「先生、なんで制服を着てるのぉ?」
入学式当日。
乙羽は鏡の前で、くるりと一回転した。
「わぁ……!」
姿見に映っているのは、今日から通う神奈川冒険者育成学校の制服姿だ。
清潔感のあるブレザーに、可愛らしいリボン。スカートは動きやすさも考えられたデザインで、冒険者育成学校らしく、見た目だけでなく実用性も重視されているらしい。
制服の内側には、軽い防護機能も組み込まれている。これなら授業中に多少の衝撃を受けても、普通の制服よりは安心できるのだとか。
「えへへ……。かわいいなぁ、これ!」
乙羽は嬉しそうに胸元のリボンを整えた。
(制服って、やっぱりいいなぁ……! 異世界にいたときは、こういう学校の制服とは縁がなかったもんねぇ。今日から私も学生さんだぁ!)
ようやく始まる、新しい生活。
普通の学校生活とは少し違うかもしれないけれど、それでも楽しみな気持ちは抑えられなかった。
「乙羽、そろそろ出発しますよ」
「はぁい、先生!」
振り返った乙羽は、そのまま固まった。
「…………」
目の前にいたのは、いつもの白髪の妖精――リーゼロッテ。
ただし、今日はいつもと様子が違っていた。
小さな身体に、乙羽と同じ学校の制服。
ブレザーもリボンもきちんと着こなし、透き通った羽だけが背中から出ている。サイズも不自然なほどぴったりだった。
リーゼロッテは、いつものように落ち着いた笑みを浮かべている。
「どうしました、乙羽?」
「…………先生?」
「はい」
「なんで制服着てるのぉ……?」
乙羽の声が、部屋に響いた。
(なんでぇ!? どうして先生まで制服を着てるのぉ!? 先生は先生だよね!? 私と一緒に入学するわけじゃないよねぇ!?)
リーゼロッテは自分の制服を見下ろした。
「こちらの方が、乙羽と一緒に行動する際に都合がよいと考えまして」
「都合ぉ……?」
「はい。学校という場所では、制服を着ている方が自然なのでしょう?」
「いや、先生は妖精だからねぇ!?」
乙羽は思わず突っ込んだ。
「制服を着た妖精が自然かどうかは、また別の話だよぉ!」
「そうなのですか?」
「そうだよぉ……!」
リーゼロッテは少し考え込んだ。
「しかし、昨日、静が学校の制服について説明してくれました。生徒が着用するもので、学校に所属していることを示すものだと」
「う、うん。そうだけどぉ……」
「でしたら、私も乙羽の学校生活を支える立場として、着用しておくべきかと」
「どうしてそうなるのぉ!?」
(先生、真面目な顔でとんでもない結論を出さないでぇ……!)
リーゼロッテは少しだけ首を傾げた。
「……似合いませんか?」
「に、似合ってるよ! すっごくかわいいよ!?」
乙羽は慌てて答えた。
「でも、そういう問題じゃなくてぇ……!」
「そうですか。ありがとうございます」
リーゼロッテは満足そうに頷いた。
(褒められたところだけ受け取っちゃったぁ……! 先生、絶対わかってないよぉ……!)
そこへ、支度を終えた静が部屋に入ってきた。
「二人とも、準備はできた?」
「お姉ちゃん! 先生がぁ……!」
乙羽は助けを求めるように静を振り返った。
静はリーゼロッテを見て、一瞬だけ目を丸くした。
「……あら。制服、用意したのね」
「えっ、知ってたのぉ!?」
「昨日、本人から聞いたわよ。乙羽の学校生活を支えるなら、服装も合わせたいって」
「お姉ちゃんも納得しちゃったのぉ!?」
静は肩をすくめた。
「別にいいじゃない。かわいいし、本人も気に入ってるみたいだし」
「そういう問題なのぉ……?」
(お姉ちゃんまでぇ……! 私が気にしすぎなのかなぁ!? いやいや、妖精が制服を着て入学式についてくるの、普通じゃないよねぇ!?)
リーゼロッテは、静に向かって丁寧に頭を下げた。
「静、ありがとうございます。乙羽が学校で困らないよう、私もできる限り支えます」
「ええ、お願いね。……まあ、学校の先生たちがどんな反応をするかは、ちょっと気になるけど」
「お姉ちゃん、そこは気になるんだねぇ!?」
「そりゃ気になるでしょう」
静はあっさり答えた。
乙羽はがっくりと肩を落とした。
(もうやだぁ……。入学式の前から、私の周りだけ普通じゃない気がするよぉ……)
それでも、制服姿のリーゼロッテを見ていると、少しだけ嬉しくなる。
異世界では、先生と一緒に学校へ通うなんて考えもしなかった。
こうして同じ場所へ向かえること自体は、悪くないのかもしれない。
(……まあ、先生が一緒なら、心強いのは本当だしねぇ)
「先生、行こっか」
「はい、乙羽」
リーゼロッテは嬉しそうに頷いた。
そして三人は、神奈川冒険者育成学校へ向かった。
乙羽はかわいい制服に胸を弾ませながら、隣を飛ぶ制服姿の妖精をちらちらと見ていた。
(……やっぱり、なんで制服着てるのぉ……?)




