政宗パーティーの前衛特化戦術
政宗パーティーの前衛特化戦術
午前9時。
タイムジェイルの訓練場では、政宗たち3人が担当教師の説明を受けていた。
「今日からは、覚えた魔法を実際の戦闘で使ってもらいます。皆さんは全員前衛ですが、それぞれの能力を組み合わせれば、十分に連携できるはずです」
戦術教師のセレナが、3人を見回す。
「政宗さんは重力魔法、翔さんは結界魔法、龍太さんは身体強化ですね」
「はい。重力魔法で敵の動きを止められるなら、かなり戦いやすくなると思います」
政宗はそう答えながら、訓練場の向こうにある召喚魔法陣へ目を向けた。
彼の魔法は、敵に直接大きなダメージを与えるというより、戦場の状況を変えることに向いている。
敵の動きを遅くできれば、攻撃を当てやすくなる。味方が攻める時間を作ることもできるだろう。
「俺の結界も、使い方次第で役に立ちそうです」
翔が続けた。
「敵の攻撃を防ぐだけじゃなくて、進路を塞いだり、動ける範囲を狭めたりできればいいんですが」
「いい考えですね。ただし、最初から複雑なことをしようとせず、まずは確実に発動できるようにしましょう」
「わかりました」
「よし! 俺は難しいことを考えるより、動いてぶっ飛ばせばいいんだな!」
龍太が拳を握る。
「身体強化なら得意だぜ。魔法で動きを止めてくれるなら、あとは俺がぶっ叩く!」
「その役割分担はわかりやすいですね」
セレナは小さく笑った。
「ただし、勢いだけで突っ込まないこと。政宗さんが敵を止めても、龍太さんが攻撃する位置まで考えなければ、十分に能力を生かせません」
「お、おう。そこは気をつけるぜ」
龍太は少しだけ姿勢を正した。
3人とも前衛であり、後方から支援する専門の仲間はいない。
そのぶん、互いの動きを見ながら戦う必要がある。
もっとも、回復手段がないわけではなかった。
「回復については、ポーションを用意してあります。無理に回復魔法を覚える必要はありません。ただし、ポーションを使うために戦闘の手を止める場面も出てくるでしょう。その時間をどう作るかも考えてください」
「なるほど。敵を足止めできれば、ポーションを使う余裕も作れますね」
政宗が納得したように頷いた。
「そういうことです。では、実際に試してみましょう」
◇
訓練場の中央にある召喚魔法陣が光を放った。
現れたのは、3人の平均レベルに合わせて調整されたモンスターの群れだった。
大きな体を持つ獣型が数体。その後方には、素早く動く小型のモンスターもいる。
「最初は、数を減らすことより連携を意識してください。敵の動きを制限し、攻撃しやすい状況を作る。それが今回の目標です」
セレナの声を合図に、モンスターたちが一斉に駆け出した。
「来るぞ!」
龍太が前に出ようとした瞬間、政宗が手をかざす。
「まずは、動きを抑える!」
敵の足元に重力の力が作用した。
先頭を走っていた獣型の動きが鈍り、後続のモンスターも勢いを失う。完全に止めることはできなかったが、突進の速度は目に見えて落ちていた。
「おおっ、いいじゃねえか!」
龍太が身体強化を発動させる。
筋肉に力が満ち、踏み込む足が訓練場の地面を強く捉えた。
「いくぜぇ!」
重力に逆らおうともがく獣型へ、一気に接近する。
振り下ろされた拳が敵を捉え、その巨体を大きく後退させた。
さらに、龍太は体勢を崩した相手へ追撃を加える。
力任せに見えて、その動きには無駄が少ない。身体強化によって得た力を、攻撃へ的確に結びつけていた。
「龍太、右から来る!」
「わかってる!」
別のモンスターが横合いから飛び込んでくる。
翔はすぐに手を伸ばした。
「結界!」
龍太の側面に透明な壁が展開され、モンスターの攻撃を受け止める。
衝撃で結界が揺らいだものの、攻撃を防ぐことには成功した。
「助かった、翔!」
「まだ来ます! 政宗、もう少し動きを抑えられますか?」
「やってみる!」
政宗は集中し、重力をかける範囲を調整した。
先ほどは前方の敵をまとめて抑えようとしたため、効果が分散していた。
今度は龍太が戦っている相手の周囲に絞る。
すると、獣型の動きがさらに鈍くなった。
「これなら!」
龍太の拳が、再び敵を捉える。
巨体が地面へ倒れ込み、光の粒子となって消えていった。
「よし、1体!」
龍太が声を上げる。
だが、残りのモンスターはまだ動いていた。
「喜ぶのはあとです! 後方の小型が回り込んでいますよ!」
セレナの指摘に、翔が振り返る。
