アリスパーティーの新しい戦い方
午前中の授業を終え、アリスたちは専用の訓練場へ移動していた。
午後からは、召喚魔法陣を使った実戦訓練だ。
「今日から、午前中に学んだ魔法を実際の戦闘で使っていきます。失敗を恐れず、まずは試してみてください」
戦術教師のセレナが説明する。
「ただし、魔法を使うことだけに集中しないように。普段の戦い方を忘れず、仲間との連携も意識してくださいね」
「わかりました」
アリスが答え、3人も頷いた。
訓練場の中央には、大きな召喚魔法陣が描かれている。
今回は、4人の平均レベルに合わせたモンスターが召喚される予定だった。
「それでは、始めましょう」
セレナの合図とともに、魔法陣が光を放った。
次々とモンスターが姿を現す。
「よし、行くぞ!」
祐樹が前へ出た。
これまではタンク役として敵の攻撃を引き受け、仲間が攻撃する時間を作るのが彼の役割だった。
今回も、まずは敵の注意を引こうとする。
だが、アリスが声をかけた。
「祐樹、今回は魔道具も試してみるんでしょう?」
「ああ。まだ本格的なものを作れる段階じゃないけど、使えるものは使ってみたいからね」
祐樹は準備していた道具を取り出した。
まだ試作品に近いものだが、魔力を込めることで効果を発揮する仕組みになっている。
彼はそれを起動させ、敵の動きを見ながら構えた。
これまでのように、ただ攻撃を受け止めるだけではない。
魔道具を使って敵の動きを制限し、仲間が攻撃しやすい状況を作る。
それが、これから目指していく戦い方だった。
「じゃあ、私もやってみるわ!」
アリスが一歩前へ出る。
意識を集中させると、彼女の隣にもう1人のアリスが現れた。
「おおっ、成功したな!」
「ええ。まだ、どこまで同じように動けるかはわからないけれど……」
アリスは分身へ視線を向け、短く指示を出す。
分身が動き出した。
本人と分身が別々の方向から敵へ接近する。
モンスターは一瞬、どちらを狙うべきか迷った。
「今だよ!」
瑠奈が声を上げる。
彼女は魔法陣へ意識を向け、召喚魔法を発動させた。
足元に別の魔法陣が広がり、その中心から獣の姿をした召喚獣が現れる。
「わぁ、本当に来た!」
瑠奈の表情が輝いた。
初めて召喚した相手は、しなやかな体つきに鋭い爪を持つ獣だった。地球で見かける動物とは違う特徴もあるが、今の段階では、どの世界に由来する種族なのかまではわからない。
召喚獣は瑠奈の指示に従い、モンスターへと向かっていった。
「すごい……ちゃんと指示を聞いてくれるんだね!」
「感心している場合じゃないわよ、瑠奈!」
「わかってるって!」
アリスに注意され、瑠奈は慌てて戦闘へ意識を戻した。
召喚獣が敵の注意を引きつけたところへ、アリスと分身が左右から攻撃を仕掛ける。
モンスターが体勢を崩した。
「そこっ!」
ヒカルが弓を構えた。
魔弓の扱いは、午前中の授業で基本を教わったばかりだ。
魔力を矢へと通し、狙いを定める。
放たれた矢が、敵の隙を正確に射抜いた。
「当たった!」
ヒカル自身も少し驚いた様子だったが、すぐに次の矢を用意する。
敵が別の方向へ動こうとすると、今度は進路を塞ぐように矢を放った。
魔弓による攻撃は、単純に敵へ当てるだけではない。仲間の動きを助け、相手の行動を制限することにも使える。
「ヒカル、そのまま牽制をお願い!」
「了解!」
アリスの指示に応じ、ヒカルは距離を保ちながら攻撃を続けた。
その間に、祐樹が魔道具を起動させる。
敵の動きが鈍った。
「今ならいける!」
祐樹が前へ出て、敵の注意を引きつける。
アリスと分身が攻撃を仕掛け、召喚獣が反対側から追い込む。ヒカルの矢が逃げ道を塞ぎ、敵の動きを封じた。
最後は、アリス本人の攻撃が決まった。
モンスターが倒れ、訓練場に一瞬の静けさが訪れる。
「……よし、倒せた!」
瑠奈が嬉しそうに声を上げた。
「初めての召喚だったけど、ちゃんと戦えたね」
「ええ。分身も、思っていたより扱いやすかったわ」
アリスは分身を解除しながら、手応えを確かめるように頷いた。
「魔弓も、実戦で使えることがわかりました。ただ、狙いを定めることに集中しすぎると、周囲への注意が薄くなりそうです」
ヒカルは、先ほどの戦闘を振り返っていた。
「そこは経験を積んでいくしかないだろうね」
祐樹も、自分の魔道具を確認する。
「僕も、まだ改良が必要だな。効果が安定すれば、もっと戦いに組み込めるはずだ」
これまでの祐樹は、仲間を守るために前へ出るタンク役だった。
その役割がなくなるわけではない。
ただ、錬金術を学び、魔道具を開発できるようになれば、戦い方そのものを広げられる可能性がある。
敵の動きを妨げる道具。仲間を守る道具。状況に応じて使い分けられる道具。
まだ具体的な形は決まっていないが、今後の研究次第で選択肢は増えていくだろう。
「いい戦いでしたね」
セレナが近づいてきた。
「初めて使う魔法が多い中で、皆さんはそれぞれの役割を意識できていました。特に、アリスさんの分身とヒカルさんの牽制が、敵の動きを制限するうえで役立っていましたね」
「ありがとうございます」
アリスが礼を言う。
「ただし、召喚獣への指示や魔道具の起動など、まだ確認しながら動いている部分もあります。これから戦闘を重ねて、意識しなくても自然に使えるようにしていきましょう」
「はい!」
4人が揃って返事をした。
セレナが訓練場の端へ戻ると、召喚魔法陣が再び光り始めた。
「次も来るみたいだね」
ヒカルが弓を構え直す。
「よし、もう1回だ!」
祐樹も魔道具を手に取った。
アリスは分身を使うタイミングを考え、瑠奈は召喚獣へ次の指示を出す準備をする。
新しい魔法を覚えただけでは、まだ終わりではない。
実際の戦闘で使い、仲間と連携し、自分たちの戦い方に組み込んでいく。
その繰り返しが、これからの修行になる。
そして、アリスたちの訓練は、まだ始まったばかりだった。




