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殴り賢者はバレている  作者: 七風


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12/199

「先生、なんで制服を着てるのぉ?」

 入学式当日。


 乙羽は鏡の前で、くるりと一回転した。


「わぁ……!」


 姿見に映っているのは、今日から通う神奈川冒険者育成学校の制服姿だ。


 清潔感のあるブレザーに、可愛らしいリボン。スカートは動きやすさも考えられたデザインで、冒険者育成学校らしく、見た目だけでなく実用性も重視されているらしい。


 制服の内側には、軽い防護機能も組み込まれている。これなら授業中に多少の衝撃を受けても、普通の制服よりは安心できるのだとか。


「えへへ……。かわいいなぁ、これ!」


 乙羽は嬉しそうに胸元のリボンを整えた。


(制服って、やっぱりいいなぁ……! 異世界にいたときは、こういう学校の制服とは縁がなかったもんねぇ。今日から私も学生さんだぁ!)


 ようやく始まる、新しい生活。


 普通の学校生活とは少し違うかもしれないけれど、それでも楽しみな気持ちは抑えられなかった。


「乙羽、そろそろ出発しますよ」


「はぁい、先生!」


 振り返った乙羽は、そのまま固まった。


「…………」


 目の前にいたのは、いつもの白髪の妖精――リーゼロッテ。


 ただし、今日はいつもと様子が違っていた。


 小さな身体に、乙羽と同じ学校の制服。


 ブレザーもリボンもきちんと着こなし、透き通った羽だけが背中から出ている。サイズも不自然なほどぴったりだった。


 リーゼロッテは、いつものように落ち着いた笑みを浮かべている。


「どうしました、乙羽?」


「…………先生?」


「はい」


「なんで制服着てるのぉ……?」


 乙羽の声が、部屋に響いた。


(なんでぇ!? どうして先生まで制服を着てるのぉ!? 先生は先生だよね!? 私と一緒に入学するわけじゃないよねぇ!?)


 リーゼロッテは自分の制服を見下ろした。


「こちらの方が、乙羽と一緒に行動する際に都合がよいと考えまして」


「都合ぉ……?」


「はい。学校という場所では、制服を着ている方が自然なのでしょう?」


「いや、先生は妖精だからねぇ!?」


 乙羽は思わず突っ込んだ。


「制服を着た妖精が自然かどうかは、また別の話だよぉ!」


「そうなのですか?」


「そうだよぉ……!」


 リーゼロッテは少し考え込んだ。


「しかし、昨日、静が学校の制服について説明してくれました。生徒が着用するもので、学校に所属していることを示すものだと」


「う、うん。そうだけどぉ……」


「でしたら、私も乙羽の学校生活を支える立場として、着用しておくべきかと」


「どうしてそうなるのぉ!?」


(先生、真面目な顔でとんでもない結論を出さないでぇ……!)


 リーゼロッテは少しだけ首を傾げた。


「……似合いませんか?」


「に、似合ってるよ! すっごくかわいいよ!?」


 乙羽は慌てて答えた。


「でも、そういう問題じゃなくてぇ……!」


「そうですか。ありがとうございます」


 リーゼロッテは満足そうに頷いた。


(褒められたところだけ受け取っちゃったぁ……! 先生、絶対わかってないよぉ……!)


 そこへ、支度を終えた静が部屋に入ってきた。


「二人とも、準備はできた?」


「お姉ちゃん! 先生がぁ……!」


 乙羽は助けを求めるように静を振り返った。


 静はリーゼロッテを見て、一瞬だけ目を丸くした。


「……あら。制服、用意したのね」


「えっ、知ってたのぉ!?」


「昨日、本人から聞いたわよ。乙羽の学校生活を支えるなら、服装も合わせたいって」


「お姉ちゃんも納得しちゃったのぉ!?」


 静は肩をすくめた。


「別にいいじゃない。かわいいし、本人も気に入ってるみたいだし」


「そういう問題なのぉ……?」


(お姉ちゃんまでぇ……! 私が気にしすぎなのかなぁ!? いやいや、妖精が制服を着て入学式についてくるの、普通じゃないよねぇ!?)


 リーゼロッテは、静に向かって丁寧に頭を下げた。


「静、ありがとうございます。乙羽が学校で困らないよう、私もできる限り支えます」


「ええ、お願いね。……まあ、学校の先生たちがどんな反応をするかは、ちょっと気になるけど」


「お姉ちゃん、そこは気になるんだねぇ!?」


「そりゃ気になるでしょう」


 静はあっさり答えた。


 乙羽はがっくりと肩を落とした。


(もうやだぁ……。入学式の前から、私の周りだけ普通じゃない気がするよぉ……)


 それでも、制服姿のリーゼロッテを見ていると、少しだけ嬉しくなる。


 異世界では、先生と一緒に学校へ通うなんて考えもしなかった。


 こうして同じ場所へ向かえること自体は、悪くないのかもしれない。


(……まあ、先生が一緒なら、心強いのは本当だしねぇ)


「先生、行こっか」


「はい、乙羽」


 リーゼロッテは嬉しそうに頷いた。


 そして三人は、神奈川冒険者育成学校へ向かった。


 乙羽はかわいい制服に胸を弾ませながら、隣を飛ぶ制服姿の妖精をちらちらと見ていた。


(……やっぱり、なんで制服着てるのぉ……?)

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