小型のモンスターが左右へ分かれ、3人を挟み込もうとしていた。
「だったら、こっちも分断させない!」
翔は結界を地面近くに展開した。
透明な壁が進路を遮り、小型モンスターの一部が足を止める。
完全に閉じ込めるほどの強度はない。それでも、敵の動きを一瞬乱すには十分だった。
「政宗、今です!」
「任せろ!」
政宗が重力をかける。
結界で進路を制限された敵の動きがさらに鈍り、まとまった状態になった。
「まとめていくぜ!」
龍太が踏み込む。
身体強化による一撃が、小型モンスターの群れをまとめて吹き飛ばした。
続けて残った敵にも攻撃を加え、最初の群れはほどなく全滅した。
「……よし。思ったよりうまくいきましたね」
政宗は息を整えながら、2人を見た。
「重力だけでは止めきれませんでしたが、翔の結界と組み合わせれば、かなり動きを制限できます」
「俺も、結界があったおかげで横からの攻撃を気にせずに済みました」
翔も頷いた。
「それにしても、龍太の攻撃力はすごいですね」
「だろ? 俺の身体強化は、こういう戦いでこそ役に立つんだ!」
龍太は得意げに笑った。
セレナが3人のもとへ歩いてくる。
「初回としては上出来です。ただ、改善点もあります」
「どこでしょう?」
「政宗さんは、重力をかける範囲と強さを意識してください。広い範囲を抑えようとすると、効果が弱くなります。必要な場所に集中させれば、もっと効率よく戦えるでしょう」
「なるほど……」
「翔さんは、結界を長時間維持しようとしすぎないこと。強度を保ったまま広い範囲を覆うのは、今の段階では負担が大きいはずです。短時間でも、必要な場所に展開できれば十分に役立ちます」
「わかりました。小さく、素早くですね」
「ええ。そして龍太さん」
「おう!」
「敵を倒すことに集中するのはいいのですが、攻撃後に周囲を見る癖をつけてください。今は2人が援護してくれていますが、敵が増えれば、攻撃の隙を狙われる可能性があります」
「……確かに。殴るのに夢中になってたな」
龍太は頭をかいた。
「でも、3人で連携すれば、もっと強くなれそうだぜ!」
「それは間違いありません」
セレナは頷いた。
「では、次は敵の数を増やしましょう。今度は、最初から役割を決めて動いてみてください」
「よし、やってやる!」
龍太が気合を入れ、政宗と翔も構え直した。
◇
その後も、3人は何度も訓練を繰り返した。
政宗は重力をかける範囲を絞り、敵の動きを止めるタイミングを調整していく。翔は結界の大きさや展開する位置を変えながら、攻撃を防ぐだけでなく、敵の進路を制限する練習を重ねた。
龍太は2人が作った隙を逃さず、身体強化を使って次々と敵を倒していく。
もちろん、すべてが思い通りに進んだわけではない。
重力の範囲から敵が抜け出すこともあれば、結界が攻撃を受けて消えることもあった。龍太が勢いよく攻め込んだ結果、別の敵に背後を取られる場面もあった。
それでも、失敗するたびに3人は話し合い、次の戦闘で試すことを決めていった。
そして、午後の訓練が終わるころには、最初よりもはっきりと連携が形になっていた。
「いやー、体を動かしたな!」
龍太が満足そうに腕を回す。
「政宗の重力で敵が遅くなって、翔の結界で逃げ道を塞げる。あとは俺が殴る! わかりやすくていいぜ!」
「簡単に言いますね……」
翔が苦笑する。
「実際には、敵の位置や攻撃のタイミングを見ないといけませんからね」
「まあまあ。でも、方向性は見えてきたんじゃないか?」
政宗が2人を見た。
「僕たちは全員前衛ですが、それぞれの魔法を使えば、単純に3人で突撃するだけの戦いにはならない。敵の動きを制限して、攻撃しやすい状況を作る。それを徹底すればいいと思います」
「おう。次はもっと強い相手でも試してみようぜ!」
「その前に、今日の反省を忘れないようにしましょう」
翔が言うと、龍太は「わかってるって!」と笑った。
セレナは3人の様子を見守りながら、静かに頷いた。
まだ魔法の扱いには慣れていない。重力も結界も、今の段階ではできることに限りがある。
それでも、3人の役割は少しずつ明確になってきていた。
敵の動きを止める政宗。
戦場を区切り、攻撃を防ぐ翔。
生まれた隙を力で突破する龍太。
回復が必要になれば、ポーションを使えばいい。無理に役割を増やすより、今ある能力を磨き、3人の連携を強めていく方が現実的だった。
こうして、政宗パーティーの前衛特化戦術は、少しずつ形になり始めたのだった。




