位置している。だからといって、簡単に勝てる相手というわけではない。
十席に入る生徒たちは、通常の生徒とは実力が大きく異なる。暫定順位が決まってからも、それぞれが訓練を続けているのだ。
「でも、挑戦の仕方が面白いねぇ」
乙羽が画面を眺めながら言った。
「一気に上位へ行くんじゃなくて、順番に挑戦していくんだねぇ」
「そうそう!」
柳が頷く。
「1人ずつ倒して順位を上げていくわけか! さすがSランクだな!」
「ただ、負けたら今日はそこで終了みたいだよ」
琴が補足した。
「その場合は、次回に持ち越し。連戦とはいっても、勝ち続けなければ先には進めないってことだね」
「なるほどねぇ。勝てば次の相手に挑戦できるけど、負けたらそこで終わりかぁ」
乙羽は納得したように頷いた。
序列戦の挑戦制度には、実力を示す機会を与えるという意味がある。
しかし、挑戦できることと、勝てることは別だ。
梓がどれほど強いSランク冒険者であっても、相手もまた、この学園で実力を認められた生徒たちなのだから。
「それにしても、翔くんが相手なんだねぇ」
乙羽は試合予定の画面を眺めた。
「翔くん、頑張ってほしいねぇ」
「まあ、相手はSランクだからな。翔にとってもいい経験になるんじゃないか?」
柳がそう言うと、琴も頷いた。
「そうだね。霧ヶ峰さんがどんな戦い方をするのか、私たちも見ておこうか」
「うん。どんな子なのか、ちょっと気になるねぇ」
乙羽はそう言って、次の試合が始まるのを待つことにした。
◇
そのころ、梓は次々と対戦相手を打ち破っていた。
21位から順番に挑戦し、勝利するたびに次の相手へ。
試合の様子は学園公式チャンネルでも配信され、コメント欄は大いに盛り上がっていた。
『え、もう終わったの!?』
『開始から30秒も経ってなくね?』
『霧ヶ峰、強すぎるだろ』
『Sランクってこんなに差があるのか?』
『いや、相手も普通に強いはずなんだけど……』
『次の試合も予約済みってマジ?』
『勝ったら次、勝ったら次って、完全に連戦じゃん!』
梓は相手の攻撃を見極め、必要最低限の動きでかわし、隙を突いて勝利を重ねていく。
派手な魔法を連発するわけではない。
それでも、相手が反撃しようとしたときには、すでに梓が有利な位置を取っている。
試合が終わるたびに、次の対戦相手が呼び出された。
『また勝った!』
『これで何人目だ?』
『21位から始めて、もう11位まで来たぞ!』
『ペース早すぎてコメント追いつかねえw』
『本人、全然疲れてなさそうなんだけど』
『まだ余裕ありそうなのが怖い』
『Sランク冒険者、伊達じゃないな』
会場の観客たちも、次第に梓の戦いぶりに注目するようになっていた。
最初は、転校してきたSランク冒険者がどれほどの実力なのか、興味本位で見ている者が多かった。
しかし、連勝が続くにつれて、その見方も変わり始める。
彼女はただランクが高いだけではない。
相手の動きをよく見て、無駄なく勝負を決めているのだ。
『あの動き、ちゃんと相手を見てから対応してるよな』
『力押しじゃないのがいい』
『攻撃を避けるのも上手いし、隙を見つけるのが早い』
『これは十席との試合も見たくなるな』
そして、梓は11位の生徒との試合にも勝利した。
開始から、わずか数十秒。
勝敗が告げられると、梓は軽く息を吐いて試合場を離れた。
「ふぅ……。まあ、こんなものね」
まだ大きく消耗した様子はない。
梓は次の試合予定を確認し、口元を緩めた。
ここまでは順調だ。
けれど、彼女が本当に確かめたいのは、この先にいる相手だった。
十席。
その一人である、羽生翔。
◇
観客席では、乙羽たちも一連の試合を見届けていた。
「おぉ~、もう11位まで勝っちゃったねぇ」
「本当に早いな! ほとんどの試合が一瞬で終わってるぞ!」
柳が感心したように言った。
「でも、ただ速いだけじゃないね。相手の動きを見て、攻め方を変えている。戦い方もかなり洗練されていると思う」
琴は真剣な表情で試合の記録を確認していた。
「そうだねぇ。無駄な動きが少ないよねぇ」
乙羽も頷いた。
その隣で、リーゼロッテが小さく首を傾げる。
「Sランクとしての経験もあるのでしょう。相手の実力を見極めながら、必要な力だけを使っているようですね」
「なるほどな。最初から全力を出す必要もないってことか」
柳が納得したように頷いた。
画面には、次の試合予定が表示されていた。
挑戦者、霧ヶ峰梓。
対戦相手、羽生翔。
十席への挑戦が、いよいよ始まろうとしていた。